ミュージシャン達が自分で作ったカスタムメイドの楽器ベスト10
ボ・ディドリーからビョークにいたるまで、ミュージシャンはしばしば楽器を自作してきた。こうしたカスタムメイドの楽器は奇妙なものもあるかもしれないが、アーティストの頭の中には浮かんでいても既存の楽器では表現できなかったサウンドを実現する手助けをしてきた。
本稿では、音楽史でも特にアイコニックで興味深い自作楽器のベスト10点を順不同で紹介しよう。読者の皆さんも、この他にお気に入りのカスタムメイド楽器があれば、ぜひご紹介いただきたい。
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1. ワシントン・フィリップスの「ダブル・ツィター」
ブルース/ゴスペル・シンガーのワシントン・フィリップスは、1927年から1929年にかけてコロンビア・レコードで18曲をレコーディングした。そこで彼がセッションで使ったのは、フレットレス・ツィター2本を改造して作った複雑な楽器だった。
1907年、テキサスの新聞に掲載された記事には、フィリップスの楽器は“自作”であり、「我々がかつて目にした中で最もユニークな楽器だ。縦横が60x90cm、深さが15cmの箱にオートハープのようにヴァイオリンの弦が張られている。彼は両手を使ってあらゆる旋律を奏で、彼はこれをマンザレーヌを呼んでいる」と記述されている。
2. ボ・ディドリーの「シガーボックス・ギター」
1964年、ザ・ビートルズがアメリカにやって来た時、「ジョン、アメリカでは何を見るのが1番楽しみ?」と尋ねられたジョン・レノンは、「ボ・ディドリー!」と即答した。
50年代、チェス・レコードでヒットを出していたブルース・スターのディドリーは、シガー・ボックスからギターを手作りした(貧しい小作人はこうして安い楽器を作っていたのだ)。ブルースでは古くから行われていた手法で、斯くして彼のトレードマークとなったギターは、特徴的な長方形とだった。
ディドリーの初のギターは1958年に製作され(シガー・ボックスは、アコースティックな共鳴装置として優秀だった)、一弦のディドリー・ボウとして知られていた。ディドリーは、その自作ギターの市販版の製作をグレッチ社に依頼。ディドリーが初期に使っていたギターのひとつは盗まれ、彼は後に古道具屋のショウウィンドーに飾られている自分のギターを発見した。その後、ディドリーは六弦ヴァージョンを新たに製作し、ギターをファーやレザーで覆うこともあった。
シガー・ボックス・ギターは、ディドリーのイメージに欠かせないものとなった。“ギターの祖”として知られたディドリーは、個人主義者を貫いたが、晩年にニューメキシコ州のロス・ルナスで保安官代理を務めていた時も、その姿勢を崩すことはなかった。
3. ハリー・パーチの「クラウドチェンバー・ボウル」
1974年に73歳で亡くなったカリフォルニア州生まれのコンポーザー、ハリー・パーチは、音楽界が誇る真の奇才だ。43音階を新たに作り出し、その新音階を演奏する楽器を次々に生み出した。パーチは、拾ったもので自家製楽器を作ることも多く、例えば捨てられたケチャップ瓶やワインのボトル、ホイールキャップを使ってZymo-Xylを作った。これは、パーチ版木琴である。
パーチは自作の楽器に風変わりな名前をつけた。スポイル・オブ・ウォーは、7つの砲弾体で作られた打楽器だ。“クラウドチェンバー・ボウル”には、パーチがカリフォルニア大学の研究所から回収したパイレックスのボトルを使っている。その他にも、ダイアモンド・マリンバ、 ハーモニック・キャノン、そしてクアドラングラリス・リヴィサム(カスタムメイドの複雑なマリンバ)などが生み出された。
ポール・サイモンは、2016年のアルバム『Stranger To Stranger』収録の「Insomniac’s Lullaby」で、クラウドチェンバー・ボウル、クロームロデオン、そしてズームーフォーンなど、パーチの楽器を多数使用した。
4. ブライアン・メイの「レッド・スペシャル」
2014年、『Brian May’s Red Special: The Story Of The Home-Made Guitar That Rocked Queen And The World』と題された書籍が出版された。同書では、1963年にブライアン・メイと亡父のハロルド(電子工学技士)がエレキギターを手作りした経緯が語られている。
ブライアン・メイはこう語っている。
「父と私はエレキギターを作ろうと決意して、私はゼロから楽器を設計しました。既存の楽器以上の機能を持ち、よりチューニングしやすく、ピッチやサウンドの幅もより広く、より上質なトレモロで、フィードバックが良いかたちで伝わる楽器を作ろうとしていたんです」
彼は、クイーンのアルバムとライブの全てで、このレッド・スペシャル(メイは愛情を込めて同楽器を「オールド・レディ/女房」と呼んでいる)を弾いた。2002年のエリザベス2世即位50年記念式典の際に、バッキンガム宮殿の屋上で国歌を演奏した時も、彼はこのギターを使っている。ツアーでは、ギター専属のボディガードまでついているほどだ。唯一ではないかもしれないが、ボディガード付きの自作楽器など、滅多にないだろう。
5. ディジー・ガレスピーの「キング・B・フラット・トランペット」
途中から折れ曲がってベルが宙を向いたトランペットは、ジャズの巨人、ディジー・ガレスピーの世界的トレードマークとなった。しかし、このカスタムメイドのトランペットが生まれたのは偶然によるものだった。
国立アメリカ歴史博物館にキング・B・フラット・モデルを寄贈するよう、ガレスピーを説得した音楽キュレーターのエドワード・ヘッセは1953年にこう語っている。
