クイーン『A Kind Of Magic』制作秘話:ライヴ・エイド後に制作され、全英1位に返り咲いた新作
クイーン12作目のアルバム『A Kind of Magic』がリリースされたのは、1986年。それはジェネシスと、その元リード・ヴォーカルだったピーター・ガブリエルの両者が互いに全米1位の座を競い合うという、プログレッシブ・ロック・ルネッサンス時代のことだ。
新作アルバムが全英1位に返り咲き、ダブル・プラチナを達成したのは、ブライアン・メイ、フレディ・マーキュリー、ジョン・ディーコン、そしてロジャー・テイラーにとって、大きな喜びとなった。
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ライヴ・エイドの熱狂後の制作
音楽業界の最前線で10年以上生き抜いてきたクイーンには、自分達が流行の波に乗っているかどうか、鋭過ぎるほどの先を読む目が備わっていた。彼らを国宝級の地位に就けたのは、ウェンブリー・スタジアムで開催されたライブ・エイド・コンサートでのパフォーマンスだ。そこで彼らは従来のファン以外の観衆の前に身を晒し、熱狂で迎えられたのである。フレディ・マーキュリーは、この瞬間を活かしたいと熱望。『The Works』ツアーを終えると、バンドは1985年9月にミュンヘンのミュージックランド・スタジオに集結し、闘いの準備を開始した。
『A Kind Of Magic』には、コンセプト的な背景がある。というのも、オーストラリア出身のラッセル・マルケイ監督が手掛けた映画『ハイランダー 悪魔の戦士(原題:Highlander)』の非公式サウンドトラックであったからだ。同映画はアルバム発売の数ヵ月前に封切られ、「Princes Of The Universe」がテーマ曲となっている他、本作収録の何曲かが挿入歌として用いられている。
アルバムの内容
アルバムのオープニング曲「One Vision」は、(作詞・作曲のクレジットはクイーン名義となっているものの)厳密にはロジャー・テイラー作の曲で、ディストーションを掛け、所々で逆回転しているヴォーカルと、電子ドラム、そしてマーティン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある……」という演説に着想を得た歌詞をフィーチャー。先行シングルとして、アルバム発表の半年前にリリースされ、B面には同曲のリミックス・ヴァージョンが収録されている。
バンドとプロデュース作業を分担していたラインホルト・マックとデヴィッド・リチャーズは、先端のデジタル技術を利用することに決め、本作はクイーンにとって初のデジタル録音で制作された。だがそれによって進行の速度が上がったたわけではなく、『A Kind Of Magic』がようやく完成を見たのは、1986年4月のことであった。その間、彼らは、ミュンヘンからモントルーのマウンテン・スタジオ、そして慣れ親しんだロンドンのタウンハウス・スタジオへと移動。完成後、本作はクイーンにとって初めてのCDアルバムとしてリリースされた。
本作の第二弾シングルとしてアルバム発売前に先行リリースされた、表題曲「A Kind Of Magic」では、ロジャー・テイラーが連勝の波に乗っていた。クイーンの曲の中でも最も有名かつ最も愛されている曲のひとつであり、映画に登場するヴァージョンは、アルバム/シングルに収録されているヴァージョンとはかなり異なっている。ポップなメロディが、フレディ・マーキュリーらしい芳醇なアレンジと相乗効果を生んでいるこの曲は、全英3位を記録した他、ヨーロッパのほぼ全域でトップ10入りを果たした。
この曲が内包する商業的な可能性を花開かせるため、フレディ・マーキュリーが微調整を施している。ロジャーは、セッション・ミュージシャン勢と多才なアレンジャー、スパイク・エドニーと共に、キーボードを追加。 12インチ・シングルのミックスはアルバムや7インチのヴァージョンよりも長く、口ずさむのにぴったりなコーラスと、耳にこびりついて離れない力強さが特徴で、色褪せることのないこの名曲のライヴ・ヴァージョンにより近くなっている。
ジョン・ディーコンの「One Year Of Love(愛ある日々)」には、ストリングス・アレンジと、スティーヴ・グレゴリーのアルト・サックス・ソロ(だが代わりにリード・ギターは全く入っていない)、そしてジョン・ディーコン自身の演奏によるヤマハのシンセをフィーチャー。この時点までのクイーン作品の中では、珍しい部類に属する曲だ。
