ハーフスピード・マスターの第一人者マイルス・ショーウェルが語るCCRの素晴らしいサウンド

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Photo courtesy of the Fantasy Records archives

クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル(Creedence Clearwater Revival)ことCCRのハーフスピード・マスターに取り組むことは、ヴァイナル・マスタリングの第一人者であるマイルス・ショーウェルにとっては大いなる収穫だったという「短期間で多くの良いものが出てきたんです」と彼は言う。

クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルのカタログを現在のハイファイ・オーディオレベルにするため、苦心のプロジェクトを監督してきた彼は、「素晴らしい音楽を作っている男たちの集団」を聴く機会を楽しんできたが、CCRハーフスピード・マスターが入手可能になった今、彼は新旧のファンにも同じようにサウンドを体験して欲しいと語る。

CCRのハーフスピード・マスター>
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マイルス・ショーウェルは、ロンドンの神聖なるアビイロード・スタジオのマスタリング・エンジニアで、ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズをはじめとするポップスやロック界の大御所たちの作品に34年間携わってきた経験を持つ。彼は、CCRの結成50周年を記念に発売されたLPボックス・セット(購入はこちら)において、1968年から1972年に発売された全アルバム7枚のハーフスピード・マスタリングを担当した。

ショーウェルは、CCRがロック史の中で最も重要なバンドのひとつであり、さらに2018年の洗練された技術が時代を超えた録音のセットをどのように強化するかを証明している。彼は、ハーフスピード・マスタリングの手順と、これらの音源、そしてこの画期的なリリースについて教えてくれるため、アビイロードの2階にある彼の個人的な隠れ場所にuDiscoverMusicを招待してくれた。

「私は今までに多くのリマスタリングをしてきましたが、何かを大きく変えて認識できなくなるのは絶対に避けたいと思っています。デスク上には多くの機材があり、たくさんのイコライザーや素晴らしいバルヴ・コンプレッサーがあるからといって、それらを全て使わなければならないというわけではありません」

「(CCRのプロジェクトでは)まず、マスター・テープから起こされた、たくさんのハイレゾ・ファイルが送られてきました。私はそれらを全部聴いてみたのですが、一番の印象は、『うわー、これは本当に良い音だな』ということでした。何人かの男たちが同じ部屋にいて、素晴らしい雰囲気の中で、素晴らしい音楽を作っているように聴こえたんです」

 

「元に戻そう」

彼はCCRのハーフ・スピード・マスターズ・プロジェクトのために、ミニマルなアプローチを迅速に決定した。

「とにかく録音が良かったんです。当時のエンジニアは、マスタリングやポストプロダクションでの技術的な限界があったので、今の我々と比べてもはるかに良いサウンドを録音しなければならなかったんです。ありがたいことに、テープは良い状態で残っていました」

「ですので、私の姿勢は“元に戻そう”ということでした。これまで発売されていた音源には多くの処理が施されていて、徹底的にいじられすぎていました。それを元に戻して、ありのままの姿をさらけ出そう、と思ったのです。なぜなら、これらは素晴らしいサウンドのレコードだから。なので大体の部分は、50年前のままにしています」

彼は、当時の録音技術の限界とこのバンドの寿命が比較的短いことが、彼らの作品に特別な強さを与えていることに気づいたとショーウェルは熱く語る。

「彼らはこの4年間を非常に生産的に使ったので、この短い期間にたくさんの良い作品が生まれたのです」

「当時の人はこういったことをよくしていたようです。8トラックのテープしかないので、物事を一変できることはあまりできません。そのテープを何時間も、何週間もかけてコンピュータでこねくり回すみたいなわけにはいかず、それをそのまま生かすしかなかったんです。それが今回の録音でも伝わってきます。一番古いものは50年前のものですが、とても新鮮に聴こえます。目を閉じれば、その時代に戻ったような気分になれますね」

サウンドの職人であるマイルス・ショーウェルとの会話は、私たち音楽好きなら聞いたことはあるが、おそらく完全には理解していない「ハーフスピード・マスタリング」の複雑さを知る機会でもあった。依頼を受けた当初は、ショーウェル氏はまず多くの試聴をしなければならなかった。

 

「再生すると、信じられないほど素晴らしい音がする」

「人間の声を再生させるのが最も難しいんです。エネルギーが多く注入され、広域の情報が多いものだとその難しさは倍にもなってしまいます。皆さんシビランス(歯擦音)の多いレコードを聴いたことがあると思います。’s’s(エスィズ)という音はとても難しい。ですので、それらを落ち着かせようと必死になってやりましたが、どうしてもレコーディング全体にディエッサー(狭い帯域のみを圧縮できるコンプレッサー)をかけることだけはしたくなかった。というのは、そうしてしまうとギターや爽快なドラムやタンバリンにも影響が出てしまんです」

