一夜で歌詞を書き上げたノエルが歌うケミカル・ブラザーズの「Setting Sun」
1995年、オアシスはシングル「Some Might Say」を全英チャートの首位に送り込み、10月2日にはアルバム『(What’s The Story) Morning Glory?』を発表。まさにブリット・ポップの代表格として波に乗っていた。オアシスのメイン・ソングライターだったノエル・ギャラガーは、翌年に再び全英シングル・チャートの頂点に立つ。しかし、こちらのシングルはオアシスの作品ではなかった。オアシスと同じくマンチェスター出身のケミカル・ブラザーズが、セカンド・アルバム『Dig Your Own Hole』の第1弾シングル「Setting Sun」でノエル・ギャラガーをヴォーカリストとして起用したのだ。
マンチェスターでは80年代後期から90年代初期にマンチェスター(Manchester)と狂ったという意味のマッド(Mad)を組み合わせた「マッドチェスター・シーン」が盛り上がっていた。その代表格だったニュー・オーダーやハッピー・マンデーズは、ロック・ギターとテクノ・ビートを融合させてクラブ向きのロック・ソングを作り出していた。そしてケミカル・ブラザーズとノエル・ギャラガーも、そうした地元のダンス・ロックの盛り上がりに貢献することになった。明らかにザ・ビートルズの「Tomorrow Never Knows」から影響を受けた曲「Setting Sun」は、新世代のビッグ・ビート世代に強くアピールする内容だった。そして、この曲のヒットで、インディーズ・バンドのファンとクラブ愛好者がダンスフロアで一緒に踊ることになった。
この曲のバッキング・トラックを聴いたノエル・ギャラガーは、興奮のあまり一夜で歌詞を書き上げた。そしてわずか1日でヴォーカルのレコーディングとミキシングを終えている。ケミカル・ブラザーズのトム・ローランドによれば、発売当初は「No.1ヒットにしてはラジオで放送された回数が桁違いの少なさ」だったという。それでも「Setting Sun」は発売から1週間で10万枚を売り上げ、1996年10月12日に全英シングル・チャートで1位に到達。首位を2週間保ったあと、さらに9週間チャートに留まっている。
このシングルが起爆剤となり、アルバム『Dig Your Own Hole』は大ヒットを記録。これでケミカル・ブラザーズは、ビッグ・ビートの立役者としての評価を確固たるものにした。『Dig Your Own Hole』を皮切りに、このテクノ・デュオはアルバムを6枚連続で全英チャートの首位に送り込んでいる。また「Setting Sun」のヒットはノエル・ギャラガーにとっても嬉しい結果だった。彼はこの曲をライヴでずっと歌い続けている。またノエル・ギャラガーによれば、「Setting Sun」の歌詞はオアシスの未完成曲の一部を流用したものだった。その元々の曲はのちに完成し、2015年発表の彼のセカンド・ソロ・アルバム『Chasing Yesterday』で発表されている。
Written By Sam Armstrong
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ケミカル・ブラザーズ『Dig Your Own Hole』