T・レックス最後の全英TOP10シングル「The Groover」
台風のように吹き荒れたT・レックスの熱狂は、2年ものあいだイギリスを魅惑の渦の中に巻き込んでいた。しかしいつの間にか、大ヒット・シングルを連発していたT・レックスの記録も終わりに近づきつつあった。1973年6月16日に全英シングル・チャートに登場した「The Groover」は、T・レックスが故国イギリスでチャートのトップ10に送り込んだ最後のシングルとなった。
しかしながら、そこに至るまでの記録はとてつもないものだった。その始まりとなったのが、1970年11月に初めてトップ10入りした「Ride A White Swan」である。この曲は最高2位を記録。そのあとT・レックスは4枚連続でシングル・チャートの首位を獲得し、彼らは2年半のうちにトップ10入りシングルを10枚積み重ねていった。この時期には、アルバム・チャートでも3枚が首位を獲得している。
しかし1973年の春になると、T・レックスの勢いはもはやアルバム・チャートの首位に立つほどではなくなっていた。アルバム『Tanx』は、前年の夏に出た『The Slider』と同じように初登場で最高4位を記録。同じ時期には「20th Century Boy」も全英シングル・チャートで最高3位まで上がっている(この曲は今ではT・レックスの代表曲となっているので、多くの人はチャートの首位を獲得した曲だと思い込んでいるようだが)。
そして1973年6月6日にシングルとして発売された「The Groover」は、いつものようにトニー・ヴィスコンティがプロデュースしたマーク・ボランの新曲だった。ファンの興奮をそそるように、このシングルのA面曲(そしてB面の「Midnight」)はアルバムには収録されていない。6月16日付の全英チャートで、「The Groover」は6位に到達。同じ週にはスージー・クアトロが「Can The Can」で首位にまで登り詰めていた。
その次の週は10ccが「Rubber Bullets」で首位を獲得する一方で、T・レックスの「The Groover」は4位に上昇。それが最高位となった。この曲はさらに2週に渡って全英チャートのトップ10圏内に留まったが、その後のボランは二度とトップ10に戻らなかった。次のシングル「Truck On (Tyke)」は最高12位。ボランは亡くなるまでにトップ20ヒットを4枚出しているが、「Truck On (Tyke)」はその最初の例となった。
のちにトニー・ヴィスコンティは自伝『Bowie, Bolan & the Brooklyn Boy』の中でこう述べている。「T・レックスの人気が下り坂に入る一方で、彼らの小粋なファンをボウイが“こっそり”いただこうとしていた……。マスコミの見方はそういうものだった。私の目にも、その前兆はありありと見て取れた。グラム・ロックをやる新人も現れ、その中にはこちらよりもずっと上手にグラム・ロックをこなしている者もいた。ミーハーなファンはスレイドやゲイリー・グリッターに飛びついたが、クールな子はボウイやロキシー・ミュージックを聴いていたね」。幸い、マーク・ボランはポスト・グラム時代に合わせて自分の作品を仕立て直すことができた。そして1977年に悲劇的な死を遂げるまでの4年間に、素晴らしいシングルやアルバムを何枚も発表している。
Written by Paul Sexton