手元に置くべきジャズの映画サントラTOP25

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アメリカ人作家F・スコット・フィッツジェラルドが、“ジャズ・エイジ”と呼んだ時代は、1920年代後半のサイレント映画の終焉とトーキー映画の誕生と重なる。実際、音声とシンクロした長編映画の第一号は、1927年の革新的映画『ジャズ・シンガー』(主演アル・ジョルソン)だった。専門的観点から見ると、この映画の中で我々が今日ジャズと認めるものはごく僅かしかフィーチャーされていなかったが、ジャズと映画の長くそして実り多い関係がここから始まり、名作アルバムとして現在認識されている、ベスト・ジャズ・サウンドトラックが数多く誕生している。

20年代のニューオーリンズ・スタイル・ジャズが、30年代のビッグ・バンドのスウィング時代に取って代わられた時、ハリウッドはそのトレンドを映画に織り込んだ。例えば当時“ホット”だったバンド・リーダー、ポール・ホワイトマンとそのオーケストラの音楽を取り上げた『キング・オブ・ジャズ』(1930)や、エレノア・パウエルとジェームズ・ステュアート主演のブロードウェイ・ダンサーの物語『踊るアメリカ艦隊』 (1936)。この10年間に公開されたジャズ関連の傑出した映画には、著名ソングライターのアーヴィング・バーリンの音楽がフィーチャーされた『世紀の楽団』(1939)等がある。

 

しかしこれ等は、白人向けの大量消費品として、ハリウッドによって水増しされたジャズのトーンダウン・ヴァージョンだった。アフリカ系アメリカ人シンガーやミュージシャンの演奏による本格的なテイストのジャズは、『セイントルイス・ブルース』(ブルース・シンガーのベッシ―・スミス主演1929年短編映画)、『Paradise In Harlem』(1939)、『キャビン・イン・ザ・スカイ』(1943)、そしてあまり知られていない『ニューオリンズ』(ルイ・アームストロングビリー・ホリデイ主演1947年作品)で触れることが出来る。

しかしジャズがテーマの映画でアフリカ系アメリカ人が主役を張るのは、一般的ではなくむしろ例外であり、50年代は、白人ジャズ・ミュージシャンの伝記映画が大流行した。例えば1954年の『グレン・ミラー物語』、そしてこの2年後の『ベニー・グッドマン物語』。その一方、問題を抱えた天才トランペッターを演じるカーク・ダグラス主演の『情熱の狂想曲』(1950)は、ビックス・バイダーベックの人生からアイディアを得ている。もう一作、当時を代表する伝記のような映画として挙げられるのが、20年代が舞台の架空ホルン吹きの物語『皆殺しのトランペット』(1955)だ。

50年代は、同時代を代表するジャズ・サウンドトラックの幾つかに影響を与えたジャンルである犯罪やスリラー映画のバックに、よりダークで強烈で、テクスチュアのある音楽を配する為に、映画音楽の作曲家等がビバップの影響を受けたジャズを使い始めた時代でもあった。エルマー・バーンスタインは50年代フィルム・ノワールのサウンドトラックの達人であり、その並外れた作品は、同時代で最も印象深いジャズに影響を受けた2作品『黄金の腕』と『成功の甘き香り』を飾った。これ等の映画では緊張感と雰囲気を生み出すのに、ジャズが極めてスタイリッシュな方法で使われたが、と同時に、ジャズと犯罪活動の繋がりを構築するのに一役買った。それは殺人を犯す病的な泥棒を描いた、フランス人監督ジャン・リュック・ゴダールの名ニュー・ウェイヴ作品『勝手にしやがれ』(1959)で起用された、マーシャル・ソラールの鮮やかなスコアで強化された。同じく殺人事件を扱ったルイ・マル監督の名フランス映画『死刑台のエレベーター』でもジャズが使われ、マイルス・デイヴィスが初めてサウンドトラックに取り組んだ。

 

