エミネムの“ロックの殿堂入り”受賞スピーチ全文:「ヒップホップが学校で、彼らが俺の先生」
2022年11月5日に行われたロックの殿堂(Rock and Roll Hall of Fame)入り授賞式。エミネム、パット・ベネター、デュラン・デュラン、ユーリズミックス、ドリー・パートン、ライオネル・リッチー、カーリー・サイモンの7組が殿堂入りとなった。
このセレモニーで行われたスピーチの中から、エミネムによる受賞スピーチを全文紹介。以下前文と訳、後文は、池城美菜子さんです。(ドクター・ドレーによるエミネム紹介スピーチはこちら)
<関連記事>
・エミネム『The Eminem Show』解説
・初のHIPHOPアクト、2022年スーパーボウル ハーフタイムショー解説
どんな場面でも自分らしくしていること。第37回ロックの殿堂のセレモニーで、エミネムが徹底して見せた姿勢だ。彼は2022年5月にデュラン・デュラン、ユーリズミックス、ドリー・パートン、ライオネル・リッチーらと一緒に殿堂入りを果たし、先日セレモニーが開催された。ドクター・ドレーの紹介スピーチのあと、DJにアルケミスト、ハイプマンにD12のディナウン・ポーター(ミスター・ポーター)を従え、バンドをバックに行ったパフォーマンスも大きな話題になっている。
「My Name Is」で登場したあと、「Rap God」でギネスに登録されている早口ラップを披露 。エアロスミスの「Dream On」のサンプリングをした「Sing for The Moment」ではスティーヴン・タイラー本人が登場、アルケミストのスクラッチとギターの掛け合いはロックの殿堂にふさわしかった。「Stan」のコーラスはエド・シーランが歌い、「Forever」へ。もともとドレイクの曲だった「Forever」は、リル・ウェインとカニエ・ウェスト、そしてエミネムが参加して最強のポッセ・カットと言われるが、2022年に揃うのが難しい顔ぶれでもある。大団円の「Not Afraid」にきれいにつながるのは、どちらもボーイ・ワンダのプロデュース曲だから。
パフォーマンスを終えた直後、エミネムは息を切らし、眼鏡をかけてスピーチに臨んだ。暗誦していたドクター・ドレーとはちがい、紙を見ながらだったのは理由があった。スピーチの大半を、先輩ラッパーたちの名前を読み上げるのに費やしたのだ。長年のヒップホップ・ファンはクイズとしても楽しめるので、ぜひ読み通してほしい。
****エミネムのスピーチ****
今夜、このステージに立つのがどれくらい光栄なことで、大好きな音楽で生きているのがどれほどの特権かよくわかっています。俺はこの音楽で命拾いをしました。あれ、どこに行った? ドレーはどこ? あの人が救ってくれた恩人です。レディース&ジェントルメン、ドクター・マザーフ**キン・ドレーです。俺はなるべく短く、苦痛を与えないようにスピーチするつもりだけど、アホみたいに吃ってますね、参ったな、まったく。
俺は今夜、多分ここに立っているべきではない理由が2つあります。ひとつ目、俺はラッパーで、これはロックの殿堂で、いままで殿堂入りしたラッパーが少ないこと。ほんとうにまだ少ないんです。ふたつ目、2007年に俺は過剰摂取で死にかけたこと。それは少し残念で、なぜなら— ヘイリー、耳を塞いで —ドラッグはまじで最高だったから。(ドラッグと)うまくやっているつもりだったけれど、それがね、自分でめちゃくちゃにしてしまったんです、やりすぎた。OK、ヘイリー、もういいよ。
それで‥.ちょっと待って、どこまで言ったかわからなくなっちまった、ポール、俺、ドラッグがまじで最高だった、って言ったよね? そうそう、つまり、俺はこの音楽にこの音楽で居場所を作るために必死で闘い抜いたんです。だから、ヒップホップをやってここに立っているのはとても光栄で、とても感謝しています。だってね、本当にこの音楽を愛しているから。自分の仕事を愛していたら、1日も働かなくて済む、とよく言いますよね‥.あまりうまく話せてないな、まぁいいや。
俺が受けた音楽的な影響について話しますね。子どもひとりを育てるのに村ひとつが必要だとか言うけれど、俺はジャンル全体、この文化全体に育てられました。成功するには多くの父が必要だとも言いますよね、俺の場合、それも絶対的な真実です。俺がヒップホップという音楽に与えたインパクトが何であれ、これから読み上げる土台を作ってくれたアーティストなしでは、やり遂げることは絶対に、完全にありえませんでした。
