ニッキー・ミナージュ「Super Bass」解説:自身初となる大ヒットの裏側にはテイラー・スウィフト

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Photo: Jamie McCarthy/WireImage for MAC Cosmetics

ニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj)は、現役の女性ラッパーの中でも指折りで多作なアーティストだ。クイーンズ出身の彼女は2000年代後半に最初のミックステープを発表。それ以来、彼女は巧みな言葉遊びと、90年代のフォクシー・ブラウンやリル・キムの影響を受けた強烈なキャラクターで、カーディ・Bやドージャ・キャットのような女性ラッパーが世に出る土台を築いてきた。

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キャリアの始まり

ニッキー・ミナージュのキャリアは2010年リリースのデビュー・アルバム『Pink Friday』から本格的に始動した。同作は『Playtime Is Over』(2007年)や『Beam Me Up Scotty』(2009年)といったミックステープ時代の荒削りなリリックと、先進的でキャッチーな音作りを組み合わせたアルバムだ。

同作からはヤング・マネーの同僚であるドレイクが参加した想像を掻き立てる「Moment 4 Life」や、リアーナを迎えて誇り高く歌い上げる「Fly」、自信たっぷりに才能を見せつける「Did It On ‘Em」などがシングル・カットされた。

こうした曲からもわかるように『Pink Friday』では、肩の力が抜けたポップ・ラップのヒット曲を生み出す彼女の能力が存分に披露されている。だがその中でも、同作からの5枚目のシングルであり後に『Pink Friday』のデラックス版に収録される「Super Bass」はこのラッパーのキャリアを決定付けた。

キャリアを決定づけた「Super Bass」

大半の『Pink Friday』収録曲とは異なり、「Super Bass」は、厳密に言えば可愛らしいバブルガム・ポップに分類されるような楽曲だ。それも、共同作曲者にはグラミー賞にノミネートされリアーナの「What’s My Name?」やケイティ・ペリーの「Firework」などを手掛けたシンガー・ソングライターのエスター・ディーン、プロデューサーにはヤング・マネーの「Bed Rock」やトレイ・ソングスの「Bottoms Up」を手掛けたケイン・ビーツを迎えていることを考えれば不思議はない。

楽曲では、無垢な歌のコーラス部分と、キャッチーなラップのヴァース部分を行き来しながら、恋愛に夢中になる女心が歌われている。

Boy, you got my heartbeat running away
Beating like a drum and it’s coming your way
Can’t you hear that boom-ba-doom-boom, boom-ba-doom-boom bass?
ねえ、あなたは私をドキドキさせる
ドラムみたいに高鳴って、あなたにも届きそう
この鼓動が聞こえないの?ブンブン鳴るベースのような鼓動が

ビデオ撮影中に受けたMTVニュースの取材でミナージュはこの楽曲についてこう話している。

「“Super Bass”は、夢中になっている男の子について歌った曲。その人と関係を持ちたいと思いながらも、遊び心あるアプローチをしてるような」

ビデオもそんないたずらっぽい雰囲気に仕上がった。ミナージュとバックダンサーたちはお揃いの衣装を身にまとい (彼女を象徴するバービー・ピンクの髪の毛も含めて統一されている)、筋骨たくましい男たちと戯れている。

大ヒットの裏にはテイラー・スウィフト?

そして「Super Bass」は大ヒットとなった。全米シングルチャートでは最高位3位を記録。当時の彼女にとって最大のヒット・シングルになった。さらに女性ソロ・アーティストのラップ・ナンバーとしてはミッシー・エリオットの「Work It」(2002年作)以来の最高順位をマークしたことでも同曲の功績は大きい。

アルバム『Pink Friday』は全米アルバムチャートで1位を獲得し、ニッキー・ミナージュはこの偉業を達成した史上4人目の女性ラッパーになった。「Super Bass」が巷で話題を呼んだことがニッキーの成功を後押ししたのだが、それはもともと、同曲リリースの3か月前にテイラー・スウィフトが仕掛けたものだった。

2011年2月、ナッシュビルのラジオ局のインタビュー中にスウィフトが、当時はそれほど知られていなかった「Super Bass」の一節を歌ったのだ。プロデューサーのケイン・ビーツは2019年、ビルボード誌の取材でその日のことをこう回想している。

「ホテルでノート・パソコンを使ってテイラー・スウィフトが歌うのを見ていて『ちゃんとラップしているじゃないか』って驚きました。それがきっかけで、若い女の子がヴァースのラップを全部披露するのが大流行したんです」

そして雪だるま式に話題は大きくなった。その後、セレーナ・ゴメスが同曲のカヴァーをYouTubeにアップ。ミッキー・ミナージュ自身もテイラー・スウィフトが『Speak Now』のリリースに際して行ったワールド・ツアーのロサンゼルス公演にゲスト参加した。

何より決定打となったのは、従姉妹デュオのソフィア・グレース&ロージーによるカヴァーがインターネット上で話題となり、エレン・デジェネレスの目に止まったことだ。デジェネレスは英国の幼いスターであるふたりを、自身のお昼のトーク・ショーに招待。ニッキーも後からサプライズで同番組に出演し、ふたりと共にパフォーマンスした。

「Super Bass」は、トレイシー・エリス・ロスや『glee/グリー』に出演したジェーン・リンチ、そしてケンダル・ジェンナーに至るまで多くの人たちにカヴァーされた。2020年のハロウィンには、ミュージック・ビデオでミナージュが着用していたライディング・ウェアをリル・ナズ・Xがリメイクして披露している。

「Super Bass」以来、ミナージュはラップ界のみならずポップ界でも頂点に君臨し続けている。それ以降彼女は3作のアルバムを生み出し、デヴィッド・ゲッタの「Turn Me On」(2011年) やアリアナ・グランデの「Side To Side」(2016年)、ドージャ・キャットの「Say So」のリミックス (2020年)など、Top10に入るヒット曲にも複数ゲスト出演してその人気は全く衰えていない。

また、彼女はMACコスメティックスとのエンドースメント契約や、自身のラジオ番組『Queen Radio』といったなど他のビジネスにも積極的に進出して活躍の幅を広げる一方、2020年の後半には第1子を出産し母親になっている。

Written By Bianca Gracie


「Super Bass」収録アルバム

ニッキー・ミナージュ『Pink Friday (Deluxe Edition)』
2010年11月22日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / YouTube Music



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