ドイツを代表するミュージシャン・ベスト12:様々な音楽を生み出した先駆者たち
ドイツには、音楽分野における豊かで多様な歴史がある。ヨーロッパの中心に位置し、広大で誇り高く、未来を見据えたこの国はキャバレーやオペラのイノベーターを輩出してきた。そして忘れてはならないことだが、ベートーヴェンやバッハをはじめとするクラシックの世界的な大作曲家の多くはドイツ人である。実際、何世紀にもわたって、ドイツの優れた音楽家たちは数々の傑作を生み出し、そうした作品群は西洋音楽全体に影響を与えてきた。
とはいえ、これは単なるノスタルジーではない。20世紀から21世紀にかけて、ドイツの優れた音楽家たちはやはり音楽の最先端を走ってきた。クラウト・ロック、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ(エレクトロ・ポップの影響を受けたドイツのニュー・ウェイヴ)、エレクトロニック・ミュージックやヘヴィ・メタルの先駆的なアーティストたちがさまざまな音楽を生み出してきたのである。
そんなドイツの優れたミュージシャンたち12組を紹介しよう。
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1. ファウスト/ Faust
現在、”krautorock (クラウト・ロック) “、もしくは” kosmiche musi (コスミッシュ・ミュージック) “と呼ばれるジャンルは、1960年代後期からドイツで発展してきた実験的なロックのアーティストたちを指す。このジャンルの創始者の一組であるファウストは、1971年にドイツ北部のヴンメで結成され、現在も結成メンバーのヴェルナー・”ザッピ”・ディーアマイアーとジャン=エルヴェ・ペロンの2人が活動を続けている。
このバンドは、リチャード・ブランソンのヴァージン・レコードと契約した最初期のアーティストの中に含まれていた。ヴァージンは、ファウストが1973年に発表した先駆的なアルバム『The Faust Tapes』を7インチ・シングルの価格(当時は49ペンス)でリリース。このアルバムは10万枚以上の売り上げを記録し、シルバー・ディスクに認定された。しかし、あまりに価格が低かったため、アルバム・チャートに入る資格がないと判断されてしまった。
2. タンジェリン・ドリーム / Tangerine Dream
1967年に西ベルリンで結成されたタンジェリン・ドリームは、エレクトロニック・ミュージック界でもとりわけ影響力の強いアーティストの中に含まれる。このグループの原動力となったのは創立メンバーのエドガー・フローゼ(2015年に亡くなるまで、唯一の不動のメンバー)だった。
彼らはこれまで100枚以上のアルバムをリリース。その中でも、1970年代にオールやヴァージンと言ったレーベルで録音した『Zeit』『Phaedra』『Rubycon』『Force Majeure』などのLPは、エレクトロニック/アンビエント・ミュージックの金字塔として永遠に語り継がれるはずだ。これらの作品によって、タンジェリン・ドリームはドイツを代表するアーティストとしての地位を確立した。
3. スコーピオンズ / Scorpions
不滅のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンド、スコーピオンズは、ギタリストのルドルフ・シェンカーが中心となって1965年にハノーファーで結成された。結成当時から不動のメンバーはシェンカーひとりだけだが、ヴォーカルのクラウス・マイネも1970年代初頭から今も在籍し続けている古参メンバーとなっている。
彼らはこれまでに1億枚以上のアルバムを売り上げており、中でも1980年代には『Love At First Sting』や『Savage Amusement』と言ったアルバムが注目を集め、プラチナ・ディスクに認定される大ヒットを記録した。また1990年の『Crazy World』には、バンドの代表曲である「Wind Of Change」が収録されている。この曲はドイツ統一に合わせてリリースされ、全世界で1,400万枚以上の売り上げを記録したスコーピオンズを象徴するアンセムである。
4. ラムシュタイン / Rammstein
