ジャスティス、8年振りの新作アルバム『Hyperdrama』全曲解説&本人コメント
ギャスパール・オジェ(Gaspard Augé)とグザヴィエ・ドゥ・ロズネ(Xavier de Rosnay)から成る、フランスを代表するエレクトロニック・ミュージック・デュオのジャスティス(Justice)。
2007年にリリースされたデビュー作『♰(クロス)』がグラミー賞最優秀 Electronic/Danceアルバム部門にノミネートされたことで世界的に注目を浴び、大ヒットシングル「D.A.N.C.E.」等を含め、これまでキャリア上での楽曲の累計ストリーミング再生回数は10億を超えている。
そんな彼らが、2024年4月26日に発売される約8年振りとなる新作アルバム『Hyperdrama』についての本人たちのコメントを挟みながら楽曲を解説を掲載。
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1. Neverender (Starring Tame Impala)
スピリット的には非常にジャスティスらしい曲で、フレンチ・タッチのフィルターが掛かっており、本質的にはポップだ。テーム・インパラのケヴィン・パーカーがゲスト参加している「Neverender」は、ダンスとメランコリーに満ちた快活なポップ・テーマ・ソングといった風情で、このデュオの新作の幕開けを颯爽と飾っている。
アルバム『Hyperdrama』は喜びに溢れた一大叙事詩で、エネルギッシュなリズムや、転換するムード、ディスコ調のフレーズ、ガバ・スタイルのギミックに彩られており、ある一つのものを中心核とした音のマグマの中で全てが収束している。その中心核とは、つまり“グルーヴ”だ。
ジャスティス史上、最もコラボレート色が濃い今作の1曲目「Neverender」は、テーム・インパラならではのメランコリックでサイケデリックな世界と、ジャスティスが得意とする生々しいダンス・ワールドが、相性抜群であることの証明となっている。
「そのことは、いつもずっと僕らの頭の片隅にあったんだ。彼の曲には明らかに特別な何かがあり、それがこちらの中で膨らんでいくんだよ。彼には、メロディの分かり易さや、ノウハウ、そして天才性がある。彼ほど特異な音楽性を以ってメインストリームで活躍するというのは、とても異色なことだよね」
2. Generator
これは、『Hyperdrama』の哲学が最も要約されている曲かもしれない。言い換えると、90年代にオランダで一大ムーヴメントを巻き起こしたしたハードコアテクノの一種であるガバと、70年代のディスコ及びその繊細な快楽主義とを、反自然的に融合させたフュージョンだ。
トラック冒頭の正に最初の数秒から、仰々しいギミックや、多幸感に満ちたマイクロ・ブレイク、そしてガバの特徴である“フーバー”こと掃除機サウンド(伝説的なサンダードーム・フェスティバルに敬意を表している)が散りばめられた、必殺のガバ・ビートへと突入する「Generator」は、2分30秒過ぎにディスコとファンクのたまらなく魅力的なフュージョンへと変貌。
ストリングスと紛う方なきシック(Chic)調のベースで装飾された、ダンスフロアにおけるダンスとパフォーマンスの二つのヴィジョンを一つにまとめたメドレーのようになっている。要は、ディスコ・ガバということだ!
「ロンドンで開催された〈エド・バンガー〉の20周年記念で、僕らはガバ・トラックを沢山プレイしたんだ。最初は皆、少し耳障りに感じるんだけど、そこには何かこう、凄い多幸感と爽快なものがあるんだよ」
3. Afterimage (Starring RIMON)
全てはまず、スローダウンしたEBM(エレクトロニック・ボディ・ミュージック)のようなヘヴィかつパワフルなリズムで始まり、RIMON(ペドロ・ウィンターが発掘したオランダ人アーティストで、ジャスティスのトラックで歌う女性としては「Tthhee Ppaarrttyy」のアフィに次いで二人目)のくぐもった官能的な歌声が、絶妙に美しいバッキング・ヴォーカルに支えられながら、まるで「I Feel Love」をジャスティスが独自アレンジしたかのようなシンセティックで恍惚のあるパンチの効いたディスコ・ナンバーへと本曲を発展させる。
「着手した当初は180bpmのガバ・トラックだったんだけど、ハーモニーを加えるため、速度を最大限まで落としたんだ。それによって全体が柔らかくなり、より官能的なものとなる道が開けるようにね。ペドロがRIMONと僕らの橋渡しをしてくれたんだ。彼女の歌のレコーディングは僕らのスタジオで行ったんだけど、彼女の声をまるで古いサンプリングのように用いるというアプローチを僕らは取り、ハウス・トラックのように扱った。今回のゲスト候補となった全ての人に関して、彼らに何が出来るのか、何をもたらしてくれることが可能なのか、僕らとしてはある一定の構想を持って臨んだんだ。僕らの音楽に対して、皆それぞれ異なるヴィジョンを持っているから、それをどう取り入れるかについて一番自然な方法を見出すのが楽しかったよ」
