【レビュー】クラプトンの新しいドキュメンタリー映画『エリック・クラプトン -12小節の人生-』で描かれる成功と堕落、喪失と再生
このおどけたタイトルに騙されてはいけない。『エリック・クラプトン -12小節の人生-(Life In 12 Bars)』はエリック・クラプトンの人生についてのドキュメンタリー映画であり、有能でありながらも不安定な若手のギタリストが瞬く間に世界的なスターの座に駆け上がり、続いてヘロイン中毒と自惚れた飲んだくれへの転落と進むにつれ、驚くほど陰鬱でイライラした感情が芽生えてくる。彼が改心し、幸せな所帯持ちの男に変ぼうするストーリーの最終章は、この2時間以上の長編映画の最後に、思いも寄らない追記が付け加えられた感じに見えると言ってもいいほどだ。そして今、実際にエリック・クラプトンが30年もアルコールに手を出していないことに気付いたのは驚きでもあった。
『エリック・クラプトン -12小節の人生-』では、ヤードバーズの「I Wish You Would」やジョン・メイオールのブルースブレイカーズの画質が悪いがTV出演時の「Crocodile Walk」などエリック・クラプトンが加入していた数々のグループのレアなフィルム映像も見ることができる。最初のヒット曲「I Feel Free」を仕掛け、全員笑顔で、恍惚としたハーモニーを醸し出している非常に貴重なクリームによる初期のTV出演、そして1969年のハイドパークでのデビュー・コンサートで撮影されたクールなブラインド・フェイスによる「Presence Of The Lord」の演奏映像も登場する。
デレク・アンド・ザ・ドミノスとのリハーサル、そしてレコーディング・セッションには、デュアン・オールマンとの「Layla(邦題: いとしのレイラ)」のレコーディング風景も含まれており、アメリカで絶賛されるギター・パートはエリック・クラプトンのヴォーカルと併せてミックスの頂点まで持ち上げられている。エリック・クラプトンがザ・ビートルズと共に「While My Guitar Gently Weeps」をレコーディングしているフィルム映像から、キース・リチャーズが背後ではしゃいでふざけている間、エリック・クラプトンがチャック・ベリーと共にアカペラでヴォーカル・ハーモニーのパートをリハーサルしているところまで、年月を重ねるにつれて増えたゲスト参加や偶発的なパフォーマンスは、音楽的なストーリーに彩りを与えている。
音楽的な面が十分描かれている一方、際立って生々しく詳しく描かれているのがこのストーリーの個人的な面である。オスカー受賞監督のアメリカ人プロデューサー、リリ・フィニ・ザナックによる監督、『シュガーマン 奇跡に愛された男』を手掛けたジョン・バトセック による制作で作られた『Life In 12 Bars』では、他のよくあるドキュメンタリーで作られたものよりも、エリック・クラプトンや他の誰かについて、スーパースター主体の欠陥のある心理をさらに解明することを試みている。問題の本質はギタリストの型破りな家庭環境にあった。彼は祖父母による献身的な愛情で育てられたものの、母親の不在に対して深い恨みを心に抱いて育った。エリック・クラプトンの叔母、シルビアからのとりわけ厳しい発言や、寂しさ、怒り、拒絶という感情を和らげるための方法としてブルース・ギターの世界に奥深く逃げ込んだ若い男の像など、家族が明らかにするインタビューもある。
それ以来、エリック・クラプトンの女性との関係は恐らく、世間一般的に、愛情に飢え不安定だったかもしれない。彼の良き友人、ジョージ・ハリスンと当時婚姻関係にあり、「Layla」の歌やアルバムを作るきっかけとなったパティ・ボイドに対する彼の見境ない追い求め方は、その後に続いた他のどの、もしくは全てのソロ・アルバムよりもはるかに詳説されている。ヘロイン中毒への転落、それからアルコール依存症、イーノック・パウエルの反移民の見解を支持するなどますます喧嘩腰になるステージ上での発言は、見せかけでも誤魔化したものでもなかった。真っ赤に血まみれになった鼻で「これ全然効いてねえよ」と腹立たしげに不満を漏らしながら、エリック・クラプトンが汚いナイフの刃からヘロインを吸い込むシーンがある。これが華やかな方法で生きて行く方法だったかもしれないという考え方にとりわけ鮮明な反証だろう。
1991年、ニューヨークのマンション53階の窓から転落した彼の4歳の息子、コナーの悲劇の死はエリック・クラプトンをどん底に突き落としたものの、彼を正気に返らせたようでもあった。音楽が再び彼の痛みを和らげてくれた。しかし、矛盾したことに、自己憐憫に浸るエリック・クラプトンを最終的に止めることが出来たのは、実に傷の深い若い命の損失だった。それからというもの、彼の息子の思い出に敬意を表し、彼は人生を生きることを決心し、再度12小節の転換が転がり始めるのだ。
Written by David Sinclair
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- 『Eric Clapton: Life In 12 Bars』公式サイト(英語)
『エリック・クラプトン -12小節の人生-』
2018年11月23日公開
日本公式サイト
『Life In 12 Bars (Original Motion Picture Soundtrack)』
2018年6月8日発売、CD2枚組
価格:2,980円+税、品番:UICY-15738/9
日本盤:SHM-CD、解説・歌詞対訳付