ローリング・ストーンズ新作発売記念、ピート・タウンゼントによる“ロックの殿堂”紹介スピーチ掲載
ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)が、18年ぶりとなる新作スタジオ・アルバム『Hackney Diamonds(ハックニー・ダイアモンズ)』を2023年10月20日に発売することを発表した。
この発売を記念してストーンズが1989年にロックの殿堂入りを果たした際に、ザ・フーのピート・タウンゼントによる、彼らしく、英国的なユーモア、そしてバンドに対する愛にあふれた紹介スピーチをご紹介。
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ロックンロールは、僕が考えていたよりもずっと以前から存在していました。それは明らかです。今夜のセレモニーでは、本当にたくさんのことを学びました。ここまで学ぶことがあるとは予想もしていませんでした。このスピーチをうまく続けられることを祈っています。というのも、学ぶべきことがたくさんあるからです。
今夜の主役、リトル・リチャードには、「僕ももう十分に年を取ったので、そろそろあなたの部屋にお邪魔させていただきたいのですが」と伝えたいです。リトル・リチャードがステージに登場したときは、一瞬キース・ムーンが現れたのかと思いました。このふたりはきっと同じ人だと思います。今夜は、知り合いにもたくさん会えましたし、これから知り合いになりたいと思う人たちにもたくさん会うことができて最高でした。
今日はスピーチの原稿を何枚も用意してきました。以前キース・リチャーズから「お前は考え過ぎだ」と言われたことがあります。実のところ、僕はほとんどの場合、しゃべりすぎではありますが、先に考えているわけではありません。そして今晩、ザ・ローリング・ストーンズのロックの殿堂への「注射 (injection)」という事態に直面し、考えてもあまり助けにならないと気づきました [訳注: 「殿堂入り (induction)」にひっかけたダジャレ] 。
何か考えても助けになるとは期待できません……。先ほどアーメット[・アーティガン (アトランティック・レコードの創設者) ]がいろいろなことを話しているのを見て、僕もわざわざあのステージに登って同じことを言う必要はないだろうけど、少々違うかたちでお話しするのもいいんじゃないかと思いました。
僕は、ストーンズについての自分の感情をうまく分析できません。なぜなら僕は絶対的なストーンズ・ファンだからです。ストーンズには、常にそういうファンがついています。ストーンズの初期のライヴはとにかく衝撃的でした。文字通り、人をわくわくさせ、人の度肝を抜き、人を感動させるライヴでした。ストーンズのおかげで、僕の人生は完全に変わってしまいました。
ザ・ビートルズも楽しいバンドでした。その点には間違いありません。ここで話しているのはライヴの話で、ビートルズを貶めるつもりはまったくありません。でも、本当の意味で僕を目覚めさせたのはストーンズでした。ビートルズのライヴには絶叫する少女がたくさんいましたが、観客の中に絶叫する少年が少なくとも1人いたのはストーンズが初めてだったと思います。
ステージ上のストーンズの迫力はそれはもうすごいもので、それが約1000人の観客 ―― 正確に言えば1000人の少女と僕 ―― と完璧なバランスを成していました。けれどもそのおかげで、ストーンズは特別な存在となっていました。これまでの人生で僕が恥ずかしげもなくアイドル視したグループは、ストーンズだけです。ただし今日からは、新たにリトル・リチャードをアイドル視することになりますが……。
そして、ストーンズのメンバーひとりひとりが、それぞれの流儀で、アーティストとしての僕、人間としての僕、ファンとしての僕に何かを与えてくれました。ただし、彼らが与えてくれたものが健康面で有用だとか実用的だと主張するのは、正気の沙汰ではありません。
あのビル・ワイマンさえもが、僕に痛手を負わせました。それは、なにも彼がいつもすてきな女性と付き合っていることに嫉妬しているからというわけではありません。彼が、ストーンズの過去に関する本の出版契約を結び、とてつもない額の前金を手にしたからです。明らかにその本は、ストーンズの過去2作か3作のアルバムよりもよく売れると見込まれていました。ビルが手にした前金の額についてはみなさんご存知でしょうし、ストーンズの最近のアルバムがいったいどのくらい売れたのかということも、きっともみなさんはご存知でしょう。本当に驚くべき話です。アーメットも気に病んでいます。
去年はチャーリーにも痛い目に遭わされました。薬物に関して、彼が僕よりもずっとドラマティックな問題を経験して、僕の上を行っていまったからです。キースは、それよりもさらにドラマティックな治療を受けました。
そしてブライアン・ジョーンズのこともまた、僕には痛手でした。彼は薬物の治療を受けようとしませんでした。彼のことはとても好きだったので、あのような結果になってしまって、ひどく辛い思いをしました。彼は、僕にとってとてもとても大切な人でした。僕と本当の意味で親しくしてくれた最初の本物のスターがブライアンだったのです。彼とはずいぶん長い時間を一緒に過ごしました。ミックやキースと親しくなったのはそのあとのことです。ミックのこともキースのことも大好きです。けれどもブライアンとは本当に長い時を一緒に過ごしていましたし、彼が亡くなって本当に寂しく感じています。彼が倒れたあとのストーンズは、それまでおはまったく違うグループになったのだといつもそう感じていました。
ミックも僕に何かを与えてくれました。ひどいケースの「VD」 [訳注: 性病] です。ああ、すみません、すみません、すみません、違う違う ―― 間違えました。ミックの「CD」のケースがひどい代物だったと言いたかったんです。原稿にはそう書いてあります。これは実のところ、君たち「VBS」 [訳注: 「CBS」をわざと言い間違えた表現] の社員に対する苦情だね。