「作業場に座り、ヘッドフォンをして、全ての音を再生します。嫌な”s音”を見つけ、再生を止め、そこに焦点を絞るのです。文字通り小さな’s’を見つけて、その’s’を少しだけレベルを下げて、それを全て元に戻すと、他の全てが無傷になります。これが一番時間がかかるんです。全てのアルバムの、全ての曲の、全て歌詞を全ての単語をチェックしました」

「それが終わったら、ハーフスピード・マスターの準備になります。元となる音源を通常の半分の速度で動かして、ディスクカットの旋盤は33と1/3ではなく、16と2/3の速度でカットしています。なぜそうするかというと、ヴァイナル・レコードは機械的な作業だからです。スピーカーから聞こえてくるもの、音の波は、ただの波状の溝に過ぎません。“ブライト(歯切れがよく明るい音)”なものは、システムにストレスを与え、限界まで追い込んでしまいます」

「もし、そのすべてを2倍に減らすことができれば、一気に高域の情報はすべて中域になり、(ディスクに入れるのが)はるかに簡単になります。ちなみにカットしている時に聴いていてもぜんぜん面白くありません。というのは全てのサウンドがほんとうにゆっくりですから。でも再生してみると、信じられないような素晴らしいサウンドがするのです」

ハーフスピード・マスタリングは非常に時間のかかる作業で、通常のリマスターの2倍の時間がかかる。LPの17分のサイドを34分かけて再生するからだ。ショーウェルはその後、14インチのアセテート盤を作成するが、もし誤って誰かが触ってしまった場合は、ゴミ箱にすぐ捨てられてしまうほど繊細なものでもある。

「通常の半分の速さで録音するというのは、レコードのフォーマットに新しい何かをもたらします。素晴らしいサウンドのレコードを手に入れるためには、努力と時間をかける価値があるのです」

「いつもラジオで流れている素晴らしい曲がたくさんある」

CCRのハーフスピード・マスターズ・プロジェクトを終えて、ショーウェルはバンドのレガシーに新たな賞賛の念を抱いたと語る。

「どのアルバムにも最低でも2曲はヒット曲が入っていて “もちろん、これは知ってるよ!”ってなりますね。“Proud Mary” “Bad Moon Rising”、“Have You Ever Seen The Rain”…いつもラジオで流れている曲がたくさんあります。それには理由があります。ものすごくいい曲だからです」

彼は、録音のシンプルさが最大の強みであるということも発見した。特にCCRの初期の頃はそうであったと説明する。

12時間のセッションで出来上がったザ・ビートルズの“Twist And Shout”は素晴らしいサウンドでした。クリーデンスのファースト・アルバムもそうです。その中には、おそらくかなり短い期間で作られたと思われる素晴らしい曲がたくさんあるんですが、本当に良いできなんですよ」

彼はまた、新たなお気に入りを発見した。それは、CCRの物語の5枚目のアルバム『Cosmo’s Factory』に収録されているものだ。

「この作業をする前は知らなかったのですが、彼らのヴァージョンの“I Heard It Through The Grapevine”(オリジナルはグラディス・ナイト&ザ・ピップス)を本当に気に入りました」

「ディエッサーをかけている時は、何が起こっているかには集中してなくて、技術的なことしか考えていません。でもアセテートができたら、技術的にも音楽的にも聴くことができるんです。曲を聴いて、これは素晴らしいヴァージョンだと思ったり、なんて素晴らしいグルーヴなのかと感じたり。誰もが知っているヒット曲でも、もっと多くのことがそこにはあり、いつも何かを発見する価値があるんです」

CCRのハーフ・スピード・マスタリングの7LPボックス・セットは、ジョン・フォガティという卓越したチーフ・ソングライターとリード・シンガーを擁し、見事にまとまったバンドの仕事ぶりを再確認させてくれるものとなっている。ショーウェルはこう語る。

「信じられないほど見事なヴォーカリストで、何て素晴らしい声なんだと思います。そういう人物は、どのバンドにも少なくとも一人は必要なんです…。バンドは個のピースが集合したものですが、彼のようなピースは重要なものですね」

「一般的にみんなで一緒に演奏して、全てのものに要素を足していくと、合計以上のものになっています。今回の録音を再生した時に聴こえてきたのがそれです。ハーフスピードの作品をチェックすることを皆さんにお勧めします。すべてが良いですんですから」

Written By Paul Sexton



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