ボニー・レイットの大復活作『Nick Of Time』
アーティストのキャリアにアルバムが影響を与えるように、もしアルバム・タイトルが同じように影響を与えるものだとしたら、1989年3月21日に発売されたボニー・レイットの『Nick Of Time』は良い例になるだろう。
非常に才能に溢れるシンガー・ソングライターでギタリストでもあるボニー・レイットは、絶賛された一連のアルバムを通じて他のミュージシャンたちや忠実なファンたちからの尊敬を得るようになったが、80年代後半になると少しずつ売り上げが下降していくことに悩まされていた。ボニー・レイットは1977年の作品『Sweet Forgiveness』で最高位トップ30入りを果たし、ゴールド・ディスクを獲得したが、それ以降幸運はゆっくりと下降していった。1986年の『Nine Lives』(*なかなか死なないことや、しぶとい等を意味する)が115位で行き詰まると、メジャー・レーベル・ミュージシャンとしてしぶとく生き残ることは難しいと思われた。
しかし、キャピトル・レコードとの契約の話が舞い込み、プロデューサーのドン・ウォズとの新しい幸運な巡り合いもあり、初期のアルバムに収録されていたような素晴らしい曲との縁も手に入れた。そして出来上がったアルバム『Nick Of Time』はアメリカだけで500万枚の売り上げを果たし、3週間連続1位にランクインされ、グラミー賞を3賞受賞した。
『Nick Of Time』はドン・ウォズと共に有名なキャピトル・スタジオなどを含む様々な場所でレコーディングされ、ボニー・レイットの自由奔放な心とブルース・ロック独特な芸術性を妥協することなく捉えている。シャッフルしていく魅力的なビートときめ細かいギター、そして二度目のチャンスについて歌う歌詞のタイトル・トラックは、アダルト・コンテンポラリーのトップ10入りを果たし、その後には幾つもの高品質の曲が世に発表されていった。
その一例として、あの尊敬すべきジョン・ハイアットの「Thing Called Love」のカヴァー、ボニー・ヘイズの「Love Letter」と「Have A Heart」のカヴァー、そしてジェリー・リン・ウィリアムスの「Real Man」と「I Will Not Be Denied」のカヴァーと、どれも素晴らしいリメイクとなっている。最終トラック「The Road’s My Middle Name」はボニー・レイットが作曲を手掛け、彼女の人生について歌われている。
翌年のグラミー賞にて『Nick Of Time』は最優秀アルバム賞と最優秀女性 ロック・ヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞し、タイトル・トラックでは最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞した。それはすべてボニー・レイットにとっては“Nick of Time(間一髪)”の出来事だった。
Written By Paul Sexton
ボニー・レイット『Nick Of Time』
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