「当時の俺たちの世間的なイメージがヒントになった」とミックが語るストーンズの「It’s Only Rock ‘n Roll」
1970年代に録音されたザ・ローリング・ストーンズの「It’s Only Rock ‘n Roll (But I Like It)」は彼らが1960年代にリリースした一連の名曲群と並んで、このグループの代表曲のひとつとなっているが、この曲は複雑な経緯を経て生み出された。レコーディングが行われたのは1973年7月24日のことだったが、そのセッションに使用されたのは、通常のレコーディング・スタジオではなく、リッチモンドにあったロニー・ウッドの自宅、“ザ・ウィック”だった。
そのレコーディングの現場に、ビル・ワイマンは不在だった。このセッションに関し、ワイマンはのちに以下のように語っている。
「7月24日、ミックとキースはリッチモンドにあるロニー・ウッドの家、ザ・ウィックに行って、”It’s Only Rock ‘n Roll”を録音した。彼ら以外の参加メンバーは、ロニー、ケニー・ジョーンズ、イアン・マクレガンというものだった」。
ロニー、ケニー、イアンの3人は、当時、ロッド・スチュワートと共にフェイセズで活動していた。一方、別の説によれば、このときロニーの家にはデヴィッド・ボウイもいて、代わってキースは不在だったという。
その場に誰が居て、誰が居なかったのか。そうした事実関係はもはや曖昧となっていて確認しようもないが、いずれにせよ「It’s Only Rock ‘n Roll」が生まれたのはそのときだった。この1973年のうちに、アメリカのスタジオ・ミュージシャンで、当時ジョージ・ハリスンやデヴィッド・ボウイのレコーディングに参加していたウィリー・ウィークスがベースをオーヴァーダビングした。そして1974年4月、ロニーの家で録音されたベーシック・トラックにイアン・スチュワートが彼ならではのピアノを加え、「It’s Only Rock ‘n Roll (But I Like It)」は完成した。
ミックはこう語っている。「この曲ができたとき、当時の俺たちの世間的なイメージがヒントになったのは間違いない。俺はちょっとウンザリしてたんだ。『ああ、今度の新しい曲は、以前の曲に比べるとイマイチだ』みたいな評価をされることにね。あのシングルのジャケット・イラストを見ると、剣みたいなペンが俺に突き刺さってる。あれはマスコミに異議を唱えるお気楽な曲だった」。
「It’s Only Rock ‘n Roll (But I Like It)」はストーンズが1974年にリリースしたアルバムのタイトル・トラックになり、アルバム発売の3カ月前の1974年7月26日に先行シングルとして発表された。しかしレコード会社は、この曲がシングル向きかどうか確信が持てずにいた。キースによれば、シングル化に反対する意見もあったがしキースがこう言い残している「この曲は名曲だよ。曲名だけでも歴史に残るし、これがすべて一言で言い表してる」。
シングル「It’s Only Rock ‘n Roll」は英米両方でチャートのトップ20に入り、それ以来、ストーンズのライヴではほぼ欠かせない曲になっている。マイケル・リンジー・ホッグが監督したこのシングルのプロモ・ビデオには、海兵服を着用したストーンズのメンバーが登場。彼らがパフォーマンスを披露するテントは、演奏が進むうちに段々と泡で一杯になっていく。この泡は洗剤を泡立てたものだった。メンバーが海兵服を着ていたのは、みんなが自分の服をダメにしたくなかったからだった。キースによれば、「哀れなチャーリーは溺れかかってた……。みんな忘れてたんだけど、あいつは椅子に座ってたから他のメンバーよりも低い位置にいたんだよな」
Written By Richard Havers
ザ・ローリング・ストーンズ『It’s Only Rock ‘n Roll』