60年代が巡って来ると、ポップと、その後のロック・ミュージックの台頭により、ジャズの人気が急下降していったが、それでも『パリの旅愁』(音楽はデューク・エリントン)、『召使』(イギリス映画。サウンドトラックを手掛けたのはロンドンのサクソフォニスト/作曲家のジョニー・ダンクワース)、それから1966年のイギリスの大ヒット作『アルフィー』(スコアを書き演奏したのは、アメリカ人サクソフォンの名人ソニー・ロリンズ)等、ベスト・ジャズ・サウンドトラックのリストに入れる価値のあるスコアが幾つかある。60年代後半から70年代にかけて、ラロ・シフリンやクインシー・ジョーンズといったジャズ作家達が、R&Bとファンクをジャズに融合させ、新しく胸躍るようなアクション映画用サウンドトラックを創り出し、大きな影響を与えた。

ジャズは70年代の映画でも、本格的なサウンドや、そして時にはノスタルジックな音楽を生み出す為に、時代劇の背景に使われた。その典型的な例が、30年代が舞台のポランスキー作品『チャイナタウン』の心を揺さぶられるジェリー・ゴールドスミスのスコアや、40年代探偵スリラー映画『さらば愛しき女よ』のデヴィッド・シャイアの音楽だ。それから元シュープリームスダイアナ・ロスがビリー・ホリデイを演じた作品『ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実』(1973)も忘れてはならない。

 

80年代(『コットンクラブ』『ラウンド・ミッドナイト』『バード』『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』)や、90年代(『裸のランチ』『モ‘・ベター・ブルース』『ディンゴ』『カンザス・シティ』『ギター弾きの恋』の映画サウンドトラックでも、ジャズが多く使用されている。また最近では、監督デイミアン・チャゼルの2014年グラミー賞獲得作品『セッション』(音楽学校の若きジャズ・ドラマーとその暴君的指導者の物語)が、世界中の観客に強烈な印象を残した。それ以降も、ドン・チードルによるマイルス・デイヴィス映画『マイルス・デイヴィス/空白の5年間』や、チェット・ベイカーの伝記映画『ブルーに生まれついて』(薬物中毒のクール・ジャズの看板男を演じるのはイーサン・ホーク)等、話題のジャズ映画が続く。

また長い年月の間に、優れたジャズ・ドキュメンタリーも幾つか発表され、その中から(これは意外なことではないが)ベスト・ジャズ・サウンドトラック・リストにエントリーされる作品が生まれた。多くの人のリストのトップを飾るのは、1958年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルを追った、バート・スターンの色鮮やかで印象深い映画『真夏の夜のジャズ』である一方、最近の作品では、歌手二―ナ・シモンを生き生きと描写した『ニーナ・シモン〜魂の歌』や、『Time Remembered: The Life And Music Of Bill Evans』が、受けるに値するだけの称賛を多く得た。更に史上最高のジャズ・ドキュメンタリーの華やかな集まりに入ったのが、ジョン・シャインフェルドの最新作だ。絶賛された『コルトレーンを追いかけて』からは、同時にコルトレーンの最も有名で影響力のあるパフォーマンス収録のサウンドトラックCDも誕生した。

簡単に歴史をおさらいしたところで、手元に置くべきベスト・ジャズ・サウンドトラック25選を、この後にご紹介する。決定版だと断言するようなリストではないが、それでも世に出ている最高のジャズ・サウンドトラックにスポットライトを当てたものになっている。


25: ヴァリアス『セッション(原題:Whiplash)』(2014)
俳優のJ・K・シモンズは、強い執着を持つドラマー志望の入学1年目の学生を精神的に追い込む横暴な音楽先生の真に迫った演技によりアカデミー賞を手にした。映画の要となっているのは、70年代に書かれた、ハンク・レヴィのファンキーで不思議なビッグ・バンドによるタイトル・ナンバーだ。また映画中に散りばめられた音楽は、この後『セッション』の脚本/監督デイミアン・チャゼルによる2016年ミュージカル『ラ・ラ・ランド』の音楽を担当することになるジャスティン・ハーウィッツの書き下ろしだ。ジャスティン・ハーウィッツのオリジナル・スコアには、デューク・エリントンやカウント・ベイシーの名スタンダード・ジャズ・ナンバーが収録されており、このベスト・ジャズ・サウンドトラック・リストへのエントリ―の後押しとなった。

