【全曲試聴付】最高の男性ロック・シンガー・ベスト100:世界を変えた伝説のヴォーカリストたち
伝説的なロック・シンガーになるためには何が必要なのだろうか? ステージの存在感や大観衆を熱狂の渦に巻き込む能力は必須だろう。とはいえ、優れた男性ロック・シンガーにはもっとさまざまな力が備わっている。看板であるヴォーカリストが広い音域、強力な歌声、歯切れの良い発声、巧みなコントロール能力を持ち合わせていれば、そのバンドは幸先の良いスタートをきることができる。しかし本物の伝説になるためには、既成の枠を壊し、観客の胸を打ち震わせ、とてつもないカリスマ性を持つ必要がある。それで初めて、別格の存在になれるのである。
そうした要素の一部は本人の努力で学び取ることができる。しかし本当に伝説的なヴォーカリストは唯一無二の個性派であり、人の手で作り上げることはできない。自分の強みが何であるにせよ、ヴォーカリストは観客と心を通わせるという過酷な役割を担わされている。そして、今回の男性ロック・シンガー・ベスト100リストでもいくつかの例が確認できるように、ステージに立つという役割は、文字通り、生きるか死ぬかの問題になりかねないのである。
最高の男性ロック・シンガー100人のリストを作り上げるのはかなり大変な作業だ。偉大なる声のすばらしさ/力強さというものは、人によって定義がさまざまに異なるからだ。もしこのリストから漏れている歌手がいると感じた方は、是非その歌手の名を記事末尾のコメント欄に書き込んでいただきたい。
<関連記事>
・【全曲試聴付】最高の女性ロック・シンガー・ベスト30
・ロック界のベスト・サイドマン10人:正当に評価されるべきミュージシャン達
・史上最高のジャズ・シンガーTOP50
・史上最高の女性ジャズ・シンガー・ベスト25
100位 : マーク・E・スミス
マーク・E・スミスはザ・フォールの今は亡きヴォーカリストだ。今回のリストにふさわしいかどうかで最も議論を呼びそうな人選かもしれない。とはいえ、彼の強いマンチェスター訛り、謎めいた歌詞、独特の不明瞭な歌い方はとても教科書通りとは言えない個性的なものだ。それだけでも、今回のリストに相応しいヴォーカリストだと言える。
99位 : ジェフ・バックリィ
30歳という若さで事故死したジェフ・バックリィは、もし存命であれば輝かしいキャリアを歩んでいたことだろう。生前に発表された唯一のアルバム、1994年の『Grace』で、彼は4オクターブの声域をフル活用し、自ら作った名曲 (「Dream Brother」「Last Goodbye」) のみならず、ほかのソングライターの作品をも魅力的な形で歌い上げていた。
その例としては、ジェームズ・シェルトンの「Lilac Wine」、レナード・コーエンの「Hallelujah」、ベンジャミン・ブリッテンの「Corpus Christi Carol」が挙げられる。中でも「Corpus Christi Carol」は全編を通して高いファルセットで歌われている。
98位 : ジャック・ブルース
ロックの世界に初めて出現したスーパーグループ、クリームのメンバーだったジャック・ブルースはその巧みなベースの演奏とすばらしい曲作りの才能が高く評価されている。とはいえ、一方で彼は非常に洗練されたヴォーカリストでもあった。そのヴォーカルは力強さと共にメロディアスな声質も兼ね備えており、クリームのダイナミックなブルースやサイケデリック・ロックにぴったりだった。
97位 : キャプテン・ビーフハート
ドン・ヴァン・ヴリートことキャプテン・ビーフハートは、5オクターブという驚異の声域の持ち主。その歌声があまりに強烈だったため、デビュー・アルバム『Safe As Milk』の「Electricity」のレコーディング中にスタジオのマイクを破壊したと噂されている。
そんな彼は、デルタ・ブルースに影響された唸り声で有名だ。初期のアルバムには、ハウリン・ウルフやロバート・ジョンソンといった初期のブルース歌手からの影響が色濃く表れている。とはいえ、後期の作品『Doc At The Radar Station (美は乱調にあり) 』や『Ice Cream For Crow (烏と案山子とアイスクリーム) 』はブルース、フリー・ジャズ、ロック、アバンギャルドといったさまざまな要素を融合させており、聴く者を驚かせるようなすばらしい世界を作り出している。
96位 : リヴォン・ヘルム
ザ・バンドの創設メンバーのひとりでドラマーのリヴォン・ヘルムは、ピアニストのリチャード・マニュエルやベーシストのリック・ダンコと共にリード・ヴォーカルを担当していた。この3人はいずれも個性的な声の持ち主だったが、ヘルムの高音ヴォーカルは常に優雅さと厳粛さを曲に付け加えていた。それが特に目立っている例としては「The Night They Drove Old Dixie Down」「Up On Cripple Creek」、そしてこのバンドの代表曲「The Weight」などが挙げられる。
95位 : ビリー・アイドル
元ジェネレーション・Xのヴォーカリストで1980年代にソロ活動に転じたビリー・アイドルは特徴的なバリトン・ボイスの持ち主で、その歌声にはジム・モリソンやデヴィッド・ボウイからの影響がかなり感じられる。とはいえビリーはその声を存分に活かして「White Wedding」「Rebel Yell」「Eyes Without A Face」といった曲をドラマティックで魅力的なヒット曲に仕立て上げた。これらの楽曲は、いずれもMTVの定番曲となり、マルチ・プラチナ・ディスクに認定される大ヒットとなった。
94位 : ボブ・シーガー
ライバルのブルース・スプリングスティーンと同じように、ボブ・シーガーも肉体労働者を励ます情熱的な歌を作り、広い方面から支持を受けている。そのしゃがれた歌声は迫力満点だ。「Ramblin’ Gamblin’ Man」「Night Moves」「Turn The Page」といった永遠の名曲のおかげで、このデトロイト生まれのシンガー・ソングライターは7,500万枚以上のレコードを売り上げてきた。
93位 : モリッシー
モリッシーは悲しみに沈んだ物憂げな声で有名だ。そうした声の特徴は、賞賛されると同時に非難の的となることもある。それでもなお、彼はザ・スミスのリード・シンガーとして、またソロのスター歌手として抜群のレコードを吹き込んできた。フェミニズム、マンチェスター出身の女性作家シェラ・デラニー、グラム・ロック、パンクなどから深く影響を受けたモリッシーは、正式なヴォーカル・トレーニングを受けたことがない。しかしそのハイ・バリトン・ボイスは実に魅力的なポップ・ソングを飾ってきた。その例としては、ザ・スミスの「This Charming Man」、ソロでの「Suedehead」や「Everyday Is Like Sunday」などが挙げられる。
92位 : ピーター・フランプトン
ハンブル・パイやザ・ハードのメンバーとして活躍してきたピーター・フランプトンは、1970年代中期に傑作ライヴ・アルバム『Frampton Comes Alive!』でスーパースターの地位についた。このアルバムは800万枚以上を売り上げている。ヴォーカリストとしての魅力もさることながら、フランプトンはトーキング・モジュレーター (口で楽器のサウンドをコントロールできるエフェクター) の使い手としても知られている。
~おすすめのトラック : 「Show Me The Way」~
91位 : ゲディー・リー
ラッシュのゲディー・リーをロック界を代表する偉大なベーシストのひとりとすることに異論はないだろう。とはいえ彼のヴォーカリストとしての能力については、賛否が分かれがちだ。ゲディーは、ラッシュの1970年代の名盤、たとえば『Caress Of Steel』や『A Farewell To Kings』では高音域で歌っている。しかし1980年代初期の一連の傑作『Permanent Waves』や『Moving Pictures』では低めの声域になり、強烈な個性と魅力を漂わせている。
~おすすめのトラック : 「The Spirit Of Radio」~
90位 : イアン・アストベリー
イアン・アストベリーは、ザ・カルトが活動初期に発表したゴシック/ポスト・パンク作品ではやや明るめの声質で歌っていた。ただしこのバンドが1980年代後期から1990年代初期の『Electric』や『Sonic Temple』といったアルバムでより伝統的なハード・ロック・スタイルに移行してからは、内なるジム・モリソンが憑依したような歌声を披露している。それ以来、パワーと気迫をうまく注入したヴォーカルによって、アストベリーは高い人気を得ている。2000年代初期にザ・ドアーズが再結成したときには、憧れのモリソンの代役を務めるほどだった。
89位 : トミー・ショウ
ハード・ロック系の印象的な声に恵まれたトミー・ショウは、スティクスに在籍した有能なヴォーカリストのひとりである。このバンドの歴代ヴォーカリストの中でも、ショウが最高だと主張する人は多い。ハードなノリのアップテンポな曲であろうと、スローなバラードであろうと、あるいはこのふたつの中間にあるどんな曲調であろうと、彼はうまく歌いこなすことができた。彼の力がいかんなく発揮された曲としては、「Renegade」や不朽の名曲「Blue Collar Man (Long Nights) 」などが挙げられる。
~おすすめのトラック : 「Blue Collar Man (Long Nights) 」~
