ザ・ウィークエンド「Die For You」解説:6年前の曲ながらTikTokから2022年に火がついたその奇妙な道

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The Weeknd - Photo: Rich Fury/Getty Images for iHeartMedia

ザ・ウィークエンド(The Weeknd)の音楽は、この10年の間に自宅のベッドルームからアリーナのステージへと着実に進歩し、ディスコ・サウンド満載の2016年のサード・アルバム『Starboy』でさらなる飛躍を遂げた。

ダフト・パンク、ベニー・ブランコ、ディプロ、カシミア・キャットといったエレクトロニック界の有名プロデューサーとタッグを組んだ『Starboy』は、自身初の全米No.1ヒット・シングル「I Can’t Feel My Face」を収録した2015年のセカンド・アルバム『Beauty Behind the Madness』で得た洞察を活かし、そのギザギザしたエッジを滑らかにした明るく尖ったポップ作品に仕上がっている。

「Die For You」は『Starboy』からリリースされた7曲のシングルのうちの1つだったが、ヒットまでの道のりは奇妙なもので、何年もかけて展開された。

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発売当時押されなかった楽曲

「Die For You」は『Starboy』のために制作された最後の曲のひとつと言われており、リード・シングルとしてはありえない選択肢だった(多くの関係者は、当時の彼の感情的混乱を考えると、このシングルを完成させるのは困難だと考えていた。それについては後述)。

理由は不明だが、彼のチームはこの曲のポップ・ラジオへの提出を禁止し、リズミック・コンテンポラリーのラジオで押し出した。そのため全米チャートで遅いスタートを切った同曲は、『Starboy』がリリースされた翌年の2017年に43位を記録するに留まった。

 

TikTokでの爆発

それから5年、あたかもTikTokのために作られたかのようなこのシングルは、同プラットフォームで新たな人生を歩み始める。「Die For You」の構成は、感情の高まり、歌詞、フックが密接に連携し、ザ・ウィークエンドが「Just know that I would die for you! / 君のためなら死ねるんだってわかってくれ!」と歌う爆発的なサビへと繋がっていく。

サビ前の「Hate that you want me, hate that you cry / 君が僕を求めてるのが嫌なんだろ、それで君が泣くのが嫌なんだろ」やブリッジの「Keep it real, I would kill for you! / 本当だ、君のためなら死ねる!」など、「Die For You」は感情の高ぶりを感じさせる瞬間に溢れている。

これらの瞬間は、パーティに疲れ、薬物に溺れ、意味のある繋がりを求め、精神の深みへの到達を望む、といったザ・ウィークエンド作品の世界観に頻繁に登場する代表的なスナップショットとして機能しているのだ。当然ながら、これらの断片は、TikTok上に日々アップされる短編ドラマやそのパロディに恰好のサウンドトラックとなった。

『Starboy』の発売5周年を記念して、映画『E.T.』やドラマ『ストレンジャー・シングス』をあからさまにオマージュした新たなミュージック・ビデオと共に再リリースされた同シングルは、2017年の全米チャート記録を塗り替え、最高位となる33位まで上昇している。

この曲は、Z世代のファッション・アイコンであるベラ・ハディッドとの一時的な破局の直後にレコーディングされたため、ゴシップ紙の題材のような輝きを放っている。彼のファンたちは、「Die For You」だけでなく、「After Hours」や「Here We Go… Again」などの楽曲も、2人の不安定な関係性について書かれたものだと推測する。そうした側面からも、この「Die For You」には、ソーシャルメディア的な表現にはうってつけの、人々の好奇心をそそる要素が兼ね備わっている。

そして何より、「Die For You」は、ザ・ウィークエンドのアメリカン・ポップス界における持久力を象徴している。ダークなムードと落ち着いたプロダクションを得意としていた彼は、自らの名声の手綱を握り、マックス・マーティンとワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのダニエル・ロパティンという、一見ありえないコンビのプロダクション能力を融合させた。そしてザ・ウィークエンドというペルソナのために新たな音楽の枠組みを作り上げ、ますます新しい音の質感を押し出していったのだ。2020年代前半に頭角を現したザ・ウィークエンドのアプローチを辿れば、ファンが過去の作品に目を向けるのも納得がいく。

「Die For You」は、現代のアメリカン・ポップカルチャーに共鳴するエモーショナルな肖像を描いている。その新たな成功はある意味で意外に感じられるが、よくよく考えてみれば、現在のアメリカ社会のムードの中で復活を遂げたことは、これ以上ないほど理にかなっているのだ。

Written By Corban Goble



ザ・ウィークエンド『Starboy』
2016年12月23日発売
CD&LP / iTunes Store /Apple Music / Spotify / Amazon Music




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