カニエ・ウェスト『Graduation』解説:ロックとポップのダイナミックな要素を織り込んだ野心作
日本人アーティストの村上隆が手掛けた熊が空に向かって打ち上げられる『Graduation』のアートワークは、カニエ・ウェスト(Kanye West)の3枚目のアルバムに込められた宇宙規模の野心溢れる創造性にぴったりだ。
2005年に発売されたセカンド・アルバム『Late Registration』が成功を収めた後、カニエはファンベースを広める為にU2のツアーにオープニングアクトとして参加。満席のアリーナでパフォーマンスを行うアイルランドのメガスターからインスピレーションを受けたカニエは、ロックとポップのダイナミックな要素をラップに織り込んだアルバムを制作し、より多くの観客に響くようにシンプルに仕上げたリリックを用いることにした。
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最初の2枚のアルバムで使われたソウル・ミュージックのサンプルと豪華なオーケストレーションは、『Graduation』では使用されなかった。代わりにカニエはこのアルバムでザ・キラーズ、レディオヘッド、そしてキーンといったロック・バンドからの影響を反映すると同時に多岐に渡るジャンルからサンプリングも行ってアルバムのサウンドの幅を更に広げたのだ。
アルバムからのファースト・シングル「Stronger」では、ダフト・パンクの「Harder, Better, Faster, Stronger」のサンプリングとメタル的なビートを融合させ革新的なヒップホップを作り出し、その後に続くアルバムのサウンドをほのめかしていた。「Stronger」は大ヒットとなり、特にUKでは人気が高く、カニエにとって初の全英1位を獲得したシングルとなった。
しかし、その新しい美学で作られたアルバム収録曲の中で最も魅力的なのはもう一つのシングル「Flashing Lights」だろう。テンポを落としたシカゴハウス・ビート、エネルギッシュなEDMのシンセ、そしてまばゆい効果を与える素晴らしいサビで、今でもカニエの最も愛される曲の一つであり続け、評論家にも称賛された。
更にヒップホップとメインストリーム・ロックとの間の隙間を埋めるため、コールドプレイのクリス・マーティンを迎えた「Homecoming」ではアリーナ級シンセを表現し、カニエのメンターであるジェイ・Zへのトリビュート「Big Brother」ではヘビーなギター・リフを土台としている。その他にも「Champion」ではスティーリー・ダンの「Kid Charlemagne」をサンプリング使用してジャズロック調のトラックが仕上がっており、「Drunk And Hot Girls」はクラウトロックの伝説的存在カンの独特なカバーとしてカニエがモス・デフと歌っている。
2007年9月11日にリリースされた『Graduation』はその年の最も印象に残るアルバムの一つとなった。発売日は50セントの3作目『Curtis』と偶然同じ日となったが、50セントによる伝統的なギャングスタ・ラップのアルバムと、カニエの斬新なハイブリッドな作風は同じヒップホップでもあからさまな対比となってことで話題となり、50セントが簡単にカニエを超える売上にすると断言したことで、両者の間で争いが繰り広げられた。
結果として69万1千枚売れた『Curtis』に対して『Graduation』は100万枚の売上を果たし、カニエが圧倒的な勝利を収めた。それよりも大切なことは、90年代に大半を占めていたギャングスタ・ラップからヒップホップが離れ、ロックやシカゴハウスまですべてを飲み込み、様々なジャンルの要素が融合した時代の到来を告げられたことだろう。
ヒップホップは勢い良く前進した。そしてカニエ・ウェストはそれから数年間続く変化の原動力を得たのだ。
Written By Paul Bowler
カニエ・ウェスト『Graduation』
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