ロビー・ロバートソンが、スコセッシ製作総指揮によるザ・バンドの最新ドキュメンタリーを語る
「ザ・バンドのストーリーはユニークで、非常に美しいものだったが、やがて燃え尽きてしまった」とギタリスト兼ソングライターのロビー・ロバートソンは、ザ・バンドの最新ドキュメンタリー映画『Once Were Brothers: Robbie Robertson And The Band』の中で語っている。この映画は2019年のトロント国際映画祭でプレミア上映され、2020年2月28日から、全米各地の映画館で封切られていた。
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マーティン・スコセッシ製作総指揮の下、ダニエル・ロアーが監督を務めた同映画は、ザ・バンドにまつわる興味深い物語を誠実に伝えようという、当初の目標を達成することができたと思うとロビー・ロバートソンはuDiscoverに語ってくれた。
「僕は単に満足しているだけでなく、感情に溢れるこのドキュメンタリー作品を本当に凄く気に入っているんです。これまでミュージシャンを描いたドキュメンタリー作品を観て、満足させられたことはほとんどなかった。僕とってはどれも同じに思えたんです。でも、この作品は実に感動的で、グループ内に確かに存在していた兄弟愛に触れることが出来るっていうのが重要ポイントになっています。僕の自伝“ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春”の中でも描いているその部分が、この映画では生き生きと再現されています。出来上がる過程を興奮しながら眺めていました。誤った解釈をされやすいこともあるけれど、このドキュメンタリーの製作スタッフと彼らの仕事は並外れていた。この魂の宿った完成作品に心から満足しているんです」
“最後までやり抜くのは想像を絶することだった”
ガース・ハドソン(キーボード、ピアノ、ホルン)、レヴォン・ヘルム(ドラムス、ヴォーカル、マンドリン)、リチャード・マニュエル(キーボード、ヴォーカル、ドラムス)、リック・ダンコ(ベース、ヴォーカル、フィドル)、そしてロビー・ロバートソン(ギター、ピアノ、ヴォーカル)によるザ・バンドのようなグループは後にも先にも存在しない。
デビュー・アルバム『Music From Big Pink』とセルフ・タイトルのセカンド・アルバムで、彼らは60年代に登場した最も刺激的で画期的なバンドのひとつとしての地位を築き、「The Weight」「The Night They Drove Old Dixie Down」「Up On Cripple Creek」「Rag Mama Rag」といった、現代音楽を代表する名曲を残した。
ロン・ハワードが共同プロデュースを手掛けた同ドキュメンタリーには、錚々たるスターたちがザ・バンドが彼らとってどんな存在だったかを説明するインタビューが収められている。ブルース・スプリングスティーンはこう語っている。
「ひとつの名のもとに、個々が団結することによってより大きな力を発揮することが出来るということを思い知らしてくれたバンドは、ザ・バンドをおいて他にはいない」
素晴らしいフィルム映像と生き生きとしたスチール写真を使用しているこのドキュメンタリーは、ザ・バンドとボブ・ディランの関係性や、ボブ・ディランと共に敢行し、物議を醸したワールド・ツアー(1966年)に目を見張るような解説を加えている。「ディランは音楽の流れを変えようとしていました」とロビー・ロバートソンは語る。しかし音楽の地平を広げようとするその試みによって、ディランと彼のツアー・バンドは、ディランの新しいエレクトリック・サウンドを聴きたくない筋金入りのフォーク・ファン達と直接対立することになる。ボブ・ディランとザ・バンドはステージの上でも下でもブーイングを浴び、物を投げつけられることもあった。それでもボブ・ディランは、何が起ころうと、演奏し続けなければならないと、グループに伝えていた。