88位 : チェスター・ベニントン
2017年7月、リンキン・パークのチェスター・ベニントンは悲劇的な死を遂げた。その時点で彼は既に、21世紀の男性ロック・シンガーの中でもとりわけ重要なひとりとして認められる存在になっていた。ベニントンは魅力的なライヴ・パフォーマーであると同時に、彼の特徴とも言えるダミ声のヴォーカルと5オクターブ上の絶叫で有名だった。
~おすすめのトラック : 「One Step Closer」~
87位 : ポール・ウェラー
初期のポール・ウェラーは、ザ・フーのロジャー・ダルトリーやスモール・フェイセスのスティーヴ・マリオットといった1960年代のモッド・スターから影響を受けていた。彼は今もザ・ジャム全盛期の燃えるような情熱的な歌声を失っていない。とはいえ最近では繊細で優雅な歌い方に変化しつつあり、さまざまな曲調を歌いこなすようになっている。たとえば魅惑的な「Sunflower」、アコースティック調の「Friday Street」、ソウル・ジャズ風の「It’s Written In The Stars」といった具合。そこで聴ける歌声は、25年にわたるソロ活動の賜物と言っていいだろう。
86位 : アレックス・ハーヴェイ
白黒の横縞シャツがトレードマークだったアレックス・ハーヴェイは、1970年代のグラム・ロック・ブームの中で活躍したヴォーカリスト。危険な雰囲気を漂わせた演劇的なステージングは彼ならではのものだった。ハーヴェイは何よりもまずショーマンとして目立つ存在ではあったが、そのカリスマ性あふれる声はハード・ロック調の「Swampsnake」やジャック・ブレルの「Next」のカヴァーといったさまざまな曲に個性を付け加えていた。
ハーヴェイは1982年に亡くなったが、ジョン・ライドンやニック・ケイヴは彼から影響を受けたと公言している。またスレイドのノディ・ホルダーはハーヴェイの音楽を「デカダント・ロック・バーレスク」という言葉で形容している。
85位 : ロバート・スミス
ザ・キュアーのロバート・スミスは歌唱力という点では抜群とは言えないかもしれない。それでもなお、オルタナティヴ・ロックの中でとりわけ特徴的なヴォーカリストのひとりとして認められている。スミスは高域での歌唱を得意としており、その独特な声を通した感情表現に長けている。その何とも言えない魅力は、ザ・キュアーの『Faith』『Pornography』『Disintegration』といった名盤や、「Close To Me」「Lovesong」「The Lovecats」といったヒット曲で真価を発揮している。
84位 : スティーヴ・ミラー
アメリカのギタリスト/シンガー/ソングライターであるスティーヴ・ミラーは、シカゴの伝説的なブルース・シーンで頭角を現し、マディ・ウォーターズやバディ・ガイといった偉大なるブルースマンたちと共演してきた。彼の親しみやすく、それでいて堂々とした歌声は、1970年代初期にスティーヴ・ミラー・バンドのブルース・ロック・サウンドの中で前面に出てきた。このバンドのコンピレーション『Greatest Hits 1974-78』は13×プラチナ・アルバムという大ヒットになった。2016年、スティーヴ・ミラー・バンドは「ロックの殿堂」入りを果たしている。
83位 : ティム・バックリィ
1975年に28歳の若さで亡くなったティム・バックリィは、生前はあまり有名な存在ではなかった。しかし彼は多作なアーティストで、1967年の『Goodbye And Hello』や1970年の実験的な『Starsailor』では、ヴォーカリストとしての巧みな技巧が遺憾なく発揮されている。
『Starsailor』収録の「Song To The Siren」は、残響音たっぷりのアカペラで仕上げられていた。彼のファンであると自認しているジョン・ライドンは、「Sweet Surrender」(1972年のアルバム『Greetings From LA』に収録) を絶賛している。
~おすすめのトラック : 「Song To The Siren」~
82位 : フィル・コリンズ
ジェネシスのヴォーカリストとして絶賛されがちなのは、フィル・コリンズの前任者であるピーター・ガブリエルのほうだ。とはいえコリンズはガブリエル脱退後のヴォーカリストという大役を見事に務め、さらにはソロ歌手として大成功を収めた。1億枚以上という売り上げ枚数だけでも驚異的だが、コリンズの悲しみに満ちた歌声はありとあらゆる層のファンを獲得している。デス・キャブ・フォー・キューティーのベン・ギバードやクリエイション・レーベルのアラン・マッギーもコリンズの声を褒め称えている。
81位 : レイ・デイヴィス
キンクスのヴォーカリストであるレイ・デイヴィスは、その曲作りの才能を高く評価されている。その特徴的な語り口、見事な観察眼、ひねくれた社会風刺は、ロックやポップスの歴史に残る名曲の数々を生み出してきた。とはいえこの実にイギリスらしいソングライターは、心にしみる個性的な歌声の持ち主でもある。彼ならではのメランコリックな歌声は、「Tired Of Waiting For You」「Sunny Afternoon」「Waterloo Sunset」といった名曲で主役を務めている。
~おすすめのトラック : 「Waterloo Sunset」~
80位 : ジョン・アンダーソン
1968年にプログレッシヴ・ロックの雄イエスを盟友クリス・スクワイアと結成したマルチインストゥルメンタリスト/ソングライターのジョン・アンダーソンは、プログレッシヴ・ロック界きっての名ヴォーカリストと評されてもいる。万人受けはしないかもしれないが、その歌声には独特の個性があり、声域はテナーだ。アンダーソンはしばしばファルセットで歌っていると誤解されるが、そう聴こえるのは彼の地声である。2008年のピッツバーグ・ポスト・ガゼット紙でのインタビューで、彼は以下のように語っている。
「僕の声はアルト・テナーだから高音域は得意だけれども、ファルセットで歌うことはできない。高音はひたすら頑張って出すだけだね」
~おすすめのトラック : 「Close To The Edge (危機) 」~
79位 : ピーター・ガブリエル
元ジェネシスのフロントマンであっただけでなく、その後、ソロ・アーティストとしても成功。40年以上に亘って輝かしいキャリアを歩み続けているピーター・ガブリエルは、実に多くの注目すべき作品を発表してきた。その彼のアーティスティックな先進性やクオリティの高い名曲達と常に共にあるのが、近年ではハスキーさも増した力感ある声だ。
情熱と深みのある彼のヴォーカル・パフォーマンスを堪能するのにまずおすすめしたい3曲が、初のソロ・ヒット作品「Solsbury Hill」、あのケイト・ブッシュとのデュエット作「Don’t Give Up」、そしてアンチ・アパルトヘイトがテーマのすばらしい「Biko」だ。
78位 : グレッグ・オールマン
ブルース色濃いサザン・ロックの重鎮、オールマン・ブラザーズ・バンドのヴォーカリストであるグレッグ・オールマンの声には、彼が生きた時代を超えて人の心に響く慈愛が満ちている。ホワイト・ブルースの驚異的なシンガーの彼は、バンドの多くの主要曲 (「Whipping Post」「It’s Not My Cross To Bear」「Statesboro Blues」「Midnight Rider」) で傑出したパフォーマンスを披露し、何点もの注目すべきアルバムをリリースし続けた。
彼の最後のスタジオ・アルバムになった、ドン・ウォズのプロデュースによる2017年の『Southern Blood』もまた批評家達から絶賛され、ビルボードのトップ200で最高位11位をマークしている。
~おすすめのトラック : 「Midnight Rider」~
77位 : デイヴ・グロール
フーファイターズのリーダーであるデイヴ・グロールは、ニルヴァーナのバンドメイトであり友人であったカート・コバーンを失うという悲劇を乗り越え、現代のロック界の過去25年間で最も重要なフロントマンのひとりに挙げられる存在になった。心地良いハスキーなテナーで知られるグロールのスタミナと巧さは驚くべきもので、喉を潰したり息を切らせたりすることもなく高エネルギーの長いフレーズを歌いきってみせるのだ。
76位 : ニック・ケイヴ
非常に特徴のあるバリトンの持ち主ニック・ケイヴは、激しい感情表現と語り口調を交えた歌い方で有名であり、その声は彼が35年以上一貫してクリエイティブなキャリアを順調に維持するのに寄与している。彼の暴力的なリリシズムと、ザ・バースデイ・パーティーのステージで見せていたシアトリカルで強烈なパフォーマンスが、なにしろまず彼を際立たせた。そして彼はやがてロック界きってのパフォーマーのひとりとされるまでになったのだ。
ニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズやグラインダーマンでフロントマンを務めるケイヴは、黙示録さながらのブルース、悲しげで憂鬱なバラード、そして本物の信念を感じさせるサイケデリア風味のガレージ・ロックなど、あらゆるものを表現できることを見せつけてくれている。
~おすすめのトラック : 「Red Right Hand」~
75位 : ビリー・フューリー
リバプールで生まれたロナルド・ウィッチャーリーことビリー・フューリーは、1950年代後半の第一次ビート・ブームの時期に初期ロックン・ロールと映画界でスーパースターになった英国人シンガーだ (1983年にリウマチ熱で死去するまで、ソングライターとしては現役だった) 。バラード・シンガーとしても有名なフューリーだが持ち前の押しの強い声で1960年代に24曲ものヒットを記録している。