24: デヴィッド・シャイア 『さらば愛しき女よ(原題:Farewell, My Lovely)』(1975)
ニューヨーク州バッファロー出身のデヴィッド・シャイアは、1960年代にテレビ音楽を制作するようになる以前は、ブロードウェイ・ミュージカルのオーケストラ・ピアニストだった。程なくして映画界へ移り、ディック・リチャード監督によるレイモンド・チャンドラーの同名小説の映画化『さらば愛しき女よ』の豪華スコアが、1974年の『カンバセーション…盗聴…』『サブウェイ・パニック』での素晴らしいサウンドトラック2作品の後に続いて生まれた。メイン・タイトルのキュー(またの名は『Marlow’s Theme』)の贅沢なオーケストレーションと心に残るメロディを通して、スコアは57歳のロバート・ミッチャム演じる私立探偵フィリップ・マーロウの厭世観を明確にしている。

23:ジョン・コルトレーン『Chasing Trane: The John Coltrane Documentary』(2017)
ジョン・コルトレーンの音楽作品集は、考えるまでもなくベスト・ジャズ・サウンドトラック・リストに入れるに相応しい。ジャズ界一アイコニックで影響力のあるミュージシャンのひとりである、ジョン・コルトレーンの人生、その時代、そして音楽を描き喝采を浴びた、ジョン・シャインフェルド監督の2017年映画から、このサクソフォニストの最も重要で象徴的な作品がフィーチャーされたサウンドトラックが生まれた。収録されているのは、神への祈りを捧げた1965年の最高傑作『A Love Supreme』からの抜粋、衝撃的なモード・ジャズの傑作に再構成された「My Favourite Things」、コード変化が繰り返される画期的な「Giant Steps」、そして公民権運動に寄せたプロテスト・ソング「Alabama」等。映画はジョン・コルトレーン没後50周年を記念して発表された。

22: ガトー・バルビエリ『ラスト・タンゴ・イン・パリ(原題:Last Tango In Paris)』(1973)
1973年で最も論争を呼んだ映画と言ったら間違いなく、その性暴力行為の残忍な描写が、世界中の検閲から激しい怒りを買った、イタリア人監督ベルナルド・ベルトルッチの『Last Tango In Paris』だろう。マーロン・ブランド演じる独身中年男と、若い娘との関係を追った作品で、アルゼンチン人サクソフォニストのガトー・バルビエリ(強烈なジョン・コルトレーン的な音色と熱のこもったスタイルで知られる、元アヴァンギャルド・アーティスト)は、官能的で魅惑的でありつつも、映画のダークなテーマに沿った、落胆とメランコリーと強い喪失感を帯びた、オーセンティックなタンゴ調のスコアを提供している。

21: ケニヨン・ホプキンス『ハスラー(原題:The Hustler)』(1961)
カンザス州コフィーヴィル出身のケニヨン・ホプキンス(1912-83)は、ジャズ調の映画やテレビ・サウンドトラックの、誰もが認める第一人者であり、『ベビイドール』や『十二人の怒れる男』といった注目映画のスコアを書き、50年代に名声を手に入れた。彼のジャズ・サウンドトラックのひとつとして挙げられるのが、映画『ハスラー』の作品。ミネソタ・ファッツと名乗る人物と対戦し、成功を手に入れる夢を見る、ポール・ニューマン演じる有名無実の、三流で小物のビリヤード場勤めのハスラーの物語。ケニヨン・ホプキンスのスコアの気怠いサクソフォン、物悲しいミュート・トランペット、燃え立つようなヴァイブから、独特のムード、感情、雰囲気が伝わり、音楽中に感じられるジャズ色の上品さにも拘らず、みすぼらしさや堕落がはっきりと描写されている。

