エアロスミス『Get A Grip』解説:商業的大成功を掴んだ理由と収録された楽曲とは?

Published on

人は皆カムバックが大好きだ。エアロスミスはドラッグにまみれた70年代を生き延びただけではなく、キャリア開始から20年が経ち、グランジが90年代ロックを支配する中、11枚目となる『Get A Grip』で最大の商業的成功を収めた。

牛の乳房にピアスを通したあざ笑うようなジャケット(プログレッシブ・ロック・アーティストのヒュー・サイムによるデザイン)の『Get A Grip』は、1993年の殆どとその後もラジオとMTVを支配し、昔ながらのアリーナ級ロックを代表する作品となった。

80年代後半から90年代にかけてエアロスミスは、アリーナ級ロック・バンドなら誰もが望むけど滅多に成し遂げることのできないキャリア半ばでの大きな復活を経験した。もちろん伝説的なバンドはオリジナル・メンバーを集めてコンサートを開催すればアリーナを観客で満たすことはできるが、それは殆どの場合古いヒット曲に頼ってのことで、全盛期と同じように新曲をステージで披露することは非常に難しい。幸運にもエアロスミスはそれを成し遂げたのだ。

<関連記事>
エアロスミス、デビュー前の貴重音源が一般発売決定
「入手困難盤復活!!HR/HM 1000キャンペーン」の5枚 by 増田勇一
ハード・ロック/へヴィ・メタルにつきもの “パワー・バラード”特集

メンバーは70年代半ばに2枚のアルバム『Toys In The Attic(邦題:闇夜のヘヴィ・ロック)』(1975年)と『Rocks』(1976年)で最初のクリエイティヴな最高潮期に達した。しかし70年代終わりにリード・ギタリストのジョー・ペリーがバンドを脱退し、続いてリズム・ギタリストのブラッド・ウィットフォードも脱退。スティーヴン・タイラーと残りのメンバーはそのまま活動を継続したが、以前のエアロスミスが持っていたケミストリーとエネルギーは消えてしまった。しかし、すぐにまた彼等は復活する。

1984年に『Done With Mirrors』をレコーディングするためにジョー・ペリーとブラッド・ウィットフォードの二人は戻ってくるが、実際にバンドとしてカムバックが開花し始めたのは1987年のアルバム『Permanent Vacation』だ。この成功にはリック・ルービンがプロデュースしたヒップホップ・グループRun-DMCが1986年に発売した「Walk This Way」のクロスオーヴァー・リメイクが大ヒットした影響が大きい。『Permanent Vacation』は、『Pump』と『Get A Grip』へと続く再生期の先駆けとなった。

1993年4月20日に発売した『Get A Grip』は、エアロスミスの最も商業的成功を収めた作品のひとつで、アメリカだけで700万枚の売り上げを獲得し、それはその時から18年前に800万枚を売り上げた『Toys In The Attic』に次ぐ自身の偉業となった。そしてこのアルバムは全米アルバム・チャートのトップを飾り、エアロスミスを再びアメリカのトップ・ハードロック・バンドとして確立させただけではなく、アメリカ以外でも改めて注目されるようになった。しかし、アルバムの商業的成功は決してまぐれではない。

音楽的にはアルバムは昔ながらのエアロスミスらしい作品となっており、ジョーイ・クレイマーの激しく打たれるバックビート・ドラム、幅広い要素を含むトム・ハミルトンのベース・ライン、ジョー・ペリーとブラッド・ウィットフォードの絡み合うギター、そして忘れてはならないスティーヴン・タイラーの叫びや甲高いヴォーカルが含まれている。

アルバムのテーマは『Get A Grip』の前作『Pump』に収録され少女の虐待を歌った「Janie’s Got A Gun」のように社会的であり、特に政治的な傾向を持つジェネレーションXたちを狙ってのことだと言えるだろう。

スティーヴン・タイラーがイントロで披露した(ある種の)ラップ、そして「Walk This Way」のティーザーに続き、『Get A Grip』は勢いよく「Eat The Rich」へと続く。”金持ちになっても初心を忘るな”というタイトルから内容は明らかであるが、1993年よりも今の時代の方が意味を持つ内容かもしれない。

アルバムのタイトル・トラックは麻薬について歌い、ファースト・シングル「Livin’ On The Edge」は人種差別、宗教、そして政治についてより純粋な理屈抜きの観点から取り上げた。

しかし『Get A Grip』の大成功は3つの力強いバラード「Crazy」「Amazing」「Cryin’」によって支えられて、特に「Cryin’」のイントロはポップの歴史で最も有名なイントロのひとつとなっている。

MTV時代よりも前に成熟していたエアロスミスだったが、魅力的な若きスターのアリシア・シルヴァーストーンを主演させた記憶に残るPVを作ったことにより、90年代の時代精神に上手く乗ることに成功した。PVは、大ヒットとなった3曲を象徴するショートフィルムとなった。

「Cryin’」と「Crazy」はアルバムの終わりの方に収録されているが、スティーヴン・タイラーの伝説的かつドラマチックなヴォーカルと、ジョー・ペリーのブルース感たっぷりのギターは、若いリスナーをも魅了した。10年近くもの間ファンたちを夢中にし続けてきたその感情を揺り動かすカントリー・ポップ・バラードを聴くと、たとえ彼らがハードロック魂を持っていたとしても、心を込めて歌って演奏している様子が伝わってくる。それは、『Get A Grip』が今でも車で旅に出るときに聴きたいアルバムであり続ける理由なのかもしれない。

エアロスミスが大物たちを招いて曲作りに貢献してもらったことについて触れることも大切だが(スティクスのトミー・ショウによる「Shut Up And Dance」、イーグルスのドン・ヘンリーによる「Amazing」、そしてレニー・クラヴィッツによる「Line Up」がある)、一番良いロック・トラックはスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーが共作した「Fever」だと言えるだろう。「Fever」はエアロスミスの作る良い曲のすべての要素が詰まっている。駆動するリズム、ラジオ・フレンドリーなハーモニー、耳に残るサビ、そしてほんの少しのいかがわしさ。

『Get A Grip』は、ボストンで活躍していた頃のブルース調の初期のサウンドからの脱却かもしれないが、そもそもなぜ人がロック・スターになることを熱望するのかを思い出させてくれる作品である。

Written By Nate Todd


エアロスミス『Get A Grip 』
1993年4月20日
LP / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music

 

エアロスミス『1971: The Road Starts Hear』
アナログ盤/カセット 2021年11月26日発売
CD/配信 2022年4月8日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Amazon Music



 

Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了