追悼ドロレス・オリオーダン:クランベリーズ、そして末長く未来へと続く栄光

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Photo: Patrick Ford/Redferns

2018年1月15日、クランベリーズのドロレス・オリオーダンの急死の知らせを受けて、世界中の人々は衝撃を受け、悲しみに暮れ、不意打ちを食らったようだった。クランベリーズのリード・シンガーとして、リムリック州出身のヴォーカリストは冒険心に駆られ、真の意味で才能を持っていた。彼女は、90年代の偉大なオルタナティヴ・ロック・バンドであり長い間に渡って長寿が保障されたバンドのフロントを務めた。

ドロレス・オリオーダンの早すぎる死は世界から最も特徴のある声の持ち主を奪ったが、彼女とバンド・メイトが生み出した数々の作品はこれからもずっと誇り高く生き続けていく。クランベリーズの7枚のスタジオ・アルバムは通算4千万枚以上もの売上を達成しており、その数字だけを見ても敬意を称すべきであるが、その7枚のアルバムに収録された、豊かで力強く、多様性に溢れる楽曲こそが、古きファン、そして新しいファンをも魅了し続けている。

クランベリーズは最終的に大成功を遂げたが、昔から続くロックン・ロールの伝統らしく、その始まりは謙虚なものだった。ギタリストのマイク・ホーガンとベーシストの兄ノエル・ホーガンとドラマーのファーガル・ロウラーにより1989年に地元のリムリックで結成されたが、世に知れ渡ったクランベリーズのラインナップは、ヴォーカリスト兼作詞家のドロレス・オリオーダンが翌年に加入することで完成した。

初期はイギリスとアイルランドのインディーズで下積みを経たが、バンドにとって最初の成功への一歩は、ラフ・トレード・レコードのボスであるジェフ・トラヴィスがマネジメントを担当したことだった。ジェフ・トラヴィスの助力の末、BBC Radio1のDJであるジョン・ピール、ダブリンの2FMのデイヴ・ファニングなど業界の要である人物のサポートを得て、クランベリーズはアイランド・レコードと契約を締結し、1993年に非常に好評だったデビュー・アルバム『Everybody Else Is Doing It, So Why Can’t We?』を発表した。

グランジやオルタナティヴ・ロックが上り調子だった時代にそのアルバム・タイトルが呈した質問は無意味のようだったが、クランベリーズのデビュー作の質の高さはすぐに彼らを他の群から引き離した。ドロレス・オリオーダンの熱いケルティック魂はその巧みなヴォーカルに現れ、彼女に最大の喝采を保障し、バンド全体が完成したパフォーマンスを披露した。アルバムでブレイクしたヒット曲「Dreams」とメランコリックな失恋の曲「Linger」が『Everybody Else…』を定義付けたが、トラックリストには「Pretty」や美しく響く「Waltzing Back」などの宝も埋もれていた。

発売当初の勢いはゆっくりだったものの、「Dreams」と「Linger」が欧米ともに成功を収めると火が付き、最終的にはアメリカだけでクインタプル(5倍)・プラチナを達成した。それでもバンドは続く2枚目のLPの大成功を収め、スティーヴン・ストリートのプロデュースによる『No Need To Argue』は世界中で1,700万枚もの売上げを記録した。

全英トップ40で4曲のヒットを生み出したが、『No Need To Argue』ではクランベリーズのサウンドが進化しているのを感じることができた。アルバムの先行シングルで、グランジに影響された「Zombie」はIRAの爆弾により亡くなった2人の幼い子供に関する率直なプロテスト・ソングであり、同時にアルバムにはイリン・パイプが印象深い「Daffodil’s Lament」や心を揺さぶる「Ode To My Family」など内観的な作品もあり、特に後者ではドロレス・オリオーダンの最も影響力あるヴォーカルが披露された。

波の頂点に達していたクランベリーズの3枚目のアルバム『To The Faithful Departed』は、力強く、アリーナ級のロック・アルバムであり、「Salvation」やアップビートでラジオでかかりやすい「When You’re Gone」など、多数のバンドの名作ヒットが収録された。チャート上位を達成し、全英では最高2位、全米アルバム・チャートでは4位を獲得し、ダブル・プラチナを記録した。

ブリット・ポップ後の世界で変わりゆくトレンドを楽しみながら、クランベリーズは1999年の『Bury The Hatchet』と2001年の『Wake Up And Smell The Coffee』でさらなる成功を収めた。前者は全英トップ20ヒットの「Promises」を生み出したが、アルバムには数々の抜きん出た曲が収録されており、悲しげなアコースティックの「Just My Imagination」や「Animal Instinct」(ドロレス・オリオーダンが初めて母親になることへ寄せた歌)は、もともとリムリック出身の彼らの名を世に知らしめることになったその夢心地なインディ・ポップのサウンドを呼び起こした。

再びスティーヴン・ストリートをプロデューサーに迎えた『Wake Up And Smell The Coffee』は、クランベリーズのカタログの中で間違いなくダーク・ホースとして残っているが、アルバムには精巧に作られ、見落とされがちなシングル「Analyse」、そして環境問題を意識した「Time Is Ticking Out」の2曲も収録されている。アルバムが発表されるとクランベリーズは活動休止を発表したが、2009年のリユニオンをきっかけに、2012年に野心的なカムバック・アルバム『Roses』を発表した。

多岐にわたる楽曲が揃ったスティーヴン・ストリートのプロデュースによる『Roses』は、ループやエレクトロニカで縁取った「Fire And Soul」からレゲエ調の「Raining In My Heart」、そしてバンドの代名詞とも言えるケルティック調のドリーム・ポップ「Tomorrow」や幸福感溢れる「Astral Projection」まで、様々な楽曲が収録された。

いわゆる新しいスタジオ・アルバムではないが、2017年に『Something Else』をリリースし、トーリ・エイモスの『Gold Dust』のように、クランベリーズは10曲の主要ヒット作をオーケストラまたはアンプラグドのアコースティック・スタイルでレコーディングした。2017年4月にリリースした作品は、ドロレス・オリオーダンの声の豊かさや成熟を披露し、最後の作品として意図したわけではなかったが、『Something Else』は強く待望された芸術的な遺産として、優雅で、凛とした終止符となった。

ドロレス・オリオーダンはクランベリーズ以外にも2枚のソロ・アルバム『Are You Listening?』(2007年)そして2009年の『No Baggage』を発表し、独自のアプローチをとったことでに知られる。他のアーティストとコラボレートし、中にはズッケロ、ジャー・ウォブルなどがいるが、そして最近ではニューヨークを拠点にしたプロジェクト、DARKで、ザ・スミスの元ベーシストのアンディー・ロークとコラボレートした。

政治家からアイルランドの大統領、マイケル・D・ヒギンズなどの著名人がドロレス・オリオーダンの死を追悼し、批評家はアデルやフローレンス・ウェルチがいかにドロレスの恩恵を受けたかを引用していることを見ると、ドロレス・オリオーダンがいかにポップ・カルチャーに深い痕跡を残したかが伺える。

Written by Tim Peacock



クランベリーズ『Stars – The Best of 1992 – 2002』

  

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