ジャネット・ジャクソン『Control』: 自己主張することで一躍大スターへとなる切っ掛けとなった名盤

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1985年当時、ジャネット・ジャクソン(Janet Jackson)は兄マイケルの影に隠れて生きていた。これはあくまでも控えめな言い方であり、実のところマイケルの存在感は圧倒的だった。

当時マイケルは誰もが認める「キング・オブ・ポップ」として君臨しており、1982年の大ヒット・アルバム『Thriller』の栄光にまだ浸っているところだった。とはいえ、それはジャネット・ジャクソンが『Control』を発表する前のことだ。このジャネットはこのアルバムによって、自らがチャートで大活躍できる力の持ち主であることを証明したのだ。

デビュー当時のジャネットはA&Mレコードによって甘い声の少女歌手として売り出され、全米R&Bチャートのトップ10に入るヒットをいくつか出した(1982年の「Young Love」、その2年後の「Don’t Stand Another Chance」)。しかしそれらの曲は、彼女の持つずば抜けた才能を引き出したものではなかった。

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キャリアの再スタート

その先に待っていたのは衝撃的な展開だった。1986年1月、ジャネット・ジャクソンはA&Mからシングル「What Have You Done For Me Lately」をリリースし、歌手としてのキャリアを再スタートさせた。この曲は、ドラム・マシンのビートに乗ったミニマル・テクノ・ファンクの激烈な作品だった。

この小生意気でセクシーな曲は、その4年前にA&Mがジャネットの売り出し文句で使っていた「隣の家の少女/Girl-Next-Door」というイメージを払拭するものだった。ここでプロデュースを担当した元タイムのメンバー、ジミー・ジャム&テリー・ルイスは当時R&B界で最もホットなプロデューサー・チームであり、SOSバンド、シェレル、アレクサンダー・オニールなどのヒットを生み出していた。彼らの手腕にも助けられ、「What Have You Done For Me Lately」はたちまち全米R&Bシングル・チャートの頂点に達した。

ジャネットの3rdアルバム『Control』は1986年2月4日に発売され、その1ヵ月後には全米R&Bチャートで首位を獲得。このアルバムはR&Bチャートに91週も入るという驚異的な記録を成し遂げ、さらには全米ポップ・アルバム・チャートと全米アルバムチャーでも首位になった。これによってジャネット・ジャクソンは、兄マイケルに肩を並べるくらいのメガ・スターに変身したのだ。

 

一か八かの賭けのようなアルバム

こうして『Control』は世界各国で驚異的な成功を収めた。とはいえ当初ジャネット・ジャクソンは、このアルバムを一か八かの賭けのような作品として作り始めた。彼女は、音楽の方向性を根本的に変えたいと考えていたのである。2001年、彼女は筆者にこう語っている。

「あれは私にとってキャリア上の岐路のような作品だった。もしうまくいかなかったら、学校に戻ろうと思っていたの。学校では企業法を勉強していたからね。でも、もう一回音楽をやってみようと思ったの」

ジャム&ルイスと組む前、ジャネットは自分の活動を“コントロール”できていないと感じていた。それはまるでプロデューサーの操り人形のような状態であり、音楽の方向性についての発言権はほとんどなかった。このアルバムのタイトル『Control』は、そういう心境から生まれてきたものだ。彼女は当時の心境はこう語る。

「以前の私は、曲を渡されて、“はい、これ歌って”と言われていた。それとは違うやり方で音楽をやってみたかったの。私は自分自身を表現したかったし、ジミーもテリーもそれを助けてくれたんだ」

ジャム&ルイスはジャネットの面倒を見て、その人となりを知り、彼女の世界に慣れ親しんでいった。そして、彼女の生活のさまざまな側面を題材として一緒に曲を作った。

「ジミーと私はミネアポリスの街のあちこちに車で出向いて、これまでの人生で私が経験したことについて話し合った。ありとあらゆることについて話をしたの。そのおかげで、あのふたりには心を開いて気楽に何でも話せるようになった。私は引っ込み思案なほうだったからね。私の親は人を信用できないタイプの人間だったから、私たち兄妹姉妹はかなり過保護な環境で、あまり人付き合いをしないまま育った。だからジミーとテリーのおかげで、私は心を開いて自分を表現できるようになったの」

 

自分ならではの声を見つける

驚くべきことに、『Control』からは全米R&Bチャートの首位を獲得した1stシングル「What Have You Done for Me Lately」以外にさらに4枚出ている。その4曲は反抗的なファンクの曲「Nasty」、ジャネットの独立宣言ともいえる自己主張の強いアルバム・タイトル曲「Control」、官能的な一面を見せる甘いバラード「Let’s Wait Awhile」、テクノ調のダンス・グルーヴ「The Pleasure Principle」だ。

また、陽気に盛り上がる「When I Think Of You」は、意外なことに全米R&Bチャートでは最高3位に留まったが、メインストリーム・チャートでは彼女にとって初の首位獲得曲となった。一方、スローなバラード「Funny How Time Flies」はシングルとしてリリースされなかったが、すぐにファンのあいだで人気を集めた。この曲については、のちにスムース・ジャズのカヴァー・ヴァージョンがたくさん生まれている。

ジャネット・ジャクソンにとって、ジャム&ルイスとのコラボレーションはまさにタイムリーなものだった。彼女は彼らからの助言に感謝しており、彼らのおかげでアーティストとしての自信が深まったことをありがたく感じている。

「あのふたりのおかげで私は成長することができた。プロデューサーの中にもさまざまな人がいて、時には “ちょっと待った。それはやりすぎだよ” とブレーキをかけてくるタイプの人もいる。でもジャム&ルイスは、“いや、もしこれが彼女のやりたいことで、彼女がこういう形で自分を表現したいというのなら、そのままやらせてあげよう” という感じだったの」

『Control』で、ジャネット・ジャクソンは人間としての自分を真の意味で反映させたアルバムを作り上げた。そのタイトルとは裏腹に、これはついに彼女を自由に解き放ったアルバムだった。

Written By Charles Waring



ジャネット・ジャクソン『Control』
1986年2月4日発売
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最新ベスト・アルバム
ジャネット・ジャクソン『
JANET JACKSON Japanese Singles Collection
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