「誰かがトランペット・スタンドに立てかけてあったガレスピーのトランペットに倒れてしまったために、ベルが曲がってしまったんだ。ガレスピーはトランペットを拾い、吹いてみると、そのサウンドを気に入った。ナイトクラブの後方にいるお客さんの頭上によく響いたんだ。それ以来、彼はトランペットを新調する時には、ベルを45度に曲げたトランペットを特注していた」
6. レモ・サラチェーニの「ウォーキング・ピアノ」
自家製楽器でとりわけ有名なのは、イタリア人エンジニア、レモ・サラチェーニが作った“ウォーキング・ピアノ”だ。1982年、ニューヨークのおもちゃ屋FOAシュワルツに設置された。脚本家のゲイリー・ロスとアン・スピルバーグは2.1メートルの巨大なカーペットのようなピアノ(7,000ドル近い販売価格がついていた)を見て、映画『ビッグ』 の需要なシーンに使用することを思いついた。
サラチェーニがカスタマイズを施してオクターヴを増やし、16フィート(4.8メートル)に伸ばしたウォーキング・ピアノは、トム・ハンクスとロバート・ロッジアが「Heart And Soul」と「Chopsticks」を足で電子キーボードで演奏するシーンに使われ、モダン・シネマ史に残る象徴的なシーンとなった。
7. トム・ウェイツの「コナンドラム」
トム・ウェイツは、音楽的なサウンド・エフェクトをアルバムに加えることが大好で、ブリキ缶を風になびかせたり、バスドラムの上に米を乗せるなど、ありとあらゆる実験をしてきた。
1983年、彼はパーカッションが列車事故や“バディ・リッチが発作を起こしている音”に聞こえるのではないか心配してきたと語ったが、ソングライターの達人として知られるウェイツは1992年、全く新しい試みを行った。さびついた農機具からパーカッション・ラックを作るよう、友人のセルジュ・イティエンに依頼したのだ。トム・ウェイツは巨大な鉄の十字架から吊るされた農機具を叩いて“演奏”したのだった。
数々の自作楽器の中でも特に肉体的に演奏が大変なこの楽器は「コナンドラム」と呼ばれ、アルバム『Bone Machine』に登場した。トム・ウェイツはこう語っている。
「これは鉄製の十字架のような、ただの鉄製の構造だ。中国の拷問用具にも少し似てるよな。シンプルなものだけど、普通の楽器とは違った音を出せるんだ。ハンマーで叩いてみれば、監獄の扉が、背後で閉まるような音がする。気に入っているよ。演奏すると、拳が血だらけになって終わる。もう叩けない、限界だってところまで、ハンマーで叩く。こうしたものを叩くのは、すごく気持ちがいいんだ。ハンマーで思い切り叩いてみると、心が癒されるよ」
8. パット・メセニーの「ピカソ・ギター」
1984年、パット・メセニーは「できる限り多くの弦」を持つギターをリクエストした。こうして弦楽器職人のリンダ・マンザーは、ジャズの巨匠のために2年以上をかけて「ピカソ・ギター」を作りあげた。
3つのネックと42本のハイテンション弦を持つこのギターは、パブロ・ピカソのキュービズム・アートにインスパイアされており、その重量は約7キロと重かった。メセニーは「Into The Dream」で見事にピカソ・ギターを演奏しているが、この楽器で難しいのは、ギターの中央に位置するギター・ネックでバリトンを正しくチューニングすることだと語っている。
9. ドン・モーザーの「ヴードゥー・ギター」
ドン・モーザーはルイジアナ州出身のミュージシャン/アーティストで、2005年、ハリケーン・カトリーナで残された破片からヴードゥー・ギターを作った(現在、このギターはスミソニアン博物館に所蔵されている)。
スワンプ・キャッツというバンドと活動しているモーザーは、回収した楽器のパーツをはじめ、銅、真ちゅう、ブリキ、プラスチックの破片と、ラインストーンがついた生地でギターを作ると、ニューオーリンズのヴードゥー・クイーン、マリー・ラヴューの写真をつけた(「古き良きビッグ・イージー」のスピリットを讃える彫刻が入っている)。ドン・モーザーはこう語っている。
「南部に存在するスピリチュアルな世界の内側を、そのまま覗けるものにしたかった。そして、アフリカン・アメリカンの伝統的なフォーク・ミュージックを讃え続けたかった」
Voodoo Guitar “Marie” made by Don Moser with debris from Hurricane Katrina, 2005 https://t.co/4N3HfxIrux #africanamericanhistory #museumarchive pic.twitter.com/CakKZR6UPw
— SI: Museum of African American History (Bot) (@si_nmaahc) May 9, 2022
10. ビョークの「ガムレステ」
アイスランド出身のミュージシャン、ビョークは真の革新者だ。彼女はアルバム『Biophilia』をインタラクティヴなアプリでリリースした初のミュージシャンで、2011年の同アルバムでも、自作楽器を使うという彼女の傾向は続いた。
「Virus」で演奏されたガムレステは、ガムランとセレステを組み合わせた楽器だ。ブロンズのバーはおもちゃのピアノのような高音を出し、優美なサウンドを作り出す。遠隔操作もできるハイブリッドなこの楽器は、英国のパーカッショニスト、マット・ノーランとアイスランドのオルガン職人、ビョルグヴィン・トマソンによって10日間で製作された。
Written By Martin Chilton
トム・ウェイツ
アイランド・レコード5作品リマスター発売
2023年9月1日発売:Swordfishtrombones/Rain Dogs/Franks Wild Years
2023年10月6日発売:Bone Machine/The Black Rider
CD&LP
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