そして言うまでもなく、ロニーも今やローリング・ストーンズの一員です。僕はどうしてもロニーを新人だと思ってしまいます。すばらしいことに、彼はその若さゆえにまだ自分の歯が残っています。とはいえ今夜はその歯がうまくハマっていないようで、別人の顔のように見えます。
さて、ストーンズが活動を再開する日は来るのでしょうか? ずいぶん前の話ですが、かつてストーンズのマネージャーだったアンドリュー・ルーグ・オールダムをUKのテレビ番組のプロデューサーがどこかに連れ出して、こんなアドバイスをしたことがありました。
「やあ、アンドリュー。会えて嬉しいよ。私は君の4000万年先輩でね。それでだ、アンドリュー。君が抱えているストーンズだけど、リード・ヴォーカリストをクビにしたほうがいいよ」と……。
このエピソードをみなさんがご存じだったかどうか、わかりません。とはいえ、それから何年も経った今、このグループの連中もようやくあのプロデューサーのアドバイスに耳を傾けてくれる用意ができたようで、嬉しく思います。僕は今、このスピーチを楽しませていただいていますよ。
ストーンズはすばらしいレコードを何作も作ってきました。誰もが気づくことですが、すばらしいレコードを作るのは簡単ではありません。この会場にいるストーンズの知り合いなら知っていることですが、時にはレコードを作ることそのものが簡単ではありません。こんなことを話しているのは、チャーリーがここにいないからではありません。
けれども僕たちには、ストーンズが遺してくれた数々の偉大なる作品があります。そうした偉大なる作品は、今も主としてアトランティック・レコードから出ています。ただしストーンズは、2~3年ほど前にCBSとすてきな契約を結びました。実のところ、僕はウォルターから次のようなことを頼まれています。つまり、このチャンスを利用して、あの連中にせっついてほしい。VBSレコードが提供する新しい環境を活用して、どんどん活動を前に進めるように促してほしい ―― そういうことです。今はアーメットも僕も経済的に得るものがほとんどないので、喜んでその依頼に応えることになるでしょう。
ストーンズが活動を再開するのは簡単ではないでしょう。もし莫大な金を稼ぐことができないのなら、彼らはまったくやる気を起こさないかもしれません。少なくともミックはやる気を起こさないでしょう。ですから、ミックが金のかかる趣味の持ち主であることは、僕たちファンにとってとても幸運なことです。なぜなら、個人的にはストーンズにまだ未来があるように感じられるからです。これは単なる一ファンとしての意見ですが、個人的にはそう感じられます。
そしてこれこそが未来なのです。今は、同じ年代の実に良識あるアーティストの多くがこういうことをやっています。これはとても簡単なことです。宿泊先や航空券を提供されて、ここまでやって来ているというわけです。
真面目な話、これから何をしようと、彼らは「奇跡」に関する不吉な評判にさらなる尾ひれを付けて、ストーリーを脚色していくだけでしょう。
僕は、会場を代表して感謝の言葉を捧げたいと思います。ミック、キース、チャーリー、ビル、ロニー、ミック・テイラー、そしてもちろん今は亡きブライアン・ジョーンズ、やはり今は亡きイアン・スチュワート (イアンのことを知っている人がどれくらいいるかわかりませんが……) ―― あなた方がいなければ、1960年代のロンドンのR&Bシーンは存在しなかったと思います。僕はそんな風に感じています。
あのころロンドンのR&Bシーンが盛り上がっていなかったら、いったいどうなっていたでしょう。あのR&Bシーンで僕は大きくなりました。その後の僕は奇妙なことに小さくなってしまいましたが、とにかくああいった音楽は今も僕の中で大きな場所を占めています。とはいえ、ジミー・リードやジョン・リー・フッカーはまだロックンロールとはみなされないようで、いまだに殿堂入りを果たしていません。彼らの音楽的な血が、今夜表彰されるこのバンドの血管の中にどれほど流れていようと、まだ殿堂入りを果たしていないのです。
そういうわけで、ストーンズ、並びにいまだ殿堂入りしていない黒人R&Bアーティストたち、つまりストーンズがパクったアーティストたち ―― より穏当に言えば、影響を受けたアーティストたちに対して、僕は連帯感を抱いています。それが僕の正直な気持ちです。つまり、これほどさまざまに異なる人生の道筋がひとつに交わるのを目撃するのは、本当にすばらしいことでした。
そして今夜は、とても勉強になりました。あなた方、つまりストーンズから得たものは本当にたくさんありますが、そのほとんどがブルースの2番煎じだったことを今まで知らなかったのです。
いや本当に、本当に、本当に、本当に、おふざけはこのくらいにしておきましょう。
僕にとって、ストーンズは最高のバンドです。過去にはほかにもすばらしいアーティストたちがたくさん殿堂入りしましたし、今後もすばらしいアーティストたちがたくさん殿堂入りすることでしょう。今夜も、偉大なるアーティストたちが殿堂入りを果たしました。しかしながらストーンズは、僕にとっていつまでも最高のバンドです。僕にとっては、ブリティッシュ・ロックの象徴と言える存在なのです。今はメンバー全員と友人でもあるわけですが、それでも僕は、いまだに彼らのファンなのです。
まあ何をするにしても、優雅に年齢を重ねようなんて思わないように。そんなの、お前らには似合わないからさ。
Written By uDiscover Team
最新アルバム
ザ・ローリング・ストーンズ『Hackney Diamonds』
2023年10月20日発売
① デジパック仕様CD
② ジュエルケース仕様CD
③ CD+Blu-ray Audio ボックス・セット
④ 直輸入仕様LP
iTunes Store / Apple Music / Amazon Music
シングル
ザ・ローリング・ストーンズ「Angry」
配信:2023年9月6日発売
日本盤シングル:2023年10月13日発売
日本盤シングル / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
- ザ・ローリング・ストーンズ アーティスト・ページ
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