フランク・ザッパ:骨の髄まで他人に迎合しない唯一無二の存在
ロックの表舞台に足跡を残す一匹狼と呼べるアーティストは、そうそういるものではない。今回は、まさに唯一無二の存在と言える人物を偲ぶことにしよう。1993年12月4日、フランク・ザッパは家族に見られながら息を引き取った。まだ52歳という若さだった。彼はその2年前に前立腺癌と診断されていた。遺族からのコメントは少々ひねくれたものになっていたが、それはいかにもザッパ本人が喜びそうな内容だった。
「今週の土曜日、午後6時になる直前に作曲家フランク・ザッパは最後のツアーに出発しました」
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ザッパは骨の髄まで他人に迎合しない人間であり、他に例を見ない皮肉屋だったが、それでも自らの音楽に関しては非常に真剣な態度で臨み、そして膨大な量の録音を遺すことになった。メリーランドで生まれ、ロサンゼルスを本拠地としていたマルチ・インストゥルメンタリスト/作曲家/プロデューサー/フロントマンであるザッパは、1960年代後期に花開いた実験的なロックのカウンター・カルチャーから頭角を現した。彼のことを、その時期の活動で記憶している人も多いはずだ。とはいえ彼はジャズ、クラシック、電子音楽の世界からも影響を受けており、彼の好んでいた実験性はそうした多種多様な作品すべてにはっきりと表れている。
あまり知られていないことだが、さまざまな音楽に関心を持っていたザッパは1950年代のR&Bやブルースからもかなりの影響を受けていた。一緒にR&Bやブルースを聴いていた高校時代の友人ドン・ヴァン・ヴリートは、のちにキャプテン・ビーフハートと名乗り、ザッパと同じようにロックのアングラ・シーンの中で有名になっている。青年期にロックン・ロールに触れ、ギターを独学で学んだザッパは、やがてマザーズ・オブ・インヴェンションを結成。1966年にリリースしたデビュー・アルバム『Freak Out!』は、50年経った今も驚異的な作品に聴こえる。発表当時、このアルバムはまるで宇宙から来た音楽のように聴こえていたはずだ。
「時代を先取りしていた」というのは陳腐な決まり文句には違いないが、それでもザッパのほぼすべての作品に当てはまる言葉だ。『Freak Out!』は全米チャートでは最高130位に留まった。しかしのちにグラミーの殿堂入りを果たしている。ザッパは売れ線を狙ったことは一度もないが、それでも作品をどんどん発表していくうちに、ヒット作も出るようになった。たとえばマザーズの『Over-nite Sensation』やソロ・アルバム『Apostrophe (‘) 』は、ゴールド・アルバムに認定されている。
実に多面的な彼の創造力をうわべだけの美辞麗句でまとめるのは愚かなことだし、そもそも不可能だ。とはいえ、ザッパの作品にはさまざまな入口がある。ファンの中には、上に挙げたような初期のアルバムで最初に触れた人もいるだろう。あるいは、1970年代末の怒濤のリリース・ラッシュがきっかけだった人もいるだろう。たとえば1979年には『Sheik Yerbouti』 (2016年にユニバーサル・ミュージック・カタログから180gmLPで再発) に加え、ロック・オペラ『Joe’s Garage Act 1』と『Joe’s Garage Act 2 & 3』がリリースされている。さらに晩年には、クラシックのアルバムも発表していた。最後まで多作だったザッパは、わずか14年のあいだに34枚ものアルバムをビルボード誌のチャートに送り込んでいる。
1969年に、ザッパはインターナショナル・タイムズ誌のインタビューで以下のように語っている。
「俺が作曲をするのは、それがどんな音になるのか確かめたいからだ。譜面に書いているとき、それが実際に演奏されるとどうなるのかまるでわからないこともある。どんな音になるのか、まるで見当もつかないというわけ。実際に耳にするまで、知りたくない気分。というのも、自分がやっていることを忘れる前に、できるだけ速く譜面に書き残しておきたいからね。だから曲が完成して耳にすると、他の人たちと同じように、自分でも驚いてしまうことがあるんだ」
Written By Paul Sexton
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フランク・ザッパ新作情報
『ZAPPA (Original Motion Picture Soundtrack)』(3CD)
輸入盤/デジタル:2020年11月27日発売
日本国内盤:2022年4月20日発売
国内盤CD / LP/ iTunes Store / Apple Music / Amazon Music
<日本盤のみ>解説付/歌詞対訳付SHM-CD仕様
フランク・ザッパ『200 Motels: Original MGM Motion Picture Soundtrack』
(オリジナル・サウンドトラック50周年記念2CDエディション)
輸入盤/デジタル:2021年12月17日発売
日本国内盤:2022年4月20日発売
国内盤CD / LP/ iTunes Store / Apple Music / Amazon Music
映画情報
『ZAPPA』
2022年4月22日(金)日本劇場公開
監督:アレックス・ウィンター|出演:ブルース・ビックフォード、パメラ・デ・バレス、バンク・ガードナー、デヴィッド・ハリントン、マイク・ケネリー、スコット・チュニス、ジョー・トラヴァース、イアン・アンダーウッド、ルース・アンダーウッド、スティーヴ・ヴァイ、レイ・ホワイト、ゲイル・ザッパ
キングレコード提供|ビーズインターナショナル配給
シネマート新宿・シネマート心斎橋ほかにて
2020年|アメリカ映画|129分|原題:ZAPPA