アダム・ランバートがどうやってクイーンを復活させたのか:本人が語るその経緯とフレディへの想い
1991年11月24日、フレディ・マーキュリーが亡くなった時、ほとんどの人がクイーンは解散するだろうと思っていた。友人の死を乗り越えようとしていた残されたバンド・メンバーたちでさえ、そうなるだろうと思っていた。
ドラマーのロジャー・テイラーは2019年に公開さえたドキュメンタリー『クイーン+アダム・ランバート・ストーリー: ショウ・マスト・ゴー・オン』の中でこう述べている。
「フレディの死で、僕らはすべてが終わったと思っていた。俺たちは全てのことに揺さぶられていました。そしてもう二度とプレイするつもりはなかった」
しかし、数ヶ月に及ぶ追悼の後、ロジャー・テイラー、ブライアン・メイ、ジョン・ディーコンの3人は、1992年4月20日にロンドンのウェンブリー・スタジアムのステージに立ち、彼らの唯一無二のフロントマンに相応しい贅沢なお見送りを行った。
終わったと思われた彼らは「フレディ・マーキュリー追悼コンサート」を実施し、エルトン・ジョン、デヴィッド・ボウイ、ジョージ・マイケルなどの豪華なゲスト・ヴォーカリストを迎えてクイーンの名曲を披露し、エイズの慈善事業のために2,000万ポンド以上(約27億)の寄付金を集めた。
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活動休止とクイーンとの出会い
ブライアン・メイは『ショウ・マスト・ゴー・オン』の中でこう語っている。
「私たちは自分たちがやってきたことを誇りに思っていたけど、フレディなしで再びクイーンとして活動することはしたくなかった。私たちはこう話し合っていたんだ、もし私たちの誰かが亡くなったとしたら活動停止すべきだと。そしてとても長い間、活動することはありませんでした」
しかしながらクイーンの存在感は、フレディ・マーキュリーの死後、飛躍的に高まることになる。「Bohemian Rhapsody」は1992年のコメディ映画『ウェインズ・ワールド』内で印象的に使われた際に再発され、全米シングルチャートで2位を記録し、クイーンが新しい世代に紹介されることになったのだ。
映画で使われたこの曲はカリフォルニア州サンディエゴの少年だったアダム・ランバートに大きな影響を与えた。アダムはuDiscover Musicにこう語ってくれた。
「(映画の中で)“Bohemian Rhapsody”を聴いたことは、僕にとって特別な瞬間でした。その後に父がバンドのレコード・スリーブを見せてくれて、すごくスタイルが良くて面白そうだったけど、僕が19歳か20歳になるまで彼らのアルバムを真剣に聞いたことはありませんでした。フレディの最初のライヴ映像を見たのは、モントリオールでのステージ上での姿。彼は小さな白いショーツを履いていて、陽気で素晴らしい人でした。それ以来、私はもっと知りたいと思ったんです。そこからバンドへの恋心が始まりました」
「フレディの演劇性は僕自身がやっていたことと非常に似ていたんです」と明かしたアダム・ランバートはクイーンの熱狂的なファンになったが、バンドに参加するまでの長い道のりの第一歩は演劇から始まった。大学進学を断念したアダムは、19歳の時にクルーズ船で10ヶ月間歌う仕事を引き受け、その後『The Ten Commandments: The Musical』などの舞台作品に出演。そこでは俳優ヴァル・キルマーとの共演を果たしている。
一方、ブライアン・メイとロジャー・テイラーは、90年代にはソロ・プロジェクトやその他の関心事に専念することで、バンド以外の生活に適応した。ベーシストのジョン・ディーコンは、1997年にクイーンとしてエルトン・ジョンとモーリス・ベジャール・バレエ団とともに「The Show Must Go On」を演奏し、これが彼の音楽活動引退前の最後のパフォーマンスとなった、
ジョン・ディーコンは2004年にクイーンが英国音楽殿堂入りを果たした際に、バンド復帰の申し出を断った。このイベントでは元フリー/バッド・カンパニーのフロントマンであったポール・ロジャースがヴォーカルを務め、彼は2005年のワールドツアーとスタジオ・アルバム『The Cosmos Rocks』のためにクイーン+ポール・ロジャースとして新バージョンのバンドのヴァ―カルを担当した。
印象に残ること
ロジャーとブライアンは常にポール・ロジャースの能力を賞賛していたが、2009年にその名義での活動は終えることになった。そして皮肉なことに、そんなときにアダム・ランバートが突然登場してきたのだ。
2009年、オーディション番組「アメリカン・アイドル」のフィナーレでクイーンとアダム・ランバートが共演した際に、バンドが新しいフロントマンと意気投合したのはよく知られている。しかし、彼らがアダム・ランバートのことを最初に知ったのは、ツアーのキーボーディストであるスパイク・エドニーがたまたまこの番組を見ていたからだということはあまり知られていない。エドニーはドキュメンタリー『ショウ・マスト・ゴー・オン』の中でこう回想している。
「アダムの歌声を聴いてすぐに鳥肌が立ちました。レッド・ツェッペリンの“Whole Lotta Love”を歌っていて、こいつは特別だと思ったんです。カリスマ性があり、素晴らしいルックスでした。それでロジャーにメールを送ったんです」
感銘を受けたクイーンは、アダム・ランバートとクリス・アレン(アメリカン・アイドルのファイナリスト仲間)と一緒に番組内で「We Are The Champions」を披露した。番組で最終的に優勝したのはアレンだったが、ブライアンとロジャーの印象に残ったのはアダムだった。ブライアンはこう語る。
