ジョン・バティステが語る最新アルバム『We Are』と黒人音楽や家族からの影響
ディズニー&ピクサー最新作『ソウルフル・ワールド』のジャズ音楽を担当し、見事ゴールデングローブ賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネート中(2021年3月現在)のジョン・バティステ(Jon Batiste)。シンガー・ソングライターに軸足を置きつつ、バンド・リーダー、ピアニスト、俳優、モデルなど多彩に活躍し、アメリカでは抜群の知名度を誇る彼がこの度、新アルバム『We Are』をリリースした。これまでジャズという枠組みの中で語られることが多かったが、今作はヒップホップやホップス、R&B、ソウルなど様々なジャンルを縦横無尽に駆け回るジャンル・レスな作品に。
昨年、ブラック・ライヴス・マターでNBAの試合が一時中断した際のリスタート・ゲームの国家斉唱も務め、また、コーチのキャンペーン・ムーヴィーに登場するなど、カルチャー・アイコンとして現在国際的に影響力、そして注目度が急上昇しているジョン・バティステが贈るアルバムとはどんな内容なのか。本人へのインタビューで掘り下げる。
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――新作『We Are』について教えていただきたいのですが、その前に2月20日から始まったポップ・アート・フェスティヴァルはいかがですか。初日にパフォーマンスしたのはあなたですよね。
ニューヨーク州のクオモ知事が提案したニューヨーク復興イベントのひとつで、2月20日から100日間、ライヴを各所で行うことで、少しずつでもいいからニューヨークのアート復活を促進しようというイベントです。この街を拠点に活動するアーティストと州知事、彼のスタッフが結集し、ブレストを重ねながら、その企画を練っているところです。
そのなかで、僕がトップバッターとして2月20日にジャヴィッツ・コンベンション・センターでパフォーマンスをしたというわけです。僕にとっても約1年ぶりのステージでのパフォーマンスとなりました。ここは、パンデミックの初期には臨時の診療所となり、現在は、ワクチンの集団接種の拠点となっています。この日は、ここで働く医療従事者のために演奏しました。この困難な局面に立ち向かっている多くの人に力を与え、感動を届けることが出来たと思っています。これこそが僕の考えるソーシャル・ミュージックの果たすべき役割だと思っているので、僕自身とても光栄に感じました。
――さて、ここからは新作についてうかがいます。まずは、制作の出発点において、どんなヴィジョンがあったのでしょうか。前作『Hollywood Africans』とのサウンドの違いも大いに感じられました。
一番のテーマは、自分自身の全てをしっかり捉えて反映させた作品を作ること。僕の根っ子にある考え方は、音楽にジャンルは存在しないというもの。人、アーティスト、コミュニティー、そして文化が音楽を作ってきたと思っています。それがいつの間にか音楽を売りやすくするために“カテゴリー”という箱が作られて、あまりに長い時間その箱が当然の存在としてあり続けてきたので、アーティストは、その箱に入りやすい、カテゴリーに沿った音楽を作るのが習慣となってきましたが、僕は、その流れに逆行したいと思っています。
そのなかで考えたのが45分間目を閉じて、心の目で観る映画作品のようなアルバムを作りたいということ。早送りせず、ひとつのシーンも飛ばさず、最初から最後まで聴いて感じてもらう。そこには僕のこれまでの経験とか、それらを通して受けてきた影響など全てのことが詰まっている、そんな作品を作りたいと思いました。
――ジャズをベースにR&Bやヒップホップ、ソウルなどさまざまな要素が融合されているアルバムですが、ジャンルを超えた音楽を作る難しさはないのでしょうか。
僕にとってあらゆる要素を融合させる方が自然で、ジャズ・ピアニストの肩書で語られることがあるけれど、ひとつのジャンルに押し込められる方が不自然。だって、音楽を創作するひとりの人間として生きていくうえで、自分の好きなものがあって、そこからいろいろ吸収し、たくさんの出会いもあり、そういったものが自分の中で消化されて、融合し、そこから音楽が生まれることは僕にとってとても自然。
考えてもみて、ピカソだって自分のやりたいこと、好きなことを作品で表現した結果、あの独特のキュビズムが生まれたんじゃないかな。だから、ジャズ、R&B、フォーク、マーチングバンドといった好きなもの全てが自然に混ざり合い、生まれてきたのが僕の音楽のスタイルだと思っているので、難しいことなんてひとつもない(笑)
――オータム・ロウ、キッゾという新しい人と多くの曲を共作していますが、彼らとはどういう経緯で組むことになったのでしょうか。
リーキー・リードが「Sing」という曲をプロデュースしてくれたんですが、この曲のデモ音源を彼に聴かせてもらった時に未完成なんだけれど、とても歌詞とメロディーが素敵だと思い、この曲を彼と一緒に完成させたいと熱望しました。僕がデモ音源の段階で、いいなと思ったパートを書いていたのがオータム・ロウです。
この先アルバム制作を進めるなかで、ぜひ一緒に曲を書いてみたいと思っていたところに、彼女からメッセージが送られてきて、「Sing」を聴いたけれど、すごくいい感じに仕上げてくれてありがとう。あなたがやっていること、私は大好きよ、って。それがきっかけとなり、彼女と出会い、そして、彼女を介して、よく仕事をしているというプロデューサーのキッゾにも出会いました。彼らとは自然なケミストリーとして意気投合することが出来たと思っています。
――収録曲についてうかがいます。『We Are』の中盤で、古いアナログ音源のスピーチが挟み込まれますよね。ここからマーチングバンドが新たに加わるなど曲調が変わっていきますが、このスピーチは、あなたのおじいさんですよね。参加している聖歌隊が所属する教会の長老でもあるとうかがっていますが?
