コンセプト・アルバムのベスト25枚
コンセプト・アルバムとは、正確には何を指すのだろう? 我々の定義は、“メロディや歌詞のアイディアがひとつの一環したテーマや統一された物語を資するもの”である。人々は長年フランク・シナトラの『In The Wee Small Hours Of The Morning』をコンセプト・アルバムとして挙げてきた。ある情事の終わりに対する長く深い悲しみを描いた本作は、コンセプト・アルバムかもしれないし、しかしまた一方ではそうではないかもしれない。なので、我々は発売から50年に及ぶアルバム25枚の最初の1枚として、先の定義に忠実に則ったフランク・シナトラの『Come Fly With Me』を選んだ。
ジョニー・キャッシュは数多くのコンセプト・アルバムを作ったが、その最初の1枚が1960年の『Ride This Train』だった。彼は長年数多くのカントリー・アーティストと共に、テーマのあるアルバムという着想を探求していた。この一年前のマーティ・ロビンスの『Gunfighter Ballads』やウィリー・ネルソンの1975年作品『Red Headed Stranger』も入る資格があったかもしれないが、我々は他のどのカントリー・アーティストよりもこのジャンルをものにした、この“マン・イン・ブラック”(*訳注:トレードマークの黒の背広からついたニック・ネーム)でいくことにした。
レイ・チャールズの『Modern Sounds In Country And Western Music』を入れるのは一見、幾分限界に挑戦しているように思えるが、なぜこれがコンセプチュアルかと言うと、彼がトラディショナル・カントリー・ミュージックにR&Bとブルースをひと捻り加えるという一貫した目的があったからだ。我々にとってこれはコンセプト・アルバムなのだ! ジミー・スミス然り、彼はセルゲイ・プロコフィエフのクラシック作品「Peter And The Wolf(邦題:ピーターと狼)」をジャズ調にしている。
1960年代の終わり頃にプログレッシヴ・ロックが登場した時、それをもらたした者達がコンセプト・アルバムを新たな高みへと導いたとの主張もある。ムーディー・ブルース、リック・ウェイクマン、ジェネシス、キャメル、アラン・パーソンズ、ピンク・フロイドやヴァンゲリスはみんな、コンセプト・アルバムを1枚以上制作しているので、ここに入れるものを選ぶのは大変なことだったし、従って異議を唱えたい方もきっといるだろう。
ザ・フーの『Tommy』は初のロック・オペラとよく言われるが、プリティ・シングスと彼等の『S.F. Sorrow』の方が早かった。我々は今回、それはもう見事でとにかく画期的なザ・フーの作品の方に拘ることにした。フォーク・ミュージックはプログレッシヴ・ロックやザ・フーとは正反対のものだが、フェアポート・コンヴェンションの7枚目アルバム(Babbacombe Lee』であるコンセプトに嵌まり、非常に素敵なレコードを生み出した。アルバムのタイトルに使われた人物、ジョン・‘ババクーム’・リーは、死刑判決を受けるも絞首刑が3度上手いく行かず失敗に終わった後に刑の執行が猶予された、ビクトリア朝時代の殺人者だった。なんて凄い話だ!
デヴィッド・ボウイとエルトン・ジョンの両者は、1960年代末から1970年代頭に登場したその他の大勢のソロ・パフォーマーよりも、長く続くキャリアを築いてきた。自らを新たに作り直すことを一度ならず行なったのを考えると、彼等がコンセプト・アルバム取り入れたのは、少しも不思議なことではないだろう。ふたりとも自分の分身を探る主題を選び…そしてふたりともそれを見事に成し遂げた。
モータウンはコンセプト・アルバムを採用するレーベルとしては有名ではないが、レーベルの一流アーティスト二人がそのテーマに取り組んだ時、二人は別々だがしかし非常にユニークな方法でそれを行なった。マーヴィン・ゲイのアルバムは妻との別れがテーマになっており、レコードの印税を全て彼女が持って行ったこともあり、そのコンセプト・アルバムは『Here, My Dear』(訳注:意味「さあ持って行くが良い」)と名づけられた。スティーヴィー・ワンダーの『Journey Through The Secret Life Of Plants(邦題:シークレット・ライフ)』は、ピーター・トンプキンスとクリストファー・バードの同名小説に基づいている。魅力的なコンセプトであり、スティーヴィー・ワンダーのあまり知られてはいないが、それでもなお美しいバラードのひとつ、「Send One Your Love(邦題:愛を贈れば)」が収録されている。
ジェフ・ウェインの『War Of The World』は、H.G.ウェルズの未来的小説『宇宙戦争』に基づいた今日でも話題の傑作。同小説は様々な形で過去にも命を吹き込まれてきたが、それが達成出来たのは、全てジェフ・ウェインの音楽の力があったからこそだ。同アルバムから最も良く知られている曲のひとつがジェフ・ウェイン、ゲイリー・オズボーン、ポール・ヴィグラス作の「Forever Autumn」だ。1969年にジェフ・ウェインが書いたオリジナル・メロディは、レゴのコマーシャル・ソングとして起用され、この時オリジナルCMソングを歌ったポール・ヴィグラスとゲイリー・オズボーンが「Forever Autumn」の歌詞を書き加え、自分達の1972年発アルバム『Queues』に収録した。『War Of The Worlds』の同ナンバーを歌っているのは、ムーディー・ブルースのジャスティン・ヘイワードだ。
