クイーンによるライヴ・エイドでの21分間の伝説的パフォーマンス:「僕らの人生最良の日でした」

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Photo: Queen Productions Ltd

1985年7月13日、旧ウェンブリー・スタジアムは史上最高のライヴ・イベントの舞台になった。それは”ライヴ・エイド(Live Aid)”である。U2、ダイアー・ストレイツ、ザ・フー、エルヴィス・コステロ、エルトン・ジョン、ジョージ・マイケルらがその日、ロンドンのステージに立った(ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ミック・ジャガー、マドンナ、トム・ペティらは米国会場であるフィラデルフィアのJFKスタジアムに出演)。

しかしそうした力のあるアーティストたちの中で、クイーンによる21分間の見事なパフォーマンスがその日の話題をさらったということに反論する者はいないだろう。

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「”ライヴ・エイド”に出演するべきかどうか、迷っていた」

2018年に公開され全世界で大ヒットした伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』の冒頭とクライマックスは、”ライヴ・エイド”でのクイーンのステージ映像を再現したシーンになっている。そのステージが彼らのライヴ史の最高点であるからだ。だが当初は、クイーンの出演は危ぶまれていた。実際、直近の2019年6月にギターのブライアン・メイは「僕らは”ライヴ・エイド”に出るか迷っていました」と認めている。

 

リハーサルと出演の準備

最終的に主催者であるボブ・ゲルドフとミッジ・ユーロの誘いを受諾して出演することになったクイーンの4名、フレディ・マーキュリー(リード・ヴォーカル/ピアノ/ギター)、ブライアン・メイ(ギター/ヴォーカル)、ジョン・ディーコン(ベース)、ロジャー・テイラー(ドラムズ/ヴォーカル)は、完璧主義者の集まりだった。彼らは演奏のタイミングやソロが完璧になるまでリハーサルを繰り返すことにしたが、なかなか納得のいく演奏にはならなかった。

彼らはロンドンのキングズ・クロス駅に近い400席の劇場を借り切り、一週間かけて5曲のセット・リストを仕上げていった。当日はウェンブリーに集まる72,000人の観衆と、130カ国からテレビで演奏を観る約19億人に向けて演奏することになるのだ。

メンバーは照明の効果がでない陽が出ている時間のパフォーマンスを好まなかった上、多数のバンドが出演するため時間もなく、いくらサウンドチェックをしても彼らの求めるクオリティが出ないのは明らかだった。それでも彼らは、これは自分たちが優れたライヴ・バンドであると世界に見せつけるチャンスになると感じていた。「何より、これが僕らの音楽だと見せつける機会だったんです」とブライアンは話している。

ボブ・ゲルドフは出演陣に、新しいヒット曲を宣伝するのではなく、定番の人気曲を演奏するように勧めていた。クイーンはこの助言をしっかり心に刻んでいた。出演時間を決める段になると、クイーンは抜け目なかった。彼らはイギリスでゴールデン・タイムに近く、世界中に衛星放送もされる18時41分からの演奏を選んだのだ。

 

伝説のライヴ・パフォーマンス

クイーンはコメディアンのグリフ・リース・ジョーンズとメル・スミスの紹介でウェンブリーのステージに上がった。ふたりは警官の格好をして、「ベルギーの女性から騒音の苦情があった」とジョークを飛ばす。そしてこう紹介した「次のバンドは女王陛下、クイーン!」

カリスマ性を帯びたフレディは自信に満ちた様子で、広い舞台に駆け足で上がる。ステージの上には「Feed The World(世界に恵みを)」と書かれたバナーが飾られている。フレディはトレードマークの口ひげに白いジーンズ、上には白のタンク・トップ、右腕にはスタッドのついたバンドという出で立ちだ。彼は早速ピアノの前に座ると、見事な「Bohemian Rhapsody」のショート・ヴァージョンを演奏し始めた。

 

「世界に響き渡った声」

次の曲「Radio Ga Ga (RADIO GA GA)」でフレディは立ち上がり、マイクとスタンドの支柱を持ってステージを闊歩する。そうして、サビでは熱狂する観衆を歌に巻き込んでいく。特筆すべきはその後だ。マーキュリーは72,000人の観客をゾクゾクするような「エーオ」の即興コール&レスポンスに誘う。最後に彼が聴かせるすばらしいヴォーカルは、「世界に響き渡った声」と称された。楽しいコール&レスポンスの後にバンドは、ブライアン作曲の「Hammer To Fall」を披露。

次にエレキ・ギターを担いだマーキュリーは、観衆にこう語りかける。

「次の曲は、ここにいる美しい人たちのためだけの曲だ。つまり、全員のことさ。見に来てくれてありがとう。みんながこのすばらしい空間を作っているんだ」

彼はそう言うと、彼自身の書いた「Crazy Little Thing Called Love (愛という名の欲望)」をエネルギッシュかつ華やかに歌い上げた。

続く「We Will Rock You」の短い演奏の後、興奮した観衆を前にフィナーレとなる「We Are The Champions (伝説のチャンピオン)」が披露される。マーキュリーにはただただ魅了されるばかりだ。

「人生であんなものを見たことはなかったし、計算してできるようなことじゃない。僕らの人生最良の日でした」

とブライアンも語っている。

 

「この野郎、話題をかっさらいやがって」

彼らの演奏がセンセーショナルだったと感じたのはクイーンのメンバー自身だけではない。”ライヴ・エイド”にBBCの放送チームの一員として参加していた音楽ジャーナリストのポール・ガンバッチーニは、舞台裏で見ていた人気ミュージシャンたちの驚きをこう振り返る「クイーンが話題をさらったとみんな感じていました」。ライヴ後にフレディのトレーラーに駆け込んだエルトン・ジョンはこう言っていたという。

「この野郎、話題をかっさらいやがって!」

有名なカリスマ的ロック・スターもそんなジョークを飛ばすほどだったのだ。

「クイーンは他の全員の演奏を霞ませた。全部持っていった。そして、史上最高のバンドになって帰っていったんです。考えられませんよ」というのはフー・ファイターズのデイヴ・グロールの言葉だ。「彼らが名バンドになった所以はそこにあります。史上最高のバンドのひとつと評されるべき理由がね。彼らは観客と繋がることができたんだ」

 

「フレディにぴったりのステージだったはずです。全世界という名のね」

それから2ヶ月後、クイーンはアルバム『A Kind Of Magic』の制作に着手した。同作は600万枚を売り上げ、記録的なワールド・ツアーも行われた。

アルバムのタイトルも言い得て妙だ。クイーンは1985年のあの夏の日に魔法を見せたのだから。その衝撃をボブ・ゲルドフがうまく表現している。「クイーンは間違いなく、当時最高のバンドでした」と”ライヴ・エイド”を企画した張本人は話す。

「演奏も最高で、サウンドも最高で、時間の使い方も無駄がなかった。彼らは、あのイベントが世界中に向けたジュークボックスだというアイデアを完璧に理解していました。ステージに上がって、次々にヒット曲を演奏してくれた。フレディにぴったりのステージだったはずです。全世界という名のね」

Written By Martin Chilton



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