ボブ・マーリー「Three Little Birds / 3羽の小鳥」解説:徐々に評価を高めていった名曲
ボブ・マーリー(Bob Marley)は才能溢れるソングライターだった。だがそんな彼にも、どこかからの贈り物のように楽曲のヒントが降ってくることがあったという。実際、喜びに満ちたシンプルな1曲「Three Little Birds(3羽の小鳥)」は、自然からの贈り物だった。
数回に亘りヒットを記録している同曲は、ジャマイカの首都キングストンにあるホープ・ロード56番地の窓のそばに現れた鳥たちを題材に作曲された。そこはマーリーの興したレーベルであるタフ・ゴングの本社であり、彼が70年代後半に暮らしていた場所でもあった。
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自然を愛したボブ・マーリー
ボブは自然を愛していたし、ジャマイカは美しい自然に恵まれていた。エキゾチックな姿のフキナガシハチドリや可愛らしいイエスズメなどに、彼は心惹かれていたのだ。そのため、植物や動物はメタファーとして、彼の楽曲にしばしば登場してきた。
「Small Axe」の樹木や、「Iron, Lion, Zion」のライオン、道を踏み外した若者の例えとして登場する「Craven Choke Puppy」の犬などはその好例である。また、空を飛ぶことができる鳥たちの能力は、地面から離れられない人間と対になるものとして「Wings Of A Dove」や「Rastaman Chant」(ただし、後者の歌詞に出てくるのは天使だ)などに歌われてきた。
だが同様に鳥たちを題材にした「Three Little Birds」はその中でも、特別な楽曲だけが到達できる”高み”へと上り詰めた。つまりこの曲は、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの楽曲を聴いたことのない人たちにも愛される1曲になったのだ。”レゲエ”と聞くとスーパーマーケットに売っているソースが思い浮かぶような人たちも、この曲を知っているのである。
「彼が歌詞をかたちにしていく様子は見事だった」
ギリー・ギルバートはボブの親しい友人で、ツアー・マネージャー、運動のパートナー、そしてツアー中か否かにかかわらず彼に”アイタル・フード”を用意する料理人でもあった人物。そんなギルバートによれば、ボブはヒバリが歌を歌うように、ごく自然な流れで「Three Little Birds」を書き上げていったのだという。2006年、彼は作家のヴィヴィアン・ゴールドマンにこう語っている。
「3羽の小鳥のことは覚えているよ。可愛い小鳥たちが、ホープ・ロードの窓辺にやってきたんだ」
彼はまた、ボブの作曲の様子について「彼が歌詞をみるみる形にしていく様子は見事だった」と回想している。一方、ボブのバック・ヴォーカルを務めた女性トリオのアイ・スリーは、歌詞に自分たちのことが歌われていることに気づいたという。ときどき、ボブは彼女たちのことを”3羽の小鳥”と呼んでいたのだ。元メンバーのマーシャ・グリフィスはこの曲について次のように振り返る。
「私たちはあの曲が大好きだった。レコーディングをしていたときから、私たちの曲だって確信していたの」
着実に評価を高め、ついには”名曲”に
「Three Little Birds」は、1977年発表のアルバム『Exodus』―― 1999年にタイム誌が”20世紀最高のアルバム”に選んだ名盤だ ―― のB面にひっそりと収録されていた。そんな同アルバムのB面にはヒット・シングルとなった「Jamming」や「Waiting In Vain」が収められ、もう一方のA面はルーツに深く根ざしたサウンドで批評家から高い評価を受けていた。
そのため、表題曲の「Exodus」やスピリチュアルな内容の「Natural Mystic」などと比べ、「Three Little Birds」が少々薄口な1曲だったのは確かだ。この曲で繰り返し歌われるのは、「どんなことだって、きっとうまくいく / every little thing is gonna be alright」という小鳥たちからのシンプルなメッセージだった。
だが、ボブが音楽活動を始めてから世界的な人気を得るまでに10年以上を要したように、「Three Little Birds」も後々になってようやく注目を浴びることとなった。おそらく、同曲が1977年当時にシングル・カットされなかったのは、歌詞のメイン・フレーズがそのまま曲名になっていないからだろう。
実際、この曲のタイトルが「Don’t Worry About A Thing」、あるいは「Every Little Thing Is Gonna Be Alright」だと思っているリスナーはいまでも存在している。しかし1980年、「Three Little Birds」はアルバムという名の”鳥かご”から放たれ、シングルとしてリリースされた。
結果は全英チャートでトップ20圏内に入るのがやっとだったが、この曲はそれから着実に評価を高め、最後には”名曲”と呼ばれるようになった。パワフルで、活力と高揚感に溢れた同曲は、陰に隠れたまま忘れ去られるような楽曲ではなかったのである。
いまなお色褪せない魅力を持つ楽曲
ボブの録音から数十年、「Three Little Birds」は苦難の多い人生に希望や喜びをもたらしてくれる楽曲として、多くのアーティストにカヴァーされるようになった。
例えば、プリンスが率いたレヴォリューションのメンバーから成るウェンディ&リサもそんなアーティストの一つ。彼女たちは2012年、カレン・デヴィッドをシンガーに迎え、アメリカのテレビ・ドラマ『TOUCH/タッチ』に自らのカヴァー・ヴァージョンを提供した。
また、マルーン5も2018年に同曲のカヴァーを発表しているほか、ロビー・ウィリアムズも新型コロナウィルスが猛威を振るっていた2020年、”コロナ・オケ”と称したインスタグラムの投稿でこの曲を歌っている。
ジギー・マーリーとショーン・ポールは、2004年のアニメ映画『シャーク・テイル』のサントラとしてこの曲を録音。スティーヴン・マーリーは『Legend: Remixed』で同曲のリミックスを手がけた。
さらにビリー・オーシャンもこの曲を自身の編集盤『The Best Of』に収録し、ブラジル音楽界のレジェンドであるジルベルト・ジルも、同じ名前の編集盤にこの曲を収めている。
そして、テレビ番組『Britain’s Got Talent』に出演し、子どもながらにスターとなったコニー・タルボットも2008年にこの曲をカヴァー。彼女の歌うヴァージョンは英米両国で際立った成功を収めた。
だが、この曲の決定版がボブ・マーリーによるオリジナル・ヴァージョンであることに変わりはない。「Three Little Birds」はボブ自身と同様、世に出て久しいが、”3羽の小鳥”がボブに届けたメッセージは少しも色褪せていないのだ。
Written By Ian McCann
映画情報
『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
■監督:レイナルド・マーカス・グリーン(『ドリームプラン』)
■出演:キングズリー・ベン=アディル(『あの夜、マイアミで』)、ラシャーナ・リンチ(『キャプテン・マーベル』)
■脚本:テレンス・ウィンター(『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』)、フランク・E ・フラワーズ、ザック・ベイリン(『グランツーリスモ』)、レイナルド・マーカス・グリーン
■全米公開:2024年2月14日
ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ
『One Love: Original Motion Picture Soundtrack』
2024年2月9日配信
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