また特筆すべきはオリジナル・ナンバーを生んだ初のイギリス人ロックン・ロール・アーティストだったという点だ。彼の代表作は間違いなく1960年に最高位20位を記録したアルバム『The Sound Of Fury』で、収録されたほぼすべての曲が彼のオリジナルだった。
~おすすめのトラック : 「Wondrous Place」~
74位 : スティーヴ・マリオット
「情熱的」「ソウルフル」といった形容は彼のようなヴォーカリストのためにあると言っていいだろう。スティーヴ・マリオットは、同時代の中では忘れることのできない声の持ち主のひとりだ。デビューと同時にモッズ御用達だったスモール・フェイセス (そしてその後のハンブル・パイ) のフロントマンとして光り輝き、1960年代には「Whatcha Gonna Do About It」「Itchycoo Park」「Tin Soldier」といったヒット曲を発表し、ポール・ウェラーからスティーヴ・ペリーに至るまでさまざまなアーティスト達に影響を与えた。2011年、スティーヴ・ペリーはクラシック・ロック誌の取材に応え、以下のように述べている。
「サクラメント・オーディトリアムでハンブル・パイのパフォーマンスを観たことを覚えているよ。マリオットの声はオーディエンスに突き刺さってくるようだった。本当に、心から彼の声が好きだったよ。信じられないほどすばらしいシンガーだね!」
~おすすめのトラック : 「Whatcha Gonna Do About It」~
73位 : マーク・ボラン
技術的に優れたヴォーカリストだったわけではないかもしれないが、T・レックスのフロントマンであるマーク・ボランは自信と信念によってそれを補完した。そして1971年の終わりにアルバム『Electric Warrior (電気の武者) 』がイギリスで1位を獲得してビートルマニアならぬT・レクスタシーが沸き起こり、そうしたブームを追い風に彼はスーパースターの座に就いたのだった。
自身のヴォーカルの多重録音に長けた彼が、トニー・ヴィスコンティら一流プロデューサーたちの助力を得て残した代表的なヒット曲「Get It On」「Hot Love」「Children Of The Revolution」などは、今もにリスナーを惹きつけて止まない。
72位 : バディ・ホリー
ロックン・ロールの文脈で画期的という言葉を使う時、テキサス生まれのバディ・ホリーに肩を並べられるアーティストは数えるほどしか存在しない。ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトン、エルトン・ジョンといった未来のスターたちに大きな影響を与えたホリーは、自ら曲を書き、レコーディングし、プロデュースまで行っていたことで知られている。彼のヴォーカルの特徴は、しゃくり上げるような歌い方や地声とファルセットを巧みに切り替えるスタイルにある。
~おすすめのトラック : 「That’ll Be The Day」
71位 : ジェリー・リー・ルイス
ジェリー・リー・ルイスといえば常に議論がつきまとう。狂乱のピアノ・プレイや語り草になっている奇行などの何から何までが先行してしまい、”ザ・キラー”を自認するこのアーティストが実は幅広い声域を持った表現力豊かな無二のヴォーカリストだという事実が覆い隠されてしまうのだ。
永遠のヒット曲「Chantilly Lace」「Whole Lotta Shakin’ Goin’ On」「Great Balls Of Fire (火の玉ロック) 」といったトラックにおけるパワフルで情熱的なパフォーマンスについては語るまでもないが、「Would You Take Another Chance On Me」をはじめとするカントリー・タッチの定番曲で彼が見せる悲しげな佇まいもまた抜群にすばらしい。
~おすすめのトラック : 「Great Balls Of Fire」~
70位 : デヴィッド・ギルモア
ピンク・フロイドに加入した時のデヴィッド・ギルモアは、移り気の激しいシド・バレットの後釜に座るという気乗りしない任務を負っていた。しかし、フロイドはよりプログレ志向の方向に進み1970年代の初頭から中期にかけて『Meddle (おせっかい) 』『Dark Side Of The Moon (狂気) 』『Wish You Were Here (炎〜あなたがここにいてほしい) 』などの名盤をリリース、彼は自分の任務を果たすことができることを証明した。
ギルモアは、ロジャー・ウォーターズが『Animals』で台頭するまではバンドのメインのシンガーでもあった。「Fearless」「Learning To Fly (幻の翼) 」、そして『Dark Side Of The Moon』の「Breathe (生命の息吹き) 」といったトラックは、ギルモアのジェントルで優しい感触を伝える一例である。
~おすすめのトラック : 「Learning To Fly」~
69位 : ジェイムズ・ヘットフィールド
メタリカのフロントマン、ジェイムズ・ヘットフィールドはキャリア初期には高い音域で歌っていたが、バンドの3作目となる名盤『Master Of Puppets』以来劇的に進歩し、今やヘヴィ・ロック/メタル界で最も威厳のある声の持ち主のひとりになった。彼のトレードマークであるディープな表現力が増したのは1991年の『Black Album』の時点だと主張する者も多いだろう。彼はその後も高水準を維持し、バンドのまた新たな代表作『Hardwired…To Self-Destruct』でも新鮮で活気ある声を聴かせている。
68位 : ダン・レイノルズ
イマジン・ドラゴンズのフロントマンであるダン・レイノルズもまた、現代のロック界ですぐにそれとわかる声の持ち主のひとりだ。カリスマ的なバリトンが幅広く愛されているレイノルズだが、当初は自分の声に不安を感じており、実際のところ彼のバンドの初期の名作「It’s Time」がアメリカのヒットチャートを上昇している間、彼は声帯のポリープを取り除く手術を受けてさえいた。
しかし彼を称賛する者は多く、それ以来彼は自信と強さを増しており「Believer」「Thunder」「Natural」といった最近のヒット作を聴くと、現在の彼が絶好調にあることがわかる。
67位 : デヴィッド・ヨハンセン
デヴィッド・ヨハンセンの耳触りの良い堂々としたバリトンは、ニューヨーク・ドールズのDNAだとすぐにわかるもののひとつだった。それ以降の彼はドールズのアナーキーなプロト・パンクという枠を超え、1980年代にはバスター・ポインデクスター名義でジャズ・オリエンテッドな作品を発表。それらは広く受け入れられ、2000年代初頭にはザ・ハリー・スミスと組んでアメリカーナ風味の評価の非常に高い2枚のアルバムを制作している。
~おすすめのトラック : 「Personality Crisis」~
66位 : イアン・ギラン
ハード・ロック界の頼れるジャーニーマン、イアン・ギランは1969年にディープ・パープルのフロントに立ち、イギリスでヒットチャート1位に輝いた1972年の衝撃作『Machine Head』を始めとして何枚ものアルバムで成功を収めた後には自ら率いるギランでも上々の成功を謳歌し、そして短期間ではあるがロニー・ジェイムス・ディオに代わってブラック・サバスでも活動した。
そしておそらくやはりブルースと直球のハード・ロックが最も性に合うのだろう、1984年の『Perfect Strangers』からはディープ・パープルに完全復帰し、2017年のアルバム『Infinite』がイギリスで6位を記録するなど、相変わらずの人気を維持している。
~おすすめのトラック : 「Perfect Strangers」~
65位 : マイケル・スタイプ
マイケル・スタイプは元来は不明瞭でぶっきらぼうなヴォーカルで、それが同時に初期R.E.M.の重要作品『Murmur』や『Reckoning』を特徴づける要素であったのだが、『Lifes Rich Pageant』やパワフルな『Document』などで政治性を増すにつれて、表情豊かでハリのあるスタイルになっていった。
そしてバンドがいよいよアリーナに向けて準備を整えた1980年代後期には、「Losing My Religion」「Man On The Moon」「Everybody Hurts」といったグループの大のヒット曲によって、自分がロック界で最も非凡なヴォーカリストのひとりであることを何度も証明してみせた。
~おすすめのトラック : 「Losing My Religion」~
64位 : エルヴィス・コステロ
エルヴィス・コステロは、ソングライティングのスキルと言葉遣いの巧さで広く賞賛されているが、パンクで最も独創的なヴォーカリストのひとりとしてすぐに頭角を現した。その後R&B、ジャズ、カントリーなどのルーツとする音楽や、トレードマークである切れ味鋭いロックン・ロールのアルバムなどのリリースをし続けて彼の声は今や熟成の域にあるが、多彩な音程を持つ鼻にかかった声のバリトンと、耳に刺さるような鋭い言葉は間違いなく彼だけのものだ。
~おすすめのトラック : 「 (What’s So Funny ‘Bout) Peace, Love And Understanding?」~
63位 : ジョン・ライドン
