クイーン「Bohemian Rhapsody」とチャートを争いをしたローレル&ハーディの「The Trail Of The Lonesome Pine」とは?

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昨年の映画賞ではクイーンと”極楽コンビ”こと二人組のコメディ・デュオのローレル&ハーディという2組の一騎打ちになる可能性もあった。それぞれの伝記映画(クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』、そしてローレル&ハーディの『僕たちのラストステージ』)が競い合っていたわけだが、1970年代半ばにも、このロック・バンドとお笑いコンビはイギリスのポップ・チャートの首位を争ったことがあった。

1975年12月14日の日曜日、ローレル&ハーディのレコード「The Trail Of The Lonesome Pine」はヒット・チャートの2位まで上昇。コメディ界のスターによるチャート首位獲得を阻んだのは、クイーンの「Bohemian Rhapsody」で、この記録的な大ヒット曲は実に9週間に亘って1位のポジションを維持し続けた。

しかし1937年のコメディ映画『宝の山』に使用された劇中歌であった「The Trail Of The Lonesome Pine」が、いかにして20世紀を代表するバンドによるロック・ミュージックの歴史に残る名曲に戦いを挑むことになり得たのだろうか。この奇妙な物語の鍵はラジオ番組のDJ、ジョン・ピールの力にあった。

 

ハリウッド喜劇の黄金期

1970年代半ばごろ、ローレル&ハーディの映画はBBCテレビで頻繁に放送されていた。モノクロの長編映画『宝の山』も1974年のクリスマスにBBC 1で放送され、数百万の視聴者がそれを茶の間で楽しんだ。そこであるレコード会社が、『The Golden Age Of Hollywood Comedy』というアルバムの発売を決めたのだった。

アビー・ロード・スタジオでマスタリングされた『The Golden Age Of Hollywood Comedy』には、ローレル&ハーディのトラックも多く収録された。ユナイテッド・アーティスツは自社のプロモーション担当者に、BBCを利用してアルバムから選んだシングルをオン・エアしてもらうように命じた。そのプロモーション部門の代表というのは、かつて海軍に籍を置いた愉快な男で、奇抜なカツラで有名な、まるでローレル&ハーディの映画に出てくるような人物だった。「聞いてください、すばらしいニュースがあるんです」彼はユナイテッド・アーティスツの役員、アラン・ワーナーにそう言った。ジョン・ピールというBBCのDJが「The Trail Of The Lonesome Pine」をいたく気に入り、オン・エアを約束してくれた。それが話の要旨だった。

実際、ジョン・ピールは「The Trail Of The Lonesome Pine」という劇中歌をとても気に入っていた。1975年の秋、ピールは自身がホストを務めるBBCラジオ1の人気番組で「The Trail Of The Lonesome Pine」を7日間に亘って連日流し続けたのである(彼は「The Trail Of The Lonesome Pine」のカップリング・トラック「Honolulu Baby」までオン・エアしている)。そしてこの猛烈なプッシュが、「The Trail Of The Lonesome Pine」の全英シングル・チャートのランク・インに繋がったのである。しかも同曲は、ジョン・レノンの「Imagine」やボブ・マーリーの「No Woman No Cry」と並んで、ピールが選ぶ1975年のベスト15シングルにも入っている。1998年にピールが音楽フェス「Meltdown festival」のキュレーターを務めた際には、オランダのリバイバル・グループ、ボー・ハンクスにローレル&ハーディの出演作の映画音楽を演奏させている。

 

「オリー・ハーディはもっと利口になるべきだ」

音楽業界のローレル&ハーディのファンは、もとよりジョン・ピールひとりだけではなかった。このコンビはザ・ビートルズの『Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band』あのアルバム・カヴァーにも登場しているし、シンガー・ソング・ライターのハリー・ニルソンは、頭をかきむしるローレルの真似をして友人だったジョン・レノンを笑わせていた。また、1974年にウィングスがリリースした「Junior’s Farm」の中で、ポール・マッカートニーは「Olly Hardy should have had more sense / オリー・ハーディはもっと利口にならなきゃいけない」と歌ってもいる。

『宝の山』の劇中、ローレルとハーディのコンビによる歌唱場面は、すばらしいダンス・シーンに続いて登場する(パブのバーのセットで撮影されたそのダンス・シーンは、スティーヴ・クーガンとジョン・C・ライリーの主演でコンビのあゆみを描いた前述の伝記映画『僕たちのラストステージ』の劇中でも再現されている)。彼らがミッキー・フィンのバーを歩いていると、そこにいたカウボーイ・バンド(ウォルター・トラスクとアヴァロン・ボーイズ)が「The Blue Ridge Mountains Of Virginia」を披露し始める。この「The Blue Ridge Mountains Of Virginia」という曲は、1900年代前半にバラード・マクドナルドとハリー・キャロルのコンビが作曲した作品である。ローレルとハーディが歌に加わるまではすべてが順調だった。

まずはハーディがその甘いテナー・ヴォイスを披露し。そこにローレルが入ってくる。ハーディは、10代のころアトランタの音楽学校で学んでいた。一方のローレルも、幼いころにピアノとヴァイオリンのレッスンを受けていたが、彼は自分が「音楽家向きではない」と認めている。彼が普通に歌い出し、その後驚くほど深いテナー・ヴォイスで歌をぶち壊す、というのがこのシーンのジョークだ。実際には、ローレルは口パクをしているだけで、歌はフレームの外で俳優のチル・ウィルスが生で歌っているものだ。

苛立ったハーディはバーテンダーから木槌を受け取り、それを手にしてローレルの頭を殴る。ローレルは驚きながらも歌い続け、最後は甲高いファルセット・ヴォイスを披露する(これも実際はフレーム外でロジーナ・ローレンスが歌っているもの)。このチャーミングな映像は、レコードの売り上げが伸びる中でBBCテレビの人気番組”Top Of The Pops“でも放映された。「The Trail Of The Lonesome Pine」は最終的に25万枚以上を売り上げる大ヒットを記録したものの、クイーンの圧倒的な人気には敵わず、1位を獲得することはできなかった。

 

総尺6分に及ぶ意欲作

フレディ・マーキュリーが作曲し1975年のアルバム『A Night At The Opera (オペラ座の夜)』に収録された「Bohemian Rhapsody」は、20世紀の音楽シーンを代表する6分間の力作である。この曲はラミ・マレックがフレディを演じ、こちらも大ヒットを記録した同名映画のタイトルにもなっている。

2004年にこの世を去ったジョン・ピールは、一定の世代の音楽ファンに根強い影響力を誇っていた。そしてクイーンを誰よりも早く評価したのもまたピールその人だった。バンドのドラマー、ロジャー・テイラーも以下のように語っている。「音楽の世界におけるジョン・ピールの影響力は絶大だよ。クイーンをラジオでかけてくれた世界で最初のDJが彼だったんだ」。

Written By Martin Chilton



 

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