ハリー・コニックJrが語る、コロナ渦にたった一人で作り上げた新作『Alone With My Faith』
ミュージシャンとしてグラミー賞を受賞、俳優としてはエミー賞を受賞し、マルチ・インストゥルメンタル奏者/シンガーソングライターとして幅広く活躍するハリー・コニックJr.(Harry Connick Jr.)。
2020年ロックダウンの間、自宅のスタジオで制作した新作『Alone With My Faith』が2021年3月に発売となりました。そんな新作について、音楽評論家であり慶應義塾大学“Jazz Moves On”も担当する中川ヨウさんによる寄稿を掲載します。
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ハリー・コニックJr.は、シンガー、ジャズ・ピアニスト、ビッグバンド・リーダー、俳優として、1977年の『Dixieland Plus』でのデビューから、第一線での活躍を続けてきた。人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」の”歌って弾ける審査員“、自身がホストを務める「Harry」という看板番組をもっていたなど、近年も活動の場を広げている。
そのハリーが、ヴァーヴ・レーベル(ユニバーサル ミュージック)に移籍したのは、前作でのこと。グラミー賞にもノミネートされたコール・ポーター集である『True Love: A Celebration of Cole Porter』を2019年に発表し、その温かく優しい歌声とピアノで、再び聴く者の心を掴んだのだった。
コロナ禍にあったハリーが、どうしていたか。「自分の内面に向き合い、ずっとやりたいと思ってきた内容のアルバムを制作していたんです」と彼自身が語った。すべての楽器を自身で演奏し、ホーム・スタジオでレコーディングした『Alone With My Faith』は、彼が初めてスピリチュアルな面を見せた作品になった。
また、マルチ楽器奏者として知られている彼だが、ホーン・セクションのトランペットにトロンボーン、イキのいいドラムスに泣きのギターまで自分でこなした上に、自分自身で録音。歌はもちろん素晴らしく、コーラスに一人デュエットと、レコーディング・アイデアも溢れたアルバムになった。
ハリー自身に新作について聞いた。
「コロナのパンデミックという試練の時を世界中の皆さんが過ごしたわけだけれど、ぼくも家族と家にこもって日々を送りながら、音楽をやりたい思いは消すことができない。いつもなら仲間を呼んでセッションするところだけれど、そうもいかないので、自分一人で多重録音でレコーディングを始めてね。そういった状況で湧き上がってきたテーマが、“フェイス”(信仰/信念)でした」
「ぼくはジャズが誕生した街、ニューオーリンズの出身ですが、父がカトリック、母がユダヤ教という家庭で育ち、日曜日になると父親についてカトリック教会に通っていました。またニューオーリンズは文化的にも音楽的にもごった煮のような街だから、アフリカン・アメリカンの人々が信仰するバプティスト教会なども多い。音楽的にも美しい旋律をもつカトリックの音楽と、強い共感とグルーヴをもつゴスペルに囲まれて育ったわけですね。また、その街でジャズを学び、ニューオーリンズ・ファンクに強く惹かれて育ったんです。そういったぼくの中にある音楽的影響を曲に反映しました。神を信じ、人と繋がりたいという気持ちを、今触れたさまざまな音楽スタイルにのせて表現したのがこのアルバムです」
ハリーは、ZOOM越しにあってもチャーミングだった。誠実な人柄が話し方にも出ていて、ついこちらまで笑顔になる。ハリーが続けた。
「音楽は泉のように湧いてきて、苦労は何もありませんでした。でも、録音はいつも仲間に全幅の信頼を置いていたので、まったくやったことがない。いつもレコーディング・エンジニアを担当してくれているトレイシーに電話で『接続が悪いんだけれど』と相談すると『電源は入っている?』と聞かれ、それが図星だったりね」
信仰については、次のように語った。
「音楽は、神からのギフトだと思ってきました。もし特定の宗教を持っていなくても。人は皆、“信心”という気持ちをもっているのではないですか。信仰は、ハイヤーパワーとのコミュニケイトだと思うのです。これが人と強くし、人間関係を温かなものにすると、ぼくは信じています」
ハリーと十回以上のインタヴューをしてきたが、信仰について話すのは初めてのことだった。でも、思い返せば、若い頃からジル夫人一筋で、モテただろうに真面目だった。また、聞けば今も行ける時は日曜日に教会に行き、3人の娘さんもついて来ることが多いと言う。
「Alone With My Faith」という美しい曲では、MVで娘さんの一人、ジョージアが撮影にあたった。彼女にとっても初めてのドローン撮影だったが、「覚えが早く、操作をすぐ飲み込んで、こんな壮大な映像が出来ました」とハリーは父親の顔で自慢気に語った。
同じく撮影された「Amazing Grace」の動画では、50年間使われていなかった古いオペラハウスで撮影。その劇場にあった古いピアノを弾き、雰囲気がある映像に仕上がった。サウンド的にはオルガンの音色がするが、ハリーがこだわってハモンドB3を使用。「シンセサイザーで音色を作ってもそれほど大きな違いはないのですが、この温かみのある余韻が欲しくてハモンドにこだわりました」とのこと。彼が言う通り、熱き思いを伝える効果が上がっている。
そのオルガンでスタートする4曲目「Benevolent Man」では、デュエットするハリーがいるが、相手は誰と筆者は聞いた。すると、その女声に聴こえる声も、ハリーが歌っていると言う。
8曲目「God And My Gospel」では、“ハーペジー(Harpejji)”という新しい楽器を使ってニューオーリンズ・ロックを。9曲目「Old Time Religion」では、ホーン・セクションを全部自分で担当し、古の“セコンド・ライン”を一人で再現した。バラードの10曲目「All The Miracles」の優しさ。セクシーなAOR調の12曲目「Thank You For Waiting (For Me)」、ゴスペル色満載の13曲目「Panis Angelicas」はカトリック教会で歌われる古くからある曲だそうで、この宗派を超えた融合もハリーならではだろう。
「いつでも、また日本に行きたいと思っていますよ。結婚する前に、日本のディズニーランドでジルとデートしたんだ。娘たちも連れて行かないとね。皆さんに会える日を楽しみにしています」
Written by 中川ヨウ(音楽評論家、慶應義塾大学”Jazz Moves On”担当)
ハリー・コニックJr『Alone With My Faith』
2021年3月23日発売
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