レナード・バーンスタインによるブロードウェイ作品の崇高な世界

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Photo: Susesch Bayat/Deutsche Grammophon

偉大なるジョージ・ガーシュインに次いで、レナード・バーンスタインのように多様な音楽ジャンルにわたってその業績を誇れるアメリカの作曲家はいないだろう。

天才音楽家、レナード・バーンスタイン(1918年8月25日生、1990年10月14日没)はクラシック音楽、劇場音楽、ジャズ、そして一回きりではあったが映画音楽(エリア・カザン監督の『波止場』)などジャンルに関わらず楽々と作品を作り出していたように見える。これらすべての分野において、彼の作品は一貫して聴く者を引きつけ、唯一無二で崇高なものばかりだ。アメリカの偉大なる作曲家の一人であるバーンスタインが、いかにブロードウェイの舞台を征服しその先のレベルに達したかをこの記事でご紹介しよう。

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初期の音楽への情熱

1918年8月25日、マサチューセッツ州ローレンスに生まれたバーンスタインの音楽への興味の始まりは少年期に遡る。彼が10歳の時、伯母のクララが彼の両親に贈ったアップライト・ピアノに、彼はすぐに強い情熱を注ぐことになった。数年後、彼がハーバード大学の学生の頃、当時アメリカ有数の指揮者だったディミトリ・ミトロプーロスに会い、指揮者を目指すよう勧められた。

バーンスタインはその後フィラデルフィアのカーティス音楽院で指揮科教授だったフリッツ・ライナーに師事。1940年にはマサチューセッツ州バークシャー郡にある、ボストン交響楽団の夏期拠点として有名なタングルウッドに行き、著名な指揮者であるセルゲイ・クーセヴィツキーの指導の下、初めて公の場に出演する機会を与えられた。

ニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督だったアルトゥール・ロジンスキは、タングルウッドでのリハーサルでバーンスタインの指揮による演奏を聴き、自分の1943-44年のシーズンのアシスタントにならないかと誘った。通常音楽監督のアシスタントというと、本番演奏前のオーケストラのウォーミングアップ以上のことはほとんど任されないのだが、11月14日、予定された指揮者の体調不良で代わりの指揮者が必要となり、バーンスタインはいきなりセンター・ステージに上がることになった。天性の才能で、またとない機会をつかんだバーンスタインはオーケストラを力強いパフォーマンスに導き、ニューヨーク・タイムスの一面にレビューが掲載され思いがけないほどの話題を集めることになる。

 

“神童”と賞賛され

“神童”と賞賛されたバーンスタインは、次々に音楽の仕事の依頼を受けるようになった。最初に彼が受けたのは、もう一人の才能ある新人、ジェローム・ロビンズがアメリカン・バレエ・シアターに振付したバレエ作品『Fancy Free(ファンシー・フリー)』だった。ニューヨークに寄港して24時間の上陸許可を得た3人の水兵を描いたこの作品は、1944年4月18日にメトロポリタン歌劇場で初演され大変な成功を収めたため、この作品の制作陣はこれをより大規模な作品、つまりブロードウェイ・ミュージカル『オン・ザ・タウン』の原案に使うことを決めた。

若々しい活気と明るくエネルギッシュなアクションを、ベティ・コムデンとアドルフ・グリーンの素晴らしい歌詞とバーンスタインのエキサイティングな音楽と見事に融合させた『オン・ザ・タウン』は、1944年12月28日にロンドンのアデルフィ劇場で初演され、その後463回の長きに亘って公演された。その後この作品はジーン・ケリーとフランク・シナトラ主演による大ヒット映画『踊る大紐育』の原作ともなったのだ。

その後バーンスタインがブロードウェイに戻ってきたのは9年後の1953年、コムデンとグリーンと再び組んで制作した『ワンダフル・タウン』だった。ジョゼフ・フィールズとジェローム・チョードロフによる愉快な脚本(彼ら自身の演劇作品『マイ・シスター・アイリーン』をミュージカル化)に恵まれ、『ワンダフル・タウン』は1953年2月25日のウィンター・ガーデン劇場での初演は大きな評判となり、その後559回の公演を重ねることになった。

 

“シリアスな作品”の作曲にむけて

交響楽団の指揮者としての多数の契約に加えて、バーンスタインはステージ作品の仕事から離れた他の仕事の中でも、シリアスな作品の作曲や、著名で影響力の大きいテレビ番組『青少年コンサート』のホストなどの仕事に興味を向けた。

