アーティストが要求する“ライダー(Rider)”とは? 面白いものやジョークまで

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コンサート・ツアーは大規模なビジネスだ。どんなバンドであれ、ふらっとステージに上がり、プラグを差し込んで、さあ演奏という風にはいかない。リハーサル・スタジオからアリーナ・ステージに向かうまでには、さまざまな面で何ヶ月もの準備が必要だ。

すべてのショーが滞りなく進むように、バンド側は“ライダー (Rider)”とよばれるものを用意する。それは会場への移動の際の要件や諸般のリクエストを列記したリストである。ではバンドがバックステージで控えている間についてはどうだろう? エキサイティングなショーのために自分たちを盛り上げたり、2時間以上の全力勝負の後で落ち着きを取り戻したりするための時間には何が必要だろうか?

ライダーが面白くなるのはここからだ。彼らが口にする食事から部屋の飾り付けに至るまでの細部に至るリクエスト、あるいは欠くべからざる絶対的な要求をアーティストたちは提示してくる。それは時にはバスルームについてのリクエストもあるが、その際によく見受けられるのは会場を使用するスターのための新しい便座の設置である。映画「ウェインズ・ワールド2」には、架空のロード・マネージャー、デル・プレストンが、オジー・オズボーンがブランデー・グラスを一杯にするだけの茶色のM&M’sチョコレートを1,000個受け取るまではステージに上るのを拒否したという逸話を披露するくだりがあるが、これはこのライダーを茶化したエピソードだった。

もっともこの滑稽な話は単なるでっち上げではなく、歴史に残る悪名高き実例を下敷きにしたものだったらしい。そしてその実話は、その後のライダーのスタンダードを決定付けることになった。1982年から1983年にかけてヴァン・ヘイレンが”Hide Your Sheep Tour”を行った際のことだ。ヴァン・ヘイレンはM&M’sチョコレートを用意するよう申し入れ、その際、茶色いコーティングのチョコレートは一切混ぜないよう、厳命したのだった。当時のグループのフロントマン、デイヴィッド・リー・ロスが、後年語ったところによれば、これは会場のスタッフの注意力を喚起したいがための申し出だったらしい。

以来、ステージに上がるミュージシャンたちはスターならではの力を盾に関係者に多種多様な要求を提示してきた。その大半はバックステージで快適に過ごしたいという欲求に基づいたものだったが、そんな他愛のない願いを叶えるにも、それぞれのやり方があるというわけだ。たとえばケイティ・ペリーは、バックステージに飾る花や照明の好みが非常に細かいという話だし、レディー・ガガは、クイーンデヴィッド・ボウイビリー・ホリデイといった彼女の敬愛するアーティスト/グループのポスターを所望するという(さらにいえば、彼女はフサフサのピンクの毛がついたマネキンも求めたという)。そしてそのガガのもうひとりのアイドルであるマドンナは、コンサート・ツアー中も、できるだけ自宅と同じ気分で過ごせるように、バックステージに世界中から見繕った家具を持ち込ませていると言われる。

この自宅気分という点に関して言えば、しかしマライア・キャリーのリクエストほど風変りなものは見当たりそうにない。ロンドンのクリスマスを訪れていた際、彼女は部屋を20匹の白い子猫と100羽の白い鳩で一杯にしてほしいと要求していたのだ。条件を満たすことに必死だったスタッフは、100羽の鳩さえも完璧に調達できたというが、やはり健康と安全の面から、その後マライアはさすがにライダーを再考することを余儀なくされている。

ライダーはロックン・ロールの“過剰さ”が端的に表れたものと言っていいかもしれない。だとすれば、ロック界きってのワルがそこでハメを外さないでいられるだろうか?比較的ましな例として、モトリー・クルーは一度3.6メートルの蛇とサブマシンガンをバックステージの備品に含めるように要求したらしい。だとすればオジー・オズボーンはどうだろう? 近頃は悪魔よりも耳鼻咽喉科の医師と仲がいいとされるものの、かつては自らを“マッドマン”と称していたその人である。推して知るべしだ。

2011年、サタン崇拝者という自らのイメージを大いに楽しんでいたスレイヤーのリストには、斧のための砥石 、手の消毒液のハンド・サニタイザーと手の悪魔化液(?)のハンド・サタナイザーのセット、そして生贄用の真っ白なヤギを100頭という品目が並んでいた(これらはもちろんジョーク)。彼らは、優れたバンドがライダーをいかに容易く手に負えないものにできるかを知らしめる一つの好例だ。フー・ファイターズのライダーも同じく遊び心のあるものになっており、そこには「退屈なチキン・ディナーではベーシストのネイト・メンデル(彼はニルヴァーナ”涅槃”からの使者ではなく、現世の人間だ)にハグはしてもらえない」、「自分たちはプライベート・ジェットの燃料用にカネを稼ごうとしているだけの普通のバンドだ」といった気の利いた言葉が並んでいる。

しかし、ひとたびベーコンの話となるとフー・ファイターズは真剣だ。彼らのライダーには「ベーコンは神が遣わした通貨だ!酸素の代わりにこれで呼吸できればいいのに」と書かれている。そこからは、かつて「ツアー中に提供されるあらゆる料理にベーコンを入れること」と言いつけたメタリカにも匹敵するほどのベーコンに対する熱烈な愛情が感じられる。

“例外なく”という項目が盛り込まれている点では、イギー・ポップとストゥージズが2006年に行ったコンサート・ツアーのライダーもまた同様だ。そこには“常時ボブ・ホープの物真似芸人を用意しておくように”という項目があった。しかしながらこれはイギーとその一味による底意地の悪いリクエストのほんの一例に過ぎず、その18ページに及ぶリストには、さらに「ワインショップに行って、店員に手伝ってもらって美味い赤ワインの中から最高のものを選ぶこと」という係の者へのご丁寧なアドバイスもあれば、「マクドナルドのハンバーガー・セットを食べるのと、自分の舌を切って飲み込むのとどちらかを選べと言われたら、即座に俺は自分のケツを舐め回すと思う」というどうでもいい話も列記されていた。

概して、こうしたリクエストは、厄介な注文や言いつけを聞いてくれる人間など探す必要もない本物のレジェンドの単なる息抜きであり、当のミュージシャンもその点をよく理解している。なるほどライダーは、大がかりなコンサート・ツアーには不可欠なものに違いないが、そこにちょっとした楽しみがあってもいいというものだろう。スレイヤーのメンバーもこんな風に言っている。「みんなと同じだよ。俺たちは結局のところ酒と女が目当てでやっているんだ」。

Written By Jason Draper


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