クイーン「The Night Comes Down」:デビューアルバムに収録されたブライアンによる優雅な佳曲

Published on

クイーン史における重要な第一章を飾った1973年のデビュー・アルバム『Queen』改め『Queen I』(戦慄の王女)が、発表から半世紀以上を経て、この度ジャスティン・シャーリー=スミス、ジョシュア・J・マクレー、クリス・フレドリクソンの手によりリミックス及び修復を施され、バンド自身が長年望んでいたサウンドに生まれ変わって発売されることになった。

さらに、新たなトラックリストや、別テイク、デモ、ライヴ・トラック等が追加され、この重要作品の究極の完全版が完成。クイーンのアルバムが新たにステレオ・ミックスし直されるのは、本作が初となっている。以前のヴァージョンと聞き比べができるプレイリストも公開となっている。

そのリードトラックとして公開された「The Night Comes Down」はどんな曲だったのか。

<関連記事>
クイーン+アダム・ランバート来日公演初日レポ:才能に情熱が加わった圧巻のステージ
映画『ボヘミアン・ラプソディ』が伝えるクイーンについての10の事実

 

プライアン・メイによる優雅なスタイル

「The Night Comes Down」は、2024年版『Queen I (戦慄の王女)』コレクターズ・エディションからの第一弾シングルであり、公式リリースされたバンドのレコーディング音源の中でも最初期に属するものの一つだ。

クイーンの伝説的トラックの中でも、穏やかでノスタルジックな告白が綴られているプライアン・メイ作のこの曲は、バンドの未来を優雅に描き出していた。オープニングのきらりと光るギターでは、ブライアンの創造性に富んだ重層スタイルが披露されており、それが後に、ドラマチックで壮大なクイーンならではのオーケストレーション・サウンドにおける重要な要素となることを予感させている。

フレディ・マーキュリーの繊細優美なファルセットや、波紋のように広がるジョン・ディーコンのベース、ロジャー・テイラーの丁寧なパーカッション、そして深い感受性に裏打ちされたブライアンの演奏の狭間で、この若きバンドは自分達独自の音を見つけ出していた。

 

そのレコーディングを振り返る

「The Night Comes Down」は、バンド名を冠したデビュー・アルバムに収録されているにも拘らず、同アルバムにおいては異色な曲だ。クイーンは、記録により裏付けされている通り、1972年5月からロンドンのトライデント・スタジオで、このアルバムに収録されている他の曲をレコーディングした。メイ作の「The Night Comes Down」は、それ以前に遡る曲だ。

この曲は1972年1月7日、クイーンにとって初めてのレコーディング・セッションとなった、ロンドンのウェンブリーにあるディ・レーン・リー・スタジオで録音されたもの。当時まだ、どのレーベルや会社とも契約していなかったクイーンは、開業したばかりの同スタジオで各部屋の音響設備をテストするため、雇われていたのだった。

その報酬として彼らが制作させてもらったのが、5曲入りのデモ・テープだ。その音源は、彼らの自然なエネルギーと輝きを捉えており、堅苦しいスタジオ・セッションというよりもむしろ、ライヴ・パフォーマンスの再現に近いものであった。ブライアンはこう語る。

「そのデモは、僕らが夢見ていたものにより近かった。これは、僕らがこういう風にしたいと思っていたものにずっと近かったんだ」

1972年5月、クイーンはジョン・アンソニーとロイ・トーマス・ベイカーを共同プロデューサーに迎え、ロンドンのトライデント・スタジオで、ファースト・アルバムのレコーディングという困難だがやり甲斐のある作業に着手した。しかしディ・レーン・リー・スタジオでの経験を経た彼らにとって、そこでのレコーディングはフラストレーションの溜まるものとなった。ブライアンはこう語る。

「僕らは何も知らない新人と見做されていて、僕らの望んでいたやり方に耳を傾けてくれる人は誰もいなかったんだ。それで、あのファースト・アルバムにはオーヴァー・ダビングが多用されていた。恐らくそのせいで、あのアルバムは本来あるべきだった姿よりも、少し硬直したものになってしまっていたんじゃないかな」

特に、「The Night Comes Down」の再レコーディングをトライデントで試みることについてさえ、ブライアンは疑念を抱いていた。しかし、この曲のデモ・ヴァージョンをアルバムに収録するには、少々秘密の策略が必要だった。

「バンドはぎりぎりの段階で、ディ・レーン・リーでレコーディングした音源を – トライデントでリミックスして – 使用することに決めた」

ブライアンは2024年版『Queen I』コレクターズ・エディションのライナーノーツでそう書いている。彼らは同曲をアルバム用にミックスするため、デモのマルチトラック・テープを「トライデント」とラベルを貼り替えたケースにこっそりと忍ばせたのである。

クイーンの音楽がいかに急速に進化を遂げているかを、彼らの楽曲は既に示していた。ブライアンのトレードマークであるレッド・スペシャルの流麗かつ身を切るような美しさにフォーク・ギターを織り交ぜた「The Night Comes Down」は、クイーン音楽の特徴の一部となる後のサウンドを予告していたが、当時の一般通念に挑戦するものでもあった。ブライアンはこう説明する。

「“The Night Comes Down”は、アコースティック・ギターを基調にしている。古き美しき僕のアコースティック・ギターだ。けれども、ギター・ハーモニーは、全てエレクトリック・ギターだ。当時、人々は『エレクトリック・ギターとアコースティック・ギターを混ぜ合わせるのは無理だ』と言っていた。エレクトリック・ギターはアコースティック・ギターにとっては音が大きすぎる、とね。僕は『まさか、冗談言うなよ。そんなのは、混ぜ合わせるバランスの問題でしかないんだ』と反論したものさ。“The Night Comes Down”はその実証のようなものだった。『そうだよ、僕らならこれをやれる。自分たちのルールを作れるんだ!』とね」

2024年、新たにリミックスを行った「The Night Comes Down」は、2024年版『Queen I』の先行シングルとしてリリースされている。7インチ・シングルのB面には未発表のインストゥルメンタル・ヴァージョンが収録されている。 両トラック共、ブライアン・メイ&ロジャー・テイラーがエグゼクティブ・プロデュースを担当、ミックス・プロデュースはジャスティン・シャーリー=スミス、ジョシュア・J・マクレー、クリス・フレドリクソンだ。

人間らしい温かみがあると同時に華やかな「The Night Comes Down」は、様々なルールを打ち破り、私達が現在知るバンドへと変貌を遂げようとしている、クイーンのサウンドに満ちた曲だ。

Written By uDiscover Team


クイーン『Queen I』
2024年10月25日配信
Box Set / 2CD
購入はこちら

聞き比べプレイリスト




Share this story


Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了