マイク・オールドフィールドと彼が手掛けたサウンドトラック作品
世間一般の人々にとって、マイク・オールドフィールドの名前は永遠に、映画『エクソシスト』と同義語であり続けるだろう。ウィリアム・フリードキン監督が手掛けたこの革新的映画は、1973年の公開から45年以上を経た今も尚、身が凍るような恐怖を観る者に感じさせるが、それはあの象徴的なテーマ曲「Tublar Bells」のおかげに拠るところが決して小さくない。そういったことから、この映画のサウンドトラック全体を担当したのはマイク・オールドフィールドだと考える人は数多くいる。しかしながら、正真正銘、マイク・オールドフィールド初のサウンドトラックが登場したのは、『エクソシスト』が映画ファンを震え上がらせてから10年後、カンボジア内戦におけるジャーナリスト2人の経験を描いた1984年の映画『キリング・フィールド』のスコアを彼が手掛けた時のことだ。ローランド・ジョフィ監督による同映画は、オスカーを始め様々な賞を受賞。マイク・オールドフィールドの感動的なサウンドトラックはその劇伴として完璧であり、テクノロジーの限界を超えつつ、同時に感情に強く訴えかける優れた音楽を生み出す遠大な作曲家として、彼の評価を確立した。
『The Killing Fields』は、マイク・オールドフィールドが手掛けた唯一のオリジナル長編映画スコアだが、彼の楽曲は長年に渡り、フランスの犯罪スリラー映画から、NASAの宇宙映像集、テレビのコメディ番組、最先端のコンピューターゲームまで、多種多様なプロジェクトのサウンドトラックに用いられている。今回はマイク・オールドフィールドの並外れた作品を称え、彼の曲が登場するサウンドトラック精選をご紹介したい。
■「Étude」(アルバム『The Killing Fields』収録:1984年)
マイク・オールドフィールドがスコアを手掛けた映画『キリング・フィールド』のサントラ・アルバムからリリースされた唯一のシングル「Étude」は、同映画のエンドロールで流れていた。
■「Tubular Bells – Opening Theme」(アルバム『Tublar Bells』収録:1973年)
「Tubular Bells」は元々、マイク・オールドフィールドが1973年に発表した伝説的な同名アルバムのために作った曲だ。同年末に公開されたウィリアム・フリードキン監督による有名な傑作ホラー映画『エクソシスト』で使用され、人々の恐怖を掻き立てた。
■「Ommadawn (Excerpt)」(アルバム『Ommadawn』収録:1975年)
ドキュメンタリー映像『Reflection: A Film About Time And Relatedness』(※日本未公開)は、1976年に英国芸術評議会のために制作されたビデオ作品で、サウンドトラックという用途に特化してマイク・オールドフィールドが作曲を担当した最初の例となった。同作のサントラとして当時レコーディングされていたものの未発表だった音源や、初期ヴァージョンだった楽曲が、後に1978年の『Incantations』を始めとする幾つかのアルバムに収録されることになる。また『Refrection』には、マイク・オールドフィールドの3作目『Ommadawn』からの抜粋も使用されていた。
■「Incantations Part One」(アルバム『Incantations』収録:1978年)
1979年に発表された『The Space Movie』(※日本未公開)は、アポロ11号による初の月面着陸から10周年を記念して、NASAの要請で編集されたドキュメンタリー映像作品だ。それにふさわしく、このサントラには別世界を思わせるマイク・オールドフィールドの曲がふんだんに用いられており、特に彼の1978年のアルバム『Incantations』からの曲が際立っている。
■「Portsmouth」(アルバム未収録シングル:1976年)
当時『The Space Movie』のサウンドトラックをリリースする企画が立てられていたものの、残念ながらそれは実現しなかった。マイク・オールドフィールドの単発シングル「Portsmouth」がそこに含まれていたことを思えば、実に惜しいことである。同曲は、1976年に全英シングル・チャートで3位を記録。再聴の価値が大いにある曲だ。
■「Moonlight Shadow」(アルバム『Crises』収録:1983年)
マイク・オールドフィールドの音楽は様々な雰囲気や心境に合うということを証明しているのが、この「Moonlight Shadow」だ。マギー・ライリーがヴォーカルを取った同シングルは、1983年に全英トップ5入り。90年代には英BBCのコント番組『The Fast Show』で、サイモン・デイ演じるキャラクター“環境保護活動家デイヴ・エンジェル”のテーマ曲として使われ、再び大きく注目された。近年では、知る人ぞ知るアルゼンチンの人気コメディ・ドラマ『Guapas』でも取り上げられている。
■「Nuclear」(アルバム『Man On The Rocks』収録:2014年)
2014年、マイク・オールドフィールドは6年間の沈黙を破り新作『Man On The Rocks』をリリース。翌年、特に傑出した収録曲のひとつ「Nuclear」(ザ・ストラッツのルーク・スピラーによるヴォーカル入り)が、ゲームソフト『メタルギア・シリーズ』の『メタルギアソリッドV ファントムペイン』に採用された。
■「In High Places」(アルバム『Crises』収録:1983年)
『Crises』からの最後のシングル「In High Places」は、2010年にカニエ・ウェストが「Dark Fantasy」でサンプリング。同トラックは後に、2013年に公開されたシリーズ第3弾のコメディ映画『ハングオーバー!!! 最後の反省会』で使用された。
■「Family Man」(アルバム『Five Miles Out』収録;1982年)
後にホール&オーツがカヴァーした「Family Man」は、ゲームソフト『グランド・セフト・オート』のシリーズ通算10作目『グランド・セフト・オート・バイスシティ・ストーリーズ』で使用され、存在感を放った。
■「Hergest Ridge Part One」(アルバム『Hergest Ridge』収録;1974年)
『Tubular Bells』で名を上げたマイク・オールドフィールドに目を留めたのが、フランスの映画監督ロジェ・ヴァディムだ。ロジェ・ヴァディム監督は、同アルバム及び次作『Hergest Ridge』の収録曲を、1974年公開の犯罪スリラー映画『Le Jeune Fille Assassinée(英題:Charlotte / The Murdered Young Girl)』(※日本未公開)で使用した。