ザ・フー『The Who Sell Out』解説:大きな一歩を踏み出したコンセプト作とバンド唯一の全米TOP10曲
1968年初頭、ザ・フーはブリティッシュ・ポップ・カルチャーの代表格のひとつとして3年を経ていたわけだが、ライヴ・バンドとしての評判とピート・タウンゼントのソングライターとしての成長によって、彼らはヒット・チャートの人気者の枠を超え、後に続く作品群で見られる壮大なコンセプトを意識するようになっていた。1968年1月13日、その意味で大きな一歩を踏み出した彼らのサード・アルバム『The Who Sell Out』が、イギリスでチャートインを果たした。
このアルバムは、コマーシャリズムに対するピート・タウンゼントの意見表明、そして彼とバンドを商品として徹底的に遊んでみせる場として作られたものだった。なるほど彼らは楽しんでいたようだ。そのあたりは消臭剤を手にしたピート・タウンゼントと、イギリスで朝食でよく食べられる缶詰、ベークドビーンズで満たした浴槽に浸かるロジャー・ダルトリーのポートレートを配した大胆なアルバム・ジャケットでも明らかだ。アルバムには架空のコマーシャル、3曲のジョン・エントウィッスルの作品(いずれも彼自身のリード・ヴォーカル)、そしてオープニングの、サンダークラップ・ニューマンのジョン・”スピーディー”・キーン作になる「Armenia City In The Sky」などが収められている。ちなみにジョン・キーンの作品中最も有名な楽曲はイギリスで1位を記録した「Something In The Air(邦題:革命ロック)」はピート・タウンゼントがプロデュースした作品だ。
アルバムにはメジャー・ヒットを記録したシングルも収められている。アルバムに先行して1967年秋にリリースされイギリスで10位を記録した、サイケデリックな「I Can See For Miles(邦題:恋のマジック・アイ)」だ。しかし、この曲がもっとヒットするだろうと期待していたピート・タウンゼントは、1位にならなかったことに大きなショックを受けた。「俺に言わせれば、これこそザ・フーって感じの曲だ。そしてそれが売れなかった。イギリスにいるレコードを買う連中はクソだね」。しかしそうは言っても、この「I Can See For Miles」は全米シングル・チャートの9位にランクインしており、ザ・フーがアメリカでトップ10に食い込んだ唯一の曲でもあるのだ。
『The Who Sell Out』のイギリスでの最高位は13位で、トップ5を記録した彼らの前2作のアルバムと比較するとはるかに低く、アメリカでは48位止まりだった。しかしまもなく彼らが提示するビッグなアイデアの先駆けとして、リリースしたに値する見逃せない重要作品である。
Written by Paul Sexton
112曲入りスーパー・デラックス盤 2021年4月発売
ザ・フー『The Who Sell Out (Super Deluxe Edition)』
2021年4月23日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music
<国内盤情報>
輸入国内盤仕様/完全生産限定盤/日本盤のみSHM-CD
◆5CD+7インチ・アナログ盤2枚、未発表音源含む全112曲収録
◆80Pハードカバー・ブック(ピート・タウンゼントによるライナーノーツ、当時の関係者やメディアによるコメント、レア写真を掲載)
◆ポスター9枚、パンフやステッカーのレプリカ他を収納
◆各ディスク詳細:
CD 1:オリジナル・モノ・アルバム
・モノAB面及び未発表モノ・ミックス
CD 2:オリジナル・スタジオ・アルバム
・オリジナル・ステレオ・ミックス+ステレオ・ボーナス・トラック
CD 3:スタジオ・セッションズ1967/68(未発表音源)
・スタジオ・アウトテイク
・アルバム・セッションの初期テイク
・スタジオでの雑談 他
CD 4:ロード・トゥ『Tommy』
・1968年録音スタジオ・トラックのステレオ・ミックス(未発表音源含む)
・1968年のシングルAB面のモノ・ミックス(ザ・フー所蔵のオリジナル4トラック及び8トラックのセッション・テープからリミックス)
CD 5:ピート・タウンゼント・デモ
・ピート・タウンゼントのオリジナル・デモ(未発表音源、スーパー・デラックス・エディションにのみ収録)
7インチ1:Track UKシングルの複製
7インチ2:Decca USAシングルの複製
ザ・フー『The Who Sell Out (Deluxe Edition)』(2CD)
2021年4月23日発売
CD
【日本盤のみSHM-CD】
全52曲、未発表音源4曲収録
CD1:モノ・アルバム+ボーナス・トラック
CD2:ステレオ・アルバム+ボーナス・トラック
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