ジョン・ライドンへの評価は敬愛か反感に分かれることが多いが、好き嫌いは別にして彼の人を小馬鹿にしたような笑い声がロックの重要作品と呼ばれるアルバムに”Xファクター”を提供してきたのは事実だ。また、『Album』の時期にPILと関わったことのあるジャズ界の巨匠オーネット・コールマンのような意外な方面の大物から彼の声は評価されてもいる。この点について、ライドンは、2016年のレコード・コレクター誌でのインタビューで以下のように述べている。
「あのころ多くのジャズ界の連中から褒められていたという事実に恐縮してしまうね」
62位 : ジミ・ヘンドリックス
ジミ・ヘンドリックスが空前絶後の天才ギタリストであったことは、膨大な数のレコードや書籍そしてビデオなどによって何度も語られている。しかし、今は亡きこのギター・アイコンがヴォーカリストとしての評価を得たことはほとんどなかったし、本人も歌唱力には自信がなかったことはよく知られた話だ。
とは言え、ヘンドリックスのスモーキーで太いバリトンは、彼のバラード、ブルース、あるいはよりソウルに傾倒した曲にはうってつけのものだった。彼のDNAの中で依然として評価されていない部分だ。
~おすすめのトラック : 「All Along The Watchtower」~
61位 : レミー
ヘヴィ・ロックおよびメタル界で最もアイコニックな人物のひとりであるレミーは、技術的な意味ではいわゆるロック的なヴォーカリストではない。だがタバコとウイスキーの賜といった感もある彼のハスキーな声は、彼自身のヘヴィなベース・プレイ同様にモーターヘッドに不可欠な要素だった。現役の偉大なアーティストであるジェイムズ・ヘットフィールドやデイヴ・グロールも、数多いレミーの熱狂的なファンのひとりだ。
~おすすめのトラック : 「I Know How To Die」~
60位 : イアン・カーティス
イアン・カーティスの悲劇的な自殺によってジョイ・ディヴィジョンのキャリアは潰えてしまったわけだが、それ以前に彼らがポスト・パンクの最重要作品を生み出すことができていたのは幸いだった。その彼らの成功に大きな役割を果たしたカーティスのメランコリックなバリトンと強烈な表現力だ。
すぐにそれとわかる彼の声だが、彼は彼のヒーローであるイギー・ポップからの影響も受けており、ジョイ・ディヴィジョンのクラシック・ヒット「Love Will Tear Us Apart」のレコーディング前には、ファクトリー・レコーズのボスであるトニー・ウィルソンからフランク・シナトラのヒット曲集を借りていたという逸話もある。
~おすすめのトラック : 「Love Will Tear Us Apart」~
59位 : ロニー・ヴァン・ザント
レーナード・スキナードを象徴するオリジナルのフロントマンであった彼は、バンドの代表曲「Free Bird」や「Sweet Home Alabama」での特徴的なバリトン・ヴォーカルがまず思い浮かぶ。しかし、彼は甘くまろやかな中音域も持ち合わせており、「Simple Man」のような心に響くバラードも見事にこなすことができた。
58位 : トレント・レズナー
技術的な能力や声域は限られているかもしれないが、ナイン・インチ・ネイルズのフロントマンであるトレント・レズナーは、彼のバンドの楽曲に彼ならではの気迫とカリスマ性を吹き込み、また鼻にかかったような声でささやくように歌う独特のスタイルを確立した。ステレオガムはその歌唱を称え、「オジー・オズボーン以外に、ここまでメインストリームのポップスに入り込んだ”過激”なミュージシャンはいない」と指摘している。
~おすすめのトラック : 「The Day The World Went Away」~
57位 : トム・ペティ
トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのフロントマンとして高く評価された故トム・ペティは、伸びやかで軽快な、特徴のあるバリトン・ヴォイスを持っていた。どことなくバーズを思わせるドライブ感のあるバンドのブルーカラー的なロックに実に似合う。彼のバンドと同様にペティの声にはタフで、同時に優しさを感じさせる。「Listen To Her Heart」「Free Fallin’」「I Won’t Back Down」といった40年に亘って名曲を残したペティの息の長い人気と、独創性に異論を挟む余地はあるまい。
~おすすめのトラック : 「I Won’t Back Down」~
56位 : ブライアン・アダムス
カナダのスーパースター、ブライアン・アダムスは独特のハスキーなテナーと常に安定感のある歌唱力で知られ、全世界で7500万枚以上のセールスを記録している。「Summer Of ’69」「Run To You」、アメリカのチャートで1位になった「Heaven」、そして1991年に16週に亘ってイギリスのチャートで1位を飾ったあの伝説的なパワー・バラード「 (Everything I Do) I Do It For You」など、代表曲と呼べるヒット曲が多数ある。
~おすすめのトラック : 「 (Everything I Do) I Do It For You」~
55位 : デヴィッド・リー・ロス
象徴的でエキセントリック、そしてエネルギッシュなヴォーカリストである”ダイアモンド”ことデヴィッド・リー・ロスは、エディ・ヴァン・ヘイレンのギターと並ぶヴァン・ヘイレンの象徴で、その後のソロ・キャリアでは表情豊かでパワフルな熟達したヴォーカリストになっていった。力強く生き生きとしたソウルフルなロスの多才な声にはイアン・ギランにも似たダークで太いトーンがあり、彼はその魅力を最大限に活かしている。
54位 : エリック・クラプトン
”ギターの神様”エリック・クラプトンが歌うようになったのは、1969年のブラインド・フェイス名義でリリースした唯一のアルバムでリード・ヴォーカルを担当すべしという要請に従ってのことからだった。しかし最初は消極的だったものの、彼は間もなくして自分が優れた声を持っていることに気がつき、以降現在に至るまで、ラフなロックや蒸すようなブルース、そして優しげなバラードといったあらゆる音楽に”クラプトン印”を刻み続けている。
~おすすめのトラック : 「Layla (いとしのレイラ) 」~
53位 : リトル・リチャード
ロックン・ロールの先駆者であるリトル・リチャードの耳をつんざくようなシャウト・スタイルは、このジャンルの代名詞とも言える影響力のあるヴォーカル・サウンドをもたらした。アメリカの音楽ライター、リッチー・ウンターバーガーが非常に的確な指摘をしている。
「リチャードのスピード感、気持ちのいいトリル、そして狂喜乱舞するかのような彼の歌声の個性は、ハイ・パワーのR&Bからロックン・ロールという似て非なるものへとボルテージを上げるために不可欠なものだった」
52位 : エディ・ヴェダー
グランジ・ロック勢の中でも最大級のアクトのひとつとして台頭してきたパール・ジャム。スタミナ抜群のカリスマ性に富んだフロントマンは彼らがロックの頂点に立ち続ける上で重要な役割を果たしてきた。ヴェダーのゴツゴツとしたバリトンはすぐにそれとわかるものだが、実は多くの人が彼を評価するよりも音域が広く、高い音域も易々と歌ってのけることができる。
~おすすめのトラック : 「Black (from MTV Unplugged) 」~
51位 : ジョー・ストラマー
プロのヴォーカル・トレーナーなら、ザ・クラッシュを象徴するフロントマンであるジョー・ストラマーの技術力不足、フレーズの稚拙さ、こらえきれないような怒りの感情をきっと嘲笑するだろう。しかし、耳の肥えたロック・ファンの意見は違う。そうした不完全な部分とストラマーの抑え難い情熱とストーリー性の高さが一体化したからこそ、バンド時代の名曲が現在も心に響き続けると主張するはずだ。
~おすすめのトラック : 「London Calling」~
50位 : トム・ヨーク
トム・ヨークは、レディオヘッドでの活動に加えてアンクルやビョークなどさまざまなアーティストとのコラボレーションを行い、アカデミー賞候補作にも選ばれた『Suspiria』のサウンドトラックを制作し、広く評価されている。彼の歌声は基本的にはテナーで独特の音色を持っており、そのファルセットは不気味で女性的で、広く賞賛されて真似されることも度々あったが、どれも彼のそれを超えることはなかった。
49位 : ジョージ・ハリスン
ジョージ・ハリスンは、同じくビートルズのメンバーであるジョン・レノンやポール・マッカートニーの影に隠れてしまうことが多かったものの、ヴォーカリストとして決して技量不足というわけではなかった。ハイテナーのハリスンはビートルズ時代には高いハーモニーを受け持つことも多かったが、必要に応じて低いパートも担当した。彼は十分に幅広い声域をこなせる歌い手で、その明るくよく響く声は、今聴いても際立っている。
~おすすめのトラック : 「While My Guitar Gently Weeps」~
48位 : ペリー・ファレル
ジェーンズ・アディクションとポルノ・フォー・パイロスのフロントマンであるペリー・ファレルは、鼻声でざらついた声質の、非常にはっきりとした明るいテナーの持ち主だ。その声にネガティブな意見も聞かれることもあるが、それだけ個性的だということでもある。ファレルの独特の声質とジェーンズ・アディクションのサイケデリックで混沌としたサウンドとの相性は抜群で、サウンドの陰とファレルの声の陽とが織りなす妙はほかのヴォーカリストでは出すことができないだろう。