20: ディジー・ガレスピー『クール・ワールド(原題:The Cool World)』(1964)
同名のウォーレン・ミラー小説に基づいた『クール・ワールド』は、シャーリー・クラークが監督し、ザ・ロイヤル・パイソンズなるハーレムのストリート・ギャングを追った、目が覚めるような半ドキュメンタリー・スタイルの映画。音楽の作曲及びアレンジは全てピアニスト/コンポーザーのマル・ウォルドロンが手掛けたが、作品に命を吹き込んでいるのは、ビバップ・プレイヤーのディジー・ガレスピーによる堂々としたホルンと、それを立派に支えるサクソフォニストのジェームズ・ムーディ、そして若きピアニストのケニー・バロン。『クール・ワールド』のサントラはベスト・ジャズ・サウンドトラックであるだけでなく、頬を膨らませたトランペットの達人の、間違いなく60年代で最も満足のいく作品でもあった。

19: ヴァリアス『真夏の夜のジャズ(原題:Jazz On A Summer’s Day)』(1960)
ニューヨークの売れっ子ファッション・フォトグラファーだったバート・スターンは、1958年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルを撮影する為に、映画撮影用カメラの後ろに立ち、誰もが認める傑作『真夏の夜のジャズ』をプロデュースした。これは一風変わったドキュメンタリーだ。まずナレーターの声が入っていない。代わりに、共生関係にある映像と音楽が、印象派コラージュのような作品を生み出している。それでもセロニアス・モンク、デイヴ・ブルーベック、ルイ・アームストロング、アニタ・オデイ、それからダイナ・ワシントンの素晴らしいライヴ・パフォーマンス収録のこのサウンドトラックは、それだけでも十分に楽しめる内容になっている。そしてこれだけ豊かな才能に溢れたこの作品は、間違いなく世界最高のジャズ・サウンドトラックのリストに加わるに相応しい1枚だ。

 

18: ジョニー・マンデル(フィーチャリング・ジェリー・マリガン)『私は死にたくない(原題:I Want To Live)』(1958)
作家/監督のロバート・ワイズにとり、50年代後半の専門分野は間違いなくフィルム・ノワールであり、同ジャンルで最も有名な彼の作品といったら『私は死にたくない』だ。殺人罪に問われた売春婦が描かれたこの作品は、発表時アメリカの観客に衝撃を与え、主役を演じたスーザン・ヘイワードは、その演技によりオスカー賞を受賞している。作曲家/アレンジャーのジョニー・マンデルのスコアは、非常に陰鬱だが観るに値するこの映画の明るい点のひとつ。バリトーン・サクソフォニストのジェリー・マリガンは、このスコア中で際立っており(その他複数の“クール・スクール”西海岸ジャズ・プレイヤー同様)、そのスモーキー・ホルンは確固たる強さを持つブルージーなメロディを表現している。

17: ハワード・ショア(フィーチャリング・オーネット・コールマン)『裸のランチ(原題:The Naked Lunch)』(1991)
ウィリアム・S・バロウズの悪名高き非線形小説『裸のランチ』(1959)を脚色した映画。殺虫剤でハイになる害虫駆除業者が主人公という、どう転んでも大変な作品だが、これを誰もが認める知性に訴えるショック・ホラーの第一人者の映画監督デヴィッド・クローネンバーグが自ら引き受けた。彼の映画に対するヴィジョンは、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団が演奏する陰気な音風景に囲まれた、フリー・ジャズの先駆者オーネット・コールマンのテノール・サクソフォンが奏でる、ハワード・ショアの陰気なスコアによって高められている。このセッティングに於けるオーネット・コールマンのサウンドは実に見事で、映画の不吉な雰囲気を生む重要な鍵になっている。

 

16: ハービー・ハンコック『欲望(原題:Blow-Up)』(1966)
舞台はスウィンギング・シックスティーズのロンドン。イタリア人監督ミケランジェロ・アントニオーニは、カメラで殺人現場を捉えてしまったロンドンのファッション・フォトグラファーを描いた初の英語作品のサウンドトラックの作曲を、アメリカ人ジャズ・ピアニストのハービー・ハンコック(当時はマイルス・デイヴィスの草分け的クインテットのメンバー)に依頼した。ハービー・ハンコックを支えるのは、フレディ・ハバードジョー・ヘンダーソンロン・カーター、ジャック・ディジョネット等、ジャズ界の大スターによる豪華ラインアップ。このダイナミックなアンサンブルがレコーディングした、同時代を代表するベスト・ジャズ・サウンドトラックは、ブルース・グルーヴから、より自由なモード・ジャズまで多岐に渡る。中でも特徴的なナンバーである、グルーヴィーなソウル・ジャズ・アウトテイク「Bring Down The Birds」は、この後ディー・ライトが1990年のダンス・ヒット「Groove Is In The Heart」でサンプリングし、多くの人に認識されるようになる。

