『ライオン・キング』挿入歌「ハクナ・マタタ」ができるまで:エルトンによる陽気なヒット曲
大ヒットを記録したディズニーのアニメーション映画『ライオン・キング』(1994年) の劇中歌は、実に多種多様だった。例えば「Circle Of Life」は、ライオンの子であるシンバが、父の後継ぎとして”プライド・ランド”の王になるまでの物語の導入として機能する哲学的な一曲だ。
また、「I Just Can’t Wait To Be King (王様になるのが待ちきれない)」は優雅な暮らしをゆったりとした曲調で表現した曲で、「Can You Feel The Love Tonight (愛を感じて)」はロマンスの始まりを告げるナンバー。「Be Prepared (準備をしておけ)」は、悪事が行われることを予感させる妖しげな曲である。
だが、ディズニーの名作映画には物語の緊張を和らげる箸休めの楽曲が付き物だ。その点において「Hakuna Matata (ハクナ・マタタ)」に勝る例はほとんど見当たらない。
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エルトン・ジョンとティム・ライスのタッグ
『ライオン・キング』の劇中歌を共作したのは、ロック界の大物であるエルトン・ジョンと有名作詞家のティム・ライス (『エビータ』『ジーザス・クライスト・スーパースター』『ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』など) だ。
そのうちティム・ライスは、同作以前にもディズニー作品に携わったことがあった。彼は1992年のヒット作『アラジン』の制作中にこの世を去った作詞家のハワード・アシュマンから仕事を引き継いで、アラン・メンケンの作る楽曲に歌詞をつけた実績があったのだ。
だが『ライオン・キング』では別の仕事でメンケンの参加が叶わなかったため、ライスは作曲者としてジョンに目を向けた。当のジョンは2019年に出版された自伝『Me エルトン・ジョン自伝』の中で、ライスに声をかけられた際のことについてこう記している。
「ティム・ライスから突然の電話がかかってきて、また一緒に仕事をしてみないかと言われたとき、僕らが最後に曲を共作してからは10年の月日が経っていた。話によると、どうやらディズニーが既存の作品ではないオリジナル・ストーリーのアニメ映画を初めて作ろうとしていて、ティムがその作品に僕を誘いたいということだった。そして、僕はその話に興味をそそられたのだった。……劇中歌は、ストーリーを伝えるものでなくてはいけない。僕たちは、それまでのディズニー映画のようにブロードウェイ・スタイルの音楽を作るのではなく、子どもたちに気に入られるようなポップな曲を作ろうと考えた」
ミーアキャットとイボイノシシによる陽気な曲
ミーアキャットのティモン (声:ネイサン・レイン) とイボイノシシのプンバァ (声:アーニー・サベラ) が歌う陽気な一曲「Hakuna Matata」は、そんな二人が金脈を掘り当てたような一曲だった。この曲が使用されているのは、子どもと大人の狭間にいるシンバに、ティモンとプンバァが助言を授けるという劇中の重要シーンだ。ライスは2014年、Vultureの取材にそう語っている。
「あの曲は彼らのことを紹介しつつ、彼らの生き方や、多感な少年期を迎えたシンバに彼らが伝えたいことを表現した曲でなきゃいけなかった。彼らは”人生の別の側面”を象徴する存在なんだ。”ライオン”と”プライド”がすべてじゃないってことをね」
エルトンが作品への参加に承諾すると、二人は『ライオン・キング』 (もともとは『King Of The Jungle』と題されていた) の楽曲を離れた場所で共作し始めた。大西洋を隔てたお互いの拠点から、歌詞をファックスしたりデモ・テープを郵送したりしていたのだ。だがその中でも、「Hakuna Matata」を仕上げるのには時間がかかったという。
監督を務めたロブ・ミンコフは2014年にProjector And Orchestraのインタビューで、同曲の最初のヴァージョンが「He’s Got It All Worked Out」(彼は全部知っている、の意) というタイトルだったことを明かしている。
「似たようなアイデアだったけど、こちらはティモンが”プンバァは気楽に生きるコツを知り尽くしている”と歌う曲だった」
また、初期には「Warthog Rhapsody」(イボイノシシ狂詩曲、の意) という別ヴァージョンも存在していた。のちの「Hakuna Matata」へと繋がる歌詞やメロディーをもつ同曲は、『ライオン・キング』のサントラ盤の”続編”として1995年にリリースされた『Rhythm Of The Pride Lands』で日の目を見ている。
楽曲タイトルができた時
曲作りの転換点となったのは、ライスがディズニーの過去の作品からヒントを得ようとしたことだった。監督のミンコフはこう振り返る。
「最終的に僕らは新しい曲の内容をみんなで考えるために、ティムと大人数のミーティングをした。そこでティムは”僕らに必要なのは<ビビディ・バビディ・ブー> (いまなお愛される『シンデレラ』の劇中歌) みたいな曲だ”と言ったんだ。すると、調査のためにアフリカへ出張したことのあった(もう一人の監督)ロジャーが”Hakuna Matataという素晴らしい表現がある”と提案した。それでティムも”良いアイデアだね。響きも良いし、語呂も良いじゃないか”と言った。それから彼は新しい歌詞を書いてエルトンに送り、エルトンが新しいデモを作ったというわけだ」
二人は、探していたものがようやく見つかったと確信していた。”Hakuna Matata”はスワヒリ語 (ケニアやタンザニア全土の共通語) で”心配はいらない”という意味を持ち、ティモンとプンバァの座右の銘としては理想的なフレーズだった。そうして、ウィットに富んだライスの歌詞にエルトンが陽気でキャッチーなメロディーをつけ、最後に作曲家のマーク・マンシーナが仕上げを施したのだった。
「Hakuna Matata」は『ライオン・キング』のハイライトの一つとなり、楽曲単体としても人びとに愛されるようになった。そんな同曲は1995年のアカデミー賞で歌曲賞にノミネートされたが、結果的に受賞したのは「Can You Feel The Love Tonight」だった。いずれにしてもジョンとライスにとっては悪くない結果だったといえるだろう。エルトン・ジョンは自伝『Me』の中でこの曲について、彼らしい捻くれたユーモアを交えてこう綴っている。
「うぬぼれだと批判されるかもしれないが、”よくオナラをするイボイノシシに関する名曲ランキング”があるとすれば、僕の曲は間違いなくトップを狙えるはずだ」
他方、シンガーである彼がこの映画を誇りに感じていたことは明らかだ。のちにエルトンは、ローリング・ストーン誌にこう語っている。
「『ライオン・キング』は僕の人生を変えた作品だ。あの作品のおかげで舞台向けのミュージカルを作る機会にも恵まれたし、活動の幅を広げることができた。あのころまで、僕はただレコードやビデオを作り、ツアーを回っていただけだったんだ。もちろん、あの映画がこれほどヒットするとは誰も予想していなかったけどね。あの作品に携われたことを心から誇りに思うし、ティム・ライスには感謝しているよ」
Written By Jamie Atkins
1994年5月31日発売
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