インダストリアル・メタルのパイオニアとして知られるラムシュタインは1994年にベルリンで結成され、デビュー・アルバム『Herzeleid』でたちまち高い評価を受けた。このアルバムはドイツの音楽評論家が「ノイエ・ドイチェ・ヘルテ(Neue Deutsche Härte)」と呼んだ先駆的な作品であり、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ、オルタナティブ・メタル、グルーブ・メタルにエレクトロニカやテクノの要素を加えたクロスオーバー・スタイルを確立した。
SM、近親相姦、死姦などをテーマにした曲を作ってきたラムシュタインは、物議を醸すことも多々ある。とはいえ『Reise Reise』『Rosenrot』『Liebe Ist Fur Alle Da』と言ったスタジオ・アルバムは、すべてマルチ・プラチナ・ディスクに認定される大ヒット作となっている。
5. カン/ Can
1968年にケルンで結成されたカンは、アバンギャルド音楽やジャズを土台としてスタートし、そのサイケデリックでファンクな音楽性にミニマル・ミュージック、電子音楽、ワールド・ミュージックの要素を取り入れていった。
このバンドはドイツのクラウト・ロック・シーンのパイオニアとして広く知られており、1970年代初期から中期にかけての傑作アルバム『Tago Mago』『Ege Bamyasi』、そしてアンビエント調の至福に満ちた『Future Days』は、いまだに未来の音楽に聞こえる斬新さを保っている。その結果、デヴィッド・ボウイ、PiL、プライマル・スクリーム、ハッピー・マンデーズといったありとあらゆるアーティストがカンからの影響を公言するようになった。
ちなみにフォールは1985年のアルバム『This Nation’s Saving Grace』に「I Am Damo Suzuki」という曲を収録し、カンのヴォーカリストだったダモ鈴木にオマージュを捧げている。
6. エニグマ / Enigma
エニグマはドイツ系ルーマニア人のミュージシャン兼プロデューサー、マイケル・クレトゥがドイツを拠点としてスタートさせたプロジェクトである。その音楽性はジャンルにとらわれない洗練されたものになっており、ニュー・エイジ、エレクトロニカ、ワールド・ミュージック、アンビエント・ミュージックなどの要素を取り入れている。これまでに売り上げたアルバム枚数は7,000万枚におよび、グラミー賞へのノミネートは3回を数える。
世界的に大ヒットした「Sadeness (Part 1)」を収録した1990年のデビュー・アルバム『MCMXC aD』は間違いなく彼らの最高傑作であるが、その後もクレトゥの音楽は進化し続けている。たとえば2008年の『Seven Lives Many Faces』では、ラップやダブステップの要素も取り入れられている。
7. ヘルベルト・グレーネマイヤー / Herbert Grönemeyer
ニーダーザクセン州のゲッティンゲンに生まれたヘルベルト・グレーネマイヤーは、歴史に残る優れたドイツ人ミュージシャンであり、ドイツ、オーストリア、スイスに熱狂的なファンを数多く抱えている。その活躍は音楽界だけにとどまらず、俳優業にも手を染めている。
UKにお住まいの方なら、ウォルフガング・ペーターゼン監督の伝説的な映画『U・ボート』で彼が戦争特派員のヴェルナー中尉を演じていたことを覚えているかもしれない。とはいえその後のグレーネマイヤーは音楽活動に専念している。
彼のトレードマークは魅力的な歌声で、1984年に発表したアルバム『4630 Bochum』と11枚目のアルバム『Mensch』(2002年)は、それぞれドイツ国内で3番目と1番目に売れたレコードとなった。その結果、彼はドイツで最も成功したミュージシャンとなり、国内でのアルバム売上枚数の総計は1,500万枚に迫っている。
8. ニナ・ハーゲン / Nina Hagen
東ドイツで生まれ育ったニナ・ハーゲンは、共産主義体制の東側で最初の音楽作品を発表したが、有名になったのは家族と一緒に西側に亡命した後のことだった。やがてロンドンに行ったことをきっかけにパンク・シンガーになり、時にはパンクのゴッドマザーと呼ばれるような存在になった。ただしドラマティックでシアトリカルな彼女の音楽は、時にはグラム・ロックに近く感じられることもある。
彼女は自らの名を冠したニナ・ハーゲン・バンドを結成し、CBSと契約。1978年のデビュー・ディスクで、商業的にも成功。レコード評で好評を得た。さらに1980年代後半から1990年代前半にかけてはマーキュリーでアルバムを何枚もレコーディングし、これらもまた、評論家から高く評価されている。