~おすすめのトラック : 「Irresistible Force」~
47位 : マリリン・マンソン
マリリン・マンソンは、ロック界で最も悪名高く、物議を醸す人物のひとりとして、長いあいだその名を馳せてきた。その挑発的なイメージと衝撃的なステージ上での (ステージを離れても、ではあるが) 不埒な行動はヘッドラインを賑わせるのが茶飯事だ。とにかく不気味で血の気が引くような叫び声を発しないといられない性質なようだが、彼の独特の不気味かつパワフルでアグレッシブなヴォーカルは注目に値するものだ。
~おすすめのトラック : 「Antichrist Superstar」~
46位 : ヴァン・モリソン
ヴァン・モリソンのカメレオン的なキャリアは、ゼム時代の土臭いR&Bから、夢想的/抽象的で、非常に評価の高い『Astral Weeks』まで、あらゆるものに取り組んできた。彼の多作ぶりは衰える気配を見せることがなく、ジャズ風味の『Versatile』やカヴァーとオリジナルを完璧なバランスで織り交ぜた『The Prophet Speaks』などの最近の新作でも、彼のヴォーカルの自由自在なさまは、まるで星屑を撒いているかのようだ。
~おすすめのトラック : 「Got To Go To Where The Love Is」~
45位 : ルー・リード
かつてピクウィック・レコードの社内ソングライターとして働いていたルー・リードだが、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのフロントマンを務めるようになると、ニューヨーカーらしい、話し言葉のような歌い方でまったく新しいロックのテンプレートを作り上げた。
当時のヴェルヴェット・アンダーグラウンドはほとんど売れていなかったが、急成長中だったデヴィッド・ボウイに大きな影響を与え、ボウイは1972年にリードのメインストリームでのブレイクを実現したアルバム『Transformer』をプロデュースしている。リードの無表情な語り口は後のキャリアで名曲『New York』や『Magic And Loss』でも申し分のない効果を発揮したが、彼が2013年10月に亡くなるまで、評価は二分されがちだった。
~おすすめのトラック : 「Venus In Furs (毛皮のヴィーナス) 」~
44位 : ジョン・フォガティ
クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルは1960年代後半から1970年代前半にかけて、ヒット曲をこれでもかというほど連発した。彼らはサンフランシスコのベイエリアの出身だったが、そうと知らない者は、おそらくディープ・サウス出身だと思っていたに違いない。ジョン・フォガティのアーシーなヴォーカル・スタイルが、まるでミシシッピ・デルタの洗礼を受けたかのようだったからだ。フォガティはローリング・ストーンに語っている。
「説明するのが大変だったよ。“Proud Mary”を書いた時点で僕はミシシッピなんて行ったこともなかったし、“Born On The Bayou”を書いた時もルイジアナなんて見たこともなかった。でも何となくすべてが馴染み深いものに思えたのは事実だね」
43位 : スティング
ポリスの一員として「Roxanne」や「Message In A Bottle (孤独のメッセージ) 」を始めとするヒット曲を出したころ、スティングの声はただならぬ緊迫感をはらんでいたが、年月を経て着実に成長を遂げ、ソロ・アーティストとしてヒットさせた「Fields Of Gold」や「If I Ever Lose My Faith In You」といった楽曲では一分の隙もない歌唱を披露している。
心を揺さぶるような「Every Breath You Take (見つめていたい) 」や哀愁漂う「King Of Pain」などで、彼は幾度もヴォーカリストとしての多才さを発揮してきた。その「Every Breath You Take」と「King Of Pain」は、彼自身のお気に入りの作品でもある。
~おすすめのトラック : 「Every Breath You Take」~
42位 : プリンス
地球上のほとんどすべての楽器で誰よりも優れたミュージシャンだと称されたプリンスのシンガーとしての守備範囲は、彼の音楽のスタイルの変化と同じくらい広いものだった。初期のアルバムでは境界線を曖昧にすることが好きな彼らしく中性的なファルセットを披露していたが、このスタイルは後に今回のリストに挙げたベスト男性ロック・シンガーの中でも最も魅惑的な声へと進化していくことになる。
ダンスフロアを熱狂させるようなファンキーな掛け声が聴こえてこないなと思った時には、彼の特質としてよく見落とされがちなゴスペルからの影響を垣間見せていた。要するに、プリンスは音楽界で最も感情を揺さぶる声のひとつであり、それを証明できるだけのとんでもない叫び声を持っていたのだ。
~おすすめのトラック : 「The Beautiful Ones」~
41位 : ロジャー・ウォーターズ
ロジャー・ウォーターズはシド・バレット、デイヴ・ギルモアに次ぐピンク・フロイドのヴォーカリストだったが、彼が常にバンドの原動力だったと主張する人も多いだろう。ヴォーカリストとしては、当初は牧歌的な「Grantchester Meadows (グランチェスターの牧場) 」や不吉な「Careful With That Axe, Eugene (ユージン、斧に気をつけろ) 」などで数曲にクレジットされていたぐらいで、ウォーターズが本格的にギルモアに挑戦し始めたのは1977年の『Animals』をレコーディングしたころからだった。そしてその後の『The Wall』や『The Final Cut』では、より存在感のある歌唱を披露するまでになったのだった。
~おすすめのトラック : 「The Gunner’s Dream」~
40位 : カート・コバーン
グランジのアイコンである故カート・コバーンは、主にソングライティングのスキルやギター・プレイを賛美され、ヴォーカリストとして評価を受けることが少ないという意味で、ヘンドリックスやエルヴィス・コステロのようだと言えなくもない。しかし、「Smells Like Teen Spirit」「Lithium」「Heart-Shaped Box」などの曲での彼の生々しく荒々しい歌声は世代にインスピレーションを与えるものだった。
その最も良い例がニルヴァーナの代表的なアルバム『MTV Unplugged』だろう。ここで彼は、普段よりシンプルなアレンジを施されたバンドのオリジナル・ナンバーや、コバーンに影響を与えた一連の楽曲のカヴァー・ヴァージョンを心血を注ぎ披露している。
~おすすめのトラック : 「All Apologies (from MTV Unplugged) 」~
39位 : ロイ・オービソン
ロックン・ロールの創始者のひとりであるロイ・オービソンは、3オクターブの音域と「ガラスも砕けるファルセット」と呼ばれる独特の声を持っていた。しかし、オービソンを真に際立たせたのは、彼のメランコリックなバリトンと優雅なソングライティング・スタイルのコンビネーションだろう。テキサス生まれの彼が、エルヴィス・プレスリーをして「世界で最も偉大なシンガー」と言わしめるほどの影響力を持ったミュージシャンになり得た所以もそこにある。
38位 : ブライアン・ジョンソン
ジョーディーのフロントマンだったブライアン・ジョンソンが1980年にAC/DCに加入した際、カリスマ的存在であったボン・スコットの後任として大変な重圧に直面したが、バンドの驚異的なマルチ・ミリオンセラーを記録した『Back In Black』で彼はすぐにその地位を確立した。
ロバート・プラント風の粒々とした叫び声は、医学的なアドバイスを受けて一旦引退を余儀なくされる2016年まで、バンドにとって欠かせないものだった。引退をすすめられた理由は軟調の悪化だったが、最近になって、AC/DCのニュー・アルバムのためにジョンソンはバンドに復帰している。
~おすすめのトラック : 「You Shook Me All Night Long」~
37位 : ロッド・スチュワート
ロッド・スチュワートのあのハスキーな声は、1960年代後半から1970年代前半にかけてジェフ・ベック・グループやフェイセスの驚異的なレコードが世に出て初めて注目を浴びるようになった。彼のソロ・シンガーとしてのキャリアが軌道に乗るのも、そうしたバンド活動と並行してレコーディングされた1969年の『An Old Raincoat Won’t Ever Let You Down』からで、1971年には代表的なヒット曲となる「Maggie May」をフィーチャーした『Every Picture Tells A Story』を発表し、今もその名声を広く確立している。ビルボード誌が2008年に選んだ”Hot 100 All-Time Top Artists”でも、スチュワートは17位にランクイン。彼以上に熟達した歌い手は数えるほどしか存在しない。
36位 : マイケル・ハッチェンス
高い評価を受ける一般的なロック・シンガーたちとは異なり、INXSのマイケル・ハッチェンスは主にその衝撃的なライヴ・パフォーマンスで賛美されてきた。しかしながら、同時に、彼は幅広い音域をカヴァーする、優れたバリトン歌手でもあった。
