【特集】ブラック・ミュージック・リフレイムド:イントロダクション
uDiscovermusicで連載する「Black Music Reframed/ブラック・ミュージック・リフレイムド(ブラック・ミュージックの再編成)」は、黒人音楽をいままでとは違うレンズ、もっと広く新しいレンズ、ジャンルやレーベルではなく、クリエイターからの目線で振り返ってみよう、という企画だ。
売り上げやチャート、初出や希少性はもちろん大切だ。だが、その文化を形作るアーティストや音楽、大事な瞬間は、必ずしもベストセラーやチャートの1位、即席の大成功から生まれているとは限らない。このシリーズでは、いままで見過ごされたか、正しい文脈で語られてこなかったブラック・ミュージックに、黒人の書き手が焦点を当てる。このシリーズのイントロダクションでは、当プロジェクトのエディターのひとり、ネイマ・コックレーンが、ブラック・ミュージックについて取り組み、発信するストーリーがなぜ重要で、かつ必然なのか説明する。
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ブラック・ミュージック・リフレイムド:イントロダクション
レコード音楽が始まったときから、黒人パフォーマーによる貢献や影響は、消されたり盗まれたり、細分化して割り当てられたりした歴史のなかで絡まり、巻き取られてきた。ブルースやロックン・ロールが商業化された黎明期から、権利を主張できるようなポジションにいなかった黒人アーティストが作り出した曲やスタイルは、非黒人のアーティストの作品とされたのだ。黒人文化におけるファッションや美容と同じように、ブラック・ミュージックも商業的に成功はするものの、とくに価値があるとは認められなかったのである。
ブラック・ミュージックの範疇は、何年も議論されてもきた。アメリカで、「ブラック・ミュージック」といえば、通常はブルース、ゴスペル、ソウル/R&Bとヒップホップである。しかしながら、黒人音楽はおそらくすべてのアメリカ音楽の土台であり、すべてのジャンルに黒人のアーティストが参加しているのだ。それによって、黒人のアーティストと彼らの功績は二重の闘いを強いられている。黒人以外の人々が決めた基準において価値が低いと認識されている音楽に押し込められる闘いと、ブラック・ミュージック自体の定義と、さらにゴスペル、R&B、ヒップホップ以外の音楽をやっている黒人アーティストにたいする認識を広める闘いである。
長年にわたって、音楽業界で決定権をもつ人たちは、アーティストと彼らの音楽をより売るために、自分たちが考えた響きのいい名称をつけてきた。だが、人種隔離があった1920年代にジャズとブルースのアーティストを売り出すためにつけたレイス・レコーズ(Race Records)から、リズム&ブルース、R&B、ソウル、クワイエット・ストーム、アーバンまですべて、一様に「ブラック・ミュージック」における「ブラック」の部分に真正面に向き合うのを避けてきたのだ。
アメリカの国会が黒人のアーティストと彼らの貢献を毎年祝うために、6月をアフリカン・アメリカン・ミュージック月間と定めたときでさえ、当初、ブラック・ミュージック月間という名称だったのが正式に法令化するときには変えられてしまった。ジャンルのレッテルで狭く区切ってしまったため、メインストリームで成功した相対的に少ないミュージシャンやパフォーマーだけを取り上げる結果になったのだ。ジャンルやレーベルを超越したアーティストだけが、ロックやポップを聴く白人が多い幅広い層にとってのブラック・ミュージックであり、彼らの物語だけがよく語られ、広まったのだ。
音楽業界に公平を期すと、ジャンルは音楽性だけでなく発祥を正確に示すために作られたものである。1970年代、ニューヨークのラジオDJ、フランキー・クロッカーがアーバン・ラジオを作り出した。これは、ファンクやディスコ、ダンス・ミュージック、ニューヨークのダンスフロアーで人気だったR&Bを混ぜてかける画期的なフォーマットだった。このフォーマットが普及し、公民権運動後の黒人中間層の成長が拍車をかける形で、メジャーなレコード会社は黒人のエグゼクティブによるアーバン部門ができ、黒人の才能を発掘するための合弁事業が進み、既存の黒人レーベルを買い取ってそのカタログを吸収した。
だが、これらのジャンル名は必ずしもいい年輪の重ね方をするとは限らず、時に故意ではない示唆を含んでしまう。「レイス・レコーズ」という言葉などは、分析する必要すらない。善意から生まれた「アーバン」は、広まった瞬間から攻撃の対象になった。「ブラック・ミュージック」でさえ、不都合がある。黒人のアーティストは、すべての音楽ジャンルのみならず、世界中に存在するからだ。
