ロックの殿堂授賞式でのリンゴ・スターの紹介役、ポール・マッカートニーのスピーチ
ザ・ビートルズ(The Beatles)最後の新曲「Now And Then」、そして1973年に発売された2つのベストアルバム『The Beatles 1962-1966』(通称:赤盤)と『The Beatles 1967-1970』(通称:青盤)の2023年ヴァージョンが2023年11月10日に発表となった。
この発売を記念して、ザ・ビートルズやザ・ビートルズのメンバーが“ロックの殿堂入り”を果たした際の授賞式でのスピーチの翻訳を連続してご紹介。
本記事では、リンゴ・スターがロックの殿堂入りを果たした2015年の授賞式でリンゴの紹介役を務めたポール・マッカートニーによる祝賀スピーチをお届けする。
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リンゴ・スターは”幼くして”リヴァプールに生まれました。子どものころの家庭環境は厳しいものでしたが、彼には美しい母、エルシーと、素敵な義理の父親、ハリーがいました。二人とも思いやりのある素晴らしい人物で、また二人とも音楽を愛していました。そのため、苦しい家庭環境ながら、リンゴは子どものころにドラムを買い与えられたのです。そう、リンゴはドラムを手に入れたのです!そうして、彼はドラマーの仲間入りを果たしました。
その後、彼はロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズというグループに加入しました。そして、僕たちはハンブルクで彼らのステージを見ました。同じ時期に、僕たちもハンブルクでステージに立っていたのです。当時のリンゴは、見るからにプロのミュージシャンという感じでした。一方、僕たちはというと、ただ騒がしい音を鳴らしながら、歌っているだけでした。そんな僕たちと違って、彼は髭を生やしていました。まさにプロフェッショナルですよね(会場笑い)。スーツ姿も、すごくプロらしい出で立ちでした。彼はバーでバーボン・アンド・セヴンを飲んでいるようなタイプだったのです。あのころの僕たちはそんな人に出会ったことがありませんでした。まさしく“大人のミュージシャン”という感じです。
ともあれ、僕たちは彼と親しくなりました。ある真夜中、僕たちがステージで演奏していた時、彼がこっちにやってきて何曲かリクエストしてくれたのです。彼とはそんな風にして知り合いました。そして、僕たちのバンドのドラマーだったピート・ベストの出演が叶わなくなった時のことです。僕たちはリンゴに代理のドラマーを務めてもらいました。その晩のことはよく覚えています。とはいえピートも素晴らしい人で、彼と過ごした時間も楽しかったんです。
ともあれその日は、いつものようにステージ前方で歌う僕とジョンとジョージ ―― 二人に神の恵みがありますように ―― の後ろに、初めて一緒に演奏する男がいたのです。そして彼が演奏を始めると……確か、楽曲はレイ・チャールズの「What’d I Say」だったと思います。あの曲のドラム・パートを完璧に叩けるドラマーはほとんどいませんでした。あれはなかなかに難しいですから。それなのにリンゴは完璧に叩いてみせたのです。そう、リンゴは完璧に演奏してみせたんです!(会場拍手)
あの瞬間のことは忘れられません。ステージ前方にいた僕は、ジョンと目を見合わせ、次にジョージと目を見合わせました。そのときの僕たちの表情といったら、「おいおい、これはいったい……」といった感じでした。それがまさにザ・ビートルズの始まりだったのです(会場拍手)。
それから、リヴァプール出身の僕たち4人は、素晴らしい旅路へと歩み出しました。その過程で、僕たちはイングランド中のダンスホールやナイトクラブで演奏したり、少しのあいだヨーロッパに滞在したりして、やがてアメリカにたどり着きました。
僕たちはこの国で同じ部屋に寝泊まりしていたのです。僕は“箱入り息子”ではありませんでしたが、母と父と弟との4人家族で育ちました。そんな僕が、赤の他人と同じ部屋で寝泊まりすることになったのです(会場笑い)。そんな経験によって僕たちは絆を深めていきました。全員がほとんど一心同体で暮らしていたのです。それは美しく、素晴らしい時間でした。
そうして僕たちはThe Ed Sullivan Showにも出演し、とても有名になりました。リンゴとの演奏は素晴らしい経験でした。世のドラマーが口を揃えて言うように、彼は特別な存在なのです。彼が僕たちの後ろでドラムを叩いていると…普通のバンドの場合、メンバーは演奏中にドラマーの様子をチェックします。「テンポを上げるかな?テンポを下げるかな?」といった具合にです。けれどもリンゴとやる場合、後ろを振り返る必要はないのです。それだけ安心感があるのです。
今夜、彼をクリーヴランドのロックの殿堂に“誘い入れる/induce” ―― いや、“迎え入れる/induct”ことができて光栄です。ロックの殿堂入りを果たす、リンゴ・スターです。
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