9. ニコ / Nico
1938年にケルンで生まれたニコ(本名クリスタ・パフゲン)は戦争で荒廃したベルリンで育ち、10代でファッション・モデルとして注目を集めた。やがて16歳のときに写真家のハーバート・トビアスに見出され、パリに移って『ヴォーグ』誌で働き始める。
その浮き沈みの激しい人生の中で、フェデリコ・フェリーニ監督の『甘い生活』(1960年) やアンディ・ウォーホル監督の『Chelsea Girls』(1966年) といった映画に出演。ウォーホルに誘われたニコは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの代表作であるデビュー・アルバム『The Velvet Underground & Nico』の数曲でリード・ヴォーカルを担当した。
その後はソロ活動を開始し、ジョン・ケイルのプロデュースで『The Marble Index』や『Desertsh』などのアルバムを多数発表したが、1988年に亡くなっている。
10. クラフトワーク / Kraftwerk
クラフトワークは、1970年にラルフ・ヒュッターとフローリアン・シュナイダーがデュッセルドルフで結成した電子音楽のパイオニア的存在である。彼らはシンセ・ポップ、ヒップホップ、ポスト・パンク、テクノ、アンビエント、ダンス・ミュージックといった現代のさまざまな音楽ジャンルに多大なる影響を与えることになった。2013年には、雑誌、オブザーバーが「ビートルズ以来、これほどポップカルチャーに貢献したバンドはいない」とまで断言している。
クラフトワークは、1970年代のアルバムだけでも歴史に残るドイツのミュージシャンに選ばれる資格が十分にある。たとえば『Autobahn』『Radio-Activity』『Trans-Europe Express』『The Man-Machine』といったアルバムは、この時代にリリースされた作品の中でもとりわけ強烈に未来を感じさせるものとして位置づけられている。彼らの21世紀のコンサートは今も進化を続けており、2009年に開催されたショーでは3D映像をバックにしたステージが展開されていた。
11. ハンス・ジマー / Hans Zimmer
フランクフルト生まれのハンス・ジマーの音楽キャリアは1970年代にさかのぼり、その中にはトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズのニュー・ウェイヴ・バンド、バグルスへの参加歴も含まれている。とはいえ、ドイツで最も優れたミュージシャンのひとりとして数えられる理由は、彼がすばらしい映画音楽を作ってきたことにある。
これまでに手がけた作品は150本以上を数え、その例としては『ライオン・キング』『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『グラディエーター』などがあげられる。ジマーの映画音楽は、伝統的なオーケストラのアレンジに電子音楽を融合させている点が特徴的だ。ジャンルを超えたその作品によって、彼はグラミー賞を4回、クラシカル・ブリット・アワーズを3回、ゴールデングローブ賞を2回、アカデミー賞を1回受賞している。
12. ノイ!/ Neu!
ノイ!は、1971年にデュッセルドルフで結成された。このグループの2人の中心人物、クラウス・ディンガーとミヒャエル・ローターは初期クラフトワークに参加していた。
ディンガーは、カンのヤキ・リーベツァイトと並んで、「モータリク」と呼ばれるリズム(4分の4拍子の催眠的で反復的なドラム・ビート)を生み出したことで知られ、ローターは通常のギター・コードに代わるハーモニック・ドローンを多用した。そうしたふたりの演奏がノイ!の代名詞となっている。
彼らの初期のアルバム3枚、つまり『Neu!』『Neu! 2』『Neu! 1975』は発売当時の売り上げはごく限られたものだったが、今では名作と呼ばれるようになった。これらの作品は、デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、ブライアン・イーノといった著名なアーティストたちが熱狂的に称賛している。
Written By Tim Peacock
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