クイーンの名曲「A Kind Of Magic」に隠された裏話:歌詞のフレーズやレコーディング、MVを語る
クイーンのドラマーであるロジャー・テイラーは、フレディ・マーキュリーの“非常に想像力溢れる頭脳”を称賛する楽曲を書いたことがある。その曲「A Kind Of Magic」は、もともと1986年のファンタジー映画『ハイランダー 悪魔の戦士』の劇中で使用されている。
ロジャーは、この曲について“映画的な”サウンドの楽曲だったと説明しているが、そんな楽曲を“ダンス向きの”ヒット・シングルに作り変えてみせたところからも、シンガー・ソングライターたるフレディの想像力の豊かさには疑いの余地がない。
「A Kind Of Magic」が収録されたアルバム『A Kind Of Magic』は、大反響を呼んだ1985年のライヴ・エイドでのステージの後にクイーンが初めて発表した作品だった。『A Kind Of Magic』は、収録曲のうち6曲が『ハイランダー 悪魔の戦士』に使用されるなど、オーストラリア人のラッセル・マルケイ監督が手がけたその映画にとっても重要な1作になっている。
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アルバムの中で最も有名なのは、アルバムのタイトル・トラックである「A Kind Of Magic」だ。「魔法みたいなものさ (It’s a kind of magic) 」というメインのフレーズは、映画の中でクリストファー・ランバート演じるコナー・マクラウドが不死であることを自慢する台詞でもある。
ロジャーは映画内で使われるこのフレーズを気に入って楽曲のヒントにしたというが、歌詞にはほかにも「寿命ある人間には成し得ない (no mortal man) 」や「たったひとつの報酬、たったひとつの目的 (one prize, one goal) 」など映画の台詞に関連する言葉がいくつも使用されている。ロジャーはのちに次のようにコメントしている。
「もともとは映画の最後で、エンド・クレジットに合わせて流れた曲なんだ。そのときはもっと壮大なコンセプトの曲で、テンポももっと遅かった。だけどフレディがこの曲に可能性を見出していたこともあって、俺たちはシングルとして作り直してみることにしたんだよ」
歌詞に磨きをかけ、お馴染みのベース・ラインを加え、曲の展開を検討し直したのはすべてフレディだったが、「A Kind Of Magic」に作曲者としてクレジットされているのはテイラーひとりである。ギタリストのブライアン・メイはこう回想する。
「ロジャーが作ったもともとの曲は、暗くて重苦しいサウンドだった。フレディはそれをライトな曲調にして、親しみやすい曲に生まれ変わらせたんだ。ちょっとしたリフを加えながらね」
レコーディング
1985年9月にレコーディングを開始したシングル「A Kind Of Magic」は、映画『ハイランダー 悪魔の戦士』の公開から10日後に当たる1986年3月17日にUKでリリースされた。
このシングルのプロデュースは、アルバムのレコーディング・セッション中にデヴィッド・リチャーズとバンドが共同で務めている。リチャーズによると「A Kind Of Magic」のレコーディング・セッションでは、フレディに発想力を試されたという。リチャーズはインタビューの中でこう認めている。
「次から次に出てくるフレディのアイデアについて行くのはかなり大変なことだった。“A Kind Of Magic”のレコーディングをしていたある日、彼は“ヌーの群れが左から右に大移動するような音を入れたい”って言い出した。俺は“ああ、いいだろう。だけどどんな風にすればいいかな?”と彼に訊ねたんだ。それから2日間、そのことについて考え続けてようやく、彼はステレオを使ったエフェクトのようなものを入れたいんだってことがわかった。最終的には、左右を行き来する魔法のようなエフェクトをみんなで考えついたんだ」
ミュージック・ビデオ
クイーンの面々は、ミュージック・ビデオのディレクションを『ハイランダー 悪魔の戦士』の監督であるラッセル・マルケイに依頼し、撮影はロンドンのトラファルガー広場にほど近い、プレイハウス・シアターで行われた。ブライアンは次のように話している。
「あの場所は当時、既に廃墟と化していたけど、俺たちはビデオの雰囲気を出すために、さらに散らかしたんだ。フレディが魔法使いになって、俺たちをホームレスみたいな集団から格好いいロック・スターに変えるっていうのはうまいアイデアだったと思う」
撮影中、1921年製の小振りなギブソンのギターを抱えていたメイは、彼らのビデオの中でも指折りの出来になったと話す。
「よく出来ているよ。ラッセルは映画監督にふさわしい仕事をしてくれたと思う」
楽曲のその後
「A Kind Of Magic」はUKシングル・チャートで3位まで上昇。BBCは、同年に開催されたコモンウェルス・ゲームズ(英連邦競技大会)の開会式の中継で冒頭にこの曲を使用した。また、一緒に歌いやすいキャッチーなコーラスをはじめ、この曲は後年までロジャーのお気に入りの1曲になった。
彼はのちのソロアーティストとして行ったコンサートや、自身のバンドであるザ・クロスのステージでもこの「A Kind Of Magic」をたびたび取り上げている。ロジャーはこう語る。
「ライヴでは猛烈に人気があってね、クイーンの最後のコンサート・ツアーになった1986年の”Magic Tour”でも驚くほど聴衆のウケがよかった。曲の終わり方がよかったし、いつも演奏するのが楽しかった。面白いことに、映画『ハイランダー 悪魔の戦士』の続編には、この曲がジュークボックスから流れるシーンがあったんだ。そのころには既に世界的なヒット曲になっていたからね」
Written By Martin Chilton
1986年6月2日発売
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