彼は1956年にブロードウェイに戻り、今度はヴォルテール作の18世紀フランスの風刺短編小説『キャンディード』を舞台化した作品を手がけた。リリアン・ヘルマンの脚本、ジョン・ラ・トゥーシュとドロシー・パーカーとピューリッツァー賞受賞詩人のリチャード・ウィルバーによる歌詞で、これは理想的なプロジェクトと思われたが、すぐにこの物語は舞台化には向かない(少なくとも当初考えられた形では難しい)ことが明らかになった。

Photo: Fred Fehl/Museum Of The City Of New York

『キャンディード』が1956年12月1日に初演された時、このオペレッタは高尚すぎるとみなされ、わずか73回の公演で終演となってしまった。しかしバーンスタインの音楽はその中でも素晴らしく輝いていて、何度も再演の試みがなされた。幅広い範囲にわたる素晴らしい楽曲満載の『キャンディード』には中でもタンゴ、ポーランド舞曲のマズルカ、バルカロール(舟歌)、アリアなどがオーケストラの華々しさのきらびやかな演出に一役買っていて、その全てをまとめているのが、この後間もなく世界中のコンサートホールで超定番演目となるきらめくような「Overture(序曲)」だ。

後に大幅に改訂・再編された『キャンディード』は1973年と1997年に2回のブロードウェイ・リヴァイヴァルでより大きな成功を収め、最近では有名TV俳優のケルシー・グラマー主演でロサンゼルス・オペラによりリヴァイヴァル上演されている。

 

バーンスタインの最も根強い人気を誇る作品

バーンスタインが次の試みで作り出し、彼の最も根強い人気を誇る作品『ウエスト・サイド・ストーリー』はたちまち大きなヒットとなった。ニューヨークを舞台としたシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の現代版について、バーンスタインとジェローム・ロビンズは、マンハッタンのローワー・イースト・サイドに住む若いユダヤ人の少女とイタリア人でカトリック教徒の少年の間の恋物語として、数年前から既に取組み始めていた。しかしなぜか思うように制作が進まず、一旦この企画は棚上げになっていた。

それから6年後彼らは再びこの企画の検討に戻ったが、その当時若いプエルトリコ人の移民流入が増えていたことから、プエルトリコ人の少女と典型的アメリカ人の少年の話にする方がより現実的ということで物語の変更を決めた。

劇のプロットは、シャークスとジェッツの2つのギャング団の間の、アッパー・ウェスト・サイドでの主権を巡る抗争を中心に組み立てられた。バーンスタインは当初音楽と歌詞の両方を書こうとしたが、最終的には当時新人で、この後間もなく同世代における最も祝福される作曲家・作詞家の一人として名を馳せることになる、スティーヴン・ソンドハイムに歌詞の担当を譲ることにした。

Photo: Ellen Darby/Museum Of The City If New York

1957年9月16日にウィンター・ガーデン劇場で初演を迎えるや、『ウエスト・サイド・ストーリー』は素晴らしい偉業を達成した作品として各方面からこぞって賞賛を受けた。デイリー・ニュース紙などは「この作品はジョージ・ガーシュインがその死去と共にやり残した、アメリカのミュージカルの表現手法を見事に引き継いでいる」と評したほどだ。『ウエスト・サイド・ストーリー』はその後734回に亘る公演を行ったが、1962年映画化され、ナタリー・ウッドとリタ・モレノによる2大主演女優の記憶に残る演技で、更に世界的な評価を得ることになった。

再びブロードウェイ作品を書きたいとしばしばコメントしているにもかかわらず(彼が手がけた上記以外のブロードウェイ・ショーは、ホワイト・ハウスの最初の100年間の年代記を描こうとした野心的な『ペンシルヴァニア・アヴェニュー1600番地』だけである)、バーンスタインのこれまでの最新の舞台向けの大型作品は、ワシントンDCでのジョン・F・ケネディ・センターのオープニングのために1971年に制作された、壮大な『ミサ曲』だ。ミュージカル『ウィキッド』の作曲者であるステファン・シュワルツが歌詞を担当した『ミサ曲』は“歌手と演奏家、踊り手のための舞台作品”と説明されており、そのヒントをローマ・カトリック教会の礼拝式から得ている。

この作品はそれ自体、バーンスタインの全ての側面を象徴している。華やかな爆発と深遠な感情的知覚が奇妙に融合している人生を送る男であり、(多くの)最高の瞬間には、ジョージ・ガーシュインのジャズ時代の興奮と、自らが敬愛し常に支持している作曲家、グスタフ・マーラーの陰気な深遠さの両方を呼び起こすことができる、それがバーンスタインなのだ。

Written By Didier Deutsch


映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
2022年2月11日公開

スティーブン・スピルバーグ監督が、世界的名作ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」を実写映画化。混沌とした時代の中、偏見と闘いながら、夢を追いかける、“今”を生きた若者たちのラブストーリーを描く、ミュージカル・エンターテインメント

公式サイト



 

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