ザ・キュアーの名作ミュージック・ビデオ11選:ロバート・スミスや監督が語る裏話

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すべてが始まったのは1976年のことだった。学校のクラスメートだったロバート・スミス、マイケル・デンプシー、ロル・トルハースト、ポール・トンプソンが、ウェスト・サセックス州クローリーでイージー・キュアーというバンドを結成したのである。1978年には、バンド名から「イージー」が外れ、トンプソンもメンバーから外れていた。

残った3人はザ・キュアーとしてフリクション・レーベルと契約し、デビュー・アルバム『Three Imaginary Boys』を1979年5月に発表する。こうしてキャリアをスタートさせたザ・キュアーは音楽面でもビジュアル面でもミステリアスな存在であり、彼らのビデオはその両面を生かして観る者の脳裏に焼き付けられることになった。

ここでは、ザ・キュアーの名作ビデオとその裏話ご紹介しよう。

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1. A Forest (1980年)

最初のプロモーション・ビデオ「A Forest」に登場するロバート・スミスは、他のビデオでお馴染みの姿からかなりかけ離れている。ザ・キュアーはもともと”アンチ・ルックス”志向のバンドだったが、スミスがヘアスプレーと口紅でメイクを始めた瞬間から方向性がガラリと変わってしまった。のちに彼はこう語っている。

「あの”アンチ・ルックス”ってやつから離れなければいけなかった。そもそも、あれは僕らが始めたムーヴメントでもなかったしね。あれはまるで、自分で自分の知名度を下げようとしているような感じだった。こちらはただ、標準的なロックのファッションが好きじゃなかっただけの話」

 

2. The Hanging Garden (1982年)

『Pornography』はザ・キュアーの4作目のスタジオ・アルバム。それに続く「Fourteen Explicit Moments」ツアーで、このバンドはついに”アンチ・ルックス”と決別し、独特な髪型やメーキャップ、そして黒い衣装を身にまとうことになった。『Pornography』から唯一シングル・カットされたこの曲のビデオについて、スミスはこう語っている。

「あのビデオでは、マッドネスのビデオをやったスタッフを起用した。でも仕上がりは本当に酷かった。向こうはこちらをシリアスな感じにしたがってたけど、こちらは自分たちをマッドネスみたいに撮ってほしいと思ってたんだ」

 

3.  Let’s Go To Bed (1982年)

「Let’s Go To Bed」は、ザ・キュアーのビデオの中では記念碑的な作品だ。ここで初めて組んだ監督ティム・ポープは、その後もこのバンドのビデオを多く手がけることになる。3年後、「In Between Days」(やはりポープが監督した)の撮影中にスミスはインタビューに応え、ポープと最初に会ったときのことを振り返っている。

「彼がドアから入ってきた瞬間に、最高だと思った。本当に酷いシャツを着てて、しかもこれまた本当に酷いチグハグなズボンも履いてたんだ。片方の目で上を見て、もう片方の目で下を見て、こう思った。この男はどんな苦境も切り抜けられる名監督に違いないとね。それからはずっと一緒にやっている」

「Let’s Go To Bed」は、ザ・キュアーがメンバー2人のみ(ロバート・スミスとロル・トルハースト)だった時代に作られた唯一のビデオでもある。

 

4. Inbetween Days (1985年)

これはアルバム『The Head On The Door』からのファースト・シングル。再び監督を務めたティム・ポープはこう語る。「ロバートは、本物のイギリスの奇人だと思う。本当にどうかしてるんだ。だから撮影はすごく楽だ。彼の顔のクローズアップにして、少しどうかしてるようなことをやってもらうだけでいいから」。

「Inbetween Days」のビデオについて、スミス本人はお気に入りのひとつだと語っている。

「あの曲をうまく表現してる。こちらとしては、派手な飾りなしに、僕らの姿をそのまま映し出すビデオを作りたかった。ビデオの中でカッコつけてる連中にはうんざりしてたからね。顔が違うだけであとは一緒という連中を観ることほど退屈なことはないと思う」

とはいえあの蛍光剤を塗った靴下については、ファンもスミスも首を傾げていた。

「ティムと一緒に作ったビデオの中で、ひとつだけ全然理解できないことがあった。あの靴下だよ。“なんでこんな靴下? どういう意味?” と何度も尋ねてたんだけど、ティムもわからないと言う。選んだのは彼なのに、その理由を本人が覚えてないんだ」

 

5. Close To Me (1985年)

「Close To Me」は、ザ・キュアーのビデオの中でも特に有名な部類に入るだろう。舞台となったのは、崖っぷちに置かれた洋服ダンスの中。これもティム・ポープの監督作品だ。彼の話によれば、曲の息苦しい雰囲気を再現するために、密閉された空間の中で撮影しようと考えたのだという。面白いことに、ポープの演出は曲そのものにも影響を与えた。ザ・キュアーはこのビデオ用に「Close To Me」をリミックスしており、それはより密室っぽい雰囲気に仕上がっていた。

のちにスミスは、この撮影は最高に不快だったと語っている。バンドのメンバー全員が洋服ダンスに押し込まれ、凍えるような冷たい水に6時間も浸かっていたのだ。

「あれは異様な耐久力テストだった。誰が最初にダウンするのか確かめるテストというわけ。あの1日は心の底から嫌だった」

崖から洋服ダンスが落ちるシーンも難しい撮影になった

「あれは1回しか撮影しなかった。たぶんスタッフは撮影許可をもらってなかったんだと思う。だからタンスを持ってきて、崖から落として、車でさっさと逃げ出したんだ」

 