当初から有望視されていた彼は『Listen Like Thieves』や『Kick』などのアルバムでその評価を確立。「Need You Tonight」「Never Tear Us Apart」「Mystify」といったヒット曲に聴ける情熱的な歌唱は1980年代のポップ・ミュージックの成果の中でも際立っている。
~おすすめのトラック : 「Never Tear Us Apart」~
35位 : エルトン・ジョン
ミリオン・セラーを記録した1973年のアルバム『Goodbye Yellow Brick Road』をリリースしたころのエルトン・ジョンは、より高い音域で歌っていたが、1977年にR&Bプロデューサーのトム・ベルと仕事をして以降、低音域を追求。『Reg Strikes Back』 (1988年) のレコーディングを前に、オーストラリアで声帯の手術を受けてからはより深みのある歌声を披露するようになった。
エルトン自身は、変化後の歌唱法を好んでいるようだが (「ここ数年で本当に良くなった。前よりも響くようになったんだ」と、2004年にビルボード誌の取材で語っている) 、どの時期の作品にも聴きどころはたっぷり用意されている。
~おすすめのトラック : 「Your Song (僕の歌は君の歌) 」~
34位 : ロブ・ハルフォード
ジューダス・プリーストのリード・シンガー、ロブ・ハルフォードは、喉を鳴らすようなうなり声と耳を裂くようなファルセットを交互に使用することができ、なおかつ幅広いヴォーカル・レンジを誇る。ハルフォードは後に多くのパワー・メタルのフロントマンが採り入れたオペラ風のヴォーカル・スタイルの先駆者のひとりとして、ロニー・ジェームズ・ディオやアイアン・メイデンのブルース・ディッキンソンとともに広く認められており、ヘヴィ・メタル/ハード・ロックのヴォーカリストのランキングでは常にトップクラスに名を刻んでいる。
~おすすめのトラック : 「Breaking The Law」~
33位 : ジョーイ・ラモーン
今は亡きディーディー・ラモーンはかつて彼のバンドメイトだったジョーイ・ラモーンについて「 (ニューヨークの) ほかのヴォーカリストはみんなニューヨーク・ドールズのデヴィッド・ヨハンセンの真似をしていた……だけどジョーイは完全に別モノだった」と語っていた。
このベーシストの言葉はまったくもって的を射ており、しばしば模倣を試みられたものの、誰も彼を凌ぐことはできなかった。ジョーイの特徴である割れた声、唸る声、しゃくりあげる声、甘い声、そして年齢を感じさせない若々しい声は、パンクの時代に最も認知された歌声のひとつである。
32位 : ブルース・ディッキンソン
ビルボード誌のある記事は、ブルース・ディッキンソンが”空襲警報”というニックネームを得たのは、その歌声の凶暴なパワーゆえのことだったと伝えている。アイアン・メイデンのフロントマン、デイッキンソンはオペラ歌手並みのテナーを見事に操ることのできるレンジの広い歌い手で、同世代のロニー・ジェイムス・ディオやロブ・ハルフォードと同様、繊細さとテクニックだけでなく、粘りとガッツも持ち合わせているのだ。
~おすすめのトラック : 「The Number Of The Beast」~
31位 : スティーヴ・ペリー
ジャーニーのフロントマンとして知名度を高め、その後、ソロ・シンガーとしてスターの座に就いたスティーヴ・ペリーは、ヴォーカリストが憧れるヴォーカリストだ。彼の特徴のあるテナーはジャンルを超えて賛美されており、ジョン・ボン・ジョヴィからクイーンのブライアン・メイまで、音楽業界の大物たちからも称賛されてきた。
ジャーニーのサポート・ミュージシャンを務めたこともあるアメリカン・アイドルの審査員、ランディ・ジャクソンは、その器用な歌唱を称え、「ロバート・プラントを除けば、スティーヴ・ペリーに匹敵するシンガーは見当たらない」とまで述べている。モータウン、エヴァリー・ブラザーズ、そしてツェッペリンのそれぞれが少しずつミックスされたパワー、音域、トーン ―― それらがペリーならではのスタイルを形作っている。
30位 : デイヴィッド・カヴァデール
ヨークシャー生まれのデイヴィッド・カヴァデールのビロードはブルージーなバリトン・ヴォイスに恵まれている。そしてその強靱な歌声が50年に及ぶカヴァデールのキャリアを支えてきた。彼は、ディープ・パープルとホワイトスネイクという2組のバンドで卓越したハード・ロック作品を残し、レッド・ツェッペリンの伝説的なギタリスト、ジミー・ペイジとの連名作『Coverdale-Page』も世に送り出している。
ファンや同時代の人々からは長年に亘って高い評価を受けており、ホワイトスネイクにギタリストとして在籍していたダグ・アルドリッチは「とてつもなくビッグな、圧倒的な声の持ち主だ」と語っている。
~おすすめのトラック : 「Fool For Your Loving」~
29位 : アリス・クーパー
処刑シーン、血糊、バラバラにされた人形、そして生きた蛇といったショッキングな小道具が登場するシアトリカルなステージがあまりに印象的であるがために、アリス・クーパーというバンドの実力や、フロントマンであるアリス・クーパーのヴォーカリストとしての力量は見過ごされがちだった。
しかしながら、クーパーの荒々しいヴォーカルのすばらしさは、1970年代にリリースした『Killer』『School’s Out』『Billion Dollar Babies』という三部作からも感じられるし、その点は1989年のアルバム『Trash』に収録されたパワー・バラード「Poison」もまた然りだった。そして、その「Poison」で、クーパーのキャリアは再び勢いを取り戻したのだった。
~おすすめのトラック : 「Under My Wheels (俺の回転花火) 」~
28位 : ブランドン・フラワーズ
ザ・キラーズのブランドン・フラワーズは現代のロック・シンガーの中で、とりわけ魅力的な歌声を持った者のひとりだ。その声はドラマティックで重厚なテナーで、ゴスペル調の「All The Things We’ve Done」「The Man」、そして政治的なテーマに辛辣に切り込んだ2019年の「Land Of The Free」など、既に多くのヒット曲を彩ってきた。
それらの中でも、フラワーズはグループの代表的なヒット曲とされる「Mr. Brightside」を特に誇りに思っており、2013年にはSpin誌の取材で以下のように述べている。
「決して古びることのないこの曲を誇りに思っている。何度歌っても飽きないんだよ」
~おすすめのトラック : 「Mr. Brightside」~
27位 : アンソニー・キーディス
当初、彼のラップテクニックで知られていたアンソニー・キーディスの特徴的なバリトンは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズが初期の熱狂的なファンク・パンクから、パンク、サイケデリア、アリーナ・ロックを融合させてよりメインストリームが似合うものへとシフトしていくにつれて、徐々にその存在を明らかにしていった。
同じくバリトンのクリス・コーネルやアクセル・ローズのようなアクロバティックな歌唱には向かないが、それでも彼が、独自のスタイルを持つ並外れたパフォーマーであることに変わりはない。
~おすすめのトラック : 「Under The Bridge」~
26位 : ボブ・ディラン
ボブ・ディランが最も象徴的なシンガー・ソングライターのひとりであることに異論を唱える人はいないが、ヴォーカリストとしては間違いなくロック界で最も好き嫌いの分かれるクセの強いパフォーマーだろう。しかし、ディランの耳に障る声が不快だと嫌う者もいる一方で、言葉選びのセンスや音節のひとつひとつに意味を込めるディランの能力を称賛する者もいる。
カントリー (『Nashville Skyline』) 、ゴスペル (『Slow Train Coming』) 、ブルース (『Time Out Of Mind』) 、そして『Blood On The Tracks』の悲痛な物語りなどの多様なスタイルのすべてを自分のものにしてしまう器量を勘案すれば、やはり無敵だろう。
25位 : ニール・ヤング
分類するのが難しく (厳密にはカウンター・テナー) 、パロディにされやすいニール・ヤングは、情熱的でありつつも鼻につくようなそのヴォーカルに対する評価が分かれる、そんなパフォーマーのひとりだ。しかし彼の膨大な作品の中には、『Crazy Horse』の怒涛のロックン・ロール、『Harvest』のカントリー・スタイル、そして激しさと政治的な感情を煽る『Living With War』まで、あらゆるものに彼独自の味わいがある。
彼を否定する人でさえも、この不機嫌なカナダ人の存在がなければロックン・ロールはかなり質の低いものになっていただろうと認めざるを得ないだろう。
~おすすめのトラック : 「Like A Hurricane (from Live Rust) 」~
24位 : ブルース・スプリングスティーン
ブルース・スプリングスティーンの作品は、その活気漲るブルーカラーの叙情性と物語性の高さで多くの賞賛を受けているが、その大音量のバリトンも常にその活動を後押ししてきた。ロックン・ロールの世界で最も有名なライヴ・パフォーマーのひとりである彼の力強く激しいステージは、ときに3時間を超えて繰り広げられる。
またそのアルバムにも画期的なヴォーカル・パフォーマンスが数多く刻み込まれている。「Born To Run (明日なき暴走) 」「Born In The USA」「Thunder Road」「Brilliant Disguise」といった作品は、いわば巨大な氷山の一角に過ぎない。