そう、僕の祖父です。祖父は、家族の中でとても大きな存在であると同時に、コミュニティーのなかでも非常に積極的に行動してきた人です。公民権運動の時代、名前の知られた活動家以外に、数えきれないほど多くの人達が活動に貢献していました。新作のなかで、そういった無名のヒーロー達を称賛したいと考え、彼らを代表する存在が祖父だと思っているので、彼のスピーチの古い録音を使わせてもらうことにしました。
僕は、世界中の文化、代々継承されてきた黒人音楽という大きな意味でのマクロと、家族や友人といった身近に存在する人々というミクロ、その両方の影響を合体させたような作品を作りたいという思いも持っていました。僕にとって祖父というのは、マクロとミクロの両方を象徴している存在なのです。
――そのおじいさんは、母方の血筋ですよね。父方から黒人音楽の伝統、母方からはリーダーシップを引き継いでいるように思うのですが、いかがでしょうか。
確かに父方は、音楽的な家系ではあるけれど、今僕が音楽をやっている理由は、母にあると思っています。子供の頃にあらゆることからインスピレーションを得る喜びを母が教えてくれました。何か少しでも興味を持つものがあったら、それに取り組むように励ましてくれるような人でした。そのおかげで、僕はさまざまなスポーツに取り組み、本を読み、絵を描いたり、チェスなどの知的ゲームを覚えることも出来ました。コンピューターのプログラミングも結構早い段階で始めました。そういう全てのことは、母がやるようにと促してくれたことでもあります。
――11歳で始めたピアノもお母さんの勧めでしたよね。当時はどうでしたか。11歳という年齢は決して早くありませんが、すぐにピアノを好きになりましたか。
全然(笑)。だって、11歳ってピアノを始めるには遅いし、周りの生徒は3歳とか、4歳とかで始めているから、ひとりだけデカイ僕が子供達に混ざってピアノを習うのってなんだかなぁって感じで。明らかにひとりだけ浮いていたし、楽しめてはいなかったのですが、それが14歳になると、突然これだ!! みたいにピンと来る時があって、それからは一生懸命にピアノに取り組むようになりました。
――収録曲の中で気になっている曲があります。6曲目の「Boy Hood」から始まり、「Movement 11‘」「Adulthood」という3曲の流れです。「Boy Hood」で遊びなどニューオリンズのキッズ・カルチャーに触れられた後、「Movement 11‘」では“僕はいつだってその他だった”と歌い、「Adulthood」では大人になることの葛藤を描いているように思いました。
その通りで、子供時代からの成長をテーマにした曲です。「Boy Hood」から大人になっていくなかで、得られた自由とか、解放とか、性に対する目覚めとか、そういうことを書いていますが、この3曲に限らず、アルバム後半の収録曲は、大人になってからの僕自身のことを歌っています。性的指向とか、人間関係、自分のパートナーとの関係性、自分自身に対する発見とか、そういったものについて書いた曲です。それに対して前半は、『We Are』をはじめ、社会に根差した曲になっています。
――最後に今回インタビューを数多く受けていると思いますが、それらを通して確かな手応えを感じられているのではないかと思います。いかがでしょうか?
とてもいい反応を得ています。その嬉しい気持ちを持って、日本に少しでも早く行き、多くの人達とリモートではなく、直接会ってハグしたいと今はすごく思っています。
――ありがとうございました。近いうちにお会いできることを楽しみにしています。
Interviewed & Written by 服部のり子
2021年3月19日発売
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