「彼らと一緒に仕事をすることで、様々なアイデアを交換し合い、メロディや歌詞、解釈等々を微調整することができた。アルバムが完成してみると、僕らの選択が偶然の産物ではなかったことが分かったんだよ。皆、多かれ少なかれ、同じような共通した人物評に当てはまっている。つまり、自立したアーティストで、作曲から、歌、プロデュース、演奏まで、全てを自ら行うことが多い人達だ。彼らは僕らと同じ、ベッドルーム・プロデューサーなんだよ」
4. One Night/All Night (starring Tame Impala)
ダンスフロア志向のコールド・ウェイヴ・ビートと、プログレッシヴ・パッド、そして悪魔的なまでにファンキーなブレイクを伴ったジャスティスの真髄とも言える「One Night/All Night」は、ケヴィン・パーカーが参加した『Hyperdrama』の第2弾トラックで、ガバ・コンピレーションの楽曲に影響を受けている。
「基本リフの速度を落として、それから全てを並べ替え、アコースティック楽器を弾いて中盤と終盤のファンク・パートを作った」
というのが、ジャスティス側の説明だ。
「2つのパートを不意に、だが滑らかに行き来している。この曲は、今回のアルバムに収録されている曲の大半のテンプレートとなったよ」
シャワーを浴びながら歌ったり、夜通し踊り明かしたりするのにぴったりな、愛のこもった哀愁のポップ・ソング「One Night/All Night」は、蜂蜜のように甘い声で「きみの女になってもいい」とケヴィンが宣言する歌詞に至るまで、様々な境界線をシームレスに融合させている。アルバム全体に影を投げかけているプリンスの「If I Was Your Girlfriend」を、ジャスティスが洗練された手法でなぞっている曲だ。
5. Dear Alan
アラン・ブラックスに敬意を表した「Dear Alan」は、本作の中では間違いなく、ジャスティスのフレンチ・ハウスの系譜に最大のオマージュを捧げているトラックだ。複数のネタ元から様々な引用を行いつつ、その境界を曖昧にしており、矢継ぎ早に行きつ、戻りつするブレイクや、シャボン玉が弾けるようなサンプリング、そして優しいメロディを聴かせた後、聖歌のような神々しいエレクトロ・ソウル・バラードとなって最高潮に達して締め括られる。
「ヴァース〜コーラス〜ヴァース〜コーラスという、使い尽くされた曲のフォーマットからの脱却を目指していたんだ、そういうのにはもう胸が躍らなくなっていたからね。よりコラージュっぽいアプローチをしたいと考えていて、僕らにとってそれは今までにない新たなプロデュース方法だったんだ。そこでは同じシークエンスに、異なるアレンジやオーケストレーションが施されていき、それがトラック全体を通じて流れていく」
「最初はすごくエレクトロニックだったシークエンスが、まるで時空のボタンを押したかのように、やがてとてもオーガニックで生き生きとしたものに変わるんだ。今のアメリカのラップ・トラックの中で僕らが好きなものには、そういった側面がある。2分半のシングルの中に3つのトラックを共存させるというこのアイデアは、リスナーだけでなく、僕ら自身をもドキドキ、ハラハラさせてやまないんだ」
6. Incognito
アルバム『Hyperdrama』の中で、 脱構築し速度を落としたガバ・ビートを中心に構成されているもう一つの曲「Incognito」は、まず映画音楽を思わせるような壮大さで幕を開けると、ジャスティスが得意とする苛立たしさを帯びた、飽和状態で爆発寸前のリズムへと真っしぐらに突き進んでいく。
「Incognito」は、グラマラスな華やかさや、クレバーなイタロ・ディスコのサンプリング、そして甲高いマシーンの金切り声を中和する溌剌としたシンセサイザーの大編成部隊によって、『Hyperdrama』及び同作のハードコアへの突入を、アルバム『†』(クロス)を貫いていたディスコの影響に近づけており、それはジャスティスのダンスフロアにおける探究という論理的な連続性の範疇で行われている。彼らはこう説明する。
「ディスコとガバの関連性というのは、一聴しただけでは必ずしも明らかではないかもしれない。でも実はとても論理的なものなんだ。ガバやハードコアでは、例えばジェームス・ブラウンのような、ディスコやファンクの短いサンプリングをピッチシフトしたりリアレンジしたりすることがよくあるんだよ」
7. Mannequin Love (starring The Flints)
ガスパールが発掘した、MGMTとビージーズの間に位置する理想的な音楽世界を持った才能豊かなイギリス人双子の二人組、ザ・フリンツのサイケデリックなヴォーカルが牽引する「Mannequin Love」は、毒のあるリズムと、渦巻くアルペジオ、高揚感たっぷりに歌い上げるヴォーカルに彩られた、形式上の意味において本作の中で最もポップなトラックだ。
8. Moonlight Rendez-Vous
夜想曲(ノクターン)を思わせる、ジャジーで未来的な間奏曲。サックスに支えられた本曲は、『Hyperdrama』の第二部に向かう前に一息つく機会を提供してくれる。ジャスティスの二人は次のように気の利いた説明をする。