黒人はもちろん、黒人のエンターテイナーもクリエイターも様々な人がいるにもかかわらず、R&Bやヒップホップ、ニューソウル(ネオソウル、オルタナティヴ・ソウル、トラップソウルなどなど)といったアメリカの音楽的な区切りに入りきらない大半の人が、ブラック・ミュージックを語るときに取り残され、細かいニッチマーケットやサブ・ジャンルの参照の対象にだけされる。
現在の黒人に対する正義、平等、等価を巡る議論のなかで、何十年にも渡ってこの文化に権力を持っていたエグゼクティブと、クリエイターたちの関係を見直す必要がある。それに準じた姿勢で、このシリーズはアーティストや歴史的瞬間、立役者たちの再評価する狙いがあるのだ。彼らの功績や重要性、存在そのものが、いままで完全に見過ごされたり、きちんとした形で語られなかったりしたからである。ここでは、メインストリームで消費されたとの理由ではなく、インパクトや影響、あまり知られていない芸術的な達成に着目してアーティストや曲、アルバムを解説したい。
ブラック・ミュージック・リフレイムド:シリーズ
このシリーズで前面に出して語りたいのは、現役当時に見過ごされたかクレジットされなかった、もしくはその両方の目に遭ったアーティストの影響についてである。たとえば、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンと同時期に活躍したキャノンボール・アダレイ。彼は、チャーリー・“バード”・パーカーの後継者として、20世紀半ばのニューヨークのジャズ・シーンになだれ込み、1967年のシングル「Marcy Marcy Marcy」で、黒人のジャズ・ミュージシャンとしてメインストリームに斬り込んだ。
また、ラップ初の、真のスターであるカーティス・ブロウは、メジャー・レーベルと契約した最初のラッパーでもある。彼のパフォーマンスにおけるエネルギーとカリスマ性、スタイルはラッパーの振る舞い方の青写真となった。
MCハマーのようによく知られたスーパースターでさえ、まだ語られていない話がある。彼は、1990年、数百万枚も売った『Please, Hammer Don’t Hurt ‘Em』で、ラップとポップの間の壁を叩き壊して名を轟かせた。だが、その彼が弩級のヒットを飛ばした時点でさえ、自分のレーベルとプロダクション・カンパニーのブッシュ・イット・レコーズをすでに起業して、インディーながら6万枚を売り上げてからキャピトル・レコーズとパートナーを組んだ事実は、ほとんど忘れられていた。
クィーン・ラティーファは、テレビと映画で成功する前は一流のラッパーだったことは広く知られていても、音楽的に思い切った横断をし、ジャズ・アーティストとしてグラミー賞に称賛され、1位にもなったアルバムを作ったこと知られていない。
過去に過小評価されたのはアメリカの黒人アーティストだけではない。1960年代、キング・サニー・アデは、ナイジェリアの王室の地位を継承するのを辞退し、音楽で自らに王冠を授けた。アイランド・レコーズは、当時亡くなったばかりだったボブ・マーリーの後継者の位を引き継ぐことを期待したが、アデは自分の音楽をやり続け、アフリカ大陸から西洋世界へと開く多くの扉を開いたのだ。
キューバのラッパー、メロー・マン・エースは、1987年に『Escape From Havana』をリリースして文化の壁を壊し、ラティーノのラッパーとして初めてシングルをビルボードのトップ40に送り込んだ。
このシリーズでは、ジャズやソウル、アフリカ音楽やブラジル音楽にハープを持ち込んだドロシー・アシュビーといった、音楽的な常識を覆したアーティストも紹介する。名前は知らないけれど、スティーヴィー・ワンダーの「If It’s Magic」で、彼女の演奏に目をつぶって身を委ねた人は多いだろう。
また、シーンのずっと裏方として、黒人レーベルの責任者として黒人のアーティストを育み、機会と居場所を与えて前進させ、アーティストに寄り添って彼らの物語を理解し、繋げていった先駆者たちもいる。
究極的に、「ブラック・ミュージック・リフレイムド」は、黒人音楽を今までとは違うレンズ、もっと広く、新しいレンズ、ジャンルやレーベルではなく、クリエイターからの目線で見てみよう、と促す企画である。また、影響についても考え直してほしい。売り上げやチャート、初出や希少性は大事だが、文化を形作った黒人のアーティストやクリエイター、音楽そのものを、彼らを念頭において構築されてはいないシステムやバロメーターだけで測るわけにもいかない。ブラック・ミュージックの影響をいまいちど、見つめ直すときが来たのである。
Written By Naima Cochrane
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