モータウン風味の「Pain Is So Close To Pleasure(喜びへの満ち)」は、フレディ・マーキュリーとジョン・ディーコンの共作で、フレディ・マーキュリーが伸びやかなファルセットを聴かせている他は、サンプリング、シンセ、ドラム・プログラミング、メロディアスなリズム・ギターなど、他の全ての要素をジョン・ディーコンが担当。この曲にも12インチのロング・ヴァージョンがあり、ドイツとオランダでシングル・カットされた際にはリミックスが施された。
フレディ・マーキュリーとジョン・ディーコンが再びタッグを組んでいるのが「Friends Will Be Friends(心の絆)」だ。ピアノ・バラードからロックへと展開するこのアンセムでは、フレディ・マーキュリーの華やかさと、嗜好を同じくするラインホルト・マックの洗練されたプロダクションとが最高の形で結実している。
そこから自然な流れで、ブライアン・メイの逸品「Who Wants To Live Forever」へ。この曲は、映画の中でも極めて感動的なシーンで使われた。他アーティストに何度もカヴァーされているこの圧巻曲は、イージーリスニングの枠には当てはまらない。だが、品位を維持しながらも依頼に基づいた曲を書くという技を、ブライアン・メイとバンドが磨き上げたことがここに示されている。
ブライアン・メイ作の「Gimme The Prize (Kurgan’s Theme)」では、ブライアン・メイとフレディ・マーキュリーがデュエット。ブライアン・メイのギターによってメタルに傾いているものの、本アルバム中、サウンドトラックであることを最も意識した曲となっているのは、主にマイケル・ケイメンのオーケストレーションが理由だ。
ロジャー・テイラーの「Don’t Lose Your Head」は、最も多種多様な要素が盛り込まれている曲だ。『A Kind Of Magic』は、収録曲の多様性により、アルバムとしての統一感が減じられていると言うことも出来る。この曲にはゲスト・ヴォーカルにジョーン・アーマトレイディングが参加。またスパイク・エドニーがキーボードを追加している。
(映画でしか使用されていない)「Theme From The New York, New York」の短い断片を挟んだ後、クイーンは「Universe Of Princes Of The Universe」で本作のアナログ盤LPを締め括った。この強靭なヘヴィ・メタル・チューンの作詞・作曲はフレディの単独名義となっており、パンチの効いた歌詞と獰猛なギター・ソロは、かつてのグラム・サウンドが復活しているかのようだ。
1986年にリリースされたこのアルバムは好評を博した。また、CD盤には3曲のボーナス・トラック:「A Kind Of “A Kind Of Magic”」と「Friends Will Be Friends Will Be Friends」、そして「Forever」(「Who Wants To Live Forever」のピアノ・ヴァージョンにオーケストラの伴奏を加えたもの)が収録されていたことから、CDプレイヤーの売り上げにも貢献した。この3曲を加えたCD盤はアナログ盤よりも12分以上も長くなった結果、それを再生する機械を所有していない人々の羨望の的となったのだ。「Theme From New York, New York」の素晴らしいカヴァーを収録しない選択をクイーンが下したのは、実にもどかしいことでもある。
アルバム後のツアー
アルバムのリリースから5日後、クイーンはスウェーデンを皮切りに大々的な『Magic』ツアーを開始。このツアーには、ウェンブリー(ロンドン)、メイン・ロード(マンチェスター)、ラーヨ・バジェカーノ(スペイン)等の重要なスタジアム公演に加え、20万人以上が集結したネブワース・パーク公演が含まれている。全公演のチケットが即完売し、合計100万人以上の動員を記録した。
だがこの成功に、やがて影が差すことになる。フレディ・マーキュリーが病を患っているのではないかとの報道が流れ始めたためだ。『Magic』ツアーは、彼がメンバー達と共にライヴ・ステージに立った最後の機会となった。フレディ・マーキュリーらしく、彼らは確かに華々しい最後を飾ったと言える。ネブワースに足を運んだ観客は知るよしもなかったが、1986年8月9日の夜、その場にいたということは、間違いなく特別な栄誉であった。それは真のクイーン・ファン全ての魂に、はっきり刻まれている日である。
クイーンはその後、相当な期間の休みを取り、ラインホルト・マックとのパートナーシップやミュンヘン・コネクションとの繋がりも断った。そして次作では、魔法(magic)が奇跡(miracle)に置き換えられることになる。
Written by Max Bell
クイーン『A Kind Of Magic』
1986年6月2日発売
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