15: ラロ・シフリン『ブリット(原題:Bullitt)』(1968)
アルゼンチン生まれのジャズ・ピアニスト、ボリス・“ラロ”・シフリンがハリウッドで頭角を現わしたのは、60年代半ば、スティーヴ・マックイーン映画『シンシナティ・キッド』のスコアを担当し、人気テレビ番組『Mission: Impossible』の印象的なテーマ音楽を作曲した後だった。ピーター・イェーツが監督し、スティーヴ・マックイーンが、重要参考人の暗殺を企てるマフィアを阻止しようとする、タフな警官を演じる『ブリット』で、ラロ・シフリンはジャズ、ブルース、ロック、ファンク、そしてラテン・パーカッションの要素が融合された、非常にモダンで素晴らしいメイン・テーマを含む、ジャズを取り込んだスタイリッシュなスコアを生み出した。1968年にワーナー・ブラザーズからリリースされた、よりコマーシャルな公式サウンドトラック・アルバムよりも、オリジナル・スコア(入手可能になったのは2009年になってから)の方が、ジャズ色が遥かに強かった。

14: クシシュトフ・コメダ『水の中のナイフ(原題:Knife In The Water)』(1962)
僅か3人の俳優という非常に少人数のキャストによる珍しいタイプの映画『水の中のナイフ』は、ポーランド人監督ロマン・ポランスキーの10作目にして初の長編作品。その多くは湖に浮かぶボートの上で撮影され、ふたりの男とひとりの女のエロティックな緊張関係が描かれたこの作品は、ポーランド出身の名ピアニスト、クシシュトフ・コメダ(この6年後に事故による脳損傷で不慮の死を遂げた)が書いた素晴らしいジャズ・スコアによって強化された。スウェーデン人ハード・ボップ・ミュージシャン、ベルント・ローゼングレンの力強いテノール・サクソフォンがフィーチャーされた、雰囲気を盛り上げる一連の作品から成るこの『水の中のナイフ』のスコアは、間違いなくクシシュトフ・コメダの最後を飾る栄光だ。クシシュトフ・コメダはこれ以外にも、『反撥』や『ローズマリーの赤ちゃん』等、ロマン・ポランスキー映画を数本手掛けている。

13: アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『Les Stances A Sophie』(1970)
イスラエル人のモーシェ・ミズラヒが監督した、自由奔放な若き女性セリーヌを追った映画は、クリスチアーヌ・ロシュフォールの同名フェミニスト小説が基になっており、現在ではアメリカのフリー・ジャズ・グループ、アート・アンサンブル・オブ・シカゴの素晴らしいサウンドトラックで良く知られている。グループを率いていたレスター・ボウイと、それを大きく成長させた『Rescue Me』で知られる当時の妻フォンテラ・ベースは、当時パリに住みながら、さまざまなタイプの映画音楽をプロデュースし、演奏もしていた。情熱的なジャズ・ファンク・グルーヴやゴキゲンなディキシーランド調、アフリカ系に影響を受けた哀歌や、不安にさせるアヴァンギャルドな音風景ものまで、彼等の印象的なサウンドトラックは多岐に渡った。

 

