ウッドストックの影に隠れた1969年のニューポート・ポップ・フェスティバル
1969年6月20日、2回目の”ニューポート・ポップ・フェスティバル (Newport 69)”が幕を開けた。金曜日の夜にヘッドライナーを務めたのはジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスで、それは彼らが最後のライヴを行うわずか9日前のことだった。
3日間に亘って開催されたこのフェスティヴァルには、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)、ジョー・コッカー、バーズ、エリック・バードン、ジェスロ・タル、チェンバーズ・ブラザーズ、ラスカルズなどが出演していた。集まった観客の数は推計で15万~20万人。他の出演者に目を向けると、アルバート・コリンズ、アルバート・キング、タージ・マハール、ジョニー・ウィンターといったブルース勢に加えて、ラヴやスピリットなどのサイケデリック・ロック・バンドもいた。さらにソウルからはマーヴィン・ゲイ、アイク&ティナ・ターナー、ブッカー・T&ジ・MG’s、ロックからはステッペンウルフやスリー・ドッグ・ナイト、ポップスからはブレントン・ウッドやフレンズ・オブ・ディスティンクション、ゴスペルからはエドウィン・ホーキンス・シンガーズなどが参加していた。
当時の豪華なポスターを見ればわかるように、このフェスティヴァルはカリフォルニア州サンフェルナンド・ヴァレー北部にあるノースリッジに位置するデヴォンシャー・ダウンズで開催された。このスケールの大きなイベントはアメリカやその他の国の新聞で大見出しで採り上げられたが、わずか数週間後に開催されたウッドストック・フェスティバルのおかげで影が薄くなってしまった。
ニューポート・ポップ・フェスティバルは成功だったように見えたが、関係者にとっては愉快な経験とはとても言えなかった。警備を担当したのは荒くれ者集団ヘルズ・エンジェルズ、食べ物も飲み物も不十分で、トイレも不足していた。また音響設備も貧弱なものだった。イベントの終了後、ノースリッジの市会議員はこの地域でのフェスティヴァルの開催を禁止するという決定を下している。
「またもや暴力がロックの面目をつぶした」と”Rolling Stone”の記事は報じている。「ニューポート・ポップ・フェスティバルの会場の外では暴動が起こり、負傷者は数百人を数えた。せっかく、世界最大級のポップ・フェスティヴァルが開かれていたというのに……」
初日のヘンドリックスの演奏については、多くの人が低調だったと感じていた。ジョニー・ブラックの著書『Eyewitness Hendrix』には、エクスペリエンスのドラマー、ミッチ・ミッチェルの以下のような回想が記載されている。「誰かがジミにドラッグをこっそり盛ったんだと思う。それとも、もしかするとジミが自分で何かのドラッグをやってたところに、さらに誰かがクスリを盛ったんじゃないかな。あのステージは酷かった。ずっとこう思ってたよ。『これはおかしい。ずいぶん金がかかってるのに……』って。僕たちのステージの中でも最悪の部類に入るだろう」。
幸い、エクスペリエンスは最終日の締め括りのステージも任されることになり、2時間に及ぶそのパフォーマンスにはエリック・バードン、バディ・マイルズといったゲストも加わっている。こちらは打って変わって、歴史に残る名演として語り継がれている。ロサンゼルス・タイムズの評論家ピート・ジョンソンは、感動のあまりこう書いていた。「観客たちは彼らの人生で最高のライヴを体験したのかもしれない」。
その1週間前、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(”Creedence Clearwater Revival”と綴るべきところを、ポスターには”Creedance Clearwater Revival”と記されていた)はハリウッド・ボウルのコンサートでヘッドライナーを務めていた。そちらで前座を務めていたグラス・ルーツとリー・マイケルズも、やはりこのニューポート・ポップ・フェスティバルに出演している。当時CCRは「Bad Moon Rising」が全米シングル・チャートで上昇中だった(最高2位を記録)。
ヘンドリックスやコッカーなどと同じように、CCRも次の行き先はマックス・ヤスガーの農場であるウッドストック・フェスティバルだった。この年の4月、彼らはウッドストック・フェスティヴァルと出演契約を結んだ最初のバンドとなっていたのである。ウッドストックが開催されてしまうと、ニューポートはもはや日陰の存在でしかなかった。
Written By Paul Sexton
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