~おすすめのトラック : 「Brilliant Disguise」~
23位 : ブライアン・フェリー
ロキシー・ミュージックのフロントマンからソロ・アーティストに転身し、成功を維持してきたブライアン・フェリーは、そのこの上なくエレガントで甘い歌声で、40年以上に亘って、ポップ・ミュージック界きっての伊達男と表されてきた。
非常に多作なソングライターでもあるフェリーだが、1973年の『These Foolish Things』のためにレコーディングした一連のアメリカ産のスタンダード・ナンバー (いわゆる”グレート・アメリカン・ソングブック”) 、2007年の『Dylanesque』に代表されるボブ・ディランの作品のカヴァー・ヴァージョンに明らかな通り、既存の楽曲の解釈に秀でていることでも知られる。
22位 : フィル・ライノット
シン・リジーは基本的にラウドなハード・ロックで知られるバンドだが、フロントマンのフィル・ライノットは、しばしばより繊細な一面を覗かせ、洞察力に富んだ詩的な歌詞と天性のカリスマ性で賞賛を浴びた。彼はケルト色を滲ませたその個性的な歌唱で、壮大なバラード (「Still In Love With You」) 、クランチーなロック (「Jailbreak」) 、優し気なポップ・ソング (「Sarah」) 、さらにはヴァン・モリソンのブルー・アイド・ソウルへの敬意を込めた普遍的な名曲「Dancing In The Moonlight」に至るまで、どんな楽曲も魅力的に歌いこなすことができた。
~おすすめのトラック : 「Dancing In The Moonlight」~
21位 : ロニー・ジェイムス・ディオ
ニューハンプシャー出身のロニー・ジェイムス・ディオは、その小さな体格からは想像できないほどのパワフルで響きのある声を持ち、1970年代後半から1980年代前半のヘヴィ・メタル/ハードロック・シーンでその名を馳せた。
中世をテーマにすることを好み、強烈なハード・ロックと極めて軽やかなバラードの双方を巧みに歌いこなす彼は、レインボー、ブラック・サバス、そして評価の高い自身のバンド、ディオと画期的なアルバムを残した。彼は2010年に他界したものの、現在もなお、メタル・シーンで最も影響力を持ったフロントマンのひとりであり続けている。
20位 : ボン・スコット
大量のウイスキーに浸かったような歌声を持つスコットランド生まれのシンガーだ。AC/DCのボン・スコットはロック界を代表するフロントマンとして早くから地位を確立したが、1980年2月に33歳で夭逝している。
短命に終わったオーストラリアのプログレ・バンド、フラタニティでの活動の後、AC/DCに参加したスコットは、茶目っ気のあるカリスマ性と印象的な歌声で1970年代後半の一連の優れたアルバムにおいて重要な役割を果たした。彼にとっての最後のアルバムとなった1979年の『Highway To Hell』はマット・ラングがプロデュースを手掛け、彼らをロック界の大物へと押し上げた。
~おすすめのトラック : 「Highway To Hell (地獄のハイウェイ) 」~
19位 : ジム・モリソン
詩的な作詞とステージでの官能的な存在感が語られがちで、ジム・モリソンのヴォーカルの腕前は見過ごされることが多い。初期のデモこそ不安定で経験不足感があるが、彼はギグを重ねてすぐに自信をつけた。そしてドアーズが後世に影響を与えたデビュー・アルバム『The Doors』をリリースした1966年後半には、彼ならではのささやくようなヴォーカルをモノにしていた。
さまざまな伝記で示されている通り、モリソンの飲酒やドラッグの悪癖は歌声にも悪影響を与えるようになった。それでも彼の豊かで特徴的なバリトン・ヴォイスは、ドアーズの6年のキャリアを通して魅力を保っていた。
~おすすめのトラック : 「Love Me Two Times」~
18位 : イギー・ポップ
多くの音楽ファンにとって、イギー・ポップはロックン・ロールの権化といえる。3枚の名アルバムを残してストゥージズが解散したとき、既に彼の伝説は広く知られていた。一方でヴォーカリストとしての彼の深いバリトン・ヴォイスは、1977年にデヴィッド・ボウイがプロデュースしたふたつのアルバム『Idiot』と『Lust For Life』で確立されたといえる。
歌声は年を重ねるごとに魅力を増し、ジョシュ・オムとコラボし高い評価を得た2016年作『Post Pop Depression』は、長く曲がりくねった彼のキャリアで初めてビルボード・チャートのトップ20以内に入った。
17位 : デヴィッド・ボウイ
デヴィッド・ボウイより象徴的なポップ・スターはほかにいないが、シン・ホワイト・デュークと自称していた彼は生まれながらのヴォーカリストではなく、学校の音楽教師からの評価は”及第点”でしかなかった。しかしボウイは実力を磨き、歌声を成熟させていった。
その声はバリトンに分類されるが音域は広く、キンクスのレイ・デイヴィスのようなイギリスらしさを備えていた。セルフ・タイトルのデビュー作から『★ (ブラックスター) 』まで、デヴィッド・ボウイはあまりに豊かな財産を我々に残した。彼のような人はもう現れないだろう。
16位 : ジョン・ボン・ジョヴィ
ジョン・ボン・ジョヴィの声はテナーだが、音域は4から5オクターブに及び柔軟性に満ちている。ボン・ジョヴィのフロントマンは独特で少し鼻にかかった歌声を持ち、多様な楽曲を歌い上げてきた。
アメリカーナ調の「Blaze Of Glory」から感傷的なバラード (「I’ll Be There For You」など) 、そして「You Give Love A Bad Name (禁じられた愛) 」、「Bad Medicine」、世界的に有名な「Livin’ On A Prayer」などの不朽のアリーナ・アンセムまで、彼の歌った楽曲でバンドはスーパースターの仲間入りを果たした。
15位 : チャック・ベリー
チャック・ベリーの激しいギター・プレイや目くるめくライヴ・パフォーマンス、そして鮮烈な歌詞は、キース・リチャーズからブルース・スプリングスティーンまで多くの大物に影響を与えた。だがはっきりした力強い歌声もまた、ミズーリ生まれの先駆的ミュージシャンである彼の印象的で忘れられない特徴である。次のジョン・レノンの言葉はそれをうまく言い表している。
「ロックン・ロールを別の言葉で呼ぶなら、チャック・ベリーってことになるだろうね」
~おすすめのトラック : 「Johnny B Goode」~
14位 : クリス・コーネル
複数オクターブの広い音域を見事に歌いこなす故クリス・コーネルは、ロック界屈指に多才なヴォーカリストだった。彼の器用さでサウンドガーデンはほかのグランジ・バンドと一線を画していたところが大きい。また優れたソロ・キャリアや、高い評価を得たハード・ロックのスーパーグループであるオーディオスレイヴでの3枚のアルバムでも、彼ならではの魅力を放っている。
不穏でサイケ調の「Black Hole Sun」から複雑な曲調の「Spoonman」、感情的な「Jesus Christ Pose」まで多様な楽曲を歌うコーネルは、実に恐れ知らずのヴォーカリストだ。
13位 : ボノ
U2の初期のボノは、若さとエネルギーと大胆さで押し切っていた。だが彼はみるみる腕を磨き、U2が『The Unforgettable Fire (焔) 』や『The Joshua Tree』を制作するころには痛切さや感情に満ちたヴォーカルを聴かせるようになっていた。「Pride (In The Name Of Love)」や「With Or Without You」、「I Still Haven’t Found What I’m Looking For」などで、それは特に顕著だ。
1990年代にはファルセットも取り入れるようになるが、U2の名を広めた壮大なアリーナ・アンセム (「One」、「Beautiful Day」「Sometimes You Can’t Make It On Your Own」など) がいつだって彼の持ち味なのだ。
~おすすめのトラック : 「With Or Without You」~
12位 : スティーヴン・タイラー
高音のスクリームやステージでの身のこなしから”Demon Of Screamin (絶叫の悪魔) ”とも呼ばれるエアロスミスのスティーヴン・タイラーは、ロック屈指の丈夫な声帯の持ち主だ。彼の高いテナー・ヴォイスと4オクターヴの音域が、エアロスミスが史上最も成功したハード・ロック・バンドになった大きな要因だ。
タイラーは以前ビルボード誌に、「ぶちかまして爪痕を残す」という自身の哲学を明かしている。彼の見事なヴォーカルで、彼はその哲学を50年に亘り実践してきた。「Walk This Way」「Love In An Elevator」「Janie’s Got A Gun」、そして「Sweet Emotion」といったトラックを聴けば、その点は自ずと明らかになろう。
~おすすめのトラック : 「Love In An Elevator」~
11位 : ジョー・エリオット
デフ・レパードのジョー・エリオットは非常に器用な歌声を持つ。だからこそ今でも「Photograph」「Rock Of Ages」「Bringin’ On The Heartbreak」「Pour Some Sugar On Me」といった名曲の高音域を見事に歌いこなせるのである。
才能や素質によるところが大きいが、エリオットはヴォーカル・コーチをつけ、絶好調を保つためウォーム・アップのルーティンを習慣づけることで40年に亘って入念に声をケアしてきた。2018年、米ラジオ局のWSFLの取材に彼はこう話している。
「低いレンジが出せるようになって歌える音域が広がってきた。それは年齢と経験、熟練によるものだと思う」
10位 : アクセル・ローズ
2014年のテレグラフ誌の記事によれば、アクセル・ローズは6オクターヴの音域を出せるという。同記事は、尊敬を集めるガンズ・アンド・ローゼズのフロントマンが「バリー・ホワイトより低いバリトンを持ち、ティナ・ターナーやビヨンセより高い声を出せる」と評した。実際にそれを分析しようと思えばいくらでもできるが、ローズの驚異的な高音域こそ彼がロック界屈指のヴォーカリストたる所以であることは疑いない。
アンセム調のロック・ナンバー (「Sweet Child O’ Mine」「Welcome To The Jungle」) からパワー・バラード (「Don’t Cry」「November Rain」) まで、そのダイナミックなヴォーカルで彼は名シンガーのひとりとして長らく君臨してきた。
9位 : ポール・ロジャース
かすれたソウルフルなヴォーカルで知られるポール・ロジャースは、フリーやバッド・カンパニーの元フロントマンで、神格化された本ランキングのほかのシンガーのような象徴的存在ではないかもしれない。だが彼は超一流の業界人から高い評価を得ている。
2005-6年にはフレディ・マーキュリーの後を継いでクイーン+ポール・ロジャースとしてブライアン・メイとロジャー・テイラーとツアーを回り、2008年にはアルバム『The Cosmos Rocks』を制作するに至った。2005年のラウダー誌のインタビューで、ブライアン・メイは以下のように語っている。
「フリーの“Fire And Water”からは本当に重要なヒントをもらったし、多大な影響を受けた。フレディもポールの大ファンだった。彼が尊敬する数少ないシンガーのひとりだったんだ」
8位 : エルヴィス・プレスリー
ロックン・ロールのスーパースターに留まらない、20世紀を代表する著名人だ。エルヴィス・プレスリーはステージでの存在感とセックス・アピールで、音楽シーンを一変させた。ポール・マッカートニーも「エルヴィスがいなければ、果たしてビートルズが存在していたどうかわからない」と認めている。
彼が一大現象になった最大の要因はその歌声だろう。当初はライトな声だったが、後に柔らかな低音を歌うバリトン・ヴォイスに成長した。そうして”キング”はロカビリーのルーツから離れ、ゴスペルやディキシーランド・ジャズ、カントリーなどのジャンルにも手を伸ばすようになった。
~おすすめのトラック : 「Suspicious Minds」~
7位 : オジー・オズボーン
オジー・オズボーンは技術的な面では、ロブ・ハルフォードやブルース・ディッキンソン、ロニー・ジェイムス・ディオら広い音域を歌いこなすハード・ロック/メタルの大家には敵わないだろう。彼はそれでも、ヘヴィ・メタルの典型ともいえる独特のカリスマ性を伸ばしてきた。
実際、オジーの情熱や残忍さが少しでもあったとしても、ほかの誰かがブラック・サバスの名曲 (「War Pigs」「Sabbath Bloody Sabbath」「Iron Man」「NIB」「Lord Of The World」など枚挙に暇はない) を自分のモノにしているのは想像すらできない。
~おすすめのトラック : 「N.I.B. (from The End – Live) 」~
6位 : ポール・マッカートニー
概してポール・マッカートニーは、ビートルズでもソロ・アーティストとしても、優しい曲調のノスタルジックな楽曲で知られる。実際、彼は「Yesterday」「Blackbird」「She’s Leaving Home」「Penny Lane」「Let It Be」といったメロディックな名曲を残してきた。
一方でマッカートニーは「I Saw Her Standing There」「Get Back」「Back In The USSR」のようなハードなロック・ナンバーも多く生み出しており、『The Beatles (White Album)』所収の伝説的なナンバー「Helter Skelter」は、その迫力に満ちた絶叫もあって、ヘヴィ・メタルのジャンルの草分けとしばしば評されている。
~おすすめのトラック : 「Helter Skelter」~
5位 : ジョン・レノン
ジョン・レノンは元バンドメイトと同様、変幻自在のシンガーといえる。反骨精神に満ち革新的な存在であった彼は、ビートルズの中で歯に衣着せぬ皮肉屋とみなされることも多い。彼の不安や苦しみは、ポール・マッカートニーの浮ついたラヴ・ソングの解毒剤としても作用していた。しかしこれも片方の側面でしかない。
彼の特徴的なバリトン・ヴォイスは「Cold Turkey」「Mother」「Yer Blues」といった作品で抑えきれない不安を伝える一方、「In My Life」の哀愁や「Strawberry Fields Forever」の憂鬱、「Imagine」の色褪せることのない美しさといったものも見事に表現していた。
4位 : ロジャー・ダルトリー
ロジャー・ダルトリーのR&B調で好戦的な歌声は、初期ザ・フーのモッズ・スタイルにぴったりだった。だがロンドンを代表する同バンドの成長に合わせ、フロントマンである彼も成長していった。
ピート・タウンゼントがローリング・ストーン誌に語ったところでは、ダルトリーが1969年の名盤『Tommy』をレコーディングしたころに大きな飛躍を遂げたようだ (「ロジャーは自分にある強い感受性をシンガーとして活かせると気づいたんだ」とタウンゼントは述べている) 。
それ以降『Who’s Next』や『Quadrophenia (四重人格) 』、『The Who By Numbers』などの名作で、ダルトリーはバンドの原動力として存在感を増していった。尊大なロックの神々の姿やサウンドを率先して示したのだ。
~おすすめのトラック : 「Love, Reign o’er Me」
3位 : ロバート・プラント
おそらく最も尊敬を集めるハード・ロック・ヴォーカリストだろう。ロバート・プラントはその道の巨匠である。スタミナや秀でたスタイル、驚異的なヴォーカルの柔軟性で知られる彼は、レッド・ツェッペリンの一員として数々の傑作を残した。
激しいロック・ナンバー (「Immigrant Song」「Black Dog」「Whole Lotta Love」) から威厳に満ちたブルース (「Since I’ve Been Loving You」「You Shook Me」) 、穏やかなバラード (「Thank You」) にいたるまで、彼はどんな曲でも優れた歌唱を披露している。「Babe I’m Gonna Leave You」や「In My Time Of Dying」、「Achilles Last Stand」といった難しい楽曲では力を振り絞る必要があったものの、彼はいつでもそれをやってのけた。実に心を揺さぶられる歌声だ。
~おすすめのトラック : 「Immigrant Song」~
2位 : ミック・ジャガー
ロック界最高のフロントマンのひとりであるミック・ジャガーは別格の存在である。バンドが代名詞と言えるブルースやロックからほかのジャンルに手を伸ばしたとき、彼はシンガーとしての真価を示してきた。ゴスペル (「Shine A Light」) 、カントリー (「Far Away Eyes」「Wild Horses」) 、サイケ・ロック (「She’s A Rainbow」) 、ジェントルなバラード (「Angie」「Lady Jane」) 、そして『Sticky Fingers』収録の壮大な「Moonlight Mile」のようにストリングスを使った優雅な楽曲まで、その幅は広い。
あえて1曲を選ぶなら、刺激的で魅力的な「Sympathy For The Devil」ということになるだろうが、ミック・ジャガーが満足のいかない歌を聴かせたことはほとんどない。
~おすすめのトラック : 「Sympathy For The Devil」~
1位 : フレディ・マーキュリー
2018年、伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大きな成功でクイーンは再び脚光を浴びた。同年の終わりには「Bohemian Rhapsody」が最も多くストリーミングされた20世紀の楽曲に正式認定された。
そうした中で、煌びやかなフレディ・マーキュリーと彼の4オクターブに及ぶ恐れ知らずの歌声が、ほかのどのロック・シンガーより我々の胸に響き続ける理由を何より強く再認識させられた。そして彼はこれからも、最高の男性ロック・シンガーであり続けるであろう。
~おすすめのトラック : 「Bohemian Rhapsody」~
Written By Tim Peacock
- ベスト・クリスマス・ソング50曲(全曲視聴付)
- 史上最高の女性ジャズ・シンガー・ベスト25【全曲試聴付き】
- ロック界のベスト・サイドマン10人:正当に評価されるべきミュージシャン達
- 史上最高のジャズ・シンガーTOP50
- ミュージシャンの主宰によるレコード・レーベル11選
- ロック界最高のパワー・トリオ10選(ビデオ付き)
- 史上最高のプロテスト・ソング10曲:不朽の政治的アンセム