「私たちとアダムの間にはすでにある種のケミストリーがあった。アダムとはうまくいくという感覚があったんだ」
しかし、この段階ではアダムがクイーンに加入することは決まっていなかった。「アメリカン・アイドル」出演後、アダムはソロ活動を開始。2009年11月に発売したデビュー・アルバム『For Your Entertainment』は全米アルバムチャートで3位を記録し、シングル「Whataya Want from Me」はグラミー賞にノミネートされている。
その後、アダムは「Glam Nation Tour」などのヘッドライナー公演を続けたあと、2011年にベルファストで開催されたMTVヨーロッパ・ミュージック・アワードでクイーンの二人と再会した後、彼ら2組はより恒久的な関係を築くことになる。
初めての試練
アダムはuDiscoverにこう語ってくれた。
「(ベルファストでの)MTVヨーロッパ・ミュージック・アワードのパフォーマンスは、僕たちにとって極めて重要なものでした。本当に一緒に仕事ができるのか、お互いを好きになれるのかが試されたんです。結果として僕たちはうまくいきました、興奮しましたね!」
MTVヨーロッパ・ミュージック・アワードでアダムはクイーンのフロントマンとして「The Show Must Go On」「We Will Rock You」「We Are The Champions」を熱狂的に披露した。その後、アダムは2012年ウクライナの首都キエフにて、クイーンとの初のフル・コンサートのステージに立って約50万人の観客を沸かせた。アダムはこう振り返る。
「2時間のショーを彼らと一緒にやるのは初めてのことですし、とても大規模なものだったので、あのライヴの日が近づくにつれてとても緊張していました。何年もクイーンの曲を演奏してきた彼らにとっては当たり前のことなんですが、僕はほとんどの曲を(ステージで)歌うのは初めてだったし、曲を覚える時間も9日間しかありませんでした。あの公演は成功させなければならないショーの一つだったんですが、本当にうまくいきました」
初めての試練を乗り越えたアダムは、クイーンとの関係をより強固なものにした。大成功を収めたワールドツアーは、その後数年にわたって続き、新しいフロントマンによってもたらされた新鮮な血を注入することで、クイーンは若返ったのだ。ロジャー・テイラーは2019年の「ラプソディ・ツアー」のプログラムでこう語っている。
「我々が投げかけたものは何でも、アダムは歌いこなすことができる。彼にできないことはない。俺たちの曲は壮大で芝居がかっているけど、アダムは簡単にフィットするんだよ。彼は最高のシンガーだと思う。彼の音域は驚異的なんだよ」
アダムはクイーンの楽曲を歌うことについてこう語る。
「クイーンの曲の中には、ヴォーカルが競技的なレベルのものもあって、身体的に求められるものがとても多いんです。例えば“The Show Must Go On”は本当に難しくて、“Who Wants To Live Forever”はゼロから99までレンジがある曲、“Somebody To Love”は本当に激しくて壮大な曲です」
「歌詞の面で難しい曲もあります。クイーンの曲は“Don’t Stop Me Now”のような言葉数が多くて歌詞も巧妙な曲が多く、忙しくアップビートな曲もある。ヴォーカリストとして、クイーンが様々なジャンルに挑戦していることが大好きなんです。そういった曲は楽しくて、ライヴでもやりがいのあるものです。僕はそれが本当に好きなんですよ」
クイーン+アダム・ランバートのツアーは、アカデミー賞を5部門受賞した伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』の世界的な大ヒットを受けてさらに大規模化し、ステージ・ショーもドラマチックになったが、そんな中でもアダムは一貫して彼自身の価値をライヴで証明してきた。
クイーン+アダム・ランバートの初のライヴ・アルバム『Live Around The World』で明らかになったように、アダムは大ヒット曲から隠れた名曲まで、あらゆる楽曲に深みと新鮮さをもたらしている。彼は豊かな才能と能力を持ち、批評家たちにフレディ・マーキュリーの真似事ではないことを示すことで、アダムとフレディを比較してくる批評家たちに反抗している。彼はやや強調してこう語ってくれた。
「重要なのことは、フレディはかけがえのない存在だということです。ジャーナリストやファンが『フレディ・マーキュリーの後任は誰がよい?』と議論をしているのを見てきましたが、それに対して僕はただ『誰も彼の代わりなんてできないよ』と応えるだけです。僕はクイーン+アダム・ランバートを、常に、そして第一にクイーンの楽曲を祝福する素晴らしい機会として捉えてきたから、フレディと僕を比較することにとらわれるのは愚かなことですよ」
「もちろん、ロックの伝説としてのクイーンの歴史の重みは理解しています。そして、フレディと知り合うことがなくとも、できうる限りフレディを称えようとしています」
「フレディと同じような演劇性やユーモア、そしてドレスアップすることへの愛を共有し、ブライアンやロジャーと一緒に働き、それがとても上手くいっていることは本当に幸運です。僕たちはどのショーも最初のショーのように行い、誰も現状に満足したり怠けたりすることはなく、そして僕はいつもみんなを笑顔にするようにしています。それが長く続いている理由だと思っています」
Written By Tim Peacock
2020年10月2日発売
CD+Blu-ray / CD+DVD / CD / LP
※日本盤CDのみSHM-CD仕様
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