「笑える時もあればそうでもない時もありました。ボブ・ディランのようなアーティストが世界各国で演奏しながら、毎晩のように観客からブーイングされるのを僕は見たことがない。そしてみんな大挙してこれを観に来ていた。あんな状況に耐え、頑として民衆の思いに歩み寄らない姿勢を貫く人間は、彼くらいでしょう。当時の僕達がやっていたことを最後までやり抜くのは想像を絶することでした。そして、自分達が屈しなかったという事実に対して、今では深い自尊心を持っているんです。その数年後、1974年に再びツアーに出た時、僕達のところへブーイングしたことについて謝るに来る人もいた。みんな、今も昔も最高だと思っていたかのように、 “1966年当時の人々がどれだけ間違っていたか、本当にびっくりだ” だなんて言われたものです。1974年に僕たちがやっていたことは、その音楽への向けるエネルギーや姿勢は昔から何も変わっていなかった。昔と同じようにギアを入れただけ、でもその頃には世界が変わっていたんです」
“何かがまるでガラスのように砕け散った”
映画『Once Were Brothers: Robbie Robertson And The Band』は、ウッドストックでの画期的なライヴから、ミュージシャン仲間を巻き込んだドラマティックな私生活に至るまで、ザ・バンドの魅力的なエピソードに溢れている。彼らが他のミュージシャンに与えたインパクトは非常に大きかった。エリック・クラプトンは『Music From Big Pink』が「人生を変えた」と語っている。
この映画の最も胸を刺す側面のひとつは、メンバーの何人かが辿るドラッグに溺れたワイルドな人生が、いかにして彼らの兄弟愛を引き裂いていったのか、そして彼らがなぜ以前のように互いを支え合うことが出来なくなってしまったのか、そういった様を目の当りに出来ることだ。
危険レベルのヘロインの使用、危うく命を落としかけた自動車事故…。そうしたことが積み重なった結果、袂を分かつことを避けられなくなってしまったザ・バンドの歴史がありのままに丁寧に描かれている。「何かがまるでガラスのように砕け散った」とロビー・ロバートソンはグループの崩壊について明かす。
解散を前に、ザ・バンドは人々の記憶に残るコンサート『The Last Waltz』を開催した。このコンサートの記録映画を監督したのは、ロビー・ロバートソンがその後40年間にわたって仕事を共にし、2019年の映画『アイリッシュマン』等を手掛けることになるマーティン・スコセッシだった。この素晴らしいコンサートで、ザ・バンドはボブ・ディラン、マディ・ウォーターズ、ドクター・ジョン、エミルー・ハリス、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソン等多数の旧友を集めた。「哀しい気持ちを抱くのではなく、どちらかと言えば祝典という雰囲気だった。素晴らしい、一世一代のライヴだった」とヴァン・モリソンは映画の中で語っている。
夢のようなザ・バンド初期の時代を讃えた映画『Once Were Brothers: Robbie Robertson And The Band』は、ロビー・ロバートソンがあがり症を克服するために催眠術師を雇い、その彼をバンドと一緒にステージに上がらせることもあったというような興味深いエピソードなどにも触れつつ、同時に苦難の時代について描くことも厭わない。メンバーの中でも特にリヴォン・ヘルムは、当時人生の崩壊に直面していた。
「リヴォンはよく文句を言っていたし、被害妄想みたいなこともあった。そこに憎しみが入り混じってきたんです」とロビー・ロバートソンは振り返る。リヴォン・ヘルムの怒りの矛先は、ロビー・ロバートソンに向けられることが多かったが、それでも彼は2012年のリヴォンの臨終に立ち会っている。
映画の中で、ロビー・ロバートソンは、音楽革命の最前線立っていたことを当然ながら誇りに思っていると述べているが、同時にこの作品によって困難だった時期を追体験するのは辛いことではなかったのだろうか?という質問に対してこう語ってくれた。
「苦難の時期に向き合うのは、人生と向き合うようなものです。全てが表面的なものでは済まされない。(2019年に発売したソロ・アルバム)“Sinematic”のために‘We Were Brothers’を書いている時に僕が一番辛かったのは、これはザ・バンドを通じて、みんなが培った兄弟愛がどれだけの強い愛着と繋がりを伴っていたかということについての曲だったからなんです。僕たちは共に素晴らしい経験をしてきました。リヴォン、リチャード、そしてリックはもうこの世にいない。だからこそ、実在したザ・バンドの物語は心揺さぶられるものであり、とても感動的なドキュメンタリーなんです」
Written By By Martin Chilton
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