6. Boys Don’t Cry (悲しい少年) (1986年)

これもティム・ポープが監督を務めた作品だ。このビデオでは3人の少年が曲に合わせて演奏しており、そのうしろにザ・キュアーの影が映し出されている。少年たちは黒いスクリーンの前で撮影されたため、ポープは彼らの動きが影と合っているかどうか確かめる術がなかったという。

テレビ・ドキュメンタリー・シリーズ『VIDEO KILLED THE RADIO STAR 伝説のビデオ・メイカー』でのインタビューでポープが語っていた話によれば、この3人の少年は今も一緒に集まってザ・キュアーのライヴに行き、ロバート・スミスと会っているらしい。

 

7. Why Can’t I Be You (1987年)

これはアルバム『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』の第1弾シングルのプロモーション・ビデオ。メンバーがさまざまなキャラクターに扮して踊るという内容は、ザ・キュアーのビデオのイメージを過激に打ち壊すものだった。振り付けは、ダブリンのウェンブリー・ホテル・バーで一晩のうちに練習したという。のちにロバート・スミスは、このビデオの狙いは自分たちを過度にシリアスに考えないようにすることにあったと語っている。

「30秒のダンスを覚えるのに5日かかった。あれは、ザ・キュアーの中心になっていたものからできるだけ遠ざかった作品だと思う。熱烈なファンの多くは、あのビデオに腹を立ててた。不満の声をいっぱいもらったよ。“なんであんなビデオを作ったの? キュアーの一番大事な部分を台無しにして” とか。でも、他人をおちょくるのと同時に自分たちをおちょくることができなければ、ビデオを作る意味なんてない。こちらはそう思ってたね」

 

8. Catch (1987年)

「Catch」も、やはり『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』からシングル・カットされた曲。このビデオは、フランスのキャップ・カマラにあるキルデア公爵夫人の邸宅で撮影された。「ロケ地になったフランスのニースは犬の糞だらけだった」とティム・ポープは振り返っている。

「カメもそこら中にいて、レトルト食品のカニみたいに日干しをしてるんだ。それに、ディケンズの『大いなる遺産』のミス・ハヴィシャムが住んでいそうな部屋も見つけた。ボロボロのバレリーナの衣装とか、ウジがわいたボロ人形とかで埋め尽くされてた。その部屋の所有者だった老婦人がらせん階段を降りてきたんだけど、その姿はまるで『サンセット大通り』のグロリア・スワンソンみたいだった」

スミスはこのビデオを気に入っているが、あるシーンは別だという。

「ロル・トールハーストが台無しにしたんだ。せっかく美しいビデオを作ったのに、あいつは炭坑夫のジーンズを着てらせん階段から降りてきた。バイオリンを弾くふりさえせずにね」

 

9. Just Like Heaven (1987年)

「Just Like Heaven」でもティム・ポープが監督を務めており、こちらも崖の上という設定のビデオ。ロバート・スミスによれば、この曲で歌われているのは「昔、僕に起きた出来事」だという。彼は、詳しくはビデオを観てほしいとファンに向けて語っている。

このビデオの中で、スミスは白いドレスを着た妻メアリー・プールと一緒に踊っている。彼は、この曲で歌われている女性が実はメアリーだったと明かしている。

「このビデオに女性を登場させたかったけど、気詰まりな思いをするような人を相手にするのは嫌だった。メアリー以外の人間の手を握るところなんか想像できなかった」

ティム・ポープものちにこう語っている

「彼女は、キュアーのビデオで相手役を務めた女性は自分だけだと主張できるだろうね」

 

10. Hot, Hot, Hot!!! (1987年)

『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』からリリースされた最後のシングル「Hot, Hot, Hot!!!」のビデオは、やはり予想も付かないものだった。白黒で撮影されたこのビデオに、ザ・キュアーの面々は50年代の衣装を着た小男として登場する。のちにロバート・スミスは、自分の思いついたビデオのアイデアがうまく伝わらなかったと述べている。

「ティム・ポープにこう注文したんだ。ゲスでファンキーなソウル・バンドみたいな感じの格好で出たいとね。そうしたらティムは、“ゲス/lowdown”を“小男/dwarf”、“ソウル・バンド/soul band”を“白黒/black-and-white”と解釈してしまったんだ。レコード会社からは、これじゃ放送されそうもないと言われた。確かに放送されなかったよ」

 

11. Friday I’m In Love (1987年)

ザ・キュアーのビデオについて語るなら、ロバート・スミス本人が「自分たちが作った中で最高傑作」と語る作品を抜きには語れない。この「Friday I’m In Love」のビデオは、サイレント時代の映画監督ジョルジュ・メリエスに捧げたオマージュ。ザ・キュアーのメンバーは、どんどん移り変わる背景の前で、さまざまな小道具や衣装を身につけて演奏している。

このビデオには裏方も顔を見せており、監督のティム・ポープは木馬に乗って指示を出している。またプロデューサーのデイヴ・M・アレンも、後方で小道具係を務めている。たった3時間で撮影されたこのビデオは、MTVヨーロッパの視聴者投票で”Best Video Of The Year”に選ばれた。

By Molly Andruskevicius




 

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