『ディセンダント』シリーズの音楽の魅力:マイケルの映像を手掛けたケニー・オルテガが送るヴィランの子孫たち
“もしディズニー・キャラクターに子孫がいて、10代だったら?” という発想から生まれたディズニー・チャンネル オリジナル青春ミュージカル・シリーズ『ディセンダント』。2019年9月13日からシリーズ第3作となる『ディセンダント3』が配信開始となったこの作品の音楽の魅力を、ライターのうきたひさこさんに寄稿頂きました。
洋楽ファンの方なら、どこかで一度はケニー・オルテガの名前を目にしているのではないだろうか。80年代からコレオグラファーとして頭角を現し、マドンナの「Material Girl」(1985)のミュージックビデオや、ダンス映画の金字塔『ダーティ・ダンシング』(1987)で振り付けを担当。他にも、シェールやグロリア・エステファンなど数多くのアーティストの振り付けを手がけ、コレオグラファーとしての地位を確立する一方で、監督業にも進出した。テレビ、映画、コンサートツアーのみならず、スーパーボウルのハーフタイムショーやオリンピックの開会式(1996年アトランタ/2002年ソルトレークシティ)でも演出・振り付けを手がけてきた。
さらにオルテガは、あのマイケル・ジャクソンが厚い信頼をよせていたことでも知られている。マイケルの「デンジャラス・ワールドツアー」(1992〜93)と「ヒストリー・ワールドツアー」(1996~97)で演出・振り付けを担当し、2009年に予定されていた最後のコンサート「THIS IS IT」でもタッグを組んでいた——そう、開幕直前にマイケルが急逝するまでは。その後オルテガは、ドキュメンタリー映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』を監督している。
そんなオルテガが2006年に放ったクリーンヒットが、ディズニー・チャンネル・オリジナル・ムービー『ハイスクール・ミュージカル』だ。その名のとおり、高校を舞台にした歌とダンス満載の青春ミュージカル映画で、全米のティーンが熱狂し、その熱はまたたく間に世界中に広がった。シリーズ3作品に加えて、コンサートツアーや舞台版ミュージカルも制作され、社会現象的なブームを巻き起こしたのを覚えている方も多いだろう。日米を問わず、いまショウビズ界で活躍している若手スターのなかに、『ハイスクール・ミュージカル』に影響を受けた人がどれほどいることか。オルテガがこの作品によって、新しいジェネレーションをミュージカルに目覚めさせた功績は計りしれない。
その延長線上にあるのが、『ディセンダント』シリーズ。オルテガが製作総指揮・監督・振り付けを務めたディズニー・チャンネル・オリジナル・ムービーで、2015年の『ディセンダント』、2017年の『ディセンダント2』、そしてこの秋日本で放送される『ディセンダント3』で完結する3部作だ。ポップな歌とエネルギッシュなダンスで綴る青春ミュージカルという点は『ハイスクール・ミュージカル』と同じだが、登場するのはディズニーキャラクターの子孫たち。なかでもヴィランズ(悪役)の子供たちを主人公にした意表をつく設定と、共感を誘うストーリー、さらに次世代のスター候補となるフレッシュなキャスト陣が、キッズやティーン層を中心に絶大な人気を誇っている。
でも「子供向けの作品でしょ?」とあなどってはいけない。おとぎの国で起こる騒動を軽いタッチで描きながらも、自身のルーツに誇りを持つこと、自分らしさを大切にすること、人生は自分の選択次第で切り開けること、立場や考え方の異なる人々を受け入れること……など、大人の心にも響くテーマが散りばめられている。『ディセンダント3』では“差別”や“国境の壁”といった社会問題にも斬り込み、「国境を閉鎖しても問題はなくならない」「誰もが公平なチャンスを得られる社会を作るべきだ」と訴えかける。
こうしたテーマが、『ディセンダント』シリーズの音楽の根底にある。ティーン受けを狙っただけの音楽でも、ダンスの見せ場を作るための音楽でもない。セリフに代わって登場人物の心情を伝え、ストーリーを語り、作品に込められたメッセージを伝える音楽なのだ。
とはいえ、“いかにもミュージカル的”な作りにはなっていないので、ミュージカル嫌いの方もご安心を。どの曲も歌詞をほんの少し変えれば(あるいは変えなくても)、ポップソングとして通用するキャッチーな曲ばかり。それもそのはず、シリーズ3作品のソングライターのクレジットを見てみると、元ファウンテンズ・オブ・ウェインのメンバーで、グラミー賞はもちろん、アカデミー賞やトニー賞のノミネート歴もあるアダム・シュレシンジャーや、最近ではパニック・アット・ザ・ディスコの「High Hopes」をヒットさせたサム・ホランダー、マイリー・サイラスやセレーナ・ゴメスへの楽曲提供で知られるアントニーナ・アルマト&ティム・ジェイムズ、平井堅(feat.安室奈美恵)の「グロテスク」を作曲したマシュー・ティシュラーといったヒットメーカーたちの名前が並んでいる。
と同時に、ブロードウェイ・ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』の音楽を手がけたアンドリュー・リッパや、東京ディズニーリゾートのショーにも数多くの楽曲を提供しているジョン・カヴァナーの名前も。ポピュラーミュージック界に限定せず、さまざまなフィールドで活躍するソングライターを起用しているのが、『ディセンダント』シリーズの音楽の面白さと言えるのではないだろうか。
もちろん、キャストたちの歌にも注目して欲しい。すでにTVドラマで主演経験のあったダヴ・キャメロン(マレフィセントの娘“マル”役)を除けば、メインキャストのほとんどは無名に近かった。が、若い才能を発掘することにかけては定評のあるオルテガ監督に見出され、この『ディセンダント』で大ブレイク。人気俳優の道を歩み始めただけでなく、ダヴとソフィア・カーソン(イーヴィル・クイーンの娘“イヴィ”役)は音楽活動も行っている。ソフィアは昨年、ギャランティスやアラン・ウォーカーの曲にフィーチャーされたことで、EDMシーンでも注目されるようになった。シリーズ3部作のサントラを聞けば、彼らのシンガーとしての成長ぶりがわかるはずだ。
ちなみに1作目のサントラにはショーン・メンデスも参加しており(エンドクレジット曲「Believe」を歌っている)、全米ビルボードアルバムチャートでNo.1を獲得。2作目は6位、3作目は7位と大健闘。いずれもキラキラしたポップソングの宝庫だ。オルテガ監督が作品に込めたメッセージと、人生の多感な時期をこのシリーズに懸けてきたキャストたちの想いがつまったアルバムは、きっと胸を熱くしてくれるに違いない。
Written By うきたひさこ
ディセンダント3 オリジナル・サウンドトラック
2019年9月18日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify
《作品概要》
“善”と“悪”を現代の視点で描き、世界的大ヒットを記録した「ディセンダント」の3作目。マル、イヴィ、カルロス、ジェイはオラドン王国に招くヴィランズの子ども達を選抜するため再びロスト島を訪れる。ところが島を覆うバリアに裂け目が生じてしまう。ウーマとハデスがオラドン王国に復讐することを恐れたマルは、バリアを閉ざし、自分の故郷・ロスト島を永遠に封印する決断をするが、得体の知れない闇が忍び寄っていた。
《配信/放送予定》
2019年9月13日(金) 配信開始Disney DELUXE(ディズニーデラックス)公式サイト
2019年秋 放送 ディズニー・チャンネル 公式サイト
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