たとえコンセプト・アルバムの全盛期は1970年代だったとしても、コンセプト・アルバムは、個々の曲では表わし切れないと感じる何か表現したいアーティストたちを魅了し続けてきた。元々フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの『Relax』のフォローアップとして書かれたグレース・ジョーンズの『Slave To The Rhythm』は、最終的にプロデューサー&共作者トレヴァー・ホーンが彼女に提供した。ハイ・アートなポップ・ミュージックだ。
スラッシュ・メタルのメタリカにとって『Master Of Puppets(邦題:メタル・マスター)』は、メジャー・ファースト・アルバムとなる傑出した作品だ。レディオヘッドの『OK Computer』然り。当時のレーベルはこれらのアルバムは商業的ではないと思ったが、バンドの消費者の要求に対する先見の明により高い人気を集めた。世界中の国々でチャート1位を記録した1993年リリース U2の『Zooropa』も、これと同様の道を辿った。
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの『Songs For The Deaf』は、ロサンゼルスからジョシュア・ツリー国立公園まで道中ラジオをつけながらドライヴするという、良く考えられたコンセプトによる完成度の高い作品だ。ザ・フー等の作品にインスパイアされたグリーン・デイが、ロック・オペラをプロデュースする決意をし、その結果生まれたのが、‘ジーザス・オブ・サバービア’(訳注:意味:郊外に住むジーザス)の人生を追った物語『American Idiot』だ。これぞまさにコンセプト・アルバム!
それから1980年代も暮れに差し迫った頃にレコーディングされた、クインシー・ジョーンズの『Back On The Block』然り。ジャズからラップまでの系図を辿った、この大胆なコンセプトを成功させる為に、ブラック・ミュージック界を代表する大物達がゲスト参加している。もし聴き逃してしまっていたら…さあ何とかするがいい。これは傑作だ。
それぞれのアルバムをご紹介する為に、25枚からそれぞれ1トラックずつ選んでみた。ベストなものから並べたのではなく、リリース順である。あしからず!
何を入れるべきだったか、皆さんのご意見をぜひお聞かせください…
(*本記事およびリストは本国uDiscovermusicの翻訳記事です)
1. フランク・シナトラ『Come Fly With Me』 (1958年)
2. ジョニー・キャッシュ『Ride This Train』(1960年)
3. レイ・チャールズ『Modern Sounds In Country And Western Music』(1962年)
4. ジミー・スミス『Peter And The Wolf』(1965年)
5. ムーディー・ブルース『Days Of Future Passed』(1967年)
6. ザ・フー『Tommy』 (1969年)
7. フェアポート・コンヴェンション『Babbacombe Lee』(1971年)
8. デヴィッド・ボウイ『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars(邦題:ジギー・スターダスト)』(1972年)
9, リック・ウェイクマン『Six Wives Of Henry VIII(邦題:ヘンリー八世の六人の妻)』(1973年)
10. ジェネシス『The Lamb Lies Down On Broadway(邦題:眩惑のブロードウェイ)』(1974年)
11. キャメル『The Snow Goose 』(1975年)
12. エルトン・ジョン『Captain Fantastic And The Brown Dirt Cowboy(邦題:キャプテン・ファンタスティック)』 (1975年)
13. アラン・パーソンズ・プロジェクト『Tales Of Mystery And Imagination(邦題:怪奇と幻想の物語~エドガー・アラン・ポー)』(1976年)
14. マーヴィン・ゲイ『Here, My Dear』(1978年)
15. ジェフ・ウェイン『War Of The Worlds』(1978年)
16. スティーヴィー・ワンダー『Journey Through The Secret Life Of Plants(邦題:シークレット・ライフ)』(1979年)
17. ピンク・フロイド『The Wall』(1979年)
18. ヴァンゲリス『Soil Festivities(邦題:大地の祭礼)』 (1984年)
19. グレース・ジョーンズ『Slave To The Rhythm』(1985年)
20. メタリカ『Masters Of Puppets(邦題:メタル・マスター)』(1986年)
21. クインシー・ジョーンズ『Back On The Block』(1989年)
22. U2『Zooropa』(1993年)
23. レディオヘッド『OK Computer』(1997年)
24. クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『Songs For The Deaf』(2002年)
25. グリーン・デイ『American Idiot』(2004年)
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