エルトン・ジョンがロッキー山脈で制作したアルバム『Caribou』

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エルトン・ジョン以外に、そのキャリアにおいて最も成功した2枚組アルバムのわずか8ヶ月後に、2曲のヒット・シングルを収録したアルバム、しかもダブル・プラチナ・アルバムを記録できるアーティストはほとんどいない。まさにそれが、エルトン・ジョンが1974年6月28日にリリースしたアルバム『Caribou』でやってのけたことだった。

このアルバムは、1973年10月にリリースされたばかりの歴史的名盤『Goodbye Yellow Brick Road(邦題:黄昏のレンガ路)』に続く作品だった。やむを得ない事情により、『Caribou』のレコーディングはかなり急なスケジュールの中で行われた。ジョンと彼のバンドは日本とオーストラリアでのツアーを前に、時間に追われていたのである。

実際に、この短期間での制作作業について、長期契約によるプレッシャーが大きかったと、エルトン・ジョンはNMEに語っていた。「MCAレコードとDick James Music(DJM)レコードのために、年に2作品は完成させなければならなったんだ。つまり、半年に1作品を一から作らなければならないってことだよ」と彼は語った。

「2月の契約更新まで2枚のアルバムを作らなければならない。でも、サインしたばかりの新しい契約では1年に1枚、もしくは出さない年があってもいいんだ。もうちょっと気楽にやって行こうってね。スタッフのみんな、特にバンドはすごくホッとすると思うよ」

アルバムのタイトルは、レコーディングを行ったスタジオ、カリブー・ランチから名付けられた。コロラド州ロッキー山脈のネダーランドという集落にあるこのスタジオは、1972年にジェームズ・ウィリアム・ガルシオによって開設された。彼はシカゴのマネージャーとプロデューサーも務め、ビーチ・ボーイズでベースを演奏していたこともあった。

その頃カリブー・ランチはアーティストの間では人気のスタジオで、シカゴが『Chicago VI』と『Chicago VII』をレコーディングし、その後も『Chicago VIII』『Chicago X』『Chicago XI 』で再び戻ってきたり、『Caribou』のちょっと前にリリースされたアース・ウィンド・アンド・ファイアーの『Open Our Eyes(邦題:太陽の化身)』や『That’s The Way Of The World(邦題:暗黒への挑戦)』もここで作られた。その他にも、アメリカからスティーヴン・スティルス、フィル・コリンズやスーパートランプまで、ここでレコーディングしたアーティストは数え切れない。

エルトン・ジョンと彼のバンドメイトの、デイヴィー・ジョンストーン、ディー・マレー、ナイジェル・オルソンとレイ・クーパー、そしてプロデューサーのガス・ダッジョン、作詞家のバーニー・トーピンと豪華なゲスト参加によってニュー・アルバムは制作された。そして、ファースト・シングル「Don’t Let The Sun Go Down On Me」がすぐさまヒットを記録しアルバム『Caribou』が発表された。

ジェームス・ウィリアム・ガルシオのビーチ・ボーイズとのコネクションにより、このシングルのバッキング・ヴォーカルにカール・ウィルソンとブルース・ジョンストンが参加している。ブルース・ジョンストンは、元ビーズ・ボーイズのメンバーで、”キャプテン”の愛称で知られるダリル・ドラゴンの力も借りて、素晴らしヴォーカル・アレンジメントを施した。ダリル・ドラゴンの妻で、デュオのパートナーだったトニー・テニールもヴォーカルで参加している。

ソウル・ミュージックの愛好家でもあったエルトン・ジョンは、今作から2番目のヒットとなったアルバム1曲目の「The Bitch Is Back」他、数曲でタワー・オブ・パワーの力強いホーン・セクションを起用した。「Dixie Lily」や「Stinker」などでタワー・オブ・パワーの様々なメンバーが数曲でゲスト参加を果たしている。ただ、おそらく今作で最も意外なゲスト・ヴォーカルは「The Bitch Is Back」に参加した、エルトン・ジョンの長年の憧れ、ダスティ・スプリングフィールドだったであろう。

アルバム『Caribou』はイギリス、アメリカだけでなく、カナダ、オーストラリアなどでも1位を獲得した。エルトン・ジョンはどんなに多忙でも、必ず試練を乗り越えるアーティストなのである。

Written By Paul Sexton


エルトン・ジョン『Caribou』


『ロケットマン(オリジナル・サウンドトラック)』



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