2回契約破棄されたセックス・ピストルズの『Never Mind The Bollocks』が全英1位になるまで
セックス・ピストルズ(Sex Pistols)の煽り立てるようなデビュー・アルバム『Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols (勝手にしやがれ!!)』の2年前、1975年にリリースされた彼らのデビュー・シングル「Anarchy In The UK」(EMIから発売)は、アーティストであるジェイミー・リードの象徴的な裂けたユニオン・ジャックのポスターをプロモーションに使っていたこともあいまって、さまざまな議論を引き起こすポップと政治を混ぜ合わせた一曲となった。
悪名高い『Today』へのTV出演が行われたのはそのシングルのプロモーションを行っている間だった。多くが推測していたようにジョニー・ロットンではなく、スティーブ・ジョーンズがプレゼンターのビル・グランディと大揉めになり、新聞の第一面にパンクの記事が掲載され、メディアの反発に対して議論を呼んだ。
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暴動のようなオランダ・ツアーを終えたあと、バンドはEMIから契約を破棄され、ベーシストのグレン・マトロックはバンドを脱退してミッジ・ユーロと共にリッチ・キッズを結成。グレン・マトロックの代わりにバンドに加入したのは、ポゴダンスを発明したジョン・サイモン・リッチー、後にシド・ヴィシャスとして知られる男だった。
1977年3月、ピストルズはA&Mレコードと契約。抜け目なく考え出されたPR活動の中で、契約の “儀式” がバッキンガム宮殿の外で行われた。彼らの新しいシングル「God Save The Queen」の発売が予定されていたこともあり、多くのメディアの一面記事をさらに煽るために計算された動きだった。その数週間以内に、数万部というレコードがすでにプレスされていたにも関わらず、オフィスでの騒乱後、A&Mはグループとの契約を解除した。
およそ一週間後、シド・ヴィシャスはセックス・ピストルズと共にライヴ・デビューを果たす。それから2ヶ月後、彼らは3度目となる契約をヴァージン・レコードと結んだ。かつてはプログレッシヴ・ロックのホームと呼ばれたレーベルは、「God Save The Queen」をリリース。UKチャートで堂々の2位を獲得した。
「Anarchy In The UK」と「God Save The Queen」、そして「Pretty Vacant」と「Holidays In The Sun(さらばベルリンの陽)」といったシングル曲はすべてヒットし、それらは『Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols』と名付けられたバンドのデビュー・アルバムに収録されて、1977年10月28日にリリースされた。
しかしヴァージン・レコードが『Never Mind The Bollocks,Here’s The Sex Pistols』をリリースする前に、会社のボスであるリチャード・ブランソンは彼らの活動の中でもう2つのセックス・ピストルズのアルバムが別のレコード会社から発売されそうなことを発見した。デモやレコーディングセッションを収録した『Spunk』と題されたブートレッグ、そしてそのレコードにエクストラ・トラックを追加したフランスのバークレイ・レコードによるバージョン、それぞれが『Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols』より1週間早く店頭に並んでいる予定だった。
ヴァージン・レコードは自社のリリースを前倒しするために急ぎ、パニック状態の中でのプレスを行った結果、実際にレコードには12曲収録したにも関わらず、1万部生産したオリジナルのヴァージン・レコードはスリーブに11曲しかリストされていないという事態になった。しかし『Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols』の成功を妨げるものは何もなかった。アルバムは12万5千枚の予約が入り、11月12日付の全英アルバム・チャートでいきなり第1位を獲得するという結果となった。
『Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols』はクリフ・リチャード&ザ・シャドウズの『40 Golden Greats』からトップの座を奪ったが、その後、アメリカのソフト・ポップ・バンド、ブレッドによるコンピレーション・アルバム『The Sound Of Bread』にとって変わられた。イギリスのアルバム・チャートの歴史において、これほどまでにレコード購買者の予測不能な変動を解説し、 “ポップ・ミュージック”という言葉を見事にとらえた現象はなかった。
Written by Richard Havers
1977年10月28日発売
- セックス・ピストルズ アーティスト・ページ
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- 1976年8月のメロディ・メーカーのパンク特集「それともインチキか?」
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セックス・ピストルズ『76-77』
2021年09月24日発売
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