ザ・ビートルズ「Dear Prudence」誕生物語:インド滞在中に少女を救うために作った名曲
イーシャー・デモの「Dear Prudence(ディア・プルーデンス)」の終わりにかけて、曲の制作秘話について説明するジョン・レノンの声を聞くことができる。
「マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーの世話になっている間に、遅かれ早かれ彼女があんな風に気が変になるとは誰も想像していなかった。正気を失っていく彼女をみんながとても心配した。だから僕たちは歌ったんだ」
その彼女とは、アメリカの女優ミア・ファローの19歳の妹プルーデンス・ファローのことだ。プルーデンスは滞在先となったインドのリシケシにあるアシュラムの宿泊部屋に閉じ込もってしまい出てこなかったのだ。彼女は姉と一緒に、ビートルズ、ドノヴァン、ザ・ビーチ・ボーイズのマイク・ラヴを含む人たちと共に超越瞑想を学ぶためにそこに滞在していた。そして誰よりも多くの時間を瞑想に費やしていた彼女の精神状態をみんなが心配するようになっていた。ポール・マッカートニーは思い出しながらこう話す。
「プルーデンス・ファローは恐怖感や被害妄想に襲われて、今ではアイデンティティー・クライシスと呼ばれる状態だったんだけど、部屋から出てこなくなってしまった。そんな彼女をみんなが少し心配して、部屋に行って扉をノックしたんだ。“ねえ、プルーデンス。みんなは君を愛してるよ。君は素晴らしい人だよ!”って伝えた。だけど誰も彼女を説得できなかった。それでジョンは“愛しいプルーデンス、外で一緒に遊ばないかい…”っていう曲を書いたんだ」
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「欧米だったら精神科病院に入れられていただろう」
ジョンはプレイボーイ誌にこう話していた。
「少し正気を失っていたように見えたミア・ファローの妹は、瞑想ばかりしていて、僕たちが滞在していた小さな小屋から出てこなくなってしまった。僕とジョージなら信頼して出てくるだろうとみんなが思って、僕たちに説得するよう頼んできたんだ。でも彼女は完全に気がおかしくなった。欧米だったら精神科病院に入れられていただろう。なんとか彼女を連れ出すことに成功したけど、誰よりも早く神とつながろうとした彼女は3週間も部屋に引きこもっていたんだ」
バート・ヤンシュやデイヴィ・グレアムなどの下で学んだ経験を持ち熟練したフォークミュージシャンであるドノヴァンからの指導を受け、ジョンはインドで学んだフィンガーピッキングを「Dear Prudence」で披露している。ドノヴァンはジョンのことを熱心な生徒だったと話している。
「根気強さを必要とする難しい弾き方なんだ。それを学んだジョンはとても喜んでいて、全く新しい曲作りの方法が浮かび上がってきた。持って生まれた才能のある作曲者は、新しい演奏スキルを手に入れるとそうなるんだ。彼はすぐさま“Dear Prudence”と“Julia”を書いた。」
英国に戻るとビートルズ(リンゴだけピーター・セラーズのヨットで地中海を航海中)は、ロンドンのソーホーにあるトライデント・スタジオに集まった。そこではすでに「Hey Jude」のマスター・バージョンがレコーディング済みで、1968年8月28日から30日にかけて「Dear Prudence」が完成された。
「それは美しい行為だった」
最終バージョンは「Take 1」と名付けられたが、ジョンとジョージのギターとポールのドラムはそれまでに何度もレコーディングされていたため、それは誤解を招く名前と言えるだろう。しかし、アビー・ロード・スタジオのようにすべてが保存されていたのとは違い、トライデント・スタジオでは前回のテイクの上から3人がレコーディングを行っていたようだ。
ジョンとジョージのギター、そしてポールのドラムの伴奏が完成すると、その他にも幾つものトラックがオーバーダブされ、メンバーたちはトライデント・スタジオの8トラック設備の贅沢さを楽しんだ。ポールはギターとピアノを追加し、ジョンはダブル・トラックのボーカルを重ねた。その他にもローディーを務めるマル・エヴァンス、アップル・レコードのレコーディング・アーチストのジャッキー・ロマックス、そしてバックトラックで歌も歌ったポールの従兄弟ジョン・マッカートニーが手拍子とタンバリン演奏を提供しメンバーに協力した。
ポールはティーンだった頃に一瞬試したトランペット演奏の経験を活かし、おまけとしてフリューゲルホルンを少しだけ演奏した。完成したトラックは後に『The White Album』の中で最も印象深い曲の一つとなり、それは真似されることはあっても超えられることはないトラックとなった。
曲のインスピレーションとなったプルーデンスは、インドで過ごした間は一度もそのトラックを耳にすることはなかった。
「その曲についてはジョージから聞いたんです。彼らが帰国する時に、私についての曲を書いたと話してくれたんだけど、アルバムが発売されるまで聴くことはなかった。すごく光栄に思ったんです。本当に美しかったから」
Written By Paul McGuinness
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配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
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