サム・フィリップスが開業したサン・スタジオ誕生の歴史
メンフィスのユニオン・アヴェニュー706番地は、今やアメリカでも有数の観光名所となっている。ここはロックン・ロールの誕生に当たってきわめて大きな役割を果たした場所だ。1950年1月3日、この場所でサム・フィリップスがメンフィス・レコーディング・サーヴィスを開業。そしてこの場所は、やがてサン・スタジオという名前で世界中にその名を知られることになる。
サン・スタジオは、この地域に住む音楽ファンなら誰でも足を運ぶべき名所だが、それと同時に現在も営業を続けてい現役のレコーディング・スタジオでもある。最近では、ジャスティン・タウンズ・アール、グレイス・ポッター&ザ・ノクターナルズ、エイミー・ラヴィア、ディラン・ルブラン、ジェイコブ・ディランといった有名アーティストがサン・スタジオでレコーディングを行っている。
このスタジオの草創期はとりわけ魅力的だ。というのもスタジオの営業は、アラバマ州マッスル・ショールズで活動するDJだったサム・フィリップスが1952年にサン・レコードを設立する以前から始まっていたのだ。言うまでもなく、サン・レコードは駆け出し時代の大物歌手、たとえばエルヴィス・プレスリー、ジョニー・キャッシュ、ロイ・オービソン、ジェリー・リー・ルイス、カール・パーキンス、チャーリー・リッチといったアーティストと契約を交わしていた。
しかしそのレーベルがスタートする前から、ワンルームしかないこのささやかなスタジオは独特なサウンドを作り出していた。サン・レコードの公式Webサイトにはその理由が説明されている。「サム・フィリップスは、エコーの控えめな使い方を知らなかった。[それゆえ]3人編成のバンドが徹夜のパーティのようなサウンドになった」。また、このスタジオのスローガンは「どんなものでも、いつでも、どこでもレコーディングします」というものだった。
1951年にチェス・レーベルから発売されたジャッキー・ブレンストン&ザ・デルタ・キャッツの初期ロックン・ロール作品「Rocket 88」は、サン・スタジオで録音された。このスタジオでは他にも、B.B.キング、ジュニア・パーカー、ハウリン・ウルフ、ルーファス・トーマス、リトル・ミルトン、ボビー・”ブルー”・ブランドもレコーディングを行っている。そんなサンの成功でカギになったのは、創業者サム・フィリップスの懐の深さだった。彼はさまざまなジャンルのミュージシャンを喜んで迎え入れたのである――それがブルースであろうと、カントリーであろうと、ロカビリーであろうと、そしてもちろんロックン・ロールであろうと。
やがてサン・スタジオが手狭になったため、1960年にその後継スタジオとしてフィリップス・レコーディングがマディソン・アヴェニュー639番地に開業する。そして最初のユニオン・アヴェニューのスタジオは1987年に再オープンし、段々と観光名所になっていった。2003年、サム・フィリップスが亡くなった翌日にこのスタジオは国定歴史建造物に指定された。
1969年に事業の権利がプロデューサーのシェルビー・シングルトンに売却されたあとは、このスタジオに脚光が当たることも減っていった。とはいえ1985年には、ここで歴史的名盤『Class Of ’55』が制作されている。チップス・モーマンがプロデュースを担当したそのレコーディングでは、ジョニー・キャッシュ、カール・パーキンス、ロイ・オービソン、ジェリー・リー・ルイスら錚々たるミュージシャンが顔を揃えた。
そのアルバムの収録曲「Birth of Rock ‘n’ Roll」の歌詞には、1950年代にこのスタジオにあふれていた精神が見事に描き出されていた。これはカール・パーキンスが共作した曲で、カントリー・チャートのトップ40に入るヒット・シングルになった。この曲の中では、次のような心に沁みる歌詞が歌われている。”
“Well Nashville had country music, but Memphis had the soul/Lord, the white boy had the rhythm and that started rock and roll/And I was here when it happened, don’t y’all think I ought to know?I was here when it happened, I watched Memphis give birth to rock and roll…
ナッシュヴィルにはカントリー・ミュージックがあったけれど、メンフィスには魂(ソウル)があった/白人の坊主があのリズムを聞いてロックン・ロールを始めた/そして俺はあのときここにいたんだ。俺が知らないはずないだろ/俺はここに目にしたんだ。メンフィスからロックン・ロールが誕生する瞬間を…”
Written by Paul Sexton