エルトン・ジョン第二黄金時代の頂点と『ライオン・キング』サントラの聴きどころ by 長谷川町蔵
2019年7月19日に全米公開を迎えてオープニング3日間の興行収入が約197億9,500万円、8月9日に公開された日本でも4日間の興行収入14億4600万円と大ヒットを記録している映画『ライオン・キング』。この映画の大きな魅力の一つである音楽について、映画や音楽関連だけではなく、今年3月には2作目となる小説『インナー・シティ・ブルース』も発売されるなど幅広く活躍されている長谷川町蔵さんに寄稿いただきました。
まもなく日本公開されるエルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』は、彼のファンにとって少々驚かされる作りになっている。エルトンがアルコール中毒からの更生を誓った80年代の時点で物語の幕が閉じているのだ。クリーンになったエルトンは90年代に完全復活、ダイアナ妃追悼曲「キャンドル・イン・ザ・ウィンド1997」をはじめ、ヒット曲を連発する第二期黄金時代を築いたのに。
『ロケットマン』では描かれない、この第二黄金時代の頂点が、1994年に公開されたディズニーアニメーション『ライオン・キング』への挿入曲提供だった。アフリカを舞台に、百獣の王として君臨する宿命を負ったライオンの子シンバの成長を描いた『ライオン・キング』は、『リトル・マーメイド』からディズニーが始めたミュージカル仕立ての作品だった。つまりエルトンには、アニメソングらしいポップさと同時にアフリカらしいアーシーさ、ナチュラルさを漂わせる楽曲が求められたわけだ。しかし彼はこうした難題を見事にクリアー。作詞家ティム・ライスと組んで作った楽曲は、観客の心をアフリカの大自然へと誘うものに仕上がっている。
サウンドトラックからは、映画のテーマを高らかに歌いあげた「サークル・オブ・ライフ」と、ラブテーマ「愛を感じて」の二曲が、アカデミー主題歌賞とゴールデングローブ賞歌曲賞にノミネート。結果として「愛を感じて」が二冠を獲得している。加えて同曲はグラミー賞最優秀男性ボーカル・パフォーマンス賞まで受賞した。
こうした成果に手応えを感じたエルトンは、引き続きティム・ライスと組んでエジプトが舞台の『アイーダ』(1998年)や『リトル・ダンサー』(2000年)の舞台版『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』(2005年)、旧友バーニー・トーピンと組んで『Lestat』(トム・クルーズ主演で映画版が製作された『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』シリーズの舞台版)といったブロードウェイ・ミュージカルの音楽を次々と手がけるようになった。つまり『ライオン・キング』はエルトンにとって新たなキャリアを切り開くきっかけになったのだ。
そんな重要作を敢えて『ロケットマン』から外したのは、『ライオン・キング』がエルトンにとって振り返るべき過去になっていなかったからかもしれない。彼は『ロケットマン』と並行して現在日本公開中の『ライオン・キング』超実写版にも関わっていたばかりか、新曲まで提供しているからだ。
そのナンバーこそが映画のエンディングを飾る「ネヴァー・トゥー・レイト」。「この手の曲はバラード」というお約束を鮮やかに裏切って、軽快なアフリカン・リズムに乗せて「君は自分で考えているほど歳じゃない/誰かを抱きしめることだって出来るのさ」と歌うエルトンの声を聴くかぎり、ツアー活動からは引退するとはいえ創作活動はまだまだ続けていく気が満々なことがわかって嬉しい。
この「ネヴァー・トゥー・レイト」を含む楽曲のプロデュースおよびスコアの作曲を行なったのが、エルトン同様に1994年版『ライオン・キング』を手がけていたハンス・ジマーだ。前回アカデミー賞作曲賞とゴールデングローブ賞音楽賞をダブル受賞したこともあってか、ジマーは『ライオン・キング』に再び関わることに躊躇していたようだが、監督ジョン・ファヴローの説得によって翻意。1994年版でも共同作業を行なったアフリカ人作曲家のレボ・Mとリユニオンして自らのスコアのリメイクに取り組んでいる。
一聴して分かるのは、1997年から公演が開始され、現在でも世界中の劇場で公演が行われている舞台版でのアレンジがフィードバックされていること。楽器編成やヴォーカル・アレンジにアフリカの民族音楽へのより深い理解と敬意を感じさせるのだ。
パーカッションの立体感、ダイナミズムも印象的。この変化に貢献しているのが、『マン・オブ・スティール 』(2013年)からジマーが本格的に用いはじめた、複数のドラマーの同時演奏である。本作でもジョン・ロビンソンやシーラ・Eら複数の一流ドラマーを一堂に集め、即興を織り交ぜたプレイをさせて、音符では指定しきれないグルーヴやニュアンスをスコアに持ち込むことに成功している。
加えてジマーは本作に、『怪盗グルーの月泥棒 3D』(2010年)からヴォーカル・ナンバーにおいてコラボレーションをはじめたファレル・ウィリアムスを招いている。ファレルは「王様になるのが待ちきれない」「ハクナ・マタタ」「ライオンは寝ている」「愛を感じて」「ムブーベ」の5曲をプロデュース。R&Bシーンで活躍するヒットメイカーの参加によって、挿入曲にもともと備わっていた黒いフィーリング(エルトン・ジョンは元々極めてR&B的な作曲家である)が前面に打ち出されている。
この曲を、シンバ役のドナルド・グローヴァーとともにナラ役の声優として歌ったのがクイーン・オブ・R&Bのビヨンセ。彼女は映画に触発されてパワフルな新曲「スピリット」を書き下ろし、本編でも使われている。この他にビヨンセは、夫のジェイZやケンドリック・ラマーによる新曲まで収録されたキュレーテッド・サウンドトラック(イメージ・アルバム)『ライオン・キング: ザ・ギフト』まで自らのレーベルからリリース。今回の仕事によほどインスピレーションを得たのだろう。
というわけで、これだけ聴きどころが多い『ライオン・キング』超実写版のサウンドトラック。観る前に期待を高めたい人、感動を反芻したい人はもちろん、すでに映画館で観たけど映像のあまりの凄さに音楽がまったく耳に入ってこなかったという人もぜひチェックしてほしいものだ。
Written By 長谷川町蔵
『ライオン・キング オリジナル・サウンドトラック』
CD発売日:2019年8月7日
英語版 / 日本語版 / デラックス版(CD2枚組 英語+日本語)
『ライオン・キング』
ディズニーが贈る“超実写版”キング・オブ・エンターテイメント“
2019年8月9日(金)全国公開
映画公式サイト
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