このリストを昨日まとめたんだけど、ずっと追加して、また追加して、それでも誰かを忘れてしまったら、それは申し訳ない。まぁ、俺の先生たちですね。2ライヴ・クルー、トゥパック、サード・ベース、アライアンス、アパッチ、オーディオ・トゥー、ミルク・D、元気? オウサム・ドレー、ビースティ・ボーイズ、ビッグ・ダディ・ケイン、ビッグ・パン、ビッグ・L、ビズ・マーキー、当然、ノトーリアスB.I.G.、ブラック・ムーン、ザ・ブギー・モンスターズ、ブランド・ヌビアン、Xクランのブラザー・J、バックショット、ハイエログリフィクスのカジュアル、チル・ロブ・G、チャブ・ロック、チャック・Dとパブリック・エネミー、サイプレス・ヒル、D-ナイス、デイナ・ディーン、デ・ラ・ソウル、これで3分の1です。
デフ・ジェフ、デル・ザ・ファンキー・ホモサピエンス、DJクィック、当然、ドクター・ドレー、ブラック・シープのドレス、エドO.G.、EPMD、ファット・ボーイズ、ファット・ジョー、フー・シュネッケンズ、ギャング・スター、ゲトー・ボーイズ、ヘヴィ・D、ハウス・オブ・ペイン、アイス・キューブ、アイス・T、インテリジェント・フードラム、J.J.ファッド、ジャズィ・O、ジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンス、ジャスト・アイス、K-ソロ、キッドゥンプレイ、いいところまで来ました。
キング・サン、キング・ティー、クール・G・ラップ、クール・モー・ディー、KRS-ワン、クワメ、ラキム・シャバズ、ラージ・プロフェッサー、リーダーズ・オブ・ザ・ニュースクール、それから先輩、どこかにいるよね? 唯一無二のLL・クール・J、愛しているよ、兄貴。ロード・フィネス、ローズ・オブ・ザ・アンダーグラウンド、マントロニクス、マスタ・エース、MCブリード、MCライト、MCシャン、メリ・メル、マーシレス・アミール、モブ・ディープ、モニー・ラヴ、ナズ、ニュークレアス、オニクス、オーガナイズド・コンフュージョン、アウトキャスト、アンドレ3000、パリス、ファーサイド、クィーン・ラティファ、ラキム、レッドヘッド・キングピン、ピート・ロック&CL(スムース)。
レッドマン、ロクサーヌ・シャンテ、ラン-D.M.C、ソルトン・ペパ、スリック・リック、ダグ・E・フレッシュ、スヌープ・ドッグ、ソウルズ・オブ・ミスティーフ、スペシャル・エド、ステッツァソニック、Sの行までやっと来ました。スーパー・ラヴァー・シー&カサノヴァ・ラッド、D.O.C.、ザ・ルーツ、ブラック・ソート、スキニー・ボーイズ、トニー・D、トゥー・ショート、ノーティー・バイ・ネイチャーのトレッチ、ア・トライブ・コールド・クエスト、フーディニ、ワイズ・インテリジェントとプア・ライチャス・ティーチャーズ、ウータン・クラン、YZ.。
この人たちが俺のロック・スターです。将来的な殿堂入りを考慮してほしい名前のほんの一部だと言いたかった。俺たちの多くは、彼らなしではここにいられなかったわけだから。少なくとも俺はそうです。それが一番言いたかった。殿堂入りスピーチで自分について話すべきなのはわかっています、でも、そんなのどうでもいい。彼らなしでは、俺はここにいなかった。高校中退の俺にとってはヒップホップが学校で、彼らが俺の先生なんです。だから、今夜は俺が受賞したのと同じくらい、彼らも認識されるべきです。ありがとう。
****エミネムのスピーチここまで****
ロックの殿堂入りをしていない人たちを読み上げたのかと思ったが、ランDMCやLL・クール・Jが入っているのでもっとゆるい括りのようだ。個人的には、アンジー・ストーンが在籍したマントロニクス、女性メンバーがいたアライアンスとニュークレアスを含めて女性アーティスト8組にきちんと言及してくれてうれしかった。諺が多めで、どうやらエミネムのマネージャー、ポール・ローゼンバーグと一緒に草稿を作ったようだ。「I’m a high school dropout, man, with a hip-hop education, and these were my teachers(高校中退の俺にとってはヒップホップが学校で、彼らが俺の先生)」は、彼の有名ヴァース並みの名言で、今後も語り継がれるだろう。
スピーチ中にエミネムが言及したラッパー、DJについてまとめた楽曲のプレイリストがSpotifyで公開中
- 【全パフォーマンス徹底解説】2022年スーパーボウル ハーフタイムショー
- 【試し読み】『スヌープ・ドッグのお料理教室』
- エミネムが22年ぶりにスヌープ・ドッグと共演。新曲を公開
- スヌープ・ドッグのベスト20曲:ヒップホップ・アイコンの必聴曲
- メアリー・J. ブライジ『What’s The 411』HIP HOPとSoulを横断した名作
- デビュー作『What’s The 411?』を超えたメアリーの2枚目『My Life』
- ケンドリック・ラマーの新作が今年最高初週売上で全米1位に
- ケンドリック・ラマーのベスト・ソング30:頂点に上り詰めたラッパーによる名曲