ロブ・ゾンビのソロ・デビュー作にして創作の頂点『Hellbilly Deluxe』
ロブ・ゾンビによるぞっとするダークなショウが存在しない世界なんて、正気の人間が住みたがる世界ではない(ダークなものがない世界なんてありないだろ)。それがないなんて、今日それを想像するのは不可能に近いが、彼が率いていたバンド、ホワイト・ゾンビの後に発売されたロブ・ゾンビのファースト・ソロ・アルバム『Hellbilly Deluxe』がリリースされる前では、ロック界の真の夢想家ロブ・ゾンビの将来像について世間の中では、もう終わりなんじゃないかという疑問がわき起こっていた。
90年代は変だった。本当に変な時代だった。ロック・ミュージックの流れを変えたカート・コバーンのリフとデイヴ・グロールのフラム奏法の出だしで始まるニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」の余波を受け、音楽の歴史において最も限界を押し広げ、創造的に満足できる期間を作り出すために、はみ出し者、変わり者、出来損ないなど全ての敗退者たちが隠れ家のドアを開け、ポップ・カルチャーの山の頂上で走り回っていた。
ホワイト・ゾンビはそういった時代のバンドのひとつだった。独特なインダストリアル・ノイズやホラー・ムービーのサンプリング、そしてサイケデリック文化とテレビドラマ『ハリウッド・ナイトメア』のような悪意ある楽しさとの間にたたきつけるようなアートワークを誇るテクニカラーは、その圧倒的なメロディでさらに高められ、その時代だけでなく、どの時代でも最も愛されるバンドのひとつへと進化を遂げた。冗談抜きに、ホワイト・ゾンビを震えながら聴いて育った世代に尋ねてみて欲しい。そして1998年8月25日にいきなり浮上したロブ・ゾンビのソロ・アルバム『Hillbilly Deluxe』のリリースのあと正式にバンドが解散していなかった一か月の期間、トレードマークのドレッドヘアと奇抜な服装をまとったマイクを持った男は、世間からみて興味深い立場に立たされていた。ホワイト・ゾンビが “Super-Charger Heaven”(*ホワイト・ゾンビの最後のシングルのタイトル:直訳:めっちゃ充電天国) へ片道の旅を続けていることを誰もが理解できたが、しかしそれはほんの一部の話だった。
ロブ・ゾンビがホワイト・ゾンビのクリエイティヴな部分の中心人物であることはわかっていた。映画『ビーバス&バットヘッド DO AMERICA』の中で、ロブ・ゾンビがアートワークを描きいたトリップ描写をみていたし、当時、彼が特別な存在だったことは知っていたが、彼のことを表面的にしか知らなかった。彼は何か楽器を弾いていたわけではない。彼のヴォーカルのスタイルと、フェスティバルの会場で繰り広げられるロブが“Yeah”と号令をかける度に酒を飲むゲームをみんな楽しんでいたが、彼のヴィジョンを一緒に体現してくれるホワイト・ゾンビを離れてソロでやっていくなんて大丈夫なんだろうか? と疑問を感じていた。しかし、今になって考えるとこんな疑問を持っていただなんて、僕らはなんてひねくれた愚か者だったんだろう。
他のバンドのどの作品よりも、ロック・クラブで聞くと気が晴れるホワイト・ゾンビの音楽には常に何かがあった。文字通り “ヘル・ライド(地獄の乗り物)” でストリートをクルーズすることを歌いながら、ロブ・ゾンビのキャリアの中で最も大きなグルーブで身を固め彼が姿を現したときには、彼の将来像に関する僕らのすべてのちっぽけな疑問は、チェーンソーの殺人鬼映画『悪魔のいけにえ』の結末に登場する特権的でプレッピーな子供のように消し去られた。
『Hellbilly Deluxe』の収録曲「Dragula」に関しては今までにも語り尽くされてきているので、一行にまとめてみよう。“もし君が90年代に大ヒットしたロック・ソングのミックステープを作っているとして「Dragula」の「Burn like an animal」というグラインドするサビに人々が動かされないとしたら、君の作ったミックステープはブーイングされて当然だ。さっさと帰りなさい”
『Hellbilly Deluxe』は力作だ。心をつかまれるものがいっぱい詰め込まれている。最初の3曲「Superbeast」「Dragula」「Living Dead Girl」では血まみれのイメージとイベント会場の気味の悪さ、骨盤を揺らして踊れるメタルが大発生する。
『チャイルド・プレイ4 / チャッキーの花嫁』を映画館で見たことがあるならば、おそらく今でもあのリフをスタートさせる電子発声の“リヴィング・デッド・ガール”の声を覚えているだろう。冗談抜きに、ホラー映画に使われたメタル・ソングの最高の使われ方の中では、これか、『ゾンビランド』の冒頭で登場するメタリカの「For Whom The Bell Tolls」のどちらかだ。異議ありだって? ならば、反論をコメントに書いてみてくれ。
よくアルバムのツアーで、6曲目以降はすべて駄作なアルバムなのに、バンドがそのアルバム全曲を演奏することがある。しかし『Hellbilly Deluxe』はそうではない。1曲目から順番に2度流しても、ゾンビの “Voodoo man, yes, I can” の誘惑が墓場から「Spookshow Baby」を蘇らせるように、我々はスリルとチルを感じる催眠的な東洋のヴァイヴをまだまだ聴きたいのだ。また「Demonoid Phenomenon」のバンプとスラッシュメタルは独特で魅力的であり、ゾンビは「How To Make A Monster」というタイトルで、未公開だったDIYのパンク・ソングすら発表した。
現時点では、曲の名前を挙げているだけだが、「Meet The Creeper」で彼の精神的な “God Of Thunder” にチャネリングしたことや、「What Lurks On Channel X?」における矛盾を抱える辛辣な精神錯乱についてはまだ誰も絶賛していない。だから、チャンスがあるうちに我々がやっているところだ。
カート・コバーン以降、マリリン・マンソン以降、映画『スクリーム』以降、ホラーは安っぽいティーン・コメディ・ドラマの『Saved By The Bell』がナイフを持ったような状態が数年続いた(ダリオ・アルジェントの映画よりも胃もたれさせるであろう)。21世紀の兆しと共に、ロブ・ゾンビは創作の頂点に到達していた。なんという怪物だろう。そしてなんという男だ。
Written by Terry Beezer
ロブ・ゾンビ『Hilbilly Deluxe』
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