「これは映画のサウンドトラックなんだ。その映画では、家に帰った刑事が、嫌なことだらけだった一日にうんざりして窓の外を見る。そして、そこはアンドロイドと機械で一杯の世界だと悟るんだ。外は雨が降っている」
9. Explorer (starring Connan Mockasin)
本アルバムで最も壮大なトラック「Explorer」は、まず銀河への旅として始まり、次に緩やかで汗ばむようなディスコ・ファンクのグルーヴへと変化していく。
第二部には、コナン・モカシンのスポークン・ワードと黙示録的な音調が宿っており、マイケル・ジャクソンの「Thriller」におけるヴィンセント・プライスを思い出させる。その後、曲はシンフォニックなバラードへと転換、耳に心地良いコナンの歌声が再び素晴らしい効果を発揮する。
本作のゲストの中で唯一、自らのパートをリモートで録音したことは、コナン・モカシンにとって自然とは言えない任務ではあったが、このトラックとアルバムの雰囲気を感じ取ることができるようにと、コナンの許にはジャスティスの二人からピエール・ラ・ポリスとメビウスが手掛けたイラストの画像が送り届られていた。
10. Muscle Memory
ブーメランのように行き来する不安定な動きのアルペジオ・ラインをフィーチャーした、不安感を誘発するアンセム「Muscle Memory」は、機能不全に陥った心電図のサウンドにブーストされた、本作で最も実験的なトラックであることは間違いない。アルバム『Hyperdrama』を形作っている多彩な影響源が、ここに凝縮されている。
「このトラックが完成するまでには、長い時間がかかったんだ。僕らとしては、情報過多で正に内部崩壊しかねない地点までオーバードライブしかけているマシーンみたいなサウンドにしたいと思っていたからね。シンセを使うのが自然だと僕らには思えたんだけど、自分達が必死になって目指していた厳密さや精度に到達することはできなかったんだ。結局“Muscle Memory”は、90%ギターを用いることで落ち着いた。時間をかけて徐々に音を重ねられるように短い音だけを使って、鋭くブレのない動きを生み出せる最高のエンベロープ応答を実現できた楽器がギターだったんだよ」
11 Harpy Dream
アルバム・タイトル『Hyperdrama』のアナグラムである「Harpy Dream」は、最後の爆発へと繋がっていく間奏曲。
12. Saturnine (starring Miguel)
フューチャーR&Bという形で本作のポップなクライマックスを飾る「Saturnine」は、アメリカR&B界の大スターでありながらフランスではまだそこまで知られていないミゲルを招いており、非現実的で美しい彼のファルセットが見事なまでに聴き手を魅了する。
ブレイクと形態の変化に満ちた「Saturnine」は、流動的であると同時に起伏に富んでおり、また実験的であると同時にメインストリームで、そのディストピア的かつ未来的なソウルによって、ジャスティスにとって新たな地平を切り開くトラックだ。
「ミゲルは傑出したパフォーマーだよ。スタジオで僕らは彼に、『あのさ、僕らは単体のモノラル・テイクで、君の声をレコーディングするつもりなんだ、リバーブやオートチューンといった、モダンなポップ・ヴォーカルのエフェクトは一切使わずにね』と言ったんだ。彼は当初すごく乗り気だったんだけど、出来上がったトラックを聴いて、僕らにこう尋ねてきたんだ。『リバーブやオクターバーをちょっと加えて、もっとアメリカンなサウンドにしたいと思わないなんて、本当にいいの?』ってね。それで僕らはこう答えたんだ。『 いやいや、僕らを信じてくれよ。ありのままの君の声が真ん中にあると、クールでセクシーに聞こえるんだ』とね」
「その後、何人かの人から、僕らが彼の声をプロデュースしたやり方について少し面食らったと言われたよ。でも、僕らが本当に大好きな曲はどれも皆、一聴した時には、そういう心がざわつくような不安感というか、ぎこちなさすら感じるものなんだ、その構成方法やプロデュースの仕方のせいでね。そしてその後、聴くのを止められなくなるんだよ」
13. The End (starring Thundercat)
この世の終わりのようなトラックだとジャスティス自身が形容する「The End」は、コンプトンのシンガーであり、卓越したミュージシャンでもあるサンダーキャットと一緒に仕事をしたいという、二人の願望が反映された曲だ。最後を締め括るこのトラックで、サンダーキャットは普段の彼の安全地帯から押し出されている。
R&Bビートを土台に、怒りに満ちたガバのリズムを何層にも重ねた「The End」は、胸を締め付ける黙示録的なソウルの竜巻のように響く… つまり、『Hyperdrama』という、魅惑的かつ呪術的なディスコ・ガバ・オペラにとって完璧なフィナーレである。
2024年4月26日発売
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