ブラック・アイド・ピーズ『THE E.N.D.』解説:26週連続首位の2曲を収録したポップの新時代
2000年代、ブラック・アイド・ピーズ(The Black Eyed Peas)は音楽界で最も有力なグループのひとつだった。
2003年にファーギーが初めて参加したサード・アルバムの『Elephunk』、2005年の『Monkey Business』といったアルバムから生まれたシングルの多くは、リリースされるやいなやベスト盤に入る大ヒット曲のような印象を残し、このグループが音楽的な面でも文化的な面でも大きな力を持っていることを証明していた。
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2005年、ブラック・アイド・ピーズが『Monkey Business』をリリースしたあとの4年間には、さまざまなことが起こった。特にファーギーは2006年にソロ・アルバム『The Dutchess』をリリースし、この時代で最も成功したポップスターのひとりと見做されるほど頭角を現していた。ウィル・アイ・アムがプロデュースした『The Dutchess』で聴けるサウンドはブラック・アイド・ピーズの作品の延長線上にあり、『Monkey Business』のリリース後からグループの沈黙期の空白を一時的に埋めるような役割を果たしていた。
2000年代前半にシングルを連発して時代の寵児となった彼らは、新作『THE E.N.D.』を引っさげて音楽界の最前線に復帰した。
彼らはそれまでにもヒット曲をリリースしてはいたが、この『THE E.N.D.』はさらに大きなものを目指したアルバムだった。アルバム・タイトルは「The Energy Never Dies(このエネルギーは決して枯れることがない)」という意味だ 。2作前の『Elephunk』がハウス・パーティーのための音楽、前作『Monkey Business』がクラブのためのサウンドトラックであったとすれば、『THE E.N.D.』はまるでアリーナのために作られた作品だった。ここに満載されていたシンセ・アンセムはエレクトロニック・ポップの新時代を切り開くと共に、ヒップホップをメインストリームに定着させるのに一役買った。
未来を垣間見せた作品
アルバム冒頭を飾る「Boom Boom Pow」で、彼は「デジタルなネクスト・レベルのビジュアル (digital, next-level visuals) 」を自慢していた。さらに「Imma Be」では評論家をディスり、世界征服を目論んでいる。ちなみに『THE E.N.D.』リリース後のツアーでは、ロボコップをモチーフにしたコスチュームを着てDJプレイを披露することもたびたびあった。
2009年6月3日に『THE E.N.D.』がリリースされたとき、ポップスとダンス・ミュージックのあいだの壁はほとんど存在していなかった。そうしたテクノロジーの融合をレディー・ガガと並んで推し進めていたのが、ブラック・アイド・ピーズだった。
彼らは「Boom Boom Pow」と「I Gotta Feeling」のおかげでかつてないほどメインストリームで聞かれる存在となり、この2曲で、全米シングル・チャートで26週連続首位という記録を打ち立てたのである。
2000年代初頭はダンス・ポップの全盛期で、多くのスターが現れては使い捨て容器のように放り出され、忘れ去られていった時代だった。しかしながらブラック・アイド・ピーズには、ウィル・アイ・アムのプロデュースという半ば公然の切り札が常にあった。このスーパー・プロデューサーは、あの時期に素晴らしい功績をたくさん残している。たとえばコモンやタリブ・クウェリといったヒップ・ホップ・アーティストの作品を手がけ、その一方でフロー・ライダー、リアーナ、さらにはU2といった名だたるヒット・メーカーたちと組むこともあった。
ウィル・アイ・アムの他のプロデュース作品の多くと同じように、『THE E.N.D.』はアンセムのような決めフレーズとレイヴ、ブレイクビーツを組み合わせたアルバムになっており、彼の代名詞ともいえるサウンドでもあった。また、ここではカニエ・ウェストの『808s & Heartbreak』が描き出したテクノ/R&Bのサウンドからもヒントを得ている部分もあった。
「エレクトリック・スタティック・ファンク」
この時点でのブラック・アイド・ピーズは、ヒットメーカーであると同時に自らの過去の作品を再利用するアーティストでもあった。たとえばファーギーは前作『Monkey Business』の「My Humps」のフローを「Alive」で使い、ウィル・アイ・アムは「Rock That Body」で自己流のダフト・パンクを表現している。
「Imma Be」「I Gotta Feeling」「Boom Boom Pow」という3曲のシングルが続けざまにヒットしたおかげで、ブラック・アイド・ピーズは自分たちの複数の曲がチャート上で互いに競い合うという状態になった。そして1枚のアルバムからアメリカのシングル・チャートのトップに達したヒット曲が3曲も生まれたのである。そうした記録が打ち立てられるのは、実に19年ぶりのことだった。
メンバー自身の言葉を借りれば、『THE E.N.D.』は「エレクトリック・スタティック・ファンク(Electric static funk)」を探求する作品だった。創立メンバーのウィル・アイ・アム、アップル・デ・アップ、タブーの3人、そこにファーギーが加入してからというもの、ブラック・アイド・ピーズはポップ、ヒップホップ、ダンス・ミュージックの完璧な組み合わせを実現するために、そのサウンドを進化させ続けていた。
時代を決定づけた作品
このアルバムには向上心にあふれ、人の心を惹きつける瞬間もある。その例としては、スローでパワフルな「Meet Me Halfway」が挙げられるだろう。それに加えて、抑えきれないエネルギーに満ちあふれた大ヒット曲「I Gotta Feeling」もある。これは、歴史に残る最高に魅力的な曲のひとつである。この曲ほどチャートの首位に長期間留まる曲はそうそうあらわれることはない。
『THE E.N.D.』はこのバンドの人気を確立した作品というだけでなく、ひとつの時代を決定づけた作品でもあった。その影響力は、リリースされてから何年にもわたってさまざまなところに表れてきた。たとえば「Starships」時代のニッキー・ミナージュ、LMFAOの「Party Rock Anthem」、ケイティ・ペリーの「Teenage Dream」、フロー・ライダーの「Club Can’t Handle Me」といった具合だ。さらにそのDNAは、ルーペ・フィアスコの「The Show Goes On」のような意外なところにも顔を出している。
どういう視点から考えてみても、エネルギーは枯れていなかった。タイトルは『THE E.N.D.』に短縮されたかもしれないが、ブラック・アイド・ピーズにとって、このアルバムは“The End (おしまい) ”どころか創作活動の新たな始まりを表していたのである。
Written By Patrick Bierut
ブラック・アイド・ピーズ『THE E.N.D.』
2009年6月3日発売
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