Psy「Gangnam Style/カンナムスタイル」:YouTube初の10億再生を達成したその軌跡
K-POP界が欧米市場を開拓しようとしたとき、PSY(サイ)のような人物を想定していたとは考えにくい。2012年当時34歳だった彼は、「Gangnam Style(カンナムスタイル/江南スタイル)」が発表された当時、比較的古株であり、大麻使用で当局とトラブルがありクリーンなイメージではなく、一般的なK-POPスターとしてのルックスも持ち合わせていなかったのだ。
ではなぜ、韓国社会への批判を込めたこの曲の何が、これほどまでに世界的な現象になったのだろうか。
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舞台設定
PSYは、ソウルのビバリーヒルズと呼ばれる超富裕層の街、江南(カンナム)に集まる若者たちに象徴される、新しく豊かになった韓国の派手さ、ナルシズム、派手な富をパロディー化することを念頭に置いて「Gangnam Style」を作曲した。
皮肉なことに、PSYはこの地域の出身であった。1977年、裕福な家庭に生まれたPSYことパク・チェサンは、父親の半導体製造業を継ぐ予定だった。しかし米国に留学したが、すぐにボストン大学を辞め、音楽活動に専念するようになった。
「Gangnam Style」が発表されるまでの11年間、PSYはコメディ、不遜さ、そして論争で知られるラッパーとして自分のニッチを切り開いてきた(ファーストアルバムの露骨な歌詞は“不適切な内容”として罰金を科され、セカンド・アルバムは全面的に発売禁止にされた)。
2012年には韓国3大芸能事務所の1つであるYGエンターテインメントに所属し、スターとしての地位を確立。6枚目のアルバム『Psy 6 (Six Rules), Part 1』とそのリード曲「Gangnam Style」は、少なくとも韓国国内ではヒットすることは予想されていた。
YouTubeでの大反響
わずか48時間で撮影された「Gangnam Style」のミュージック・ビデオには、韓国の有名芸能人が多数出演し、国内でのヒットを確実なものにした。7歳のファン・ミヌは、テレビのタレント番組でセンセーションを巻き起こしたダンスを披露し、黄色のスーツでPSYと一緒に踊るコメディアンでテレビ司会者のユ・ジェソクと共に、独特の動きを加えている。
タレントのノ・ホンチョルは、有名なエレベーターダンスを披露し、K-POPスターで女性グループの4minuteのメンバーだったキム・ヒョナも登場している。
そして忘れてはいけないのが、“馬ダンス”だ。PSYは、そのバカバカしいダンスですでに高い評価を得ていた。「Gangnam Style」の特徴である馬跳びや投げ縄といった振り付けを、1ヶ月かけて振付師と一緒に考案し、ビデオで披露した。
2012年7月15日にリリースされたこの曲は、YouTube再生回数が初日で50万回を記録し、一気に人気となった。しかし、その後数ヶ月の間に、「Gangnam Style」は韓国とを飛び越えて歴史にその名を刻むことになる。
この曲が国内で人気を博すと(発売から数週間で、韓国でその年最大のヒット曲の1つとなった)、その噂はK-POPの中心地をはるかに超えて広がり始めた。アメリカのラッパー、Tペインは7月29日、この曲について熱狂的にツイートし、最初に支持を表明した人物だと伝えられている。
LADIES AND GENTLEMEN!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!…………..#GANGNAM STYLE………… That is all.
— T-Pain (@TPAIN) August 1, 2012
まもなく、ブリトニー・スピアーズ、ケイティ・ペリー、トム・クルーズ、ロビー・ウィリアムスなどのスターたちがこの曲を取り上げ、何百万人ものフォロワーにこの曲を紹介し、バイラル・センセーションを巻き起こした。こういった反響を受け、欧米でのマネージメント契約を、ジャスティン・ビーバーを発掘したマネージャーのスクーター・ブラウンと締結して、人気のテレビ番組に続々出演を果たす。
同年9月には、「Gangnam Style」は1日平均600万回以上再生されるようになり、30カ国以上のチャートで上位にランクインし、2012年12月21日には、YouTubeで初めて10億再生を達成した動画となった。2014年に21億4,748万3,647回を記録し、これ以上再生を計測するにはYouTubeのカウンターのアップグレードが必要なほどだった。2022年7月現在、再生回数は44億回を突破している。
「Gangnam Style」のパロディと文化的影響力
勢いが大きくなるにしたがって、ダンスのパロディーが世界中を席巻した。英国陸軍とタイ海軍が彼らが躍ったバージョンを投稿し、パキスタン、メキシコ、オーストラリア、ブラジル、ドイツなどさまざまな国の有名人や政治家が地域のテレビで披露した。
カリフォルニア、ニューヨーク、シドニー、パリ、ローマ、ミラノでは数千人のフラッシュモブが再現を試み、プロのサッカー選手、ボクサー、テニスプレーヤー、クリケット選手もスポーツの祭典で賛辞を贈った。英国のキャメロン首相や英国王室関係者までもが、このビデオのダンスを自分たちで再現しようとした。
「Gangnam Style」の国際的な成功は、おかしみと風刺を織り交ぜた優れた映像、最高にキャッチーな曲、奇抜で華麗でパロディーにしやすいダンスなど、さまざまな要因によるものであった。そして、絶妙なタイミングでインターネットの力を借りて、母国語で歌う韓国人を世界的なブレイクスターに押し上げたのである。
Written By Paul Bowler
PSY「Gangnam Style」
2012年7月15日発売
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