12: ジェリー・ゴールドスミス『チャイナタウン(原題:Chinatown)』(1974)
ジェリー・ゴールドスミスは非常に万能な映画音楽作曲家で、『猿の惑星』や『エイリアン』のような不気味なSF音楽から『グレムリン』のようなコメディ、そして『氷の微笑』のようなエロティックなスリラーまでと、幅広いタイプのサウンドトラックを発表している。その彼の最高傑作は間違いなく、ジャック・ニコルソンが私立探偵役で主演する、30年代が舞台のロマン・ポランスキーのノワール的探偵スリラー映画『チャイナタウン』のジャズを感じさせるこのサントラだろう。豪華でありながら、心に残る哀調を帯びた音色に溢れているジェリー・ゴールドスミスのスコアは、主に著名セッション・トランペッター、ユアン・レイシーの一級品の演奏によるもの。せつない「Love Theme」では、豪華なオーケストレーションをバックにしたエレガントなソロを聴かせる。そして後にアカデミー賞にノミネートされ、アメリカン・フィルム・インスティチュートのアメリカ映画音楽トップ25リストで第9位に輝いた。

11: デューク・エリントン『或る殺人(原題:Anatomy Of A Murder)』(1959)
史上最高のジャズ・サウンドトラック・リストに、必ず入れなければならない映画『或る殺人』は、ビッグ・バンド・スウィング時代のマエストロ、デューク・エリントンが、たびたび共作しているビリー・ストレイホーンと書いたもの。豊かな金管楽器が印象的なデューク・エリントンのオーケストラによる同作は、オットー・プレミンジャーが監督し、妻をレイプしたとされるバーテンダー男を殺害した陸軍中佐を担当する弁護士(ジェームズ・ステュアート)が主人公の、気骨のある法廷ドラマに見事寄り添っている。映画はそのストレートな性表現(“パンティ”という単語が映画中で使われたのはこの時が初めてだとされる)が当時論争を引き起こし、それは脅威と安っぽさにじみ出る、威勢の良い唸るようなホルンと、強く躍動するブルースのリズムに溢れた、デューク・エリントンの色鮮やかなスコアに投影されている。

 

10: モダン・ジャズ・カルテット『拳銃の報酬(原題:Odds Against Tomorrow)』(1959)
50年代に登場した最も著名なジャズ・グループのひとつ、モダン・ジャズ・カルテットはビバップのスタイルとクラシック・ミュージックの美意識を融合させながら、一部の批評家に“チェンバー・ジャズ”と呼ばれた、クールでエレガントなサウンドをクリエイトした。1959年には、ロバート・ライアン、ハリー・ベラフォンテ、エド・ベグリーが銀行強盗役で主演した、ロバート・ワイズのノワール的クライム・スリラー『拳銃の報酬』の音楽を担当。全音楽を作曲したのはモダン・ジャズ・カルテットのジョン・ルイスだが、主要な役割を果たしているのは、間違いなくグループの特徴的なサウンドである、ミルト・ジャクソンの微光を放つようなヴィブラフォンだ。彼等の作品中では忘れられた逸品のように認識されている『拳銃の報酬』だが、今も変わらず50年を代表するベスト・ジャズ・サウンドトラックであり、彼等もその後何度か取り上げている、カルテットの最も息の長い人気ナンバー、優雅なワルツのリズムを刻む「Skating In Central Park」が誕生している。

 

9: クインシー・ジョーンズ『質屋(原題:The Pawnbroker)』(1964)
マイケル・ジャクソンが世界的メガ・スターへと変貌を遂げるのに一役買った男、シアトル生まれのクインシー・ジョーンズは、ポップ・ジャンルに於いて華やかな受賞製作品で有名だが、アレンジ&プロダクションを手掛ける以前は、ジャズ・トランペッターとしてそのキャリアをスタートさせている。また彼は1964年から1985年にかけて、多数の映画音楽を作曲しており、ナチス強制収容所の生存者(ロッド・スタイガー)を描いた作品『質屋』は、彼の至高のサウンドトラックのひとつであり初ハリウッド作品だ。強く心に残るオーケストラによるテーマに、クール・ジャズ、官能的なレイトナイト・ブルース、そして焼けつくようなパーカッション主導のラテン音楽がブレンドされ、映画の展開に沿った、魅惑的で感情を映し出した音楽になっている。

8: マーシャル・ソラール『勝手にしやがれ(原題:À Bout De Souffle、英題:Breathless)』(1959)
ジャズは50年代映画界でカッコいい流行の音楽だった。それは発祥地アメリカのみならず、世界中の様々な場所でも同様だった。フランスでは、ジャンゴ・ラインハルトとシドニー・ベシェとの作品で知られる、アルジェリア生まれのピアニスト/作曲家のマーシャル・ソラールが、僅か33歳の時に、ジャン・リュック・ゴダール監督のアイコニックなニュー・ウェイヴ作品『勝手にしやがれ』に、顕著なジャズ色を持ち込んだ。主演は車を盗んだ後に警官を射殺した、放浪の犯罪者役のジャン・ポール・ベルモンドと、そのアメリカ人情婦役のジーン・セバーグ。耳をつんざくようなブラスによって繰り返し表現されるモチーフから、厳粛なピアノのメロディに、繊細なタッチで描き出されたロマンティックな小作品までと、多岐に渡るマーシャル・サラールの音楽は、実に見事に個々の雰囲気を伝えている。

7: エルマー・バーンスタイン『成功の甘き香り(原題:Sweet Smell Of Success)』(1957)
この“手元に置くべきベスト・ジャズ・サウンドトラック”リスト、2度目の登場のバーンスタイン作品には、西海岸グループのチコ・ハミルトン・カルテットもフィーチャーされている。アレクサンダー・マッケンドリックの迫力満点の映画は、皮肉屋の新聞コラムニスト J.J.ハッセンカー(バート・ランカスター)が、冷酷なパブリシスト、シドニー・ファルコ(トニー・カーティス)を使って、妹とジャズ・ギタリストのロマンスを引き裂こうとし、その結果、悲劇的な結末を迎えるというストーリー。エルマー・バーンスタインの大胆で力強いスコアには、ニューヨークの喧噪と同時に、都会の不安や食うか食われるかのメンタリティが映し出されている一方、チコ・ハミルトンのグループはその淡い色合いの作品で、非常に対照的なジャズ・クール感を提供している。

6: ヴァリアス『ラウンド・ミッドナイト(原題:Round Midnight)』(1986)
デクスター・ゴードンは63歳の時に、うらぶれたアメリカ人ジャズ・ミュージシャンのデイル・ターナーを描いたベルトラン・タヴェルニエ監督の映画『ラウンド・ミッドナイト』で、アカデミー賞にノミネートされた。アルコールと薬物乱用歴のある彼自身の経験を大まかに基にしているこの映画の素晴らしいサウンドトラックには、ハービー・ハンコックがプロデュースし、ジャズの名士ウェイン・ショーターフレディ・ハバード、ボビー・ハッチャーソン、ジョン・マクラフリン、そしてトニー・ウィリアムスがフィーチャーされ、デクスター・ゴードンもテノール・サックスをプレイしている。彼等はその才能を集結させながら、映画の説得力のある物語に、心に強く残る控え目なバックドロップを作り上げている。

 

5: ソニー・ロリンズ『アルフィー(原題:Alfie)』(1966)
マイケル・ケインは『ズール戦争』(1963)と、その後の『国際諜報局』(1965)で、前途有望な俳優としての実力を既に発揮していたが、映画スターとしての地位を確実なものにしたのは、ルイス・ギルバートの『アルフィー』で、同名の楽観的ロンドン子を演じてからだった。アメリカ人テノール・サクソフォニストの巨匠ソニー・ロリンズがスコアを書き、イギリス人ミュージシャン等とロンドンでレコーディングしたが、その後サウンドトラック・アルバム用に、オリヴァ―・ネルソンをアレンジャーに迎え、アメリカで全曲レコーディングし直した。イージー・スウィンギングなテンポと、うねうねしているが、心に伝わりやすいホルンのメロディによるメイン・テーマは、マイケル・ケイン演じる憎めない女たらしの、粋で魅力たっぷりな雰囲気を表現していた。現在でも入手可能なベスト・ジャズ・サウンドトラックのひとつだ。

4: チャーリー・パーカー『バード(原題:Bird)』(コロムビア 1988)
ビバップの創造主チャーリー・“バード”・パーカーの短くも波乱に満ちた人生を追った、クリント・イーストウッドが監督した伝記映画『バード』。チャーリー・パーカーを演じたフォレスト・ウィテカーは、役の為にアルト・サクソフォンを習得し、カンヌ国際映画祭では最優秀男優賞を受賞している。この映画のサウンドトラックは、高品質音響を得る為に、チャーリー・パーカーの本格的なソロに伴う独創的なバッキング・トラックを新たにレコーディングしている。サウンドトラックにはバードの代表作の多くが収録され(「Ko Ko」、「Ornithology」、「Now’s The Time」等)、40年代後半から50年代前半のビバップ時代の雰囲気を見事に捉えていた。

3: ミシェル・ルグラン『華麗なる賭け(邦題:The Thomas Crown Affair)』(1968)
警官を出し抜くスリルを味わうために銀行強盗を企てるという時間を持て余した裕福なプレイボーイのビジネスマン(スティーヴ・マックイーン)を描いたノーマン・ジュイソンの1968年犯罪映画と、その作品に流れるミシェル・ルグランの素晴らしいスコアほど、見事に調和が取れた共生関係にある動画と音楽は稀だ。ノーマン・ジュイソンの魅力的な映像とマルチ・スプリット・スクリーン画像により、映画は忘れることの出来ない印象を、多くの鑑賞者の心に深く刻んだ。ミシェル・ルグランの初のハリウッド作品となったこの映画のシンフォニックなジャズ・スコアは夢へと誘い込むような効果があり、音楽の印象を強くしているだけでなく、映画全体の雰囲気に緩やかなまとまりをもたらした。活気溢れるジャズの音色とバロック調の音楽を印象深く融合した、ミシェル・ルグランの壮大なインストゥルメンタル・ナンバーも多数収録されているが、現在このスコアで最も良く知られているのは、ノエル・ハリソンが歌うオープニング・ソング「The Windmills Of Your Mind(邦題:風のささやき)」だ。

 

2: マイルス・デイヴィス『死刑台のエレベーター(原題:Ascenseur Pour L’Echafaud)』(1958)
フランス以外では『Frantic』と題された『死刑台のエレベーター』という名のこの映画は、フランスのミステリー小説が基になったルイ・マル監督の1958年作品。ジャンヌ・モローとモーリス・ロネが、モローの夫の殺害を企てるも、厳しい報いを受けるカップルを演じている。マイルス・デイヴィスは1957年末、ヨーロッパをツアーしていたが、サウンドトラックを提供することを承諾。その心から離れないスコアは、映像、筋の展開、そして音楽による、映画の革新的な物語の探求の重要な要素となり、その結果レコーディング史上最高のジャズ・サウンドトラックのひとつになった。この作品はそして大部分がインプロヴァイズされているということで、より一層注目に値する。これはマイルス・デイヴィスの映画サウンドトラック制作への第一歩であったと同時に、モード・ジャズへの初挑戦であり、すぐ後に続くアルバム『Milestones』と『Kind Of Blue』を方向づけた。

1: エルマー・バーンスタイン『黄金の腕(邦題:The Man With The Golden Arm)』(1956)
手元に置くべきベスト・ジャズ・サウンドトラック25選チャートのトップを飾るのは、典型的な50年代“ジャズ・ノワール”サウンドトラックのこの作品。作曲を手掛けたのは、尊敬の念を禁じ得ないエルマー・バーンスタイン。彼はこの後60年代前半に『荒野の七人』と『大脱走』の音楽を書いている。麻薬を止めようとするジャンキーのドラマー、フランキー・マシーン(フランク・シナトラ)を描いたオットー・プレミンジャーが監督した映画『黄金の腕』の為にこのジャズ色の強いスコアを書いた時、エルマー・バーンスタインはハリウッドで人気上昇中の映画音楽作曲家だった。不気味で激しいリズムと、ほとんどヒステリックでさえある鋭い音色のホルンで仕上げられた、そのイキなメイン・テーマは非常に印象的で、ビリー・メイ、ジェット・ハリス、そしてグラム・ロッカーのスウィートのカヴァー・ヴァージョンまで誕生している。

♪ プレイリスト『Jazz Giants


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