カロルGのベスト・ソングス10曲:コロンビア出身、スペイン語で歌うレゲトンとポップの架け橋
コロンビアのメデジン出身のシンガーソングライター、カロルG(Karol G)はデビュー・アルバム『Unstoppable』を2017年にリリースしたあと、南北アメリカ両地域でスタジアムを満員の聴衆で満たし、その後も快進撃は続いた。彼女は雑誌Rolling Stoneとメキシコ版Vogueの表紙を飾り、コーチェラ・フェスティバルでもパフォーマンスを披露。さらには大ヒットとなった映画『バービー』の挿入歌「WATITI (feat. Aldo Ranks)」も担当している。
それだけでは物足りないかのように、彼女は2023年に32歳で『Mañana SeráBonito』をリリース。同作の成功で、スペイン語のアルバムでビルボード誌のトップ200チャートの首位を獲得した史上初の女性となり、そして2024年2月、過去にはビヨンセやレディー・ガガ、テイラー・スウィフトやアリアナ・グランデ、ビリー・アイリッシュといった大スターが樹種尾した「Billboard Women in Music」の「Woman of the Year」を受賞することも発表された。
彼女はレゲトンとポップの架け橋となり、R&B、EDM、テックス・メックスといったジャンルの新境地を切り開いている。まさしく、21世紀のラテン・ミュージックの可能性を体現するアーティストである。
彼女はかつて陽気なシンガーだったが、レゲトンのマッチョな虚勢をひっくり返すことで、ラティーナの象徴的なアーティストとなった。彼女の曲はセクシャルな意識をあふれさせており、そこにはフェミニストの影響を受けたメッセージが一貫して含まれている。その楽曲を聴けばはっきりわかるように、カロルはとんでもなく「セクシー」ではあるけれども、体だけが目当てのお誘いにはまるで興味がない。彼女の髪の色はまるでムードリングのように変わっていく。しかし、一方でパフォーマーとしての自信は変わりはしない。そしてそんな彼女の姿を見たファンの側も、自分自身を信じられるようになっていくのである。
そんな彼女のベスト10曲を順不同で紹介しよう。
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1. Tusa with Nicki Minaj (2019年)
カロルGは「Tusa」を「自分たちの世代を特徴づける1曲」であると表現してきた。またこの曲は、彼女の才能を明らかにした曲でもあった。つまりカロルは、恋人との別れを歌った失恋の曲を華麗なる女性エンパワーメントのアンセムとして見事に表現できるのである。
ニッキー・ミナージュと組んでレコーディングした「Tusa」は、米ビルボードのホット・ラテン・ソング・チャートで初登場1位を記録。さらにジャンルを超えてホット100チャートにもランク入りし、ラテン・アメリカのありとあらゆる国でチャートの首位に立つ大ヒットを記録した。
このレゲトンの曲によって、カロルGの名前は新たな層にも広がった。さらにはコロンビアの言葉遣いや音楽ジャンルも世界各国に広まることになった。曲名にある「tusa」はコロンビアのスラングであり、「弱まっていく恋の後遺症」を意味する。また、1980年代に流行したリベンジ・ソング(復讐の歌/música de tusa)を指す言葉でもあった。
2. Ahora Me Llama with Bad Bunny (2017年)
「Tusa」で世界的なスターになる前のカロルGは、バッド・バニーと組んでいた。それはちょうど、このプエルトリコの先駆的なミュージシャンがラテン・ミュージックの新たな道を切り開いていた時期のことだ。
カロルのファースト・アルバム『Unstoppable』に収録された情熱的なトラップ・トラック「Ahora Me Llama」は、彼女にとってブレイクスルー・ヒットとなった。
3. Mi Cama (2018年)
カロルGの生まれ故郷コロンビアのメデジンでミュージック・ビデオが撮影された「Mi Cama」は、下手をすればありふれた「ベッドルームへの誘惑」といった類の曲になっていたかもしれない。とはいえこれはカロルGの曲であり、パーティーの幕開けにはぴったりである。
歌詞には「pom pom pom pom」という誰でも歌えるフレーズが含まれており、さらには次のような陽気な言葉遊びもある。「En mi cerradura ya no entra tu llave. Esa calentura que otra te la apague (あなたのカギはもう私の鍵穴には収まらない。その熱を消したいなら他の人に頼んで) 」というフレーズである。
4. Culpables with Anuell AA(2018年)
カロルGといえば華やかでキラキラときらめくような服装が思い浮かぶが、「Culpables」(罪という意味)のビデオでは、もっとリラックスした白黒のストリート・スタイルの着こなしに変わっている。
このアヌエルAAとのデュエット曲はスローなアーバン・ジャムで、プエルトリコ出身のラッパーであるアヌエルAAが銃の不法所持で連邦刑務所から出所したあとにカロルに書き下ろした作品だった。
この「Culpables」はアニュエルAAのカムバック・ヒットとなり、ファンのあいだでは彼とカロルが恋愛関係にあるのではないかと囁かれるようになった。愛や避けられないように思える裏切りについて瞑想したこの曲は、2022年にYouTubeでの再生回数が10億回に達している。
5. Bichota (2021年)
「Bichota」はカロルGが自分で自分につけたニックネームである。これは、プエルトリコ語で「麻薬王」を意味する「bichot (大物) 」という言葉を、「力」を意味する可愛らしくて非常に女性らしい言葉に変えたものだ。
この曲のビデオで、カロルは馬に乗った姿で登場する。そして麻薬の売人やギャングを連想させる言葉をふんだんに使いながら、ド派手な衣装を見せつける。とはいえそのタフな振る舞いをウィンクと笑顔で帳消しにし、いかにもレゲトンらしい誘惑の歌を歌い上げる。全体として見れば、この曲は実に魅力的で伝統的なダンスフロア・トラックとなっている。
6. Mamii with Becky G (2022年)
カロルGは、メキシコ系アメリカ人のポップスター、ベッキー・Gと組んで、人に害を及ぼすような恋人に対する別れの歌を歌っている。この曲の歌詞には、文学的な描写と直接的な表現の両方が含まれている。
前者の例としては、「Sin visa ni pasaporte mandétu falso amor de vacaciones (あなたの偽物の愛は、ビザもパスポートもないままバカンスに送り出したの) という一節が挙げられる。また後者の例としては、「Pa la mierda y nunca vuelves (基本的に「失せろ、この○○野郎、二度と顔を見せるな」と訳される) がある。
このバイラル・ヒットとなったエンパワーメントのアンセム「Mamii」は、「Premios Juventud Girl Power」賞を受賞。またビルボードのラテン・ミュージック・アワードの”ホット・ラテン・ソング・オブ・ザ・イヤー (ヴォーカル部門) “も受賞している。
7. Provenza (2022年)
2023年のラテン・アメリカン・ミュージック・アワードで最優秀楽曲賞 (ポップ部門) を受賞した「Provenza」は独立宣言の歌だ。この曲の題名は、メデジンにあるカロルの地元の地名から来ている。
またミュージック・ビデオでは、スペインのランサローテ島を女性の島に変貌させている。そこでは、男からの視線を気にすることなく、女たちが幸せで楽しげな生活を送っている様子が描かれている。
8. TQG with Shakira(2023年)
カロルGは、自分のアイドルとして、あるいは影響を受けた人物としてシャキーラの名前を度々挙げてきた。シャキーラは、ラテン・ミュージックを本当の意味で世界的なものにした最初の女性スターである。
「TQG」は、「Te Quedó Grande」 (あなたの手に余るの略) を略したものだ。ここではコロンビアの大スター2人が共演し、ダブルパンチを食わせるようなレゲトンのリベンジ・ソングを作り上げている。この曲のミュージック・ビデオでは、2人は炎の中で踊りながら、それぞれの元恋人や想像上の元恋人をあざわらう。たとえば、「¿Quéhaces buscándome el la’o si sabes que yo errores no repito? (どうして私があなたのそばにいるなんて思えるの? 私が同じ過ちを2度繰り返さないと知っているでしょ?)」といった調子だ。
9. Watiti feat. Aldo Ranks (2023年)
2023年の大ヒット映画『バービー』のサウンドトラックにカロルGの曲が選ばれたのは当然の成り行きだった。ガール・パワー・アンセムをたくさん含んだカロルのレパートリーは、プラスチック製の完璧な人形をパロディにしたグレタ・ガーウィグ監督の映画と相通ずるものがある。そして彼女の楽曲は、スクリーン上のバービーの風景と同じくらいムードを高める力を持っている。
この映画には、マーゴット・ロビーとライアン・ゴズリングが現実の世界に逃げ込んだあと、ベニスビーチの遊歩道で時代遅れの蛍光色のエアロビクス・タイツを着てローラースケートをする場面があり、「Watiti」はそこで挿入歌として使われていた。この曲には、パナマ出身のラッパー、アルド・ランクスも参加している。
10. Mi Ex Tenía Razón (2023年)
このクンビアの曲では、テックス・メックスとラテン・ポップの象徴となっているセレーナ・キンタニーヤ(1995年、23歳の若さで没)の精神が光り輝いている。これはカロルGの新たな音楽的方向性であり、2023年に盛り上がった新しいメキシコ・サウンドを取り入れている。
この弾むような曲のミュージック・ビデオではカロルはフル・バンドと共に登場する。身につけているのはセレーナのTシャツと ―― わざわざ説明するまでもないことだが ―― カウボーイ・ハットである。
Written By Judy Cantor-Navas
カロルG『Mañana